落第騎士の英雄譚 意識低い系風味   作:一般落第騎士

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第三話

 

 

 

 なんか外国から皇女が転入してきて、《落第騎士(ワーストワン)》の黒鉄と揉めて決闘するらしい。

 決闘の原因は、この二人が寮の同室で、それを知らされてなかった黒鉄が彼女の着替えを覗いたとかなんとか。どういうこと? 全てが頭おかしいけど、まず海外のVIPを寮の二人部屋に、しかも男女同部屋に放り込むってダメじゃない?

 

「国際問題では?」

「さあ……黒鉄家と言えば日本を代表する名家ですし、裏でどんな密約が交わされてても不思議じゃないんじゃないすか? むしろこれを機に両国の仲を縮めるとか」

「あー、全ては二人の仲を取り持つためのお膳立て的な? やだね、家柄の良い奴は……」

 

 羨ましい。黒鉄家の十分の一くらいでもいいから俺の実家が太ければ、俺は何一つ心配事なく幸せに生きられたろうに。

 魔導騎士もなー。安定してるのはいいけど、命の危険があるのがちょっと。自分に向いてると思って入ったが、長く勤める仕事ではない気もする。

 

「あーあ。権力者に気に入られてドカッと稼いで仕事辞めたいね。FIREしたい」

「最近FIREもきな臭いらしいっすよ。インフレとか利回り率の低下とかで、一度FIREした人がもう一回働きに出なきゃいけなくなってるとか」

「マジ? 夢も希望も無いな」

 

 ケージにエサをざらざらと加えながら、ピンク髪をボブにした女子生徒がそう答える。

 現在ほかの部員は出払っており、部室には俺と彼女の二人しかいない。

 

 ゲーム部部員、桃井新香。

 二年生、Dランク騎士。『飼育』を体現する概念系能力者だ。

 

 イグアナのグアちゃんを筆頭に、様々な小動物を校内でこっそり放し飼いしている。そのため、非常に情報通。

 

 特筆すべき事として、ゲーム部唯一の女子部員という点が挙げられる。

 今でも鮮明に思い出せる、1年の秋頃。制服を着崩し、ピアスを開け、いかにもギャルという風体の彼女が『ゲーム好きなんすよね』と入部してきた時は、それはそれは衝撃が走ったものだった。

 

 うちのゲーム部部員は基本、教室の隅で丸まっている小さくて可愛らしい生き物であり、悪口を言うと陰キャの集まりだ。

 そのため、紅一点であり、なおかつ陽キャっぽい桃井は俺たち全員にとって畏怖の対象であり、『なんかこう……ふんわりとした理屈で、何故か俺の事好きになってくれないかな』という都合の良い願望を全員に抱かれている。オタサーの姫という事だ。

 

 そして何を隠そう、俺もその例に漏れない。

 桃井はピアスとか開けてるので男性経験豊富そう(貧困な発想)だが、"でもなんか上手いこと行ってたまたま俺に惚れたりしてくれないかな"、とふわふわしたキモめの欲望を抱いている。

 

 そのため、何気なく会話しているつもりでも、既に口内が緊張で乾き始めている。

 

 助けてくれ。

 なんで僕たちはこうなってしまったんですか?

 

「先輩は見に行かないんすか? 決闘」

「え……いや、ゲームしてるし」

「ええー、行きましょーよ。ヴァーミリオン皇国の皇女様の試合っすよ? ゲームはいつでもできるけど、この試合は今じゃないと見れないですよー」

「分かった、分かったから引っ張らないでくれ」

 

 軽率に手を握るなよ!!!

 お母さん以外の女性と接触する機会がほぼねえから耐性が無いんですわ!

 

 俺に……気があるのか……!? あるならあるって言え……! そうじゃないなら思わせぶりな態度をするのを止めろ……!!

 

 桃井にとっては何の他意も無いのだろうが、力の差がありすぎて小パンで死んでしまう。

 助けてください。僕たちはなんでこうなってしまったんですか?

