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いつか芽吹く恋のつぼみが/Novel by mengeleddd

いつか芽吹く恋のつぼみが

8,162 character(s)16 mins

FBMOです。
新年からおふたりが仲良しで幸せです。

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 気付けばいつもフブキを目で追っている。
 四季の気配を、彼女を通して感じる。髪についた桜の花びらを、徐々に短くなる袖と浮かぶ汗を、暖かい色味になっていく私服を、厚くなるタイツと温かい食事を求める声を、毎日少しずつ違うフブキを。ゆっくりと時間が過ぎていくのを、夜に目を閉じる時に、特に眠れない時に意識する。その想いは後悔と共にやってくる。「今日も言えなかった」。夜毎の祈りのように繰り返し、その度に「言わなくてよかった」と平穏に終わった一日を愛でる。網膜の内側に焼き付いた麗しさと鼓膜の中に保存されている可愛い声を反芻する。ささやかな幸せは儀式のようで、像がすとんと消えると夢の中でも会えるような気がしている。会えているはずだ。覚えているのは変な夢ばかりで、それが悲しいとは思う。
 毎朝、一番に挨拶をしに来てくれるのが嬉しい。
「おはようミオ。昨日は遅くまでポルカとゲームしてたから眠くてさ〜」
 うんうん、と頷く。その様子を少しだけ見ていた。自分も参加しようかなと思ったが止めておいた。
「でもちゃんと起きてるじゃん。偉いよ」
「今すぐでも寝たい。ミオの腕の中で夜まで寝たい」
「昼夜逆転しちゃうぞ。起きろ起きろ」
 脇の下に手を入れて、立つ支えになる。ふらふらと左右に揺れながら歩いてはいるが、ミオの負担にならないように体重はかけてこない。
「ミオ〜。お昼、ご飯食べたら寝てもいいかな〜」
「いいよ。それまでがんばれフブキ」
「がんばれのチューしてよ〜」
「どこの文化だよ。ほらほら、今日はフブキの好きなお店でいいからさ。かっこいいフブキでいてよ」
「あと夜ミオの唐揚げが食べたい」
「こないだ食べたじゃん」
「毎晩食べたい」
「無茶言うな。分かった分かった、今日はうちにおいで」
「っし。さーていっちょやってきますか。仕事を」
 耳までヘロヘロだったフブキが急にしゃきっとする。スイッチの切り替えは見事なものだが、オフの時の姿を見せてくれるのが自分だけであってほしいと願っている。それはファンの子のためでもある、と言い訳をしている。きっとみんな、シュッとしたフブキを見たいはずだから。
 仕事を切り盛りするフブキを見つめている。明るくて可愛い声にみなが鼓舞されている。あの小さな身体がエネルギッシュに立ち回っているのを、一種の憧れを以て見ている。同僚や後輩に注がれるある種の愛の籠った視線を感じている。
「ミオちゃんは本当にフブにゃが好きだねえ」
「うん。好き」
 自分を導いてくれる横顔を、目を細めて見つめる。全部を知りたいと思っても、自分には見せてくれない顔がある。その領域を含めて、こっそり探りたい欲求もある。
 集中している時はこちらを一顧だにしない。でもふと余裕が出来た時に目が合うと、嬉しそうにサインを送ってくる。こちらが熱視線を送っていたはずなのに、仕方なしという風に手を小さく振る。そんな瞬間も心地いい。きっと止まり木になりたいのだ。あの美しく白い羽が休まる場所に。
「今日もフブキ先輩のビジュ良すぎ」
「分かる〜。フブさんあんな可愛いのに時々エグいかっこいいのヤバいよねえ」
 通り過ぎる声を耳にすると、自分まで誇らしい気持ちになる。その一瞬あとに、別に自分が育てたわけでもないのに、と恥ずかしくもなる。
 フブキとラーメンを食べる。戻る道すがら、宣言通りに寝ようとするフブキを励ます。
「白上はダメかも知れん〜。目が開けてらんないよう」
「もうちょっとで着くよ。がんばれフブキ」
