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Last Message/Novel by ぬ

Last Message

10,403 character(s)20 mins

お久し振りです、今回はハリポタです。

このSSは今年6月にあった金ロのハリポタ祭りで見事に再熱した熱のまま書き出したものです。
話を練り始めた当初はルートン書くつもりだったのが気が付けばフレジョに変わっていて、本当に何があったのやら……
ハリポタはルーピン先生大好きなルートン親世代推しです。勿論オールキャラ好きですが!!
ルートン書けなかったのが悔しかったので作中にルーピントンクスの名を連ねたりしてます。諦めが悪い。
ルートンは幸せになればいいと思うよ!!!!!

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誰が、想像出来ただろうか。
緑色の閃光。
微かに上がる口端。
甲高い笑い声。
倒れゆく自分そっくりな相棒。
微かに動く口。
かき消される二つの声。
いや、かき消されるは適切な表現ではなかったのかもしれない。
けれど、相棒の声が聞こえなかったのはあの耳障りな笑い声が被さったからであって欲しいという願望がもう一つの可能性を打ち消す。
かき消されたのではなく、そもそも声が出なかったなんて、そんなもの、自分の相棒の、兄弟の、フレッドの、死を認めてしまうようであったから。
いくら現実から逃げたってその光景を見てしまった目は、聞いてしまった片方しかない耳は、感じてしまった温もりが冷めゆく感触は、嫌でも自分の体に付き纏い、心が、体が、声にならない悲鳴を上げる。
それも、あの忌まわしい笑い声にかき消されたことにしてしまいたかった。
もし、もしも、あの時動いた唇が自分が読んだ通りだったなら。
それから先の事は覚えていない。
ただ、あの相棒を奪った忌まわしい呪文と、杖の先から飛び出す緑色の閃光が、自分の周りを飛び交っていたのは、自分が発していたのは、確かな事実だった。


Last Message


気が付けば見慣れた天井が目に入る。
生まれてからずっと見続けた、しかし衣食住を自分達の店に移してからは見ることのなかった久しぶりの、昔から何一つ変わらない天井。
天井だけではない。
見渡せばこの部屋にあるものが全て変わらない。
二つずつある机に広がる悪戯グッズの試作品も、二つずつあるベッドも、何もかも、変わっていない。
唯一違うのは、そう、いつも一緒にいた相棒がいない、ただそれだけ。
生まれた時からずっと共にいた部屋でその相棒がいない生活をスタートするなんて何て皮肉な、と一人乾いた笑いを零した。
今寝ていたベッドもわざとなのか、それとも間違えただけなのか、いなくなった相棒のもので、自分とそっくりな、けれど少し違う大好きな匂いに包まれて、その事に酷く心を痛める。
いつも傍にあったその温もりは、もう、無い。
不意にじわりと零れそうになった小さな雫を押し留めた。
相棒の最後の言葉を汲むのなら、相棒が居ない世界を生きていくのなら。
持ち上げた口角は覚えているよりもずっと重かった。


