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救助隊は今日も山へ向かう──その裏で揺れる“費用負担”の現実

1. はじめに

昨年の夏もそうだったが、今年に入ってからも登山遭難者のニュースがとても多い。
日本人だけではなく無謀な外国人のニュースも多く、報道されるたびに問題になる。
先日も富士山の冬季登山で動けなくなった、冬山でホワイトアウトで行動不能になったと遭難者の救助がネットニュースになっていた。

このような救助活動が報道されると、当然のことながら救助を有料化すべきだという話が出てくる。
自分の趣味で勝手に登山をしているのにとか、救助隊員がケガをするかもしれない、隊員が生きて戻れない可能性すらある、高額な救助費用を負担しろ、無料で助けてもらえるから無謀な登山をしているという理由だ。

ただ、その有料化の話も何度もニュースになっているが一向に始まる気配がない。
そこで、なぜ有料化できないのか、有料化への課題、実現までの道のりをまとめてみた。

2. 有料化できない理由

有料化すればいいという国民の声や首長が有料化するぞと言っても実現できないのはなぜか。

それは、法律や制度を変える必要があるからだ。

まず、救助隊員は主に警察と消防で組織されている。
警察法には、

第一章 第二条
警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。

とあり、警察の任務として「個人の生命・身体・財産の保護」が明記されている。
登山者が無謀な登山をしたとしても、生命の危険があれば警察は救助活動を行う運用が取られている。
「山岳救助を行うこと」とは記載されていないが、生命保護の任務から実施している。

また、消防組織法では

第一条
消防は、その施設及び人員を活用して、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、水火災又は地震等の災害を防除し、及びこれらの災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行うことを任務とする。

とあり、救急・救助活動が規定されている。
山岳救助は消防の典型的な救助業務の一つであり、遭難者の救助要請があれば出動する運用になっている。

そのため、登山規制を破ったから救助しないという事はできない。
人命救助が最優先されるのだ。
救助を求める人にとっては非常にありがたい。

上記のように、警察は「生命・身体の保護」を掲げており、救助が「公的責務」とされているため、警察が救助費用を請求する法的根拠はない

また、消防組織法でも消防・救急・救助は公的サービスとされており、費用請求の根拠はない。

3. 法的な課題

では、その足かせとなっている法律を変えればよいという事だが現実はそのハードルが非常に高い。

①警察法・消防組織法との整合性
 警察法では「生命・身体の保護」を、消防組織法では「救急・救助活動」を公的責務として無償で行う事が前提になっており、その法改正が必要となる。

②憲法上の問題
 有料の救助制度を導入すると、
 ・経済力のある人だけが救助されやすくなる
 ・救助要請をためらって死亡するリスクが増える
 という懸念が生じる。

 これは憲法
 ・生存権
 ・法の下の平等
 に抵触する可能性がある。

③線引きが難しい
 どこからを有料にするかの線引きが難しく
 ・天候急変による遭難
 ・初心者の判断ミス
 ・高齢者の体力低下
 ・道迷い(標識の不備が原因の場合もある)

 「重大な過失」や「危険行為」の定義が曖昧なため、精密な基準が必要である。

④自治体間の不均衡
 山岳救助は都道府県の警察や市町村の消防が担当しており、
 ・富士山のある静岡県や山梨県
 ・人気の山がある長野県や岐阜県
 などに制度設計の負担が集中する。

 全国統一の法律にするか、自治体条例に任せるかで大きく変わる。

4. 社会的課題

クリアすべき社会的な課題もある。

①救助要請の遅れによる死亡リスクの増加
 「お金がかかるから」と通報をためらい、結果として死亡事故が増える可能性がある。

②観光産業への影響
 富士山や北アルプスなどは観光資源にもなっており、有料救助制度が導入されると、
 ・登山者が減る
 ・地域経済に影響が出る
 可能性がある。
 山小屋の経営やロープウェイの運営にも影響が出る。

③自己責任論の過剰強化
 日本では戦後の社会設計が、弱者保護による社会の安定を目的としていたため「自己責任」の範囲が狭いままとなっているが、この制度が出来ることで「助けてもらうのは当然ではない」という風潮が強まり、社会的な分断を生む懸念がある。

④有料救助活動範囲の明確化
 山岳救助だけではなく、高速道路での事故による救助や水難事故における救助などの危険を伴う活動についても有料救助制度の対象とするか議論が必要だ。

⑤保険加入の義務化の是非
 有料救助制度とセットで議論されるのが「山岳保険の義務化」だが、
 ・どの山を義務化の対象とするか(近所の裏山も対象か)
 ・外国人観光客にどう対応するか
 ・保険未加入者をどう扱うか
 など、解決すべき課題は多い。

5. 海外の事例

海外でもやはり無謀な登山者に対する救助活動は問題になっており、
アメリカのニューハンプシャー州ではハイクセーフカードを所持していないと高額な救助費用が請求される事がある。

フランスでは遭難救助は基本的に無料だが、ヘリコプターによる救助は有料としている。
特にモンブランでは、事前に1万5000ユーロを支払う義務が課せられている。

6. 実現までのステップ

「限定的な有料化」を自治体レベルで導入する
 いきなり全国一律の有料救助制度を作るのは困難であり、有料救助の前例を作るためにも自治体条例でできる範囲から始める。
 ・民間ヘリの費用請求
 ・登山届の義務化と罰則
 ・禁止区域への立ち入りに対する罰金・過料

消防救助の一部を有料化する法改正を行う
 消防は自治体の組織なので、消防組織法の改正は警察法の改正より容易である。
 ・禁止区域での救助は有料
 ・重大な過失による救助は有料
 などで有料化を導入する。

警察救助の「例外的な有料化」を認める特別法を作る
 警察は国の組織であり警察法の改正はハードルが高い。特定の行為に限って例外を認める特別法であれば国民の理解も得やすい。
 ・冬季富士山のような“明確に危険な区域”
 ・立入禁止区域での事故
 などに限定して、警察が費用を請求できるようにする。

憲法の生存権の「解釈変更」を行う
 憲法の生存権の解釈を「最低限の生活保障」に限定する方向へ寄せる。
 現在は、生存権が広く解釈されすぎていて「危険行為をした大人も無条件に救助されるべき」という考え方が強い。
 しかし、
 ・自己責任の範囲
 ・公共財の適正利用
 ・行政コストの公平性
 を理由に、解釈を少し狭めていく。

世論の変化を促す
 「危険行為にはコストがかかる」という社会的認識を育て、国レベルの議論を促す。
 ・無謀登山
 ・台風時の川の様子見
 ・救急車のタクシー利用
 などに対して、「自己責任を明確にすべき」と国民が声を上げ続ける。

7. おわりに

現状では、救助活動の有料化まではそのハードルが非常に高いことが分かった。
ただ、自治体や国には出来る事から少しずつ変えていくことが求められる。
国民としては、有料化しようという声を冷静に何度も上げ続けていく事が必要だ。

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