 仮眠室に引っ張り込む。本当に目を閉じて歩いていたフブキは、簡易ベッドに倒れ込むと眠る演技をする。体勢を整えて、ブランケットをかけて、肩をさすっていると、しばらくして整った寝息が聞こえてきた。側頭部からほんのりとラーメンの匂いがしてくる。こんな密室で二人きりなのにロマンスも何もないな、と笑えた。
 しばらく寝顔を見ていて、ふと何時に寝たのか気になり、調べてみる。4時過ぎまで枠が続いていた。それならいっそ昼から出てくればよかったのにな、と頭を撫でながら思う。無理して倒れたらどうしよう、と不安が過ぎる。どんな状態でもフブさんは無敵、という認識は、自分以外が持っていればいい。うちの前で眠るフブキは無防備で、線が細くて、なのにいろんなものを背負いすぎて怖い。ここで荷物を下ろして整理して、うちが少しでも負担してあげられたらいいんだけど。
 寝息を確かめる名目で顔を寄せる。フブキのほっぺた、細い産毛が、暗い室内で目を凝らせば見えてくる。キツネちゃんの大草原が広がっていて、自分の息で戦がないように呼吸を止める。心臓の音が骨と肉を通して響いてくる。何度も押し殺した希望が全身を駆け巡る。
 キスしたい。
 喉を通ってこようとする強情を唾ごと飲み込んだ。息が苦しくて顔を仰け反らせた。改めて寝顔を見つめる。光源はカーテン越しの日光しかないから暗くて、でも美しい造形は闇の中でもくっきりと分かるし、なんなら光が一切届かないような漆黒の中でもこの顔はいつだって頭の中にある。
 その柔らかそうな唇。
 自分の腕をつねる。この信用を裏切るのは人間として終わっている。なんて善人ぶっているが、本当は打算で手が出ないだけだ。一瞬の欲望に負けてフブキを永遠に失う可能性が怖い。逆に言えば保証されるなら、いくらでも口付けがしたい。都合のいい妄想が血を支配し始めて、下唇を噛んで押しとどめた。
 涙を指で跳ね飛ばす。手繰り寄せた椅子に腰掛けて、時間までフブキを見つめていた。

「今日は他に用事ないの? 後で来てくれてもいいんだよ?」
 助手席のシートベルトを締めるフブキに問う。
「うん、元から予定ないし、急ぎの仕事は午後に終わったから大丈夫。ミオの唐揚げのことを考えると仕事がヤバいくらい捗ったよ」
「えぇ? うちよりうちの唐揚げのほうが力湧くってこと?」
「ミオとミオの唐揚げで10倍ってこと」
「なーんか唐揚げのほうがウェイトが高そうなんだよなぁ」
「唐揚げに嫉妬してる人初めて見たよ、白上は」
 信号で止まる度に、フブキの耳を見つめている。
「じゃあさ、」
 車のスピーカーから音楽が流れてくる。フブキの指がSpotifyで何かしらムードのある曲を探しているのが分かる。
「うちのことを考えて、仕事が頑張れる時も、あるのかな」
 大きく脈打つ心臓が後悔を伝えてくる。大したことのない質問ではあるのだ。自分が勝手に匂わせているだけで。
「当たり前じゃん。ミオの存在に元気付けられてるよ、いつも。ミオのこと考えてると、勇気が出る」
 ニーナ・シモンの歌声が響く。
「これ知ってる。ジュライ・ツリーでしょ」
「そうなの? 白上は知らんかった。すごいねミオ、こんな曲知ってるんだ」
 よく見ればフブキの手元にあるのはミオのスマホで、それを操作しただけだった。舞い上がった自分を誤魔化すために、遠景に目をやる。
「うちからしたら、トレンドに付いていけてるフブキのほうがすごいよ」
「そう? 流行りはほっといても情報入ってくるからなあ。ミオはどうやって知識を仕入れてんの?」
「気付いたら知ってた、って感じかなぁ。ふふふ、たぶんうちとフブキのアンテナ、向いてる方向が違うんだね」
 今度はフブキの視線を感じる。胸が熱く、擽ったくなってくる。短い時間だけでも、フブキの意識を支配できていることにこの上ない喜びを感じる。
「私は、ミオの支えになれてるかな?」
 視線が刹那のうちに交わされる。
「うん。いてくれてありがとう、って思ってるよ」
 珍しく不安そうな声色に、少し嬉しくなっている自分がいるのに気付く。
「ミオの本心が知りたい」
 じゃあ、と開きかけた口を閉じる。
