Portkey
ハリポタ、チャビル。
ビル生誕文。
ドラゴンキーパーの仕事は120%捏造です。
※チャーリーの同僚としてオリジナルのキャラクターが出てきます。苦手な方はお引き返し下さい。
でも大したキャラクターじゃないです(笑)
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ホグワーツを卒業して、半年。それは、チャーリーがルーマニアでドラゴンキーパーになってから経過した時間にも比例する。
ドラゴンキーパー一人一人に与えられている家はこじんまりとしているが、必要なものしか置かないチャーリーの家はそのおかげで窮屈さは感じない。置いてあるものと言えば、木で出来たダイニングセットとソファ、そして快適さなど微塵も求めていない、枠組みに薄いマットを敷いただけのベッドーーーしかもそれらは全て元々家に置いてあったものだーーー。備え付けの棚には木をくり貫いて作った食器がいくつか置いてあり、あとは薬などを煎じる鍋、湯を沸かすためのやかんなどの簡単な調理道具。唯一雑多な場所と言えば、ドラゴンに関する資料や本が沢山押し込められた本棚ぐらいだろうか。
ドラゴンキーパーには必需品の箒は三本壁にそのまま立て掛けられていて、長く保たせるために日替わりで使い分けていた。その横には先程使い終えたばかりの箒磨きセットが床に直に置いてある。洋服箪笥がいるほど数があるわけではない服は、壁に打ち付けられた木のフックに引っ掛けるだけで収まっていた。
他人が見ればあまりにも殺風景に見えそうな家だが、チャーリーはこれで満足していた。ドラゴンの傍で研究に励めるのならば、それ以上に望むものなどない。
分厚い生地のハイネックの上につなぎを着て、靴下も毛糸の分厚いものを履く。厚手の上着を羽織り、マフラーを巻いた。ノートやペンといった荷物は、服の腰部分にカラビナで引っ掛けた小さな鞄に放り込む。拡大呪文が掛けられた鞄は、小さいけれど沢山のものが収納出来てとても便利だ。最後に、チャーリーは作業用の革の手袋をはめた。脱げてしまわないよう、ついている紐を手首に巻き付けて先を歯で噛み、そのまま顔を逸らしてグッと引っ張る。若干手首に食い込むぐらいが丁度良い。箒を握ったり、作業をしているとそのうちに少し緩んでくるのだ。
磨き立ての箒を片手に、チャーリーは家を出る。真っ白に積もった雪は深い。冷たい空気が肌を刺してくる感覚はイギリスにいた時よりも鋭いが、嫌いではなかった。
ドラゴンキーパー達に宛がわれている家が並ぶ場所から十分ほど箒を飛ばした場所に、事務所がある。細かい煉瓦が積み上げられて作られた建物の外観は大きくないが、中は拡大呪文が施されており沢山の部屋に分かれていた。
箒から降りて、事務所へ足を踏み入れる。右側には箒を立てるためのラックがあり、チャーリーが手を離せば、箒はひとりでにチャーリーの名前が刻まれた定位置へ収まっていった。
ラックの向かい側には、怪我をした時にすぐ駆け込めるように医務室がある。学校や病院のように癒者が常駐しているわけではないが、治療に必要な薬草や道具は一通り揃っていた。ドラゴンキーパーに怪我はつきものであるため、皆大抵の治療法は心得ている。
その医務室の前を通り過ぎて階段を上り、踊り場を過ぎて更に階段を上がる。通路を挟んで右にあるのが食堂で、左にあるのが資料室。更に上の階には会議室と、寝泊まり出来る簡易ベッドが置いてある部屋もあった。翌朝が早い時や、夜通し仕事をする時は皆此処に泊まり込んでいる。
此処で働くドラゴンキーパーは十人程で、割合では圧倒的に男の方が多かった。皆独り身で、年齢も二十代が多い。この仕事は体力や俊敏性などが求められるため、若い人材は常に重宝されていた。そのため、チャーリーもホグワーツを卒業してすぐに此所へやって来た。休暇をとってから初出勤というのが定例だが、可能ならば出来るだけ早くに来て欲しいと言われ、従った。
勤める者達が事務所へ来る時間は様々で、朝来る者、昼来る者、夜から明け方まで仕事をする者と交代制になっている。チャーリーの今日の出勤時間は昼からになっている。仕事で使う体力の源である食事をとるため、チャーリーは食堂へ向かった。