 

 

 

 ◆

 

 

 

 ヴァーミリオンが炎を出す。

 黒鉄が避ける。 

 ヴァーミリオンが斬りかかる。

 黒鉄が避ける。

 ヴァーミリオンが怒る。

 黒鉄が《一刀修羅》発動。

 黒鉄が距離を詰めてヴァーミリオンを斬る。

 試合終了。

 

 

 試合はおおむねこういう流れだった。すげー。

 

「ほうほう……炎を扱う自然干渉系能力者なんですね、ヴァーミリオンさんは。あっ、見て見て先輩。リングの床がちょっと溶けてるっすよ。ひゃー、凄い火力っすね」

「死人が出そう」

「あはは、伐刀者だったら大丈夫っすよ。……いや、ヴァーミリオンさんの火力だったら死にかねないかもっす」

 

 横できゃいきゃいとはしゃぐ桃井を横目に、きわめて落ち着いた様子で腕組みをする。

 俺は落ち着いている。落ち着いてるか? なんかもう上手く話せてるかも分からん。成功より失敗を恐れて口数が減ってしまう。助けて。

 

 ちなみに、同じ二年生である桃井は他のゲーム部部員に対して敬語を使う。これは自主的な物で、彼女いわく『自分は一年の秋に加入した中途入部だから、他の部員は先輩にあたる』という理屈らしい。

 

 ともかく、試合結果に歓声を上げる彼女の隣に座るのは非常に精神を消耗した。

 

「いやー、それにしても黒鉄、凄かったっすね。剣が上手いのは知ってたけど、まさかAランク騎士に勝っちゃうとは……」

「それな。やっぱ努力の人だよなぁ、黒鉄」

「っすねー。正直、この試合で結構見る目変わった人多いと思うっすよ」

「決闘の後も恨み言一つ言わなかったしな……。人間が出来ているというか何というか」

 

 実際凄い。魔力は、伐刀者の能力の全ての基礎。魔力量がFランクというのは、想像を絶するとんでもないハンディキャップだ。

 オーケストラ指揮者が聴力を失うとか、シェフが味覚を無くすとか、もしくはそれ以上にヤバい。そんな逆境の中であそこまで自分を練り上げたのだから、その執念には感服するしかない。

 

 そう、黒鉄一輝は本当に凄いし偉いのだ。掛け値なしに尊敬している。

 

 ……留年させてしまって本当にごめん……!

 

 そう内心で懺悔していると、ふと何かを思いついたらしい桃井が、いたずらめいた顔でこう尋ねてくる。やめてやめて、勘違いするから距離を詰めないで。

 男というのは業を背負った生き物なのです。

 

「えー?w でも先輩、少し前に決闘で黒鉄に勝ったんでしょう? 話聞きましたよ。ってことは、先輩>>黒鉄>>Aランク騎士ってことで、先輩もAランク騎士に勝てちゃうんじゃないですか? "あの二人とも雑魚だからw"とかイキってみてくださいよー」

「いやいやいや。言うわけないでしょそんなの。黒鉄とか、マジで世界一凄いよ」

 

 その時。

 おそらく原因は何も無く、ただの不運が引き越した出来事だったのだろう。

 

 桃井は単に俺を揶揄いたかっただけ。

 そして俺は、焦ると言葉選びを間違えやすいタイプだっただけ。

 

 

 そして、たまたま、一瞬、周囲のざわめきが止んだタイミングだったというだけで。

 

 

 

「―――才能無いのに頑張ってて、ほんとに偉いよ」

 

 

 

 シン、と静まり返ったアリーナに、俺の声がやけに響いた。

 

 え。

 

「あ、すご……先輩、ちょっとここ離れましょうかー」

「わ、あ、やべ、いやいや、ゲームの話でね……」

 

 

 

ちょっと!!!

 

 

 

 俺たちが何か言い訳するよりも前に、ステラ・ヴァーミリオンが烈火のごとき目つきで俺を睨む方が早かった。

 

 やばい。終わった。

 

 俺たちはアリーナの二階に居て、ヴァーミリオン殿下はリングに居る。

 遠い距離のはずなのに、彼女の目は俺たちの顔をしっかりと捉え、その声色は誰が聞いても分かる程の怒りに満ちていた。

 

 

「どういう意味、そこの貴方……! 今、何て言ったの!? イッキの剣を! この試合を! その眼で見て、その上で出てくる言葉がそれ!?」

 

 

「今からでも何とかなる伐刀絶技って無い?」

「唐突に先輩が時間系能力に覚醒すればワンチャンあるっす」

 

 目が良いんですね、ヴァーミリオン殿下。そう現実逃避しながら、隣にいる桃井と妄言を語る。

 

 勘弁してください。許してください。

 

 『魔力量の少なさを、超人級の身体能力と剣術、それと魔力制御で補ってて凄いね』って言いたかっただけなのだ、俺は。それを口に出した時、何故かどう見ても煽りにしか聞こえない形で出力してしまっただけで。欠片も悪気は無いんです。

 

 

