Addiction Report (アディクションレポート)

自分は「共依存」なのか? 小指さん自身の回復(後編)

アルコール依存症の自覚を持つようになった元彼Aさん。普段は大人しいけれど、「飲み過ぎて」問題行動を度々起こすパートナーのKさんというアディクト二人。近しい存在として、「彼らを変えよう」「お酒をやめさせよう」とは異なるやり方を自分自身が選びたい、と感じるようになった小指さん。インタビュー後編。(ライター・青山ゆみこ)

自分は「共依存」なのか? 小指さん自身の回復(後編)
『宇宙人の部屋』の発行人となった都築響一氏(左)と、Kさん(中央)、Aさん(右)と小指さん。2025年12月に開催された都築響一&ROADSIDERS主催「プアマンズ・アートブックフェア」にて。

公開日:2025/12/28 11:00

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家族の事故が、小指さんのやり方を変えた

前編はこちら

少しでも理解を深められたらと、小指さんはアルコール依存症の「自助グループ」のミーティングに参加するようになったそうだ。かといってAさんの参加を無理強いはせず、さりげなく話題にするだけにした。

最初はほとんど関心を見せなかったAさんだが、「行ってみようかな」と反応するようになった。「なんとなく」でしかなかったが、小指さんは小さな確実な変化の兆しを感じた。嬉しかった。

そんな矢先、小指さんに突然の出来事が起きた。父親が事故に遭い、意識が戻らなくなってしまったのだ。

小指さんにとって父親は、子どもの頃から大切な存在だ。家出同然に実家を飛び出し心配をかけてしまったことに罪悪感もあった。

「なんで父がこんな目に遭うんだっていう悔しさと、ずっと〈家から自分だけ逃げた〉っていうやましさがあったから、それまでの自責がいっせいに襲ってきてしまって。こんな目に遭うのが自分だったらよかったのにと思いました。

彼らとの関係性もガラッと変わって、立場逆転。今まで心配する側だった私がガタガタっと崩れて、すっかり私の方が心配される側になってましたね。

その時、自分はそれまでなんでも抱え込むクセがあったな、誰にも相談したことがなかったから、今こんなふうに後悔ばかりの状況にいるんだろうなと自覚しました。

だから、いろんな支援団体に父の話を聞いてもらったり動き回って、『助けてほしい』ってなりふり構わず人を頼るようになったんです。

それまでの自分になかった生きる術みたいなものが、この時お父さんのおかげで身についたんだと思います。

その頃に、精神保健福祉士のさやかさんという女性に出会いました。

余裕がなくなった私は、一人ではもうすべてを抱えきれないと思って、そこでAのことを相談しました」

あるPSWとの出会いから、Aさんが自分の話を始めた

さやかさんは依存症の回復施設や、依存症や社会的養護の分野で相談支援の経験があるPSW(精神保健福祉士)で、小指さんの個展を見に来てくれたことをきっかけに、少しつながりがあった女性だった。

ある時、さやかさんによる「ライフストーリーインタビューの対象者を募集している」というSNSの投稿が目に入った。

人に頼ることを始めていた小指さんは、思い切ってAさんのことを打ち明けて、「可能なら少し相談にものってほしい」と連絡した。Aさんに話すと、彼も珍しく同意して、三人で会うことになった。

「会う前は『酒も飲まずに知らない人と話せない』なんて言って嫌がっていたんですが、当日、Aは生い立ちから始まり、すごくしっかりと順序立てて自分の話をしたんです。三時間も。

わたしも彼から少しは耳にしたことがあったけれど、そこまで聞けなかった話をAが自分から口にして。さやかさんだから話したくなったんだと思うし、『聞いてもらえた』と感じたんだと思います」

Aさんから語られたのは、「娘が欲しかった」と生まれたばかりの自分を蹴っ飛ばして出て行った実の父親のエピソード、親元を離れて暮らした子ども時代、寮生活での上級生からの虐待……。

