近藤聡乃のいろいろ 第15回
これでしばらく夕飯は
月曜日
いい加減に作ったら、バカバカしい量のカレーができた。これでしばらく夕飯はバカバカしくなるだろう。
火曜日
朝から鼻が詰まって頭がうまく回らず、いつもの三倍くらいバカになってる気がしたが、夕方になる頃には、まあ平素からこんなもんだろうという気になった。
水曜日
私の耳を調べてドクターが、「耳の穴がきれいすぎる。さては綿棒を使っているな。ダメダメ、綿棒は耳垢を奥に押し込むから。点耳薬を使いなさい」と言うので、「わかりました」と返事して、帰宅するやいなや綿棒で耳かきをした。
木曜日
バカも休み休み言え、と思ったが、大抵のバカは元気があってあまり休まない。
金曜日
久しぶりの友人と再会。友人はかねてより非常に抜けたところがあり、いつかマヌケが原因の死、「マヌケ死」でもするんじゃないかと心配していたが元気そうだった。むしろ肌はツヤツヤと輝き、毛髪もなぜか増えて死からは程遠く、マヌケもバカにならないのであった。
土曜日
猫の頭を撫でると耳がピッと寝るのがおもしろくて、何度も繰り返してハハハと笑っていたら、夜中、猫に喉元をグッと押さえられ、ハハハと笑われた。
日曜日
バカバカしかった今週がようやく終わろうとしている。今週は元気に働いて働いた。カレーも最後の一皿だ。
先生の死装束 その三、セントポーリア
その日、教室に行くと長机の上にはガラスのボウルが乗っていた。水が張られていて、花がいくつもプカプカ浮かんでいる。何だろうと眺めていると「セントポーリアよ」と先生は言った。セントポーリア、初めて聞く名前だ。白、赤、紫、緑っぽいのもあった。花びらの形もいろいろだったけど、どれも皆「セントポーリア」だと言うので驚いた。「どうしたのこれ」と聞くと「先生の趣味よこれ」と言う。そして居間の方を指差して「温室で育ててるの」というので私はもっと驚いた。もう長いことここに通っているが、そこに温室があるなんて知らなかった。
幼稚園のお迎えに来た母に「今日はこれからお習字に行くのよ」と自転車の後ろに乗せられて、やって来たのがこの教室だった。そういえばそのしばらく前に「お習字やってみる?」と聞かれ、おしゅうじって何だろうと思いながら「うん」と答えたのである。ドアが開いた瞬間お母さんびっくりしちゃった。最近になって母は私に打ち明けた。笑顔で出てきた先生の後ろがゴミの山なんだもの。どうしようかと思ったけど、先生が「体験教室ですね、お母さんは一時間くらいしたらお迎えに来てください」ってドアを閉めちゃったから。そして一時間後、迎えに来た母が「通わないって言って!」と念を送ったのも虚しく、私は「通う」と宣言した。教室の終わりにビックリマンチョコをもらい、すっかりその気になったのだ。
それから四年たったが、居間に温室があるなんて全く気づかなかった。先生の指差した窓際の辺りをよく見てみると、四角い、ビニールのかかった大きなものが物の隙間にあるのがわかった。近寄ろうとする私を、先生は「ダメ、危ないから」と制した。先生は足の踏み場を探しながら一歩一歩慎重に温室に近寄り、もう一つ花を摘んで来た。そして、花びらの縁がギザギザしたピンクのセントポーリアを水に浮かべると、「ほら」と得意げな顔をした。こんな花、初めて見た。ギザギザのところを指でつつこうとすると、先生はまた「ダメ」と言うので、私は黙って習字を始めた。
ふと見ると、先生はいつの間にかテレビを見ながら居眠りしていた。私はセントポーリアのギザギザのところを指で触った。そして筆に墨を含ませると、ガラスのボウルにポタリと垂らした。
第15回 了
近藤聡乃のいろいろ、次回は1月の第2火曜日にお届けいたします。
これまでのお話はこちらをご覧ください。
https://note.com/nanarokusha/m/me81e72e3fb40