降りてきなさい!! 私の決闘相手であった黒鉄一輝への侮辱は、そのままこの私、ステラ・ヴァーミリオンへの侮辱よ!! 許されざる侮辱に対し、騎士として決闘を申し込むわ!!」

 

 

 全身から怒気を立ち上らせて、ステラ・ヴァーミリオンがそう声を張り上げる。アリーナをビリビリと震わせるほどの大音声。一国の皇女を務めるほどのカリスマが、そっくりそのまま無礼者への怒りとなって俺に向けられていた。

 

 もう終わりやね……終わりやね……。

 

「名誉棄損、外交問題、七星剣王取り消し、停学、留年、退学……さあ、いったい何処までいくっすかね」

「えへへまさかそんな」

 

 そんな……ねえ? 一回言葉選びをミスっただけで退学とかそんなそんな。法治国家である日本でそんな事起きるはずないじゃん。起きないよ。起きないよね? 起こるかな。

 

「……土下座しに行ってくるわ」

「お供するっす」

 

 土下座して謝罪一択だ。これが脂ぎったおっさんならともかく、美少女であるヴァーミリオンなら靴を舐める事に何の躊躇いも無い。

 

 

「……《七星剣王》……」

「マジかよ。《七星剣王》とAランク騎士の決闘が見れるのか?」

「……才能が無いってよ……どうかと思うぜ、俺は」

「シッ……しょうがないでしょ。やめなさいよ《天譴》相手に……」

 

 

 帰りたい。ざわつかないでくれ。

 ここで突然きびすを返してダッシュしてベッドに駆け込んだら、何もかも夢だったという事にならないだろうか。

 

 決闘とかしません!! 教職員の許可を取らない模擬試合は禁止なので!!

 今から始まるのは俺と桃井の尊厳を投げ捨てた謝罪ショーである。観客が多すぎるんとちゃうか?

 

 

「……《七星剣王》。ふうん、貴方が。知らなかったわ」

 

 断頭台に向かう気持ちでリングに着くと、ステラ・ヴァーミリオンが仁王立ちしながら俺を待ち構えていた。感情の高ぶりによってか、身体から炎が溢れ出している。

 

「頂点を取って驕ったのかしら? 《七星剣王》になれば、格下を好きに馬鹿にして良いと思った? そうであれば、この国の魔導騎士も落ちたものね」

 

 怖い。というか、炎のせいで物理的に熱い。

 燃え盛る龍のごとく猛るステラ・ヴァーミリオン殿下を前にして、桃井は俺の背後に隠れてしまった。やめてよ。貴女の方が口が上手いはずじゃん。貴女に隠れられたら俺に弁解とかできるわけないじゃん。

 

 《一刀修羅》を使った黒鉄一輝は、魔力を使い果たして試合できる状況にない。

 それを知っているヴァーミリオンは、手にした長剣を俺に真っ直ぐ突き付けた。

 

 

「剣を取りなさい。貴方が見下した黒鉄一輝が、如何に強かったか。私を通して知ると良いわ」

 

 

 覇気を叩きつけ、鋭く俺を睨みつけるヴァーミリオン殿下。本当に許してください。決闘するつもりはないし、謝罪しに来ただけなんです。アマギヲイジメヌンデ...そう弁解したいが、熱気と緊張で喉が貼り付いて上手く言葉が出ない。終わりだよもう。

 

「…………」

「~~~っ、何か言いなさいよ!!」

 

 無言の俺にしびれを切らしたのか、ヴァーミリオンがそう怒鳴りつける。感情の爆発に伴って、背後では炎がひと際強く吹きあがった。

 

 

「……教職員の許可を得ていない決闘は、校則で禁止されているので」

 

 

 だから出来ないんです。やるつもりも無いんです。自分は土下座しに来た哀れな小男でして。

 そう必死に弁解する。

 

 だが俺のその言葉は、かえって火に油を注いでしまったらしい。

 

「―――ッ!! は!? だから何よ!? だから決闘は受けられないとでも!? 一方的に侮辱しておいて、いざ怒りを買ったら規則を盾にして逃げるの!? 騎士としての誇りは無いの、貴方!!」

 

「規則は規則ですから」

 

「~~~~っ!! 良いわ!! なら、後日正式に決闘を申し込むわよ!! でもそうしたら当然、この事を学園も私の国も知ることとなるわ! 一国の皇女を、日本の学生が侮辱したことを!! そうなれば話が闇雲に大きくなるから、それを避ける為にもここで決闘しようって言ってるのに!!」

 

 言ってた?