この隠れ穴に住んでいた時はいつもそうしていたように幅の狭い階段を駆け下りリビングへと入ると、そこにあった目が全て自分に向いた。
大丈夫、いつもと変わらない。
心配するような、はたまた窺うような、決して気持ち良いものではないそれら全てを無視していつも通り、笑って朝の挨拶をすれば少し戸惑ったような、だけどいつものような返事が返ってくる。
「おはよう、ジョージ」
否、いつもとは少し違った。
そこに相棒の名前は無い。
相棒と間違われることも、無い。
それは、この先もずっと。
だけどそれさえ飲み込んで笑いかければ、少しこちらを探りつつもいつものように母のモリーが朝食をこちらへ飛ばし、パーシーが起きるのが遅いと小言を言って、ロンがエロールを潰しかけて慌てて飛び上がって、辛うじて咥えていた手紙を受け取る。
そんな光景を見ながら目の前へと飛んできたトーストに齧り付く。
いつも通り、いつもと変わらない、何事も無かったかのような日常。
でも、俺はまだ何も聞いていない、何も知らない。
相棒が居なくなったその瞬間から記憶は途切れていた。
犠牲になった人のことも、憎むべき人が死んだのかどうだかも。
少なくとも今この平和な日常があるという事は恐れられていた人の脅威は無くなったということで、だけどそれしか分からなくて、それがとてつもなくもどかしく感じて、つい、ぽろりと言葉が零れる。
「誰が死んだ?」
自分でも驚く程冷たい声が出て、その言葉を零したことにも、声の冷たさにも驚いて、日常の空気が一気に凍りついたのも肌で感じた。
訪ね方が悪かったのも、それが禁句となっているのも分かっていたはずなのに、もう何だかどうしようもなくって、笑うしか出来なくて、それを止める相手が誰も居ないことにチクリと心が痛む。
それも覆い隠してしまうようにおどけて、おどけて、笑いながら自分に言い聞かせる様に呟いた。
「フレッドがもう居ないのは知ってるさ」
気まずかった空気が悲しみに歪む。
それさえも笑いで覆い隠せてしまえばと心の奥底で思いながらも先程の問いの答えを促す。
お願いだから、誰か教えてくれ。
「フレッド以外に、誰が居なくなったんだ」
それは先程よりも随分と頼りない声だった。
懇願するような、縋るような、そんな声に耐えきれなくなったロンがさっき受け取った手紙をじっと見つめたまま小さな声で答える。
「ルーピン先生さ。それにトンクスにコリン、後……スネイプ」
ルーピンとトンクスは子供が生まれたと、つい最近嬉しそうな顔で報告してきたばかりだ。
その子供を遺して二人共逝ってしまったのか。
何て、身勝手な。
コリンは確か、ハリーのことを慕ってずっとついてきていた子だった。
いつも素直で、一生懸命で、特にハリーが出るクディッチの試合の時なんかはカメラを手放した事は無かったように思える。
スネイプは……何故ロンが悲痛な声でその名を呼んだのかは分からないが、死んでしまったのならそんな事どうでもいい。
確かにあの先生は嫌いではなかった。
それも、あんな事が起きる前まではの話ではあるが。
「向こうは?」
そう問えば忌々しそうに奥歯を噛み締めてからモリーが口を開く。
「ベラトリックよ」
その名を聞けばもっと色々な感情が沸き起こると思っていた。
だけど、何も無かった。
そう、何も。
ただ、それがさも当り前のことのようにすっと溶け込んで、次の瞬間にはもう頭の片隅にすら無かった。
「ママが、倒したんだ。後は、ヴォルデモートをハリーが倒した。他は…分からない。けど、いっぱい、だ。マルフォイは逃げたみたいだけど」
一番憎むべき人は、大切なものを奪ったその人は、同じく大切なものを奪われたモリーが倒した。
フレッドの死を悲しんでいるのは俺だけじゃない。
そんな当たり前のことに今更気付く。
そして、全ての元凶はハリーが倒してくれた。
きっと今頃英雄英雄と呼ばれて疲弊しているであろうその人を想い、今度何か悪戯を仕掛けてやろうと口角を上げる。
けれど、そんな事を考えながら横を向いても、いつも隣で同じ事を考えていた相棒はもう、居ない。
下がりそうになった口角を慌てて押し留めた。
マルフォイにはそれが最善であった事を知っているから怒る気にはなれなかったけれど、今度会ったら悪戯させてもらおうと心に決める。
その悪戯がハリーと同じようなものかと聞かれれば答えはノーだが。
ロンの話によると、闇側はともかく、こちら側の陣営の死者は少なかった、らしい。
そんなもの、すぐ隣で居なくなった相棒を想えば信じ難いが、それでも被害が少なかった事にほっとする。
それと同時に何も失わなかった人を憎みそうになって、慌ててその気持ちに必死に蓋をして、何事も無かったかのように笑った。
大切な人を失って悲しむ人なんて、そんなの、少ない方がいいに決まっている。
けれど、いくら失ったものは少なかったとしても、俺にとっての悲しみは大きくて、ぽっかりと空いた胸の穴を埋めるものなんて何も無い。
兄弟を、相棒を、己の人生に欠かせない存在を、無くしてしまって出来たこの穴は、どんな慰めの言葉を貰っても、どんな幸福が手に入っても、どんな記憶に塗り替えられてしまっても、埋まる事が無いのは分かりきった事だった。
それ以前の問題なのかもしれない。
慰めの言葉なんて貰ったってなんの意味もなければ、相棒が居なければ幸福なんてない。
それに、あの相棒の事なんて忘れらるはずがないから記憶を塗り替えることだって不可能だ。
いや、そもそも穴を埋める必要なんてあるのだろうか。
その穴こそが相棒の生きていた証なのではないのだろうか。
穴を埋める事なんてしなくていいという結論に至ってすぐ、空になった皿を杖で一振りし、席を立った。
再び集まった目線に構うことなく背を向けて、ドアノブへと手をかける。
「店に行ってくる」
それだけで、十分だと思った。