小指さんも初めて耳にする、聞きながら「よくここまで生きてきた」と衝撃を受けるような話ばかりだった。

さやかさんから依存症の専門病院を教えてもらい、それ以来、Aさんは断酒病院に足を運び、デイケアにも通うようになった。小指さんには、Aさんが自ら動く状況がはじめは信じられないくらい驚いたという。

「ある日、Aがこんなことを言ったんです。絶対断酒したいわけじゃないけど、飲まなくてもいいようになりたいって」

それ以降、二人は「ものすごく話をするようになった」そうだ。気づけば8時間とか。

「そういえばAがお酒を飲んでいた頃は、ろくな会話をしていなかったなと気づきました。泥酔して会話にもならなかったし、私も口を開けば『飲むな』ばかりで。だけど、この頃くらいから、元々はかなり気が合う人だったんだよなと昔の自分たちを思い出すようになりました」 

お酒ではなく「心の話」をしているAさんと小指さん

「アルコール依存の自助グループだとどうしても断酒の話が多いけど、私たち二人の時は、『心の話』をしています。互いの子供の頃の話とか。

Aも『昔の俺は自分が大好きで、周りが楽しそうにしていると憎しみみたいな感情が湧いたり、怒りみたいなものを感じたりして、どうしようもなくなるとお酒に頼っていた。
だけど、今は『宇宙人の部屋』を読んで声をかけてくれる人とか、そんな人のことを大事にしたいし、酒に頼らずにもっと幸せになれるかもって思うようになったんだよね』なんて言うようになって。

アルコール依存の回復ってお酒をやめるだけが目的ではなくて、原因を自覚したり、依存症になってしまった大元を少しずつ片付けるみたいなことが大事なんだと思うんです」

小指さんとAさんは、だいたい月に一度、河川敷でブルーシートをひいて景色を眺めながら話しているのだという。「深い信頼のあるおしゃべり友達の関係」は、現在も継続している。

一緒に河原でブルーシートを敷いて「心の話」をする「Aさん」ことアガサ森田さん。小指さんによる撮影

摂食障害という、小指さん自身のアディクション

アルコール依存症の当事者と親密に関わっているなかで、小指さんは自分自身について考える時間が増えていった。

「最初の頃は、自分は『何の問題もない、助ける側』だと思いこんでいました。

だけど、Aを連れて行って門前払いされた精神科で『あなたも大変』と医師に指摘されて、その時は意味がわからなかったんですが、だんだん自分自身のいびつさを自覚するようになりました」

アルコール依存の家族会の自助グループに通った時のことだった。

「家族会は、ちょうど私の母親と同じ世代の年齢の方が多くて、ほとんどが女性。そこで自分の話をしようとした時、やたら萎縮して、嫌でも本音を取り繕ってしまう自分に気づいたんです。全員が、母と重なって見えていました。

そこでだんだんと、母との関係を意識するようになりました」

小指さんには吃音があり、自覚したのは3歳の頃だった。小学校に入ると自分でも気になるし、治したい。理解のない教員には怒られる始末で、母親に相談しても「私に言われても困る」と振り払われた。自分でなんとかするしかないと、小指さんは思い知らされた。

「吃音でクラスメイトに揶揄われるので、排除されないよう常に気を張っていました。だから、面倒な役割も『自分が我慢しておさまるなら』と、なんでも仕方なく引き受けてしまうような子どもで。

学校も家も常に息苦しくて、それはぜんぶ自分のせいなんじゃないかと思っていました。だから『良い子』のふりをして、自分を守る術を身につけた。
でも、だんだんと体の真ん中にポカンと穴が空いてるような感覚になって、自分って一体なんなのだろうとわからなくなりました」

小指さんが食べたものを吐くようになったのは、高校入学してすぐの頃だった。

「成長期で、体重が増えるのが怖くて軽い気持ちで吐き始めたら、やめられなくなってしまって。生理もこなくなって、胃酸で歯が溶けて、これはまずいぞと思っても止まらなくなっていましたね」

