落第騎士の英雄譚 意識低い系風味   作:一般落第騎士

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第二話

 

 

 

 

 黒鉄決闘騒動から日が経ち、俺は二年生に進級した。

 クラス替えで仲のいい奴と大体離れてしまい、あんまり馴染めてない感じだ。七星剣王という難関資格を一年生の内に取ったことで、周囲から少し敬遠されているのもある。

 

「っあぁ、コンボミスった……っ」

「あー駄目、CS差つき過ぎ。はいはいタンクギャップタンクギャップ、GG」

「割った割った割った相手ロー相手ロー相手ロー」

「どうしてここには沢山人がいるのに、みんな別々のゲームをしているんだい?」

「……こう……罵詈雑言吐いて仲悪くなるからお互い一緒にはやりたくないけど、かと言って部屋で一人やるのも寂しいから……」

「ふーん。君はゲームが上手い!」

 

 いつもの溜まり場、ゲーム部の部室でMOBAをやりながら、俺はのんびりとしていた。後ろに体重をかければ、Yogiboの柔らかい感触がしっかりと俺の体重を受け止めてくれる。

 

 冷暖房完備、キッチンに冷蔵庫、デスクトップPCにゲーミングチェア、大型モニターにその他諸々。これらの設備は全て、俺が七星剣王になった時、『何か願い事は無いかい?』と聞いてきた破軍学園教職員の方々のご厚意によるものだ。おかげ様で生きております!

 

「それでね。次の七星剣武祭に向けて刀華が張り切ってて」

「はあ」

「ほら、新宮寺()()の影響で、今回の七星剣武祭代表選出は、『既存の能力値選抜制に加え、戦闘試験の結果を考慮する』って事になってるじゃん? 刀華の予想だけど―――

 

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「へー。流石東堂会長ですね」

 

 なぜかゲーム部部室に入ってきた御祓副会長に、俺はソファに座ったままそう答えた。

 年上なので敬意を払うべき存在ではあるが、東堂会長を倒した俺は彼に嫌われている。理不尽に嫌ってくるし皮肉も言ってくるし、権力も無いしで、俺もこの人が普通に嫌いになった。よって、取るべき態度としてはこれが適切だろう。早く帰れよ。

 

「能力値を元にレートを設定し、生徒同士の試合(マッチ)でそれが変動していくシステム。もう話は最終調整の段階まで進んでてね。新宮寺教諭が提唱した『トーナメント方式』と、従来の『能力値選抜』の折衷案に当たるのかな」

「へー……」

『早く帰れや、東堂会長の金魚のフン。雑魚が話しかけてくんな。こっちは七星剣王様だぞ? 敬語で喋れやカス。跪いて喋れ、口がくせえんだよ』

「バカバカバカバカバカ何言ってんのお前お前お前」

「……ふうん」

 

 ゲーム部部員の一人、『飼育』の概念系能力者が育てているイグアナがとんでもない事を言い出したのでケージを叩いておく。

 

「えっへへ! すいませんねぇウチのイグアナが……コラッ! コラッ、そんな悪いこと言う子はおやつ抜きだぞーっ!てねっ、へへへ……」

「……良いよ。歓迎されてないって事はよく分かったから。誰もゲーム画面から目を離さないしね」

「いやー……それは単に彼らの社交性が低いだけでして」

 

 あと面倒事を察して関わり合いを避けているだけで。

 

「とにかく、刀華が君との手合わせを望んでるんだ。もし刀華の予想が当たった場合、刀華との試合(マッチ)を優先的に組んでほしい。以前と同じように、手合わせの前後一日は休みにしていいから、お願いできるかな?」

「(無言で親指と人差し指を擦り合わせるポーズ)」

「……生徒会の活動資金から、一部を“部活動奨励金”という名目でゲーム部を経由して君に渡そう。それでいいかい?」

「良いですけど……逆に良いんですか? 前に戦った時、結構落ち込んでた気がするんですけど」

 

 俺が七星剣王になった後。東堂会長に頼まれて、一度手合わせをしたことがある。

 

 その時は彼女と一緒に貴徳原先輩(財閥のご令嬢)が居たため、『これも処世術じゃんね』と思って俺はわざと手を抜いて負けたのだ。そうしたら東堂会長は烈火のごとく怒るし、貴徳原先輩も眉を顰めて注意してくるしで、忖度は見事に失敗したのだが。

 

 それで『次は、本気でやってください……!!』とこちらをキツく睨んで会長が言うので、ほなそうしましょかと思って普通に切ったら、なんか落ち込んでしまったのだ。貴徳原先輩も褒めるどころか睨んでくるし、金と休日が手に入ったことを除く全てが最悪のイベントだった。

 

 俺は金で動くタイプの七星剣王なので手合わせ自体は別にいいのだが、あれをもう一度となると『また……?』となるのも致し方ない事だろう。俺に勝ちたいならもっと簡単な方法があって、100万円くらい包んでくれれば普通に負ける。

 