 いや、そうじゃなくて、今ここで俺が土下座するので勘弁してくださいという話で……。

 

「……ステラ」

 

「っ! イッキ!」

 

 まずは土下座しようと俺が膝を地面に突こうとしたタイミングで、ふらりと近づいてきた黒鉄一輝がヴァーミリオンの肩を掴んだ。

 

 黒鉄!! やばい、彼を留年させてしまった俺は黒鉄に対し道徳的不利……! ステラ・ヴァーミリオンに燃料を追加されたら詰む!!

 

「……僕の事を想ってくれてありがとう。でも、その為に決闘なんてしなくて良い」

 

「っ、なんでよ!! 勘違いしないでよね、別にイッキのためじゃ無いわ!! 私は、私を下した相手を馬鹿にすることは、この神聖な決闘自体を貶めることだと思って、それで――!」

 

 肩を怒らせて俺につめ寄ろうとするヴァーミリオンを、黒鉄が優しく制止する。

 く、黒鉄……?

 

「……いや。彼は、誰のことも侮辱していないよ」

 

 黒鉄……?

 

 

「僕に才能が無いのも、()()()()()()()()()()()のも、本当の事だ。侮辱なんかじゃない」

 

 

 黒鉄……!!

 

 怒りを込めて黒鉄へ振り返ったステラ・ヴァーミリオンに対し、黒鉄は優しく首を振ってそう言った。

 

 才能が無い事は、ただの前提条件に過ぎない。

 自分はそのうえで、『それでも』と誓って足掻いてきたのだと。

 

 そう語る彼の顔に先ほどの発言に対する怒りは無く、ただ、自らの歩んできた道に対する確固たる誇りがあった。

 

「―――ッ」

 

「だから大丈夫だよ、ステラ。甘木くんの言葉は侮辱じゃない。少なくとも、当人である僕はそう思っていない」

 

「なによ……もう。そう言われたら、私が何をするのも筋違いじゃない」 

 

 柔らかい黒鉄の笑みにしばし息を呑んだ後、ヴァーミリオンはそう言って一歩下がった。

 身体から噴出していた炎も落ち着き、気温も室温へと戻りつつある。黒鉄の気高さが、彼女の留飲を下げたのだ。

 

「……ごめんね、甘木くん」

「いやいやいやいや。こちらこそありがとう、黒鉄。本当にごめん、助かった」

「フン……」

 

 こちらに向き直る黒鉄へ、慌ててこちらも謝罪を返す。本当に申し訳ない。ヴァーミリオン殿下はまだ少し機嫌が悪そうだが、窮地は脱したと見ていいだろう。

 

「その……ホントに、悪意は無かったんだよ。たまたま、タイミングが悪くてやけに響いちゃっただけで」

「……うん、分かってるよ。甘木くんから見て、僕に才能がない事くらい」

「いやいやいやいや」

「良いんだ。僕に素質がない事は、僕が一番よく分かってる。それでも、諦めないと決めたから」

 

 そう言って黒鉄は爽やかに微笑む。なんか微妙に弁解できてないな? これ。

 

「いや、才能が……まあ、無い、と言えば無いけど。でも才能と一言で言っても色々あって相対的な物か絶対的な物かとかそもそも才能の定義って誰が決めたのって話だしある意味努力も努力できる才能とかあいつは努力の天才だよとか色々あるわけだし――」

「……先輩、先輩。この場は何を言っても墓穴を掘るっす。帰りましょ」

 

 もにょもにょ弁解しようとしていると、背後に隠れていた桃井がそう言って袖を引っ張る。

 

 確かに。もうなんか一週間分くらいの対人ストレスだったし、今日は帰って寝よう。

 

「……まあ、とにかく。黒鉄、本当にごめんな。折角決闘に勝ったのに、変に水を差して。俺は自分で自分が情けないよ」

「いいよ、そんな事。本当に気にしてないから」

 

 笑って手を振る黒鉄に、俺はもう本当に情けない気持ちで一杯だった。人として完敗している。

 

 罪悪感だ。留年させるし、決闘勝利後になんかイキッた悪口を吐いてくるし、黒鉄から見た俺って最悪の人間では?