過食嘔吐の影響は歯だけではなく、血液検査にも現れて、異常が指摘された。ホルモンバランスの崩れから多毛症にもなった。でも、どうしても吐くのをやめられない。

摂食障害が消えたきっかけはAさんでもあった

家で吐いている時、気にして声をかけてくれるのが父だった。小指さんがひどく罪悪感を覚えたのは、彼女がトイレに吐く食事を作ってくれるのが、その父だったからだ。

「ただただ申し訳ないというか。でも、そうやって反省しても、自分の意思じゃ止められなかったですね。

学校も家も落ち着かないから、とりあえず家を出て、早退したりずる休みしたりして、横浜の伊勢佐木町や、元町、外人墓地のあたりをよくぶらぶらしていました。

そんな中、たまたま入った古本屋さんで60年代のイラストレーションの画集を見つけて、こんな世界があったんだと驚いて。

その時、自分もこんなふうになりたいなあって少し希望が湧きました。それから憧れの画家の個展を見るために一人で銀座まで出向いたり、自分でも絵を描いたり、創作の世界への憧れを強くしていきました」

心も体もボロボロになりながら、美大を志望し、なんとか受験に合格。

入学してすぐ、古着屋さんでもらったフライヤーを手に、たまたま雑居ビルに入るライブハウスに足を運んだ。そこでライブをしていたのが、Aさんのバンドだったというわけなのだ。

「Aの家で暮らすようになった日から、私は一切吐かなくなったんです。3年間治らなかった摂食障害が、ぴたっと姿を消して。吃音も、ほとんどおさまってました。すごく吃るのは、旧姓の苗字を聞かれた時だけですね。
でも、自分でもなぜ治ったのか、全然わからないんです。吐くのをやめようとして、吐かなくなったというわけじゃないから。

摂食障害もアディクションの一つだと言われますよね。AやKはたまたまアルコールだったけど、私も彼らと同じだったんだと気づいたんです。

自分と似てるから、こんなに放っておけなかったんだなって。

Aの家へ逃げた時に初めて、安らぎを感じました。でも、やっと見つけた居場所もAが依存症になって、失って。

私は摂食障害とか、髪の毛を引き抜く癖とか色々ありましたけど、彼らを治したいと駆けずり回ったあの時間もアディクションの一つだったんだろうな、と今は思います。それに没頭することで、同時に自分の中のそういう部分と向き合っていたんじゃないかなと」

小指さんが二人のアディクトと関わるようになって、気づけば17年になる。

「Kとは今も一緒に暮らしていますが、Kは自分の世界を大切にしていて、それが守られる限り過度の飲酒行動は起きないということもわかってきました。彼はそっとほっておいてもらうくらいが、ストレスがなくていいようです。

その点Aは違って、誰かとつながって温かい関わりの中にいることが良いようです。

たまたま二人ともアルコールに依存してしまったけれど、そうなった理由も、そうならなくなれる方法も全然違います。その人が安心できる環境にいて、心を開ける味方が少なからずいれば、たとえ問題が起きてもそこまでこじれないんじゃないかなと思うんです。

わたしにとって、そんなKやAがいてくれることが安心なこと。色々なことがあったけど、彼らと共に色んな経験をして、やっと本当の自分になれた気がします。昔は、ずっと自分じゃないみたいだったから。これってまだ彼らに依存しているのか? といったら、今は違うような気がするんですよね」

熱心なファンが新刊を待ち構える小指さんのZINE。漫画『偶偶放浪記』(白水社)は高橋源一郎さんのラジオ番組『高橋源一郎の飛ぶ教室』でも紹介され、大きく話題となった。AさんやKさんも頻繁に登場する日記『奇跡のような平凡な一日』シリーズの装画は小指さんによるもの(小林紗織名義)。全国の独立系書店や小指さんのWebストア「koyubi store」などで入手できる


インタビューの後日談(青山の呟き)

実はこの記事の元となるインタビューは初夏(2025年6月)に行われたものだ。それからわたし(青山)が長く書けなかった理由を添えたい。言い訳みたいになってしまうが。

自分が限りなくブラックに近いグレーゾーンのアルコール依存症者だった気がしているわたしは、同時に、アディクトの家族でもあると考えていた(わたし自身は5年前にお酒をやめた)。

