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考えてからでは遅すぎる

あけましておめでとうございます。

 去年、noteを始める宣言をしたにも関わらず、下書きを書き溜めるばかりで投稿できていませんでした。プロのレゴビルダーでありがなら、37歳にして東京藝術大学の大学院に入学したわけですが、仕事との両立はなかなか大変で、慣れない執筆には時間が回せていませんでした。

 一年の計は元旦にありという言葉もあるように、今年は有言実行で、早速文章を書いていこうと思います。

 さて、タイトルにある「考えてからでは遅すぎる」というのは「考えるよりまず行動しろ」というように聞こえるかもしれませんが、全く異なるニュアンスです。藝大に入ったことをきっかけに実感した一つの考えを、ここでシェアしたいと思います。

藝大での体験

 藝大でドローイングの授業を受けたときのことです。ドローイングの授業は実践形式で、毎週お題が与えられ、そのテーマについて3時間かけて自由に絵を描きます
 自分はこれまで、工学部出身として図面を描いたり、仕事で簡単なラフスケッチを描いたりはしてきましたが、美術とは縁のない人間だったので、美大受験におけるデッサンなど基本的な絵を描く訓練を全く受けていません
 一方、藝大の授業ともなると、全員絵がめちゃくちゃ上手いです。世の中の絵が上手い人たちの上澄みだけ集まったような集団なので、当然ではありますが、毎回全員に「絵うめ~」と言いたくなるぐらい、みんな絵が上手いです。

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初回のドローイングの授業で自分が描いた絵。テーマは「植物」。

 そんな集団の中にいて、授業で取り残されないようにしようと思うと、正攻法では勝ち目がないので、アイデア勝負でなんとかしようと考えます。変わった素材を使ってみたり、変わった構図にしてみたり。

 ただ、ここで一つ重要なことに気がつきます。人より良いアイデアを出そうと考える前に、絵を描くという行為にめちゃくちゃ脳のリソースが奪われていることに。つまり、少しでもちゃんとした絵を描こうとすると、線がまっすぐ描けているか、パースが合っているかとか、など「正しい絵」を描こうとするのに一所懸命になってしまい、アイデアを出す余裕が全然出てこないのです。

 長年、レゴブロックで作品を作り続けていて、この感覚を忘れかけていました。今思えば、レゴブロックを使って思い通りの形を作ることについては無意識でできるようになっており、「どうやって形にするか考える」というフェーズがなくなっていたのです。

つまり、

①面白いアイデアを思いつく
②どうやって形にするか考える
③手を動かして形にする

という、ものづくりの当たり前の流れの中で、圧倒的な訓練をすると無意識に②をできてしまう、すなわち②を飛ばせるようになるということです。

通常なら
→②→③→→②→・・・と繰り返すところが、
→③→→③→→・・・となって、
アイデアを形にしていくサイクルが加速していきます。

ゲームで世界ランク1位になったとき

 この感覚はかつて私がプロゲーマー級にゲームをやり込んでいたときのものと重なりました。20代のころ、私はeスポーツの一種でRTS(リアルタイムストラテジー)ゲームをやり込んでいた時期がありました。賞金の出る世界大会にも出たことがあります。
 RTSゲームはターン制ではなく、リアルタイムに進行するため時間軸が重要なゲームジャンルです。目の前の敵を倒すアクションが求められると同時に、5分後、10分後どうなっているべきか中期的な戦略を立て、勝つためのストーリーを考え、対戦相手をこちらのペースに引き込む必要があります。

 RTSゲームの有名タイトルの一つに「Company of Heroes 2」というゲームがあり、私は世界ランク1位(2対2チーム戦)にまでなっていました。世界ランクはEloレーティングによって点数付けされており、自分よりランクの高い相手に勝たないとほぼレートが上がらないシステムのため、あらゆるライバルを倒さなければ1位になることはできません。

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「Company of Heroes 2」で世界ランク1位だったとき。Brickmanの名前でプレイしていた。

 そのレベルまで行くと、ゲームが始まってから戦略を考えているようでは遅く、相手の動きを見て条件反射のように次のアクションをしていく必要があります。頭の中にはフローチャートが出来上がっており、「相手がこう来たらこうする」という図式があらゆるパターンに対して準備ができています。
 こう聞くと、反射神経を鍛えて間違いのないプレイをし続ければ良いように思えてしまいますが、実際のRTSゲームはここからクリエイティブな発想が求められていきます。数十種類におよぶ特性の異なるユニットを組み合わせて、相手の攻めを受け止めながら自分の攻撃を最大化するプレイを考えなければなりません。そのためには5分後、10分後の未来を想像すると同時に、その未来像に相手を引き込んでいく必要があります。
 頭の中でそういったストーリーを描きながら、目の前の敵は条件反射で的確に無意識に倒していく。逆に言えば、無意識レベルで操作できているからこそ、クリエイティブな思考ができ、ストーリーを描く余裕が生まれていたとも言えます。無意識にできるようになってから勝負が始まっていたということです。