屋敷しもべ妖精が一人きりもりをする食堂は広くはないが、ドラゴンキーパー達の憩いの場所になっている。一日中開け放たれたままの扉を潜れば、席に着いていたアンドレイ・フロレスクがチャーリーに気付いて片手を上げた。
「サルマーレが旨いぞ」
食堂のメニューはいつだって一つしかないが、毎食内容が変わるようになっている。チャーリーがカウンターへ近付けば、屋敷しもべ妖精がカウンターより低い位置から手を伸ばしてプレートを置いた。
アンドレイが言った通り、昼食はサルマーレだった。玉ねぎと挽き肉を混ぜたものを、酢に漬け込んだキャベツで巻いて煮込んだものだ。酸味の効いた香りが鼻を擽り、チャーリーは微笑む。サルマーレと共にルーマニアの主食であるママリガも同じプレートに乗っていた。
イギリスとは異なるこちらの食事にも、美味しそうと感じるほどには慣れてきたと思う。チャーリーはプレートを手に、アンドレイの座るテーブルへ近付いた。
アンドレイはチャーリーよりも一つ年上のドラゴンキーパーだった。生まれもルーマニアで、噂によると実は貴族の出らしいが、詳しいことは話してくれないので分からない。学校はダームストラング専門学校出身で、チャーリーと同じくクィディッチ選手を務めていた。持ち場はキーパーだったが、何せ箒捌きが格段に上手く、その特技を活かしてキーパーとチェイサーを兼務し、相手のゴールに幾度となくシュートを決めたことがあるらしい。その箒捌きを買われ、彼は今ドラゴンキーパーという仕事をしているのだという。
チャーリーがルーマニアに来たときは歳が近いこともあり、教育係として傍についてくれた。元々ルーマニア生まれの彼はチャーリーが知らないことを何でも知っていて、土地のことや食事のこと、古くから伝わる伝統など、色々なことを教えてくれた。彼の気取らない性格はチャーリーもとても好感を持てたし、何より実際にドラゴンの元へ飛んだ時は、本当に箒捌きが上手くて驚いた。仕事の時間以外でも何度か箒の操り方を教えてもらったこともあり、二人は早い段階でとても仲良くなっていた。先輩だとか後輩だとか気にするなという彼の言葉もあり、今では友達のように接している。
「珍しいな、お前が昼からなんて」
チャーリーが向かいの席に座るなり、アンドレイはスプーンでママリガを口に放り込みながら言った。
「箒の手入れがしたくてさ」
普段は出勤時間でなくても朝から事務所の資料室に篭ってドラゴンの資料を読み耽っていることが多いチャーリーだったが、今日はシフト通り昼から出勤した。午前中の時間は、使っている箒を入念に磨いて美しく保つために使った。時折磨いて手入れをしてやれば、箒は長くもたせることが出来る。チャーリーは定期的に午前中の時間を箒の手入れの時間にあてていた。
チャーリーはサルマーレをフォークで切り分けて食べた。酸味は少しあるが、よく煮込まれているのでそこまで気にはならない。 屋敷しもべ妖精は本当に料理が上手い。
「そう言えば」
自分のプレートに残しておいたサルマーレをスプーンで掬って食べ、アンドレイは続ける。
「お前、兄弟多いんだって?」
突然の話にチャーリーが噎せ返って咳をした。喉に詰まる異物感に顔をしかめながら、目の前に座る先輩を見つめる。
「そんな話、誰に聞いたんだよ」
「別に、風の噂」
唇の端を片方だけ上げて、アンドレイは事も無げに言った。その後は何も言わず、肩を竦めてチャーリーの返事を待っている。
「七人」
言うなり、アンドレイは目を丸くした。
「へぇ、凄いな!俺は兄さんと二人だけだから羨ましいよ」
ウィーズリー家の兄弟の話は、誰が聞いても驚いてくれる。兄弟が誰もいない家も多い中、七人も兄弟がいる家庭なんて最近では珍しいのだ。
アンドレイはカウンターにいる屋敷しもべ妖精に向かって手を上げて合図を送っていた。気付いた屋敷しもべ妖精がしわしわの長い指を振ると、空になった皿がカウンターの方へ飛んで行く。
「兄弟の話、教えてくれないか?」
仕事をするにはまだ早いのだろう。アンドレイは皿がなくなってすっきりしたテーブルの上に肘をつき、リラックスした表情でチャーリーに言った。
チャーリーもまだ時間はある。それに、アンドレイは言い出したら聞かないこともよく知っている。諦めたように息を吐き、チャーリーは家族のことを思い出しながら語り出した。