小指さんとのやり取りで、アルコール依存の家族をもつ人の気持ちになったし、まったく逆にAさん&Kさんという「飲む側」の気持ちもわかる気がしてしまった。だから、それぞれの立場の人に深い共感を抱くと同時に、自分を振りかえる時間ともなった。

なにより彼女(や彼ら)に惹きつけられたのは、依存症に関わる当事者と家族は、それぞれがまったく異なる背景や思いをもつけれど、大きく共通して「回復の道を進み始めると変わる」ということだった。それを目の当たりにしている気がした。

世界の見え方が変わり、物事の捉え方も変わる。

インタビューという場で小指さんと話して以降、ひと月、ふた月と彼女が書いたり描いたり発信したりするものを見続けていると、小指さんがどんどん変わっていくことをリアルタイムで感じた。変化のスピードが想像以上にすごかった。

実は、『宇宙人の部屋』の感想をX(旧Twitter)に投稿したことがきっかけで、わたしはAさんとも相互フォローの関係になった。

そのため、Aさんの「今の気持ち」を呟きから目にする機会も増えて、Aさんもどんどん変わっていく姿に圧倒された(もちろん良い意味で)。

そのうち小指さんとAさんが、アディクションに関連したイベントで並ぶ写真がタイムラインに流れてきたではないか。なんと二人は、顔出しをして、アルコール依存について当事者として発信し始めたのだ。

なんだかすごすぎないか。

小指さんのZINEの新刊が出て読むたびに、小指さんもAさんも、小指さんとAさんとKさんとの関係性も、やはり変化し続けていることを強く感じている。

依存症の当事者、家族は変わる、変わり続ける。「完治」というゴールをむしろすることなく、回復し続けること。わたしは彼らを通して、その進行形の一つのカタチを目撃しているのだと思う。

インタビューとして聞いて、書いたほとんどは、小指さんやAさんの「過去」である。聞いた話からもう全然違う状況になっているかもしれない。そう思うと、なかなか文章にまとめることができなかった。

たった今の彼らはどうだろう。きっとこのインタビュー記事の多くは「遠い過去」となり、彼らはさらに変わり続けているのだろう。わたしにはそれがなによりもすごいこと、希望に思えるのだ。

(おわり)

小指『宇宙人の部屋』(ROADSIDERS)

 

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コメント

23日前

アルコール依存症になった理由も、そうならなくなれる方法も全然違うという言葉が印象的でした。助ける側だと思っていた自分も依存症だと気づいた事で生きづらさと向き合えたのだと感動しました。私にはオーバードーズしてしまう友人がいて、彼女にも生きやすくなってほしいと願っています。

青山さんの彼らは変わり続けている、それが希望だ、という言葉も素敵だなと思いました。私も変わり続けたい、そうあれるように行動しようと思いました。

25日前
まりえ

前編後編と一気に読みました。

十人十色の回復があるのかなと気付かされました。

お互いを尊重し合う3人の関係が素敵だなと思ったし、その関係も変化・進化していることも素敵だと思いました。

青山さんの優しい文章も、読んでいて気持ちが暖かくなり素敵だなと思いました。

25日前
匿名

おはようございます。大変素晴らしい記事でした。『偶偶放浪記』と『沖縄冒険記』しか読んでいないので、アガサさんと小指さんの関係が謎だったのですが、こんなにすごい絆(としか言いようがない)があったとは…

いろいろなサポートを得ながら、よりハームレスな方法で折り合いをつけられるようになるといいですね。

ところで最初の写真のキャプション、「2026年12月に開催された都築響一&ROADSIDERS主催「プアマンズ・アートブックフェア」にて」日付が来年になっています。

25日前
匿名

こんな不思議な3人の関係を知ることが出来て感謝です。他人には理解出来ないかもしれないけれど、確実に成長し、より良く変わり続けている3人。

この3人の今後も楽しみです。

また続編を楽しみにしています。

私も彼らに負けないくらい、より良く変化していく、関係性を、色々な人と築いていきたいと思います。

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