暮らし

2026.01.27 14:15

元NHK・武田真一氏 第2の故郷熊本・高森の商店街は「地域の教室」だった

元NHKアナウンサー武田真一氏

商店街で学んだ他世代との交差

「高森の商店街は、子どもにとって社会を学ぶ場でした」

武田さんはこのように振り返る。往来する人々の話し声や、車・バイクの音、そして、パチンコ店のざわめきが交錯し、町全体がひとつの交響曲のように響いていたという。買い物の合間に交わされる立ち話は、人と人の暮らしを確かめ合う場でもあった。

生活者同士の距離は近い。裏口の扉をがらりと開けて、朝採れのとうきび(とうもろこし)のお裾分けなんかも。武田さんも自宅でふかしたソーダまんじゅうを親戚宅までお使いにいった。帰りにアイスキャンディーを買うようにと、お小遣いをもらったことも思い出だ。

郊外の生活では得られなかった人間関係の濃さが、「都会」のように感じさせた本当の理由だったのかもしれない。

商店街は、子どもと大人の境界を取り払う場所でもあった。青年団の高森にわかを見上げながら、いつか自分も舞台に立ちたいと夢を抱いた。学校とは違う「地域の教室」がそこにはあったのだ。

 「駄菓子屋は、当時、少ないお小遣いをどう使うか、を一生懸命考える場でもありました。年長の親せき等に、どのお菓子や花火が良いかを教えてもらった記憶がありますね」

金銭感覚や礼儀、地域の祭りを支える意味を、子どもは自然と学んでいった。

武田さんにとって高森は、ただ遊ぶ場ではなく「人に育てられる町」であり、その経験が後に公共放送の現場で「人と人をつなぐ言葉」を選ぶ感覚につながっていった。

人口減も上色見熊野座神社という希望

かつて2〜3万人が暮らした高森町だが、いま人口は約6千人に減少。商店街は空き地が目立ち、生活の中心は郊外のバイパス沿いに移った。大型スーパーやドラッグストアが並び、町の中心部は静まり返っている。

しかし希望もある。郊外にある上色見熊野座神社は、幻想的な岩穴の風景から「パワースポット」と呼ばれ、外国人観光客を含め多くの人を集めている。武田さんは「寂しさと希望の両方を感じる」と語る。過疎化が進む一方で、新しい訪問者が町に足を運ぶ姿に未来の芽を見いだしている。

熊本市で育ち、高森町に「ふるさと」を見いだした武田真一さん。幼少期に刻まれた商店街の賑わいと酒蔵の香りは、いま静かな町の風景と対照をなす。それでも豊かな水脈や神社の来訪者が示すように、町は形を変えながら生き続けている。

「帰れば無限に眠れる」と、最後に教えてくれた。

トラストバンク地域創生ラボ

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2024.12.07 14:15

グーグルアースで昔の住居近辺を「散策」した男性、未解決事件の遺体を発見

グーグル・アースで実家やその辺りを検索し、懐かしむ。きっとこのような経験のある人は少なくないだろう。しかし、そのような思い出の旅は、とある男性にとって思いがけないものとなった。悲しいことではあるが、ウィリアム・モルトは、グーグル・アースがそのように細部まで観察されたがために、発見されたのだ。彼は1997年、フロリダでの夜遊び中に行方不明になり、ずっとその消息が不明だったのだ。

ウィリアムの失踪事件は当時徹底的に調査されたが、20年以上も未解決事件だった。だが、そんな2019年、グーグルアースを使って昔の近所を散策していた男性がある奇妙なものを発見した。以前住んでいた家の隣にある湖に、水没している自動車があったのである。地元の人とドローンの助けを借りてその事実は調査された。そして、20年以上もウィリアムの骨をその内部に隠していた白い自動車が、ついに姿を現したのだった。