マグルと魔法使いを平等に扱い、いつだって温和な父親アーサー。少し過保護だが、子供達のことを一番に思ってくれる母親モリー。一番末っ子で唯一の女の子のジニーは、兄達の傍でいつもにこにこしていたし、その上のロンは今年からホグワーツに入学している。少しおっちょこちょいなところがたまに傷だが、気さくで素直な性格の良い子だ。そして更に上にいるのがフレッドとジョージ。悪戯をするのが大好きで、いつもモリーに自分達がどちらなのか名前を言わせようとして楽しんでいる。ホグワーツでも悪戯ばかりしてすぐに寮の減点対象にされていたが、二人がいるとその場が明るくなり、楽しい空気に包まれるため、周りから悪く言われることはなかった。そして次がパーシー。フレッドとジョージとは大違いでとても真面目。堅実な性格でホグワーツでも優秀な成績を修めていた。故に堅物呼ばわりされることも多いが、とても責任感がある根は良い奴だとチャーリーは笑う。
そんなチャーリーの家族構成を、アンドレイは楽しそうに聞いていた。
「その上がチャーリーだろ?じゃあ、あとは兄さんだな?」
笑うアンドレイは唇を片方だけ上げるのが癖。その口元は、ロンが笑ったところにそっくりだとチャーリーは思った。
「長男は、ビルって言うんだ」
思い出す。他の兄弟と同じ赤毛を長く伸ばし、ポニーテールにしている長身のハンサム。在学中は女子生徒達からも凄く人気があって、少し嫉妬したほどだ。けれど、彼はそんなことを鼻にかけることもなく、優しく、快活で、面白い。成績も優秀で、ホグワーツでは監督生、主席を務めた。
「二つだけ俺より年上なんだけど、ずっと憧れてた」
ビルは、ホグワーツにいる時も常にチャーリーの目には輝いて見えていた。誰からも好かれる彼は、本当に絵に描いたような人物だった。
「お前さ」
チャーリーの言葉が途切れてから、アンドレイは相変わらず肘をついたまま笑って言った。
「兄さんの話をする時、恋人のこと話してるみたいな顔するんだな」
何気ない一言だったと思う。けれど、その言葉はチャーリーの目を見開かせるには十分すぎる言葉だった。
しかしアンドレイはそんなチャーリーには気付かずに、不意に視界に入った時計を凝視して慌てて席を立った。
「やべぇ、遅れる!」
ドラゴンの見回りや食事の当番は交代制だが、時間厳守が基本だった。アンドレイはチャーリーに「またな」と声を掛け、走って食堂を出て行く。
取り残されたチャーリーは、心臓が大きく音を鳴らすのを一人聞いていた。口許を手で覆い、顔を赤くして目をさ迷わせている。
「俺、そんな顔・・・」
恋人なんて、アンドレイが言うからだ。
チャーリーはぎゅう、と目を瞑った。とりあえず落ち着こうと、深呼吸を試みる。しかし、鳴り出した心臓は音をより大きくさせていくばかりで静まってはくれない。
思い出してしまう。ずっとずっと見てきたあの姿。笑った顔。優しい声と、温かい手の温もり。
閉じ込めようとしていた想いが、アンドレイの一言で飛び出してきてしまった。何のために此処に来たのか。チャーリーは唇を噛み締める。
ホグワーツを卒業する少し前から、チャーリーはドラゴンキーパーになるためにルーマニアに渡ると決めていた。勿論モリーには猛反対され、アーサーも最初は渋い顔をしていたが、根気強く熱意を伝えて許してもらった。兄弟にも伝えたが、皆一様に喜んでくれたし、何より面白そうだと興味や好奇心の方が強いようだった。しかしただ一人、ビルにだけは言っていない。彼は卒業してからエジプト勤務となり、呪い破りに日々を費やしていた。危険を伴う仕事だということと、未知の部分が多い仕事なだけに、実家にも滅多に帰って来なくなり、チャーリーが彼に最後に会ったのはいつだったかすぐには思い出せないぐらいだ。
しかし、チャーリーがビルに言えなかったのはただそれだけが原因ではない。
『愛しい』と。そう思っていた。実の兄だというのに、チャーリーは彼にいつしか恋心を抱くようになっていた。
思いを伝えたことはない。寧ろ、伝えてはいけないと思っていた。きっと迷惑だろうと思ったし、何よりビルに疎まれたくなかったから。
だから、けじめをつけるために彼から離れようと思ったのだ。ドラゴンに魅了されてドラゴンキーパーになろうと思ったことは勿論嘘ではないが、ルーマニアに来ることに躊躇いがなかったのはビルと彼との思い出から離れてその想いを断ち切ろうと決めたからだった。
