大義なき衆院解散 高市首相の「白紙委任状ちょうだい!」は許されぬ

編集委員・高橋純子

記者コラム「多事奏論」 編集委員・高橋純子

 高市早苗の高市早苗による高市早苗のための解散総選挙(敬称略)。

 これを言わなきゃ始まらない。これさえ言えばほかに何も言うことはない。

 きのう衆議院が解散された。通常国会の冒頭解散は60年ぶり戦後2回目。衆院議員の在職日数(憲法7条解散に伴う)は戦後最短。解散から投開票まで16日も戦後最短。こんな非常識な解散をなぜやるのか?――1月19日、ようやく開いた記者会見の冒頭、高市首相はこう言ってのけた。

 「なぜ、今なのか。高市早苗が、内閣総理大臣で良いのかどうか、今、主権者たる国民の皆様に決めていただく、それしかない。そのように考えたからでございます」

 ……いやいや。なぜ解散するのかの説明にまったくなってない。まだ1年ちょいしか働いていない465人のクビを切り、700億円という巨費を投じるのだから当然「大義」が問われる。それをでっちあげることすらしない、できないのだから、国権の最高機関である国会を、その構成員である国会議員を、1票を投じた有権者を、とことん愚弄(ぐろう)している。

 「内閣総理大臣としての進退をかける」発言には一瞬ぎょっとしたが、目標は与党で過半数とな。現有プラス3議席。なーんだ。かけてるのは保険じゃん。

 衆院選が政権選択選挙であることはその通りだとしても、ダイレクトに首相を選ぶものではない。「今なら自民単独過半数イケるかも」と、自党の幹事長にも相談せぬまま勝手に解散を決めておきながら、「私が首相で良いかどうか」だなんて見利忘義傲岸(ごうがん)不遜軽佻(けいちょう)浮薄厚顔無恥浮華軽薄。四文字熟語をいくらお見舞いしてもまったく足りない。会見では自らを「高市早苗」とフルネームで6回。与党で過半数とれなければ「野田総理か、斉藤総理か」とわざわざ。首相個人の人気によほど自信がおありなのだろう。だが衆院選は人気投票でもなければ国民投票でもない。少なくとも最高権力者がそのように選挙を使うべきではない。

 忘れもしない。あれは2017年9月25日、安倍晋三首相の「国難突破解散」表明に、私のあごはパコッと外れた。森友・加計学園問題が表面化し、野党が憲法53条に基づき臨時国会を開けと要求したのに3カ月も放置したあげく、ようやく開いた臨時国会冒頭に衆院を解散。少子高齢化と北朝鮮のミサイルという「国難」を突破するための解散だなどと詭弁(きべん)を弄(ろう)して批判を浴びたが、結果は自民党が大勝。ちなみに安倍氏は回顧録で、解散によって森友・加計学園問題の追及を制する狙いもあったと認めている。

 今回の解散は、詭弁界の伝説と化したこの「国難突破解散」よりも数段ひどい。「(新年度予算成立後)政府が提出しようとしている法律案、これもかなり賛否の分かれる大きなものでございます。だからこそ、国会が始まる前に国民の皆様の信を問いたい。そう考えました。そして、信任を頂けたら、これは力強く進めてまいります」。首相会見でのこの発言は、白紙委任状ちょうだい!選挙に勝ったら独裁やるから!と宣言しているに等しい。さすがの安倍氏もここまで露骨じゃなかった。背筋が凍るなり。

 かくして27日、衆院選が公示される。首相はこれをなんと名付けたか。「自分たちで未来をつくる選挙」。まさかのポエム。日に日に政治は劣化する。気のせいか? そうじゃない。劣化を早めるも食い止めるも、主権者次第である。

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    阿部藹
    (琉球大学客員研究員・IAm共同代表)
    2026年1月24日20時14分 投稿
    【視点】

    いま世界は戦後秩序の前提が揺らぎ、各国が日々きわどい選択を迫られている局面にある。ダボス会議でカナダのカーニー首相が「ミドルパワー」による新たな秩序形成を訴え、フランスのマクロン大統領が中国に対欧投資を呼びかけたのも、その危機感の表れだろう。トランプ大統領が呼びかけた「平和評議会」への招待に対し、各国がそれぞれの態度を表明しつつある。 そうした中で、日本では「高市早苗が首相でよいかを国民に問う」という、議院内閣制を空洞化させかねない理屈で、しかも有権者の投票権行使を軽視する日程で解散総選挙を行うことを首相が決定した。高市首相はすでに台湾をめぐる発言で外交的混乱を招いており、この国際的に重要な局面で生じる政治空白が、日本の外交にさらなる混乱をもたらさないか強い懸念を覚える。

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