扉を開けば心地よい音と共に少しも変わることない売り場が目に入った。
そこに並ぶのは全て相棒と二人で作った物で、相棒との思い出が浮かんでは消えてを繰り返す。
今考えてみれば、それはまるで夢物語の様で、だけど目の前にあるふざけた悪戯グッズがそれが夢ではない事を教えてくれて。
まだ夢じゃない、けれど、いつかきっと夢になってしまう日々。
懐かしいそれらを手に取ればじんわりと目の奥が熱くなった気がしたけれど、それよりもひとつひとつに込められた楽しい思い出に頬が緩んだ。
このふざけた悪戯グッズを作ったのも、この店の仕掛けを考えたのも、この店を開いたのも、それよりずっと前、ホグワーツで悪戯を楽しんだのも、全部、隣に相棒がいた。
悲しいかな、その存在を失ってから初めて気付く。
相棒の人生はそのまま、俺の人生だったことに。
己の半身が無くなった今、これからどうやって生きていけばいいのだろうか。
生きなくてはいけないことが、余計に己の心を握り潰す。
いつものように冷静でいられたら、相棒と話せたなら、そんなのきっと幾らでもあったはずだけど、でも、この余裕のない心で考えられたのは一つきりだった。
相棒が遺したものに縋り付いて生きてく。
それだけしか、浮かばなかった。
そうすることだけでしか、己は生きていけない様な気がして。
笑ったままの頬がヒクリと悲鳴を上げた。


