落第騎士の英雄譚 意識低い系風味   作:一般落第騎士

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日間一位、週間一位、月間一位、四半期一位ありがとうございます。


第九話

 

 

 

『(……魔剣、妖刀の(たぐい)ですね、彼も。扱いやすく、強力で、制御を誤れば惨事を起こす)』

 

 甘木悠がリムジンに乗り込み、色物集団 (彼曰く)と対面する数週間前。

 

 《天譴》甘木悠の身辺調査をする最中、月影獏牙はそう感じていた。

 

『(特別招集、15回……学生としては余りにも多すぎる。任務達成率100%……これもまた異常な数値。《連盟》の懐刀という評判に偽りなしですか)』

 

 内通している《連盟》幹部から渡された資料を捲るにつれ、彼の評判が明らかになってくる。

 

 彼の従順さ、腰の低さ、任務への忠実さ。そして何より、複数回の任務で未だ上限が見えない戦闘力。上層部に高く評価されるのも頷ける。

 

 だが、月影はそこに一抹の危うさを見出した。

 

 プライドの無さ、執着の無さ、騎士道の欠如。

 全て『扱いやすい』という事に於いては最高の美点だが、それは同時に、裏切りや離脱の危険も孕んでいる。彼は一般男性の生涯年収を稼いだら仕事を辞めるし、タワマンを譲られれば八百長で負けるのだ。扱いやすさはそのまま、忠誠の欠如に繋がっている。《連盟》に牙を剥く月影の行為に、彼がどこまで付き合ってくれるかは疑わしい物だった。

 

 また、その身が有する伐刀絶技、《内政不干渉(デリクトデューティー)》。

 これも、《歴史》を司る因果干渉系能力者の月影と相性が悪い。彼の周辺はノイズが掛かったように見え辛くなる。もし彼が裏切りを決めたとしても、月影にはそれが視えないのだ。加えて、これに関しては『別の能力を隠しているのではないか』という懸念もある。

 

 忠誠の欠如。因果干渉能力の拒絶。

 

 彼を戦力として勘案する時、常に“万が一”が付きまとうという不安。

 

 

 ……それでも。

 不安要素はありながらも、月影は《天譴》甘木悠を己が創立する【暁学園】へ招くことを決めた。

 

 それは、やはり《七星剣王》に上り詰めた怪物的な戦闘能力と。

 

 

「え……て、転校ですか……」

「……はい。しばらくは二重学籍という形になります。これは極秘ですが、破軍学園―――いや、既存の騎士学校は全て一度廃校となる予定で、甘木くんにはその前に暁学園へ転学していただきます。むろん、事が終われば全ての学園は再開しますし、その時は破軍学園でも何処でも好きな学園に行っていただいて構いません」

「えええええ……」

「……これは、法で保障された政府の権利による正式な命令です。()()ですよ、甘木くん」

「あ〜……はい、分かりました。()()ならしょうがないですね……」

 

 

 これだ。

 

 命令書一枚で動かせる『御しやすさ』。

 この、あまりにも抗いがたい魅力が理由だった。

 

 能力が使えなくとも、彼を観測する方法はある。

 彼が見えないなら、彼の周辺を見ればいい。どの行動をとれば、自分の近辺にノイズが現れるようになるか。壁越しの振動で音を聞くように、月影は己を媒介として『甘木悠を味方に付けられる方法』を導き出した。

 

 そして、その方法というのは至極簡単。

 

 内通している倫理委員会等の《連盟》幹部を使って、『特別招集』を出すだけ。

 

 たったこれだけだ。

 

《解放軍》から高い金を支払って借り受ける必要も無い。

 眼から血涙が出るほど霊装の《月天宝珠(がってんほうじゅ)》を使って、説得の方法を探す必要も無い。

 総理大臣である月影からすれば、たったの5分で済んでしまうような簡単な作業。それだけで、学生最強である《天譴》甘木悠は月影の指揮下に置かれた。

 

 

「(……ああ、ダメですね。赤座さんの気持ちが、少しだけ分かってしまう……)」

 

 

 魔剣とは。担い手を選ばず、強大な力を与え、そして全能感に酔わせる物だという。

 

 月影から見て甘木悠という存在は、その条件を十分に満たしているように見えた。

 

 なにせ、既に月影の《未来視》には、甘木悠(ノイズ)の前で倒れ伏す敵手たちの姿が映っているのだ。己の内通相手の一人である赤座が絶賛していたのも頷ける。

 

「……すみません。少し話が性急でしたね。実はこの話には訳があるのです。我々【暁学園】は、《連盟》からの離脱を目的とした新設学園で―――」

 

