日本は「老人よりも若者が自殺する国」になった
最近SNSなどで「Z世代は恵まれてる」「Z世代の人生はイージーモード」という主張をよく見かけるようになった。
確かに言わんとすることはわからなくはない。というのも、こうした主張を提唱しているのは主に「氷河期世代」と呼ばれる40代から50代の人々なのだ。
よく知られているように、「氷河期世代」は極めて過酷な就職状況の中で社会に出ることを強いられた世代である。具体的なデータを出すと、「氷河期」最盛期の2003年には15-24歳の男子失業率が12%近くまで上昇している。これは下のグラフで示されているように1960年代以降で最悪の数字である。
なんとか就職できた人々も非正規労働や将来性のない過酷な低賃金労働に就かざるを得ないことが多く、旧帝大や早慶上智といった名門大学を出てさえも大学卒業後フリーターにしかなれないということがざらにあった。
また悪いことに企業の中途採用制度がまだ未整備な時代だったため、新卒切符を逃したらその後のリカバリーはほとんど絶望的であり、高い学歴や能力を持っているにも関わらず十分にキャリアを築けない人々が何百万という天文学的な単位で続出した。
さらに圧倒的に企業有利な「買い手」市場は労働慣習をも歪ませ、氷河期世代の人々は今の時代からは考えられないほどの長時間労働や常習的なハラスメントなどに苦しめられることになった。今の若い世代は信じられないだろうが、特に激務を謳われる企業では深夜の1時2時まで残業することもザラであり、それが外資系金融機関のようなハードワークと好待遇がトレードオフになっている企業ならまだ良いが、なんてことのないそこら辺の平凡な中小企業でも時にはこうした働き方を求められたのだ。
こうした地獄を骨の髄まで味わった世代からすると、なるほどZ世代が「イージーモード」に見えるのも無理はないかもしれない。なにせ就職やワークライフバランスという氷河期世代が最も苦しんだ点において、確かにZ世代は相当に恵まれていると言えるからだ。
大卒就職率は2010年代後半以降ひたすらに好調だ。2025年には大卒就職率98%という数字を記録し、実質的な「希望者全員就職」を達成している。若年失業率も低い水準をキープしており、スコアとしてはバブル期並みだ。不本意非正規雇用者の割合も過去最低レベルまで減少しており、「仕事がなくて非正規雇用にしか就けない」という人もほとんど見られなくなっている。さらに求職者に圧倒的な有利な「売り手市場」は労働慣習をも大いに変革し、ひと昔前まではざらにあった理不尽なハラスメントや長時間労働も一部業界を除けばほとんど根絶された。大手企業では初任給が30万円を超えるところも出てきており賃金も以前からは考えられないほどの水準まで高騰している。なるほど確かにZ世代は就職や労働環境という面において上の世代よりも圧倒的に「恵まれている」と言えるのだ。
しかし、それでは、Z世代とは幸せな世代なのだろうか。上の世代よりも楽しく豊かに充実した人生を送れる世代と言えるのだろうか。
筆者にはそうとは思えないのだ。
むしろZ世代は氷河期世代とは全く異なる困難に直面した、極めて厳しい時代を生きる人々なのではないか。そのように筆者は感じている。彼らを覆う暗雲はわかりにくい。戦中世代の困窮や氷河期世代の就職難のようにはっきりと形に出てくるものではない。しかしそれでも間違いなく確実にZ世代はある種の困難に直面している。これは筆者の個人的信念ではなく、数字として扱える統計データにも表れているように思う。
例えば、若年失業率や大卒後就職率という数字がきわめて好調に推移しているにも関わらず、若者の自殺率は近年増加し始めている。それも不気味なことに全体的な自殺率は低下しているにも関わらず、若者の自殺"のみ"が相対的に増加しているのだ。
上グラフを見て頂くと明らかなように、日本全体における自殺者数は2010年代以降劇的な改善を見せている。最悪期の2003年は34,427人の自殺者がいたのに対し2024年は20,320人である。ほとんど半減とでも言うべきスコアであり、日本全体を見渡せば自殺対策は着実に成果を上げていると言える。
しかしこの「自殺者数の減少」が若者世代に関してはほとんど見られない。
こちらのグラフは年齢階級別の自殺死亡率の長期推移である。まず一見してわかるように、まず中高年の自殺死亡率が減少しているにも関わらず10代の未成年の自殺率が急速な勢いで増加している。20代の自殺率も一時期は低下の兆しを見せていたものの2010年代後半からは反発し、ここ数年は着実に微増し続けているように見える。そして何よりも老人と若者の自殺死亡率の逆転、つまり「老人よりも若者の方が自殺率が高い」という異例の状況が2020年代以降は本格化している。20代と70代の自殺死亡率は2020年を期に逆転し、かつては老人>>>若者だった自殺率が今は若者>>老人へと変貌している。