相棒がいたっていなくったって、季節は変わらず移りゆく。
季節が四回巡り、気付けばもうあの忌まわしき日から一年が経っていた。
毎日が同じことの繰り返しではないのは分かっているけれど、本当にこうだったのだろうかと、間違え探しのような毎日が続く。
認めたくないたった一つの『間違い』を見なかったことにして、帰らぬ人を想い続ける日々。
ただただ、あの声だけが聞こえない。
そんなある日、以前よりその数は減ったが、未だに届き続ける心配や悼む声を綴られた沢山の手紙の山を、いつものように機械的に見知らぬ名ばかりが綴られた手紙と、知人からの手紙を分けている時、よく見慣れた字で自分の名前が書かれた手紙がひらりと、何通かを一度に持った手からこぼれ落ちる。
見慣れた、けれどもう見ることは無いと思っていた自分のに良く似たその字を見た瞬間、反射に似た動きで裏返して差出人を見れば予想通りのその人で、握っていた手紙なんて全て投げ出して、震える手で封を切った。
開いたその手紙に綴られた文字を読めば、そのままあの声が心地好く左耳に響いて。
『やあ、ジョージ、元気にしてるかい?』
そう始まった文章に一抹の期待が浮かび上がった。
『これが届いたって事は俺とお前は一年会ってないってことになるんだけど、それってまじかよ!?未来の俺等何やってんだよ!?仕事で、とかならまだいいけどさ、喧嘩してそのまま、なんて俺は嫌だぜ。喧嘩だとしたらさ、どうせ俺がまた何か余計なことでも口走ったんだろ。 俺等ほとんどでそっくりなのに、何でかお前だけ冷静だからなぁ。あ、この手紙説明まだだったな、これさ、離れ離れになって一定期間経ったら送られる手紙なんだけどさ、新しい商品としてどうかなって思って。今のところは年単位でしか設定出来ないし、まだまだ改善の余地があるんだけどな』
期待が外れて悲しくないと言えば嘘になるが、書かれた内容に昔を思い出して自然と笑みがこぼれる。
言われてみれば、確かに一言二言多かったのはフレッドで、それがきっかけに口をきかないこともあった。
と言っても、それより面白いことを見つけて、気が付けばすぐにまた笑いあっていたのだが。
だから、こんなにも離ればなれでいるのは初めだと、気付く。
『にしても、一年も会ってないなんて信じられないなぁ…あーでも、喧嘩っていうのもありえない話ではないか。だってさ、世界がこんなにも不安定なんだぜ?俺達の仲だって不安定にもなるわな。ほら、俺等って流行に敏感じゃん?まあでも、流行に流されて切れる程俺等の関係はヤワじゃないと俺は思ってるからさ。お前が「そんなもんだ」って思ってるんだったら、俺が「こんなもんだ」って覆してやるからさ、俺の相手してくれよ?俺等才能なんて幾らでもあるから一人でだって生きていけるんだ。だけどさ、俺は一緒生きていきたいからさ、頼むよ』
どっちがだ、とこぼれそうになった言葉を慌てて飲み込んだ。
お願いだから覆してくれと、叫ぼうとした胸を慌てて押さえつけた。
『ああ、でもそうか、うん、悪い。もしこれを読んでる時に俺が死んでいるのならば、忘れてもいいから』
胸を押さえつけ過ぎて、遂には心臓も止めてしまったのかと思って。
「お前の許しがないと、俺は忘れることすら出来ないのかよ」
どうせ、忘れることなんて元から出来やしないと分かっているのに、止める間もなく言葉はこぼれた。
死んでるのは嫌なんじゃないのかよ。
生きていたいんじゃないのかよ。
覆してくれるんじゃないのかよ。
胸の奥に支えた言葉は沢山あるのに、出てきたのは結局それだけで。
どうしようもなくなって続きを追った。
『あー、うん、ごめん、なんか嫌だな。あのさ、喧嘩、もし俺が悪かったとしたらさ、言い訳がましくなっちまうんだけどさ、聞いてくれよ。あのさ、俺等が冗談を言わなかったことがあるか?』
言いたいことが何なのか分からなかった。
いつも何も言わずとも伝わっていたはずなのに、いつの間にか俺と相棒の間には大きな溝ができてしまっていたのかと思った。
でも、それは間違えだったみたいで、少し馬鹿な相棒に笑みがこぼれた。
「お前絶対何言ってるのか分からないって顔してるだろ。安心しろ、俺もだ」
もう何が言いたいのかさっぱり分からなくて、それでも溝は出来ていなかったことに安堵する。
「いや、冗談じゃなくてさ、なんて言ったらいいか分からないんだ。なんて言うんだろうな、俺等さ、いつだってジョークばっかり言って笑ってきたじゃんか。だからその癖が抜けなくて?つい笑えないジョークを言っちまったんだと思うんだ。俺の失言は酷いからなぁ、お前が起怒るのも仕方ないかもしれないけどさ、笑い飛ばしてくれないか?多分俺は本当にどうしようもないから、本心は違ったとしても、自分が言ったことにずっと絡まったままでいるだろうからさ。頼むよ。全部、ジョークだって笑い飛ばしてくれないか?」
少し的外れな、けれど、もしかするとそれは一番聞きたかった言葉だったのかもしれない。
ジワジワと心を締め付けていた鎖が解けていく。
いつ、誰に言われたのだったろうか。
人が一番最初に忘れるのは声だ、と。
もしかすると、そう言ったのは相棒だったのかもしれない。
それはもう忘れてしまっていたが、その言葉だけが不意に蘇る。
不思議なものだ。
確かにあの戦いで死んだルーピンやコリン等の声も、それより前に死んだダンブルドアやシリウスの声も思い出せない。
けれど、それでも何故か、相棒の声だけは左耳に鮮明に響いている。
それは自分のそれが相棒のものとよく似ているからか、それとも相棒とずっと共に居たからかはわからないけれど、でもそれは、確かに俺を救って、同時に俺を苦しめた。
『笑えよな』
何をしていても、泣きたい時でも。
ただただ、笑えと、笑えよなと、付き纏い続ける。
声は聞き取れなかったけれど、この失った左耳があれば聞こえたんじゃないかと何度も考えた。
だからだろうか。
あの日、口の動きで受け取ったあの言葉が左耳に響き続ける。
それこそ、呪いのように。
けれど、それを間違っているとは思わなかった。
いいや、思えなかっただけなのかもしれない。
相棒がいなくなった今、自分を自分たらしめるものは笑うことしかないような気がして、涙も全て飲み込んで笑みを浮かべる。
笑わなければ、それは自分ではないようで、ただただ口角を上げ続けた。
それが正解かなんて分からないけれど、それでもそうするしか無くて、心が流した涙を見なかったことにして。
あの時、相棒の頬に光ったのは涙だったのかもしれないと、ふと、そう思った。
もうそれは確かめようのないことだけど、その涙に無意識の内に縛られていたのかもしれない。
あの日から、相棒を失った日から、丁度一年が経った今、漸く呪いが解けて俺を縛り付けていたものは何もなくなった。
「随分と分かりづらいジョークだな」
言葉と共に溢れたのは、この一年間たまりに溜まった涙で。