 分からないよ、フブキの本心だって。
「ホントにありがとって思ってるよ。フブキが考えてるより、うちはフブキのこともっと想ってる」
「友達として?」
「フブキからはどうか分かんないよ? でもうちは、フブキと一番仲良いって想ってる、からさ」
 もっと信号に引っかかればいいのに、と考えている。このままずっと二人で車の中にいられたら。フブキを独占できていたら。きっといつか音を上げて、自分のものになってくれるに違いない。
 そんな邪さを嘲笑うように、青信号が連なっている。
 食事の準備の間、フブキはずっとミオのヘッドホンを借りて音楽を聴いている。音楽に集中しているところを見るのは珍しいな、と思った。たまにイヤホンの左右を共有して聴くことはあるけど。ふとやって来て手伝いをし、後は音楽の世界に没頭している。
 お皿に載った大量の唐揚げを、フブキの歯が噛み切る。ぽーっとしていた目がみるみるうちに冴えて、輝く。
「やっぱりミオの唐揚げは最高だぜ」
「えへへ。喜んでもらえて嬉しいなぁ」
 手馴れたもので、よそ事を考えていても、難なくフブキの好みの味に仕上げることができる。自分もひと口かじり、いつもの味、と首肯した。
 貢献できることは何でもしたい、と思っている。フブキの輝きに対して、自分ができることを考えてみればそんなにはないから。その思考自体が卑屈ではあると思うのに、何かで縋り付きたいと思ってしまうのだ。
 それはきっと、フブキのことを共感して、付き合ってあげられることが少ないからな気がしている。ゲームのこともそうだし、音楽のことも。趣味の違い。一緒にいられることが奇跡、とまで言うと大袈裟だが、対外的に見ると、珍しいとか、よく付き合っていられるな、と思われている気がする。
 いや、付き合っているわけではないか。思考に願望が混ざったことに罪悪感がある。心から堪能している、と表情に出してくれているフブキを見て、罪の意識を懺悔したくなる。
「さっきさ、ミオが聴いてたやつ。ニーナ・シモン、聴いてたんだ。白上はジャズのこと詳しくないけど。ミオはすごいね。白上の知らないこと、いっぱい知ってる。何ていうか、言葉が浮かんでこないんだけど……音というか、世界が深いって感じ? 変な感想でごめんよ」
「え、そんなに深刻になんなくてもいいよお? フィーリングで大丈夫。素敵な感想をもらえて嬉しいし、聴こうとしてくれて、ありがと」
 もっと言いたいことがあるはずだ、とフブキを見つめる。付き合いの長さで、分かることも、分からなくなることもたくさんあるのだ。
「あのー…………」
「なになに。どしたの、フブキ」
 この予兆は、フブキからすると重大なことなのに、自分にとっては大したことがないことに違いない。
「これってさあ、恋人の影響だったりするのかなあ、って」
「ニーナ・シモンがってこと?」
「うん」
「違うよ。なんだっけな、きっかけは忘れちゃったんだけど、人から教えて貰ってはないはず」
 眉を垂れてこちらを見詰めている。
「フブキ?」
「ごめん、疑ってるし、私にそんな権利ないのにって、自己嫌悪が」
「安心して、こんな事で嘘つかないってば。なんでそんなに凹んでるんだよぉ。いい曲でしょ? この後のフィーリング・グッドって曲も好きなんだよねぇ」
 それでも復活しない。座ったまま下を見ているフブキを、どさくさに紛れて後ろから抱き締める。お昼と違って、ちゃんといい匂いがした。もう伝わっちゃっていいから、と早鐘を打つ胸も押し付ける。
「フブキ。元気出してよ」
「ほんとにごめん。何やってんだろな私、勝手に考え込んで勝手に落ち込んで」
 うちが好きなのはフブキだけだよ。今までもこれからも。
 声の代わりに喉が鳴る。照れ笑いで誤魔化す。
「この際だし、何でも言ってみな?」
「言うのが怖い」
「まあ、無理にとは言わないよ。でもね、フブキ。信じてほしいのは、うちはね、フブキには絶対に誠実でいるからね」
 立ち上がるミオを、フブキが追い縋る。腕を掴む手に、その視線に、いつにない熱さを感じる。それとも、それは自分が期待したいるだけなのか。幻の熱なのか。