「別に俺、貴徳原先輩が一等地のタワマンくれたら東堂会長の靴舐めますし、八百長で幾らでも負けますよ?」

「……刀華は、正々堂々決着をつける事を望んでいる。君とは違ってね」

『決着ならもうついてんだろ、痴呆症か? ウチの甘木に嫉妬してる暇あったら腕立て伏せでもしとけやモヤシ。餌にもならない木っ端だったよ、お前の飼い主は。おお哀れ哀れ』

「すいまっせんねほんとコイツ!! 次来る時までにはイグアナ鍋にしときますんで!!」

「……いや。何を言われても、僕に言い返す資格は無いとも。それじゃ、決闘の話は承諾してもらえたという事で。日時はまた追って連絡するね」

 

 口悪いんだよなうちのイグアナ。

 ケージを引っぱたいて慌てて頭を下げるが、御祓副会長はそのまま去って行ってしまった。あーあ。次に会うときにネチネチ言われるんだろうな。

 

「グアちゃんさぁ……駄目だよ。なんだい? 目上に向かってその口の悪さは……」

『名残惜しむ情も湧かねえ。あばよ! クソジジイ~!』

「教育の失敗だなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 四戦二勝二敗。

 それが《七星剣王》甘木悠と《雷切》東堂刀華の戦績だ。

 

 戦績だけを見れば、『なるほど互角なのか』とも思うだろう。実力は五分五分、七星剣武祭で運悪く負けてしまっただけだと。事実、学園の一般生徒は殆どそう思っており、『七星剣王と互角の生徒会長』として東堂の名声と人気は敗北後もむしろ上り調子でさえある。

 

 それが欺瞞と知っているのは、あの決闘の場に居た生徒会メンバーのみ。

 

「……畜生」

 

 ゲーム部部室から生徒会室へ向かう道中、御祓泡沫(みそぎうたかた)は小さく吐き捨てた。

 

 気に入らない。彼の全てが。

 何もかもが敗者の戯言、一方的な難癖だと分かってはいても、感情的な好悪は変えられない。

 

 

 七星剣武祭で負けた後、東堂刀華は破滅的なハードトレーニングで己を鍛え直した。

 一太刀で切り捨てられた屈辱。己の全力を懸けて挑み、歯牙にも掛けられず敗北した苦い記憶。それら全てを高みへ昇るための燃料とし、不甲斐ない己を徹底的に叩き直さんと、御祓たちがいくら止めても鍛錬を断行した。

 

 御祓は、その姿を誰よりも近くで見ていた。

 内心尊敬し、深い親愛を抱いている少女が、魔力制御を暴発させて何度も血反吐を吐き、iPS再生槽に緊急搬送されるほどの無茶を重ねる様子を……誰よりも近くで、ただ見ていることしか出来なかった。

 

 報われてほしい。どうか勝利してほしい。

 

 限界を超えた能力行使によって筋肉が断裂し、全身から血を流す刀華を見守りながら、御祓はそう強く願った。これほどの研鑽、これほどの献身。これが報われなければ嘘だと、彼女の努力を見て素直にそう思った。

 

 試合の日が来るまで、本当にそう願っていたのだ。

 

 

 

『へへ……いやー、流石東堂会長。強いですね。完敗です、完敗』

 

『え? いやいやいや、何ですか? 言いがかりですよ。「目で追えてた」ってそんな……ねえ? 見えてても身体が追い付かない事だってあるじゃないですか。あ、いやいや、ホントに見えてなかったですしね?』

 

『えーっと……あ、ほら! 七星剣武祭から、俺は鈍って、東堂会長は成長したんですよ! これは間違いないですね……え、貴徳原先輩? 最後の三回目、本気でやったら特別報酬? え、ええー……? いやいや、最初から本気でやってましたけどね? そういう事ならまあ……』

 

 

 

『あー……ごめんなさい。そんなに落ち込まれると、その、こっちも掛ける言葉が見つからないというか……。え? あ、はい……。すみません、嘘ついてました。最初から見えてましたし、斬ろうと思えばいつでも斬れました。え? ええっーと、これも正直に言わないとダメですよね? ……はい。正直言うと、前戦った時と何が違うのかあんまり分かりませんでした』

 

 

 

『……何か、本当申し訳ないです。出来もしないのに変に()()()()()というか……色々上手く出来なかったですね、俺。申し訳ないです。それじゃ、失礼します……』

 

 

 彼女の努力。人生。想い。

 それら全てを、甘木悠は完膚なきまでに侮辱した。

 

 何も悪くない。御祓に彼を責める資格はない。彼に何一つ非は無いのだから。

 決闘に報酬を求めることも、報酬の多寡によって態度を変えることも悪ではない。神聖なる決闘で手を抜いた事もそうだ。下手に()()()()()()上、彼の本気を引き出せなかったこちらが悪いのだから。

 

 彼は彼なりに、色々と気を回して忖度してくれたのだろう。ただの善意だったのだろう。

 

 七星剣王に成れなかった東堂刀華の生徒会長としての立場とか。学園内の評判とか。刀華の孤児院で育てられた過去とか、将来の夢とか。

 

 

 そういうあれそれを勘案してくれたから、ああも舐め腐った八百長をしたのだ。

 

 

 刀華は泣いていた。

 

 彼が去った後、顔をぐしゃぐしゃにして泣き出したのだ。

 張りつめた糸が切れたように、幼子のような顔で、彼女は泣き崩れた。

 

 情けを掛けられたとも、馬鹿にされたとも少し違う。“歯牙にも掛けられなかった”という屈辱。

 騎士としての誇りを踏みにじられた悔しさ。己への不甲斐なさ。それら全てが抑えようも無く溢れ出して、刀華はその日、日が暮れるまでずっと泣き濡れていた。

 

 あれを見て、どうして彼に好感を抱けるだろうか?

