アフリカ東部に位置し、歌手のピコ太郎さんが観光大使に就任したことでも話題を集めるウガンダ。「日本イノベーター大賞」(主催:日経BP社)の受賞者の素顔を紹介する連載の第4回は、同国でアフリカンプリントの布バッグを手掛けるRICCI EVERYDAY(リッチエブリデー)の仲本千津COO(最高執行責任者)だ。現地のシングルマザーなどが作る布バッグを日本で販売する。
RICCI EVERYDAYは仲本千津氏と律枝氏の娘母2人が、15年に立ち上げたスタートアップ。仕事を得ることが極めて難しいウガンダのシングルマザーなどに仕事と誇りを与える。生活が厳しいアフリカの地で、女性が起業したスタートアップという点、娘母で事業を成り立たせている点は、他に類を見ない。COOの仲本千津氏に起業の経緯や狙いを聞いた。(聞き手は、佐伯真也)
<表彰式に読者の皆様を無料でご招待>
表彰式は12月5日(火)午後5時から「コンラッド東京」(東京都港区)で開催いたします。観覧ご希望の方は、以下のURLからご応募いただけます。定員(200人)に達し次第、締め切らせていただきます。
http://business.nikkeibp.co.jp/innovators/
RICCI EVERYDAYは娘と母の2人で運営する日本では珍しいスタートアップです。事業内容を詳しく教えていただけますか。
仲本千津氏(以下、仲本): ウガンダのシングルマザーなどを雇い、現地の工房で色鮮やかなアフリカンプリントが施された布バックを作っています。商品は日本で期間限定店舗やECサイトで、ウガンダ現地では直営店で販売しています。経営体制としては母(律枝氏)が社長として国内営業を担い、娘である私はCOO(最高執行責任者)としてウガンダで布バック作りなど母が手掛けない業務をすべて手掛けています。
仲本:現在ウガンダで雇っているのは10人強です。採用基準は(縫製などの)技術があること、そしてやる気があること。給与水準は最低でも現地平均の2倍に設定しています。シングルマザーに限定していませんが、セックスワーカーにならざるを得ないような貧困層の女性を積極的に雇用しています。最近では男性社員も雇っています。
アフリカは生活環境が厳しいと思います。ウガンダに住むきっかけは何だったのでしょうか。
仲本: 実は小さいころからアフリカに関するテレビ番組などを見て、「自分とは違う生活環境があるんだな」と興味がありました。高校時代には「将来的にアフリカの難民や紛争などの課題解決に携わりたい」と決意していましたね。大学では法律、大学院では政治を専攻したのも、2つのアプローチでのアフリカの課題解決に役立てないかと考えたからです。
アフリカへの思いが強かったのに、大学院を出た後は銀行に入行されていますね。
仲本:学生時代、NGO(非政府組織)にインターンとして参加していました。ただ当時の私には支援するためのスキルがほとんどなく、「アフリカに降り立っても何もできない」と感じていました。そこで銀行に入ってお金の流れなど財務を学ぶことが、将来的に役立つと考えました。
銀行員として多忙な日々を送っていたのですが、「3.11」をきっかけに考えを改めました。私自身、東京で被災したのですが、「大都市でも何が起こるかわからない」と痛感しました。「本当にやりたいことは先延ばしにはできない」と考え直し、幼いころからの夢に突き進むことにしました。
アフリカへ行きたい!でも現実は甘くなかった
そこからすぐにウガンダへ?
仲本:現実はそう甘くありませんでした。NGOの募集は新興国での支援経験が求められましたから。いろんなNGOに応募しましたがことごとくダメでした。やはり遊びではないのでスペシャリストがほしかったのだと思います。
ただ運よく農業支援を手掛けるNGOから「アフリカ現地ではないけど東京オフィスで働かないか」とお誘いをいただきました。NGOの経営企画や人事、経理などの管理業務全般を担えたことも良い経験になりましたし、出張でアフリカに足を運ぶ機会も得ることができました。
ケニア、エチオピア、ナイジェリアなど10カ国以上は訪れましたが、いろんな国を見た結果、ウガンダを何とかしたいと考えるようになりました。約2年半の下積みを終え、14年にウガンダ駐在になったわけです。
農業支援のNGOを辞め、布バッグを手掛けるスタートアップの起業に踏み切ったきっかけは?