実は行方不明者専門データベース「チャーリー・プロジェクト」が、データ上ではだが、衛星画像ですでに2007年からその車を捉え得ていたという。地元当局は、ウィリアムが車の制御を失い、湖に転落したのではないかとみているが、この仮説を裏付ける先行証拠はない。今回の発見は、ウィリアムの家族にとって、捜査に一旦収拾をつけるものとなったが、ウィリアムの失踪当時の状況は未だに明らかにされておらず、時がいくら経過しようと行方不明者であることが確認されただけであった。警察の広報担当者テレーズ・バーベラは以下のように述べる。「我々が知り得るのは、彼が行方不明になり、そして今、発見されたということだけです」。

この事例は、たとえそれが長らく解明できなかったものであっても、暗礁に乗り上げた事実を明らかにするテクノロジーの力を痛感させるものである。謎が謎のまま解明されないことがある一方で、グーグル・アースの注意深い観察は、時に予期せぬ方面から、奇妙な方向から私たちにヒントを示してくれるのである。



※本稿は英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」2024年5月13日の記事から翻訳転載したものである)

翻訳=大石月子 編集=石井節子

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2025.11.04 16:15

ChatGPTに「Thank you」は電気代数千ドル? AIとのコミュニケーションコストと「英語の敬語」

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今、『使うための英語―ELF(世界の共通語)として学ぶ』(中公新書)が静かに売れている。以下、同書の著者で社会言語学者の瀧野みゆき氏に、「AIと英語でコミュニケーションすること」から「英語の丁寧表現」までについて、ご寄稿いただいた。


この11月で、ChatGPTが対話型の生成サービスを公開してから早くも3周年になる。

この3年で、英語をとりまく環境は、AIによって劇的に変化した。英語で仕事をしたり、勉強していれば、AIに頼ることが多くなっているだろう。英文の推敲はもちろん、自動翻訳、メール作成、会話の練習をAIですることが、ごくあたりまえになっている。

手軽で、すぐに使え、しかも費用が安いAIは、今後さらに私たちと英語との付き合い方を変え、ますます不可欠なツールになるだろう。

しかし、AIと英語を使い続けると、「無感情な英語」に慣れてしまうおそれがある。

1. AIには、「丁寧な言葉」は無駄?

2025年4月、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏が、X(旧Twitter)上で、あるユーザーの投稿に短く返信した。

その投稿は、「ChatGPTに“please”や“thank you”を言うたびに、OpenAIはどれくらい電気代を使っているの?」という問いであった。アルトマン氏は、次のように答えた。



(何千万ドルのコストになってるけど、良い使い道かもしれない。誰にも分からないけどね)

AIに対して、世界中の人がPlease(どうぞ)やThank you (ありがとう)など、作業に直接関係のない、丁寧な言葉遣いをすることで、ChatGPTの提供元OpenAIは何千万ドル、つまり数十億から百数十億円規模の追加のコストをかけていると発言した。これをきっかけに、ささやかな丁寧表現とAIのエネルギー消費の関係が大きな話題になった。

アルトマン氏はやや皮肉とユーモアをこめて。「数十億円の価値はあったろうな……いや、実際のところは分からないな」といったニュアンスで述べ、AIに「丁寧さ」を持たせるためのコストが、本当に意味があるかどうかの判断を曖昧にして、問題提起しているようでもあった。

すぐにX上で、次のような趣旨の反応が広がった。
"So courtesy has a price tag now? Interesting."
(礼儀にも値札がついたってこと? 面白いね)

"I always say thank you to ChatGPT. I didn’t know I was costing them millions!"
(いつもありがとうって言ってたけど、そんなにコストをかけてたなんて!)

"Time to teach AI to ignore pleasantries and save money."
(そろそろAIには“礼儀”を無視させて、節約してもらおう)

こうしたジョーク混じりのxでの反応に続き、世界の新聞やニュースでも取り上げられた。

次ページ > AIが情報を処理するために使っているエネルギーの膨大さが、世界の懸念材料になっている

文=瀧野みゆき 編集=石井節子

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