 戦闘者としての自覚が、騎士としての誇り(プライド)が少しでもあれば、絶対にあんな真似はしない。

 

 彼は既に、連盟の「特別招集」に応じて実戦の現場に幾度も出ている。従順で扱いやすく、確実に成果を持ち帰ってくるため、上からの評判は非常に良いらしい。時期を前後して、マスコミにおける彼の扱いが明らかに良くなった事もそれを表している。

 

 騎士道など欠片も無く、プライドも無く、だからこそ上に従順で覚えが良いのだろう。

 若くして国防に貢献している彼へ、未だ学生の身の御祓に何も言える事は無い。

 

 

 それら全てがわかっていても、やはり自分は彼のことが嫌いだ。

 

 

「……ただいま。刀華、向こうは了承したよ」

「ありがとう、ウタくん」

「ふふ、御祓とは言わないのかい?」

「あ、あれは"生徒会長としてちゃんとやろう"と意気込みすぎた結果だから……」

 

 目を逸らす刀華に、御祓は柔らかく微笑む。

 

 東堂刀華は不屈だった。泣いて泣いて泣いて、泣きはらした後、彼女は録画していた試合の一部始終を何度も見返し始めた。彼の剣を、身のこなし、歩法を目に焼き付け、少しでもこの身に取り込むために。己の敗戦を糧にし、より高みへ昇るために。

 

 その姿を見て、御祓は自分を殴り付けてやりたくなるほど強く自分を恥じたものだった。

 『刀華が折れてしまうのではないか』と、僅かにでも考えた自分はとんでもない阿呆だった。

 

 東堂刀華は生まれた時から勝利続きだったわけではない。むしろ逆だ。自分と同じ孤児院出身だった彼女は、周囲よりも何倍も何倍も苦労して、つらい境遇を抱えながら、それでも『みんなの支えになりたい』と前に進み続けた。

 

 『若葉の家(孤児院)』の家族たちに、自分たちのような身寄りのない子供でも、努力すれば国内でも有数の伐刀者になることができるのだと証明し続けた。

 

 東堂刀華の意志は決して挫けない。

 そして御祓は、そこにこそ甘木悠に勝利する秘奥が眠っていると考えている。

 

 《天譴》甘木悠。

 彼にはもう一つ、マスコミに報道されることも無く消え去った、不名誉な二つ名があった。

 

 

 『七星剣王の中で最も努力しなかった男』。

 

 

 生まれ持った天稟だけで、七星の頂に立った者。

 天に与えられた物だけで生きている男。

 

 故に、彼の二つ名は《天譴》なのだ。彼に挑む者にとって、彼はまさに天の試練/怒りそのものなのだから。

 

 

「(彼は……多分、()()()()()()()()。自分よりも格上と対峙し、敗北し、涙を呑んで再起を誓ったことが無い。()()()()()()()()。だから彼は、強くとも、"()()")」

 

 

 追い詰められた時に人の地金は出る。

 戦闘経験。死闘を乗り越えたという自信。そういう所に、《天譴》甘木悠の弱点はある。

 

 次の手合わせでも、刀華は負けるかもしれない。次の次の試合でも、次の次の次でも。

 だが、東堂刀華は決して折れない。『自分が支えてもらった分、次は自分が誰かを支えたい』という気高い願いを抱き、前に進み続ける。

 

 

 ならば、いつかは―――前に進み続ける者が、その場で足踏みしている者に追いつくだろう。

 

 

 ……だって、そうじゃなければあんまりではないか。

 

 いかなる分野においても、上に立つものは須らく強靭な意志を持ち、血の滲む努力を積み重ねている。それが世界の常識だ。

 

 

 そんなものは幻想で。

 真の天才には努力など必要ないとしたら。

 

 

 それはきっと、あまりにも多くの人をへし折ってしまう程、残酷な―――。

 

 

「(……いや。何を考えてるんだ、御祓泡沫)」

「ん? どうしたの、ウタくん?」

「……別に? "気を張っていた刀華も可愛かったなぁ"なんて考えてないよ?」

「あ、ああっ! もう、からかわないで!」

 

 

 可愛らしく怒る刀華に、御祓は一瞬よぎった寒気を振り払った。

 そして彼女の相手をしている内に、そんな懸念もすっかり忘れてしまったのだった。

 

 

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