食堂で食べたサルマーレの味が美味しかったかどうかは、もはや覚えていない。動揺して、ただただ口を動かして飲み込むという作業だけを繰り返した。
チャーリーは溜息を吐いて、ラックから自分の箒を手に取る。事務所を出て箒に跨り、宙に浮いた瞬間に体重を前に思い切り乗せて空を切った。
雪がちらつく中を少し飛んだところにある谷の麓に、ドラゴンが雪の上に座り込んで眠っている。深緑色の鱗と金色に輝く長い角、ルーマニア・ロングホーンという種類のドラゴンだ。
チャーリーはドラゴンの傍に降り立ち、様子を窺った。閉じられた目と、規則正しく揺れる体。体調は良いようで安心する。
「交代か」
先にいた先輩のドラゴンキーパーに声を掛けられて、チャーリーは頷いた。
彼は箒に乗り、チャーリーが来た方向へ飛び立っていく。こうやって、交代でドラゴンの守り役をするのだ。
ルーマニア・ロングホーンは魔法薬の材料として角が裏取引されるため、この数年で数が激減していた。出来るだけ自然に近い繁殖を促すためにも、こうしてドラゴンキーパーが世話をして守っているのだ。
チャーリーは眠っているロングホーンの体にそっと触れた。ざらざらとした鱗は色艶も良く、健康そうに見える。
微笑んでもう一度体を撫でてから、チャーリーはロングホーンから少し距離をとった。突然目が覚めた時に、防衛本能から近付くものを攻撃しようとするためだ。
「・・・」
眠る姿を見守りながら、チャーリーは再度溜息を吐いた。息は白く、宙に溶けていく。
一度思い出してしまうと、なかなか切り離すことが出来ない。封じ込めていた思いが、チャーリーを取り巻いて離れない。
「会いたいな・・・」
マフラーに顔を埋めながら、ぽつりと呟く。
まさか、ビルはチャーリーがルーマニアで働いていることなど知る由もないだろう。他の兄弟たちは皆ホグワーツにいて自分のことで手一杯だろうし、モリーやアーサーがわざわざ手紙を寄越すとは考えにくい。
胸が痛い。今頃、何をしているだろう。冬でもやはり、エジプトは暑いのだろうか。呪い破りをしている最中に怪我をしたりはしていないだろうか。同僚とは上手くやっているだろうか。頭の良い彼のことだから、きっと上手く周りとも付き合っていっているのだろうけれど。
恋人は、出来たのだろうか。
「・・・」
思って、唇を噛む。喜ばしいことだ。悲しむべきことではない。学生時代から、ビルの周りには沢山の人がいた。沢山の人からあんなにも愛されていたのだから、一人や二人、親しい付き合いの人が出来ていてもおかしくはない。その中から恋人が出来ていたとしても、なんらおかしくないのだ。
それなのに、どうしてこんなにも胸が痛いのだろう。
学生の時に感じた痛みよりももっともっと深く、奥の方で感じる痛み。ぎゅう、と締め付けられるような痛みは、呼吸さえおかしくさせるようだった。
夜、自身の家に帰宅したチャーリーは、ロングホーンの観察記録をつけていた。チャーリーが見ていた時間はほぼ眠っていたために特筆すべき事項はなかったが、鱗の色、目の輝きなど、毎日つけておかなければならない項目がいくつかあった。
暗闇の中、蝋燭が揺らめく灯りだけを頼りに羊皮紙にペンを走らせる。カリカリという、ペン先が紙を引っ掻く音だけが静かな空間に響き渡っていた。
「・・・よし」
書き終え、読み返してから頷く。明日は事務所で数日分のメモを纏めて清書しなければならない。羊皮紙をくるくると丸め、忘れないように鞄の中に押し込んだ。
服は既にルームウェアに着替えていた。チャーリーは窓を見る。夜空に浮かぶ月が、空を美しく彩っていた。
同じ月を、見ているだろうか。
思って、何を今更と自嘲する。忘れようと思えば思うほど、忘れられなくなる。
笑った顔はどんな感じだったか思い出せなくなるぐらいになればいいのに、嫌というほど、笑った時に出来る口許や目元の皺の数まで言えてしまうほど、覚えているのだ。
「ビル・・・」
嗚呼、この腕に抱き締めることが出来たなら、もう他に何もいらないのに。
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好きなカプなんですけど媒体が少ないのでずっとリピートしてます!尊いです……✨