ボロボロとこぼれ落ちる涙の一粒が手紙に落ちた瞬間、ジワリと余白に文字が浮かび上がる。
『あー……ひょっとしてさ、泣いてたりする?いやこれさ、水分に反応するように魔法掛けてみたんだけどさ、正直、お前が泣いてる姿なんて想像出来ないんだよなぁ。とりあえずは泣いてる前提で書くけどさ、これが紅茶零したとかだったら恥ずかしいな』
途中で間が開いたり、速くなったり、浮かび上がる文字はまるで、今、相棒が書いているかの様で、流れ落ちる涙は止まらない。
『お前が泣いてるって相当だよな……やっぱり俺、死んでる?』
迷いを見せながら綴られたその一文に、心臓が締め付けられた。
その力から逃れようとする心臓の音がやけに耳に響いて、視界がグルグルと回る。
その間も、嫌だ嫌だと叫び続ける心を無視して文字はひたすらに綴られていく。
『そっかぁ…俺死んじゃったか……笑えないなぁ。それもジョークだったらいいのにさ。俺さ、ちゃんと役に立ってた?ヴォルデモートはどうなった?ハリーは?俺達の店は?……なぁ、どうなってるんだ?今、何処で何してるんだ?何でその隣に俺がいないんだ?なぁ、何でだ?何で…………』
走る様に綴られた文字が急に止まり、じわりと歪む。
だから、自身の涙が零れたのだと思った。
最後の言葉が、と慌てて指でなぞる。
それだけのはずだった。
なのに、気付いてしまった。
触れた先が少しも濡れていないことに。
心臓は嫌だと叫び続けているのに、頭はやけに冷静で、乾いた笑いがこぼれた。
何も、そこまでしなくてもいいのにな。
その滲みがたまらなく愛しくて、切なくて、そっと撫でれば再び文字が浮かび上がった。
『わりぃ』
何がとは書かれることはなくて、それを知るすべもなくて、何だか無性に悲しくなって誤魔化すように溢れる涙を拭う。
『けどさ、ありがとな』
拭っても拭っても、止まらない。
『ずっと一緒に居てくれて、馬鹿やってくれて……俺のために、泣いてくれて』
乾くことなく流れ続ける。
『生きててくれて』
ずっと、ずっと、
『ありがとう』
その言葉を、欲していた。
相棒を、半身を失ったあの日から、ずっと。
己の人生そのものだと思っていた相棒が居なくなって、世界は真っ黒に塗り潰された。
いつだって進むべき道を照らしてくれていた光は、その時初めて、決して当たり前のものではなかったことを知った。
それでも、見えない何かに背中を押され続けて。
ここが何処なのかも、自分が何処へ向かうのかも分からずに、ただただ歩いた。
目指すものなんて何も無い。
かと言って、とどまることも許されず、足を動かすだけの日々。
機械的に足を動かして、機械的に呼吸をして、機械的に生きているだけの、日々。
果たしてそれは、生きていると言えるのだろうか。
いや、そんなことはどうだっていい。
人生を失った己が、目指すべき場所も、進むべき道も、何もわからなくなった己が、生きていていいのだろうか。
生きている意味は、あるのだろうか。
そう、誰かに問いたかった。
いや、誰かなんて不特定多数ではなくて、求めるは唯一人、あいつに、問いたかった。
けれど、それは叶わない、叶う筈がない。
勿論、問うことが出来なければ答えが返ってくることもない。
それでも、真っ暗で前も後ろもわからない道を、見えるフリして歩き続けることしか出来なくて。
そんな中届いたこの手紙は、初め、光なのか闇なのかも分からなかった。
ただ、その手紙の所々に現実を突きつけられて、それがどうしようもなく辛くて、それなのに何故だか暖かくて。
『生きててくれてありがとう』
その一文に、この手紙は確かに光だったことに気が付いた。
『笑えよな』
再び綴られた文字は己を縛り続けたあの言葉で、けれど、冷たく響き続けていたその言葉は初めて、暖かく響いた。
『無理して笑うんじゃなくてさ』
じわり、じわりと、
『泣きたい時は泣いてさ』
ずっと溜め続けていた、
『心から笑えるように』
とめどなく流れ落ちる涙は、
『笑う為にも、ちゃんと泣けよな』
確かに、暖かくて。
『お前が笑ってなくちゃさ、皆調子出ないからな』
最後に残った余白に、
『今までずっと、ありがとうな』
最後の言葉が、刻まれる。
余白は全て、埋まってしまった。
もう、新しく何かが綴られることはない。
けれど、それを悲しく思うことも、ない。
あの日、ぽっかりと開いた大きな穴が、やっと、やっと暖かなもので満たされていく。
心の中で生き続ける、と誰かが言った。 そんな綺麗事を、と思った。
死人は死人だ。
現実にも、心の中にも、生きてなどいない。
何処へ行っても死は覆らない。
そう、考えていた。
けれど。
『死んだらさ、どうなるんだと思う?』
ハリーがセドリックの亡骸を抱えて帰ってきたあの日の夜、何処か遠くを見つめて、小さくそう零したフレッド。
その声がたまらなく怖くて、でも、怖がったら負けな気がして、強がって笑ったんだ。
『そんなの死んでみなきゃ分からないんだからさ、いつか死んだら二人で冒険してみようぜ!どうせ死ぬのも一緒だろ?』
そう言えば憂い気な顔が驚きに変わり、そして笑みに満ちていく。
その姿に、何故だか心底ほっとしたのを今でもよく覚えている。
『それもそうだな!取り憑いたりとか出来るかな?』
すっかり悪戯を考える顔になって笑うフレッドにいつもの調子を取り戻せて、話が弾んだ。
『おっいいな、それ!フェルチかスネイプにでも取り憑いてやろうぜ!』
『お前な、フェルチやスネイプより先に死ぬ気かよ。先に死んだらのろってやるかんな』
『逆じゃねぇのか、それ』
『いーんだよ、どっちだって!だってさ、どうせ死ぬのも一緒、なんだろ?』
「違うじゃねぇか」
違う、違う、でも、
「お前が先に死んだんだから、俺に呪う権利があるんだろ?」
暖かな、
「俺が死ぬまでずっと」
あまりにも暖かな、
「傍で待っててもらうからな」
呪いを。
生きてなどいない。
でも、ここにある。
共に生きた記憶が、約束が、想いが。
確かに、ここに。
死んだらどうなるか。
あの日の問の答えが出た気がした。
確かに死後の世界のことは分からない。
でも、それはいつか必ず分かること。
だったら、フレッドにはこの世界の話をしてやろう。
死んだ後に遺されたものの話を。
それで飛びっきりの悪戯をしてやるんだ。
二人分の人生を分け合う俺たちにはもう、怖いものなんて何もない。
その為に、もっとフレッドの欠片を集めなくては。
もっと、この世界を知らなくては。
もっともっと、生きなくては。
何から始めよう、何から歩きだそう。まだ、やらなければならないことは沢山ある。
フレッドが遺したものも、自身が積み上げてきたものも、沢山。
涙は止まったんだ、いつでも動き出せる。
時間は沢山ある。
でも、やりたいことだって沢山ある。
一秒たりとも無駄になんか出来やしない。
立ち止まっている時間なんてもうないんだ。
まずはこの手紙から。
届けよう。
フレッドの遺したものを。
最後の、メッセージを。