「ミオ」
 どうせ幻なら、愛を伝えてほしい。
「いつもありがとう。今日も美味しかった」
「うん。またいつでも作ってあげるね」
 腕の中に収まる身体を抱き締められない。代わりに肩に手を当てて、頭に頬を寄せる。今は揚げ物の匂いがする。いつでも今一歩ロマンティックなムードになれないことが、喉に刺さった魚の小さな骨のように感じてしまう。

 先に寝るというフブキを見送って、自分も音楽の世界に浸る。自分の好きな音楽と別に、フブキが聴いているプレイリストもある。ストーカー染みていて自分でも笑ってしまうけど、歌っていた曲とか、話していたもの、又聞きしたもの、いろんな曲が詰まっている。あんなにいろんな活動をしながらこんなに音楽を知っていることを、素直に尊敬している。ボーカルにフブキの声を投影しながら、意地悪なことを考える。恋人に教えてもらった、って言ってみればよかったかな。どんな顔をしただろう。嘘だって看破されるだろうか。でもさっきみたいな顔をされると、自分だって傷つく。愚かな想像だ。
 フブキがベッドの端で寝ている。起こさないようにそっと隣に入って、やっぱりその姿に見入ってしまう。さらさらの髪、ピンと峙つ耳、小さな寝息。自分には触れる権利がないような気がして、近くて遠いところから見ている。自由に駆け回っている彼女を止めてはいけないと感じている。
 後ろから抱き締めて、項にキスをしながら寝られる関係ならどれだけよかっただろう。睦言を交わしながら夢の世界へ旅立ち、朝の眠気には手を取りあって立ち向かう。そんな世界線もあるのだろうかと夢想して、その儚さに笑った。
 それでも。ベッドから抜け出して正面からフブキの顔を見つめる。気付かれなくていい。叶わなくてもいい。少しだけ報われたい。膝を抱き締めて、夢を揺蕩うフブキの柔らかな表情と頬を観察する。なんでこんなに可愛いんだろう。なんでこんなに好きなんだろう。感情が錯綜して、でもそうやって動揺している時間も密かに好きなのだ。
 自ら作り出した誘惑に負けて、頬にそっと口付ける。
 敏感になった唇に、フブキの皮膚の感触が伝わる。すべすべしている。神経を研ぎ澄ませば、柔らかな産毛を感じられる。たったコンマ何秒のことなのに、瑞々しい喜びが弾け出して、芯に小さな罪悪感がある。友情のヴェールを纏っていたはずの気持ちにまた蓋をして、そっと身を引く。
 痛いくらい鳴る心臓も、脈打つ度に歓喜の歌をうたっている。全身の毛穴からその余韻が蒸気みたいに漏れている気がする。息を殺して後退る。喜びに打ち震える自分を打ち据える、罪の意識。それすらも心地よくて、涙が溢れそうになる。
 フブキ。好きだよ。
 そんなこと言えない。
 腕に顔を沈めて泣く。いつかの終焉を今から悲しく思う。自分が友達扱いに耐えられなくなったら。フブキがこの気持ちに気付いて距離を空けたら。フブキに恋人が出来て諦めなくてはならなくなったら。いろんな空想が頭を駆け巡って、自分を崖に追い込んでいく。死ぬ間際まで祈る。愛を歌う。
 顔を上げた瞬間に目が合って、叫びそうになる。歯を食いしばって耐えた。
「フブキ」
「ミオ。なんで泣いてんの」
 泣いてないよ、とは言えなかった。
「フブキの寝顔見てたら、なんでか泣いちゃった」
「こっちおいで」
 フブキの腕がミオの頭を抱き締める。自然と額にキスをされる。自分も身を委ねて、肩に体重をかける。
「ミオが悲しいことは白上も悲しい」
「別に悲しいわけじゃないんだよ。ただ、なんとなく」
「白上もその気持ちに寄り添ってたい」
 ベッドの中に呼び込まれる。空けてくれたスペースにフブキの温度を感じる。
「本当になんとなくなの。自分でもよく分かんなくて」
「そか。傍にいてもいいかな」
「うん。ありがとう」
 ミオの手をフブキが包む。
「好きだよ、ミオ」
「え?」
「ミオのこと支えていたい。ミオが辛いときも幸せなときも、隣にいるのは私でいたい」
「フブキ」
「ごめん。迷惑だったかな。こんな気持ちでずっと傍にいて」