仲本:これは本当に偶然の賜物でした。現地の課題を探そうとローカルマーケットを散策中に、色鮮やかなアフリカンプリントの布が天井まで積み重ねられている光景を目の当たりにしました。一目見てかわいいと思いましたね。
ウガンダ在住の日本人女性に話題を振ると、彼女たちはアフリカンプリントの布を購入して服を仕立てていた。私だけでなく他の日本人女性もかわいいと思っていたので「この生地でバッグを作ればビジネスになる」と感じました。
仲本:ただ私だけでは起業はできません。そう考えているときに1人の女性に出会いました。彼女は4人の子供を抱えるシングルマザーだったのですが、定職はなく畑を耕すだけの生活をしていました。
彼女は子供の教育費用を稼ぐために豚を飼っていました。「豚貯金」をしていたわけです。豚は繁殖能力が高く、エサも残飯で済みます。「真面目だしビジネスセンスがある」と思い、起業メンバーに勧誘しました。
幸運だったのは同時期に日本人の知人から引退を考えている縫合職人を紹介してもらったり、工房となる場所を提供してくれるスリランカ人に出会ったり。とにかく偶然が重なって起業の準備がトントン拍子で進みましたね。そこからは半年間、ひたすらサンプルづくりの日々に追われました。
母の周りには不思議と人が集まっていた
RICCI EVERYDAYは15年に日本法人を設立しています。母である律枝さんを創業メンバーに加えたのはなぜですか。
仲本:ウガンダ現地の工房はとんとん拍子で話が進みましたが、日本で誰に売ってもらうかは大きな課題でした。私自身は多忙でウガンダから離れられないし、日本で人を雇う余裕もない。そこで思い浮かんだのが母の存在でした。
仲本:母はもともと専業主婦で私を含む4人を育て上げた人です。「私の30年は子育てしかしていない」が口癖でしたしね。ただ地元静岡にネットワークがあるのか、母の周りには不思議と昔から人が集まっていました。確証はなかったのですが、「母のコミュニケーション能力は生かせるのでは」と考えました。
でも実際に予感は的中したんですよ。起業早々に地元静岡の百貨店で期間限定の催事を開催できたのは母のおかげです。母が百貨店に足を運んで受付の方に直談判してくれたそうです。するとなぜか受付の方がバイヤーにつないでくれて、出店にこぎつけてくれました。
さらに、地元のテレビ番組でも偶然取り上げてくれて、お客さんが殺到してくれたそうです。2週間の予定でしたが、1週間でほぼ完売しましたから。残りの1週間は在庫をかき集めてなんとか乗り切れました。本当に母には頭が上がりません。
足元のRICCI EVERYDAYの商品の販売状況はいかがですか。
仲本:日本では期間限定店舗が中心ですが、一部オンライン販売も手掛けています。多くのメディアに取り上げていただいたこともあり販売は好調です。世代的には40代以上の女性が多い。母に共感した方が多いようです。母と娘で購入してくれる方もいます。社会的に意義があるということにも共感していただけるのはありがたいですね。
お陰様で現在は生産が追い付いていません。現地で新しい人を雇うとトレーニングに時間がかかり生産性も落ちます。どうバランスを取るか……、うれしい悩みですけどね。
最後に、今後の事業目標を教えてください。
仲本:まずは販路を広げていくことですね。ウガンダの店舗には外国人旅行者の方も訪れてくれます。アフリカンデザインの布バッグは日本以外の国でも受け入れられる自信はあります。
海外展開で考えているのはオーストラリアです。色鮮やかな商品なので春夏が商戦期。南半球で展開できれば季節の変動要因を抑えられるようになりますしね。まずは来年に展示会に出展する予定です。日本でも常設となる店舗の出店を計画中です。RICCI EVERYDAYは企業としてはまだまだヒヨっこです。来年には経営基盤をより安定させていきたいと思っています。
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