 ここに到達するまでに私はこのゲームを1万時間近くプレイしました。「1万時間の法則」と呼ばれるものがあります。「ある分野で一流の専門家やプロになるためには、約1万時間の練習や研鑽が必要」というものです。20代でこの言葉を聞いたとき、ただ「技術を身につけるまでに1万時間かかる」という意味だととらえていました。しかし、今では「考えることなくできるようになるまでに1万時間かかる」という意味に感じます。
 考えることなくできるようになってから、ようやくクリエイティブな勝負ができるようになる、という経験則を先人たちが「1万時間の法則」と名付けたのかもしれません。

レゴブロックで形を作るとき

 ゲームの話をしてきましたが、私の本職はレゴビルダーです。レゴブロックを使って作品を作ることを生業としています。つまり、レゴブロックで形を作ることが仕事です。そしてレゴ社からプロフェッショナルとして認定されてから15年が経ちました。
 レゴブロックで形を作るとき、私は細かいブロックの組み方についてはほぼ考えていません。「こういう形にしたいときにはこの組み方をする」という図式があらゆるパターンに対して準備できた状態になっているため、組むときはゴールだけをイメージしていれば勝手に形を作ることができます
 考えることがあるとすれば、時間的な効率についてです。仕事で作品制作を行う以上、得られる効果に対して時間をかけすぎないように気をつける必要はあります。しかし、それ以外はほぼ無意識で組んでいると言っても良いです。

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2025年制作の「ルーデンス」。頭の中でイメージできてからはほぼ手を止めずに作り続けた。

 こうなると、「こういう形にしたい」と決めた段階で、ほぼ完成形が見えているとも言えます。普通なら「こういう形にしたい」に向かってどういう組み方をするかを試行錯誤しながら完成イメージに近づけることが「作品をつくる」ということになると思います。しかし今の自分は、その試行錯誤が熟練によってショートカットされています

 そうすると試行錯誤に意味が無いように思えてしまうかもしれませんが、実はここから本当の試行錯誤が始まります。「形を作ること」自体に脳のリソースを使わなくなった結果、「どうすれば面白くなるか」という作品づくりにおける本質的な部分にフォーカスして、そちらの試行錯誤をどんどんできるようになります。

 その一例が、2025年に制作した「ノンタン」です。

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2025年制作の「ノンタン」。

 写真で見ると、ただ再現度の高いフィギュアに見えるかもしれませんが、ここには様々な仕掛けが施されています。例えば、この作品には満遍なくノイズが乗せてあります。ここで言うノイズとはブロックの凹凸によって適度なザラザラ感がある状態のことです。そしてノイズを生み出すために、顔を真正面にはせず、(X軸方向にもY軸方向にも)若干斜めに角度をつけています。真正面にしてしまうとブロックの凹凸がない平坦なエリアが生まれて、その部分が不要な違和感につながってしまうため、顔を少し斜めにすることで緩やかな傾斜をつけて、レゴブロックの凹凸が適度にある状態にしています。
 15年前の自分であれば、技術力が足りず、顔を正面にして、さらに左右対称な造形にしていたと思います。もし斜めにしようとしたら、何度も何度も組み直して、それだけで5倍ぐらい時間がかかっていたと思います。
 しかし、今なら何も考えなくても、「ここは顔を斜めに作った方が良くなるな」と考えただけで、ちょっと斜めにしたものを無意識に組んでいくことができます。この部分が無意識にできるようになると、もっと本質的なところにフォーカスできるようになります。「ノンタンのかわいさを最大限引き出すためには」という一番考えるべき本質的なところを考えながら、「顔の角度をあと0.5°傾けよう」といった微調整ができるようになります。
 そういった細かい工夫を組み合わせていった結果、この作品では過去にレゴブロックで作った立体版の「神奈川沖浪裏」と同じように、躍動感を出すためにノイズの中に微小時間を閉じ込めた立体アニメーションのような空間を作り出すことに成功しました。ここの詳しい話は長くなってしまうので、またいつかnoteで書きたいと思います。

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レゴブロックで作った立体版の「神奈川沖浪裏」。2023年、ボストン美術館で展示された。

最後に

 さて、この文章を書くのに、ものすごく時間がかかりました。読みやすい文章を書くために、慎重に言葉を選び、書いては消してを繰り返しています。文章を書くのに明らかに考えてしまっています。面白い文章を書く前に、正しい文章を書くのに必死になっています。文章を書くのも1万時間やるべきということでしょう。

 一方、レゴブロックで形を作るのは次のレベルに来ています。今振り返ってみると、これまでのプロとしての15年間は考えることなくできるようになるための鍛錬の時間だったと感じます。そして、プロになってから15年目にして、ふと藝大に入りたいと思った理由がここにあったのかもしれません。
 ただ「かっこいいもの」や「かわいいもの」を作ろうとするのではなく、その先にあるアイデアを形にすることを今後の制作では実践していきたい思います。

 2026年は次のレベルへ。

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