 

「……では。お二人とも、申し訳ありませんでした」

「本当にごめんなさい」

 

 桃井と二人で頭を下げて、さっさとアリーナの通路へ出ていく。

 黒鉄たちの姿が視界から消える直前、

 

 

「―――甘木くん!」

 

 

 と、黒鉄が声をかけてきた。

 

 

「―――僕は今年、《七星剣王》になる! 君を、《天譴》を超えて……非才の身でも、諦める必要なんて無いって―――"才能なんて幾らでも覆せる"って、そう証明して見せる!」

 

 

 どよ、とアリーナ中がざわめいた。

 

 先程の試合で、見事下馬評を覆してみせた黒鉄一輝。今までの落第騎士(ワーストワン)ではなく、無冠の剣王(アナザーワン)としての道を歩み始めた彼が、現在の《七星剣王》へ宣戦布告を行なったのだ。

 

 今年の選抜戦はレート方式。去年の能力値選抜では足切りを食らった黒鉄にも、僅かながら七星剣武祭出場の可能性がある。彼の初期レートは眼を背けたくなるほど酷い物だろうが、格上食い(ジャイアントキリング)を何度も繰り返せばあるいは、といった程度の、蜘蛛の糸よりも細く薄い可能性が。

 

 会場の反応は好感と非難に大きく割れた。

 

 《落第騎士(ワーストワン)》が大言壮語を吐いた事を、生意気だ、ビッグマウスだと捉える者。

 黒鉄に対する認識を変え、《七星剣王》への挑戦を熱意の表れとして評価する者。

 

 好悪真っ二つに分かれたアリーナの中央で、黒鉄一輝と甘木悠の視線がぶつかる。

 彼は少し戸惑ったような表情を浮かべた後、隣の女子生徒と何かを話し始めた。

 

 

「え……? 俺、今年はもう出ないつもりだったんだけど……。七星剣王の肩書は一回取ったし、二回目はもういいかなって……」

「は……? 先輩、それ本気で言ってるっすか? 通るわけないでしょそんな無茶が。大会規定にあるかどうかは知らないけど、先代《七星剣王》は多分強制参加っすよ」

「マジ? 《七星剣王》って複数取ってもコスパ悪いと思ってたんだけど」

「三連覇とかしたらまた別の価値が出てくるっすから……っというか、早く黒鉄に返事してください。ここでコソコソ話してるの印象悪いっすよ……!」

 

 

 一言二言の言葉を交わした後、甘木悠は静かに黒鉄一輝を見つめ返す。

 

 

「……黒鉄。お前の気持ちはよく分かった。その上で……そうだな。さっきの詫びに、一つアドバイスをしておこう」

 

「貴方……ッ!」

 

 余裕、あるいは高慢。

 大衆の面前で直接宣戦布告されても、闘志を燃やすどころか助言を与える。相手を対等と見ていればやるはずの無い行為だ。黒鉄の背後、ステラ・ヴァーミリオンが再び炎を漂わせる。

 

「……何かな」

「黒鉄家と向き合え、という事だ。才能を否定するのはいい。だが家族まで否定するな」

「―――ッ!」

「家族は生まれた時から人生の一部で……どう足掻いても完全には切り離せない物だと、俺は思っている。正しく扱えば、きっとお前の力になってくれるはずだ」

 

 意識の外を突き刺す言葉に、黒鉄が思わず息を呑む。 

 

 黒鉄の家族。【大英雄】に連なる武門の血筋。

 国内の『魔導騎士』を統括する、家の方針と秩序が全てに優先される家だ。才能に劣る黒鉄一輝は、直系の子孫でありながら一切の愛を注がれなかった。

 

 魔力量が少なかった黒鉄一輝は、黒鉄家において徹底的な差別を受けた。幼い頃も、同門の子供たちが行う鍛錬に参加させてもらえず、代わりに庭の隅で刀を振っていた。家中に庇ってくれる者はおらず、父親さえ黙認した。

 

 実の父親から、『何もできないお前は、何もするな』と言い渡された記憶。それはトラウマとなって、今も心の底に淀んで残っている。黒鉄が剣を振るう理由の奥底には、『父に認められたい』という、誰からも愛情を注がれなかった幼い黒鉄の涙があるのだ。

 

 それと向き合えと、甘木悠は言う。

 自分の過去を知っているのか? どこまで見通している? “向き合え”とはどういう意味だ?

 

「……じゃあな」

 

 混乱する黒鉄に背を向け、七星剣王は去っていく。

 

「イッキ……」

 

 後にはただ、沈黙する黒鉄一輝と、彼を心配そうに見つめるステラ・ヴァーミリオンだけが残された。

 

 

 




黒鉄 (家柄S、顔S、性格S、魔力量F)
甘木(家柄D、顔D、性格D、戦闘SSS)

甘木「交換してくれないか?」
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