楽しそうな笑い声。
驚いたような間が抜けた声。
買ってくれとせがむ声。
ヒソヒソと何かを企む声。
色々な声で賑わう店内は、これまた色鮮やかで賑やかな商品やポップで溢れている。
その中でも一際目を引くのは本日発売の新商品。
待望のその商品は白い封筒と便箋というW.W.Wにしては珍しくシンプルなもので、それでも何故か目を引き、人々は自然とそれを手に取ってしまう。
それはこの商品の宣伝文句のせいだろうか。
この商品から溢れ出す、じんわりとした暖かさのせいだろうか。
それとも―――自身の大切な人を思い浮かべたからだろうか。
あまりにもささやかな、けれど、これ以上にない幸福を、与えたいと思える人を想ってその商品を手に取っていく。
その心は間違えなく暖かく、幸せに満ちていて、店内を明るく包んでくれる。
その暖かさが人を呼び、更に店内が賑わっていく。
定員達は嬉しい悲鳴をあげ、故人を想ってそっと笑う。
それはあまりにも幸福で、和やかな時間。
そんな中、この店の店主ジョージ・ウィーズリーは今日も店内を駆け回る。
かつての相棒の欠片を集める為に。
今を楽しむ為に。
―――生きる、為に。
賑やかな店内に扉を開く音が響く。
「ようこそ!悪戯用品店、ウィーズリー・ウィザード・ウィーズへ!!」
今日も、笑顔で。



フレッド・ウィーズリーが最後に贈る!
家族、親友、恋人、相棒……
大切な人に忘れて欲しくない人、最後に伝えたいことがある人に。

離レ離レター

――最後の言葉を、あの人に――

Comments

  • ましろ
    March 27, 2023
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