その中でも若年女性の自殺死亡率急増は注目に値する。なんと2024年には女性の中で20代が最も自殺死亡率の高い世代になってしまった。これが異常事態であることは言うまでもない。
もともと自殺というのは一般にイメージされている通り、「老人に多く、若者に少ない」ものだった。若者が多くの可能性を持っている一方で老人はほとんどの可能性を失っており、また老人は心身の病を抱えやすく病気理由での自死を選ぶ可能性も高くなる。おそらく読者のみなさんも「自死」というワードから連想される自死者は、くだびれた中高年のサラリーマンや、末期がんで闘病中の老婦人などではないだろうか。しかし今は違う。70代の老人より20代の若者の方が自殺する可能性が高い。それが日本の現状なのだ。
こうした事実を鑑みると、安易に「Z世代はイージーモード」などと言い放つことは難しいのではないかと筆者には感じられてしまう。明らかに彼らは上の世代とは別種の困難を抱えており、上の世代はその困難を十分に理解できていない。
いや、もしかすると世代の直面する困難を十分に言語化できないのは当事者たるZ世代の若者も同様かもしれない。筆者の観測ではZ世代の若者たちは「自分たちの世代は恵まれている」という感覚すら薄っすら持っているように感じる。なるほど物質的、経済的、生活環境的にはそれは事実だ。しかし老人より若者の方が多く自死を選ぶという奇怪で不愉快な事実を見て見ぬ振りすることはできないだろう。
ついでに付言しておくと、若年層と中高年の自殺死亡率が逆転しているのは日本独自の現象である。
海外情報に詳しい読者なら「Z世代の自殺率上昇」自体は世界的なトレンドとして議論されていることをご存じかもしれない。しかし、若年層の自殺増が社会問題化しているアメリカ合衆国などのデータを見てみると、確かに若年層の自殺率が上昇していることは事実だが、同時に自殺率全体も上昇しており若年層"だけ"自殺率が上昇しているという傾向は示していないのだ。
上2グラフはCDC(アメリカ疾病予防管理センター)の調査した合衆国における年齢階級別自殺死亡率の長期推移である。若年女性の自殺死亡率の急上昇など日本と共通している部分もあるが、「自殺率全体の低下」や「老人と若者の自殺死亡率の逆転」などの現象は発生していないことがわかる。日米間の自殺死亡率の統計を見る限り、日本の現状は一部海外と重なる部分はあれどかなりの独自性を有していると言えるだろう。
そろそろ本題に入ろう。一体なぜ、物質的にも経済的にも生活環境的にも過去最高の環境を享受しているはず日本の若者が、ここまで生きづらさを感じ、死にかけた老人以上に自死を選ばなければならないのだろうか。
もちろん自殺というのは複合的な現象であり、ひとつふたつの理由だけに原因を帰することはできない。以下の記述はあくまで筆者なりの一考察として受け取ってほしい。それでも曲がりなりにもメンタルヘルス業界で長年働き、自死と近いところにいる当事者と触れ合ってきた人間として、そこまで大きく外した見解にはならないのではとは思っている。
まず一つ目の原因は、恋愛の不可能化だ。
恋愛と自殺の何が関係するのか?と訝しく感じる読者もいるかもしれないが、
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若者は若者なりの幸せがあるでしょうけど、大人にできない若者だけの文化は無くなりましたね。ゲームもSNSもファッションもメイクも全部若者だけのものじゃなくなったし市場は中年層を取込もうとする。昨今の「若者に人気」は中年を釣る餌にしか見えない
若者の割合が減っているのは日本特有の現象ではありませんので、そこに理由を求めるのは違うのではと思います。
ずっと思ってるんですが、若い時に若い女を追っかけなかった男が、年食った後におばさん追いかけるんでしょうか?きっと我々が思ってるよりずっと早く現役世代半数独身の時代が来る。夢も家族もない世代ですが、労働者は報われてほしいと願うだけです。
ギリ20代ですが、アニメ等の過去作リファイン祭りには正直辟易しつつあります。 「ゾイド」シリーズは幼少期に触れていたのですが、設定を一新して「ゾイドワイルド」が始まったと思ったら過去作オマージュ機体のオンパレード(第二弾の「ゾイドワイルド戦記」が特に酷かった)、そして早々にネタ切れ…