「ううん……ありがとう」
「なんで泣くのさ」
 細くて白い指が、ミオの目元を拭う。
「だって」
 声が震える。
「うちの好きと、フブキの好きは、きっと違うから」
 最後まで言えなかった。胸が詰まって。溢れる涙と逆流する言葉が交差して、感情の激流になる。
 その友情を裏切り続けていることも悲しい。フブキのことを大切にすることが常に自分を偽ることであることが辛い。誠実さを遂げることが出来ない自分の弱さが惨めだ。
 フブキの手がもっと近くに誘う。胸に顔を押し付けて泣く。今は甘えて、明日からはちゃんと親友になろう。諦められない思いを奥にしまって生きていこう。フブキの戦友になるのだって、まだまだ力不足なんだから。息も震えている。
「なんでそうやってひとりで思い詰めるかなあ」
 フブキのぽやぽやした声が旋毛に降ってくる。
「そういうとこは似てるんかな、私とミオ」
 小さく笑った。
「私の好きとミオの好き。一緒だって証明するよ」
 顎に指が当てられる。つと見上げる。視線の先にあるフブキが柔らかく、満月になる前の月みたいに微笑んでいる。何度も拭ってもらったおかげで、視野はクリアだ。睫毛が濡れて重たいのだけは気になっている。
 何か言おうと思ったわけではない。その間にある空気をもが愛しくて、飲み込もうと思ったのかも知れない。
 フブキの顔が近付いてくる。不意打ちだなんて思うはずがない。夢にまで見た瞬間が迫っている。
 小さく開けた唇に、フブキの唇が重なる。スローモーションのように。無垢なお互いの唇の色が混ざるのを期待しているかのように。それはもうゆっくりと合わさり、唇の模様同士を重ね合わせ、密接しているのが当たり前の状態だと言うように、時間をかけたキスだった。フブキの指がミオの顎のラインをなぞる。皮膚で感じるフブキの全てがミオの体に染み込んでくる。お互いの呼吸の音だけが静寂を揺るがしている。
「どう、ミオ。違った?」
 唇を重ねたままフブキが問う。声が直接頭蓋に響く。それは夢のようでもあり、振動する骨がどこまでも現実だ。
「一緒だった」
 フブキの鼻にキスする。
「うちも、フブキが好きなんだ」
「知ってた。バレバレだよ、ミオ」
 布団をフブキの頭に被せる。わざとらしくぎゃーっと叫んで、その後笑い出す。
「もしかして、起きてた?」
「そりゃそうだよ。これから好きな人と一緒に寝るって言うのにさ。緊張して寝られないよ。
 でも結局ダサいことしちゃった。ミオにきっかけ作ってもらっちゃった。こういうとこが駄目なんだな、白上は」
「そういうちょっとヘタレなとこも好きだよ」
「えぇ? 喜んでいいのかなそれ」
「ごめん、素直すぎること言っちゃったかも」
「それはいいんだけどさ」
「嫌いになった?」
「なんない」
 フブキの手がぐっとミオを引き寄せる。
「大好き」
 フブキの腕の中に収まり、腰に手を回す。自分の方が背が高いはずなのに、妙に収まりがいい。
「こんなに簡単なのに、なんで言えなかったんだろう」
 フブキの心臓の音が聞こえてくる。もっと近くで聞きたい。耳をくっつけると、他にもいろんな音が聞こえる。肉や骨が動く音。呼吸。瞬きで瞼が触れ合うのさえ聞こえて来そうだ。
「今はお互い好きって分かってるから何でも言えるよ。
 でも、さっきまでそうじゃなかったもん」
 これから先が永遠になればいい、と思う。フブキとならいつまでも、どこへでも行ける。助走が長かったぶん、遠くへ高くへ。今はその隣にいられる幸せを噛み締めている。
「ミオ、これからもずっと一緒にいてね」
「うん。フブキがイヤって言うまで離れないから」
 心臓の音と呼吸が穏やかになっていくのを聞いている。きっと自分もそうなっているのだ。緩やかに一致していく自分たちを確かめるように、そっと目を閉じた。

Comments

  • デイヴァ
    Jan 14th
  • てと
    Jan 6th
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