東雲彰人くんは、まふゆたちのチーム内だけでなく、ヒーロー全体から見てもナンバー2の位置にいる。悪い切り抜きが広まってしまったせいとはいえ、そんな人が手も足も出ずに負けたと噂になると、全体の士気に関わる。東雲くんが落ち込んでいる理由は、それだけが理由ではなさそうだけど
「⋯⋯大丈夫?手酷く、やられちゃったみたいだね」
「あー⋯⋯別に凹んでねえっすよ。あいつにやられるのは慣れてるんで」
「あいつ⋯⋯?」
「⋯⋯いえ、なんでも」
この反応は、相手に心当たりがあるみたいだ。変身して戦うヴィランとヒーローは、簡単には正体を気取られないように魔法がかかっている。それでも解る程の間柄なのか。
「Eの相手は、代わった方がいいかな?」
「俺がやります。やらせてください」
反撃出来ないような相手から、何を与えられてきたのか。恩か、それとも負い目か。
『⋯⋯まふゆ?』
胸の奥が、ちりちりと痛んだ。
「⋯⋯朝比奈センパイ?」
「ああ⋯⋯うん。上の人にも、東雲くんの決意伝えておくね」
「よろしくっす」
ヒーロー活動のスポンサーは、鳳さんの家がしてくれている。財力と遊び心に溢れたサポートあってこそ、まふゆたちは真っ直ぐヒーローをやれている。
「伝言もらってきたよ〜!」
「お帰りなさい、ミク。長官は、なんて?」
ミクたちは電霊という、デジタル生命体の側面もあるから、実はメールよりも早く行ったり来たり出来る。その積極性と愛嬌で、基地のみんなを繋いでくれている。
「しののののめくん、ふぁいとー!」
「⋯⋯おう。のは二個な」
「しのののめくん、ふぁいとー!」
「終わりか⋯⋯?」
「終わりだよー」
「⋯⋯⋯⋯通訳!」
「まふゆ、伝えてあげて?」
同じミクだからって、無条件で分かりあえたりはしないのか、オッドアイのミクがまふゆに投げてきた。いや、これは分かるけれど言葉に出来ないといったところなのか。
どっちのミクも、ある意味では口下手だ。
「えっとね、ミクはたぶん⋯⋯」
『Eが姿を見せてから、CBNELの脅威度は跳ね上がった。そのEを抑えてくれるなら、こちらとしては申し分ない』
「⋯⋯って言われてきたんだと思うよ」
「うんうん!」
「⋯⋯鳳長官は、応援してくれてるんだね」
オッドアイのミクが頷いている。素直でよろしい
「いやまて、その情報量何処にあった?」
「ミクの顔、かな?」
「私、の?」
一緒に暮らしている方のミクが、こてんと首を傾げている。バーチャルシンガーが複数居合わせると、たまに会話がこんがらがる。各々特徴が枝分かれしているので、そんなにややこしいことにはならないが。早くコードネームもらった方が、みんなすっきりするのかも。
「えーっと、こっちのミクだよ」
「ふふん、ミクを見るのだー!」
あまり感情が表情に出ないミクも、表情豊かなミクも、たくさんの身体の言葉を発している。疑問符や、感嘆符が空に浮かぶようだ。
「だあっ!?ちくしょう、猫耳にしか目が行かねえ!てかそれ、生えてんのか?」
「生えてるよー?」
サーカス団員のような衣装を普段着にしているミクが、東雲くんに耳を触らせている。ぴこぴこぴこぴこ、動いている。
「まじかよ。ミク族すげぇな⋯⋯!」
「ミク、族?」
東雲くんが新しい単語を生み出して、オッドアイのミクが困惑している。猫に夢中になっているからか、珍しく周りの様子が目に入っていない。
「東雲君って……猫、好きなの?」
「まあ……相対的には?」
「そうなんだ、一緒だね」
「程々に好きってことすか?」
「動物全般、好きだよ?」
「じゃあ、将来はそっち系とか?」
将来、か。そんなこと、考えたこともなかった。
「……そんな気持ちもあったけど、私は動物には嫌われているから」
「ちょっと、信じがたいっすけど……」
「ん~~~?」
ネコ科の生き物が今度は、まふゆにまとわりついている。ミクが二人して、慰めに来ている。おかしいの。別に、傷はないのに
「でも、本当だよ。動物には、避けられちゃうんだ」
「それは……残念だったっすね」
「気にしないで、慣れちゃったから」
そう、慣れている。遠巻きにされることは、まふゆの人生の中で、よくあることだった。
「まふゆ。私は、まふゆが好きだよ」
「ミクもミクも〜♪」
側で猫ミクたちが慰めてくれている。誰にも傷なん
て見せたことはないから、こんな風にされたことはなかった。
「なあ、ミクとミク。こっちに振るなよ⋯⋯」
「彰人くんは〜?」
「好き、じゃないの?」
「やらねえっての、そういうのは女子だけで頼む」
「あはは、ごめんね?」
困り果てている東雲くんには悪いけど。愉快なシチュエーションで、こういうのも賑やかで嫌いじゃないかな