 内心で自分を叱咤し、月影は甘木悠へ詳しい説明を行う。彼は未来ある学生であり、内閣総理大臣である己が護るべき国民である。危険な任務を与える際は、許す限りの詳細な説明をするべきだろう。

 

 

 

 日本、イギリス、ヴァーミリオン公国等が所属する《国際騎士連盟》。

 アメリカ、中国、ロシア等が結びついた《大国同盟》。

 世界の裏で暗躍するテロリストグループ《解放軍(リベリオン)》。

 

 現在、世界はこの三大勢力が三つ巴となって均衡を保っている事。

 

 日本は《連盟》所属だが、伐刀者の教育を《連盟》に握られ、多額の軍事費など重い負担を受けており、政府内では独立の機運が高まっている事。

 

 【暁学園】は、《連盟》へNOを突き付けるために創られた初めての国立学園。

 

 暁学園が七星剣武祭で優勝する―――つまりは現在《連盟》が運営する学園の騎士たちを打ち倒すことで、《連盟》の()()()()()を指摘。現在《連盟》に握られている伐刀者の教育権を取り戻し、ひいては独立へ繋げるつもりだという事。

 

 その為、現在の《七星剣王》である甘木に、ぜひ【暁学園】に加わってほしい事。

 

 

 

 それらを真摯に、極めて分かりやすい平易な口調で説明した。

 

 ……嘘は言っていない。

 背後に居る《解放軍》所属の《道化師》平賀玲泉のせいで、口に出せない事があるだけで。

 

 例えば。《解放軍》が近々崩壊し、世界のパワーバランスが崩れる事で【()()()()()()()】が起こる事。その時《連盟》に所属していた日本は壊滅的な打撃を受け、首都を焼かれる羽目になる事。これらの情報は、今この場では話せない。月影の《未来視》は国家機密級の秘匿だからだ。

 

 《道化師》平賀玲泉はあからさまに邪悪であり、その悪辣さは多種多様な人間を見て来た月影からしても常軌を逸している。彼にも、彼の背後に居る《解放軍》にも、出来る限り与える情報は絞りたかった。

 

 加えて、一度に大量の情報を与えて混乱させるのも甘木悠には逆効果。《暁学園》の更なる裏については、また時機を見て伝えるつもりだった。

 

 

「―――と、いう訳なのです。学生である甘木さんを巻き込んでしまい申し訳ありません。ですが、日本の未来を輝かしい物にするため、どうかご協力お願いします」

 

 

 そう言って頭を下げる。

 月影の都合で振り回してしまう相手だ。せめて、十分な礼と報酬を以て報いたい。

 

「は~……政治の話ですね……」

 

 甘木悠はしばし放心したように情報を咀嚼した後、月影に向けて心配そうに聞いてきた。チラチラと、背後の《解放軍(テロリスト)》関係者の顔色を伺いながら。

 

「……でもこれ、あの……あれ、違法な手段というか……もし負けたら、その後の処遇が結構ヤバいんじゃないか、と思うんですが……」

「いいえ。自慢ではありませんが、私は国内の勢力をほぼ統括しきっています。警察、検察、司法、全てが私の手にあります。私の政治家生命にかけて、貴方に一切の前科が付かないよう取り計らいましょう」

「ええ……」

 

 己の政治的手腕に懸けて、と月影獏牙は言い切る。

 

 彼の言っていることは()()()

 此処ではない並行世界において、月影が企てた【暁学園】による《七星剣武祭》制覇は失敗に終わる。破軍学園の《落第騎士(ワーストワン)》が、勝利を重ね、誰からも認められる《七星剣王》となる。そんな英雄譚の礎となる形で。

 

 しかし。

 

 その世界において、【暁学園】の生徒たちは、()()()()()()()()()()()

 《解放軍》所属だったはずの生徒たちさえ、戸籍や記録を有耶無耶にされて免罪されている。

 

 それどころか、月影獏牙はその後も()()()()()()()()()()()()()()

 実質的なクーデターを行い、無惨な失敗を遂げたにも関わらず、その地位と権力を一切損なっていない。

 

 《未来視》と《過去視》だけが彼の取り柄ではない。それを十全に活用する怪物的な政治手腕。

 

 演説。交渉。根回し。およそ政治に関する才能全てを持ち合わせた、稀代の政治家(ステイツマン)

 それが月影獏牙である。

 

「……うーん……まあ、分かりました。変な事聞いて申し訳ありません。仕事、頑張ります!!」

 

 政治のドロドロに巻き込まれる事に不安はあるが、どうせ日本が割れるならどちらについても同じような物だと考え直したのだろう。寄らば大樹の陰と言うし、現日本総理大臣の月影さんに味方した方がまだ安定した生活の保障があるだろう。公務員になりたい。

 

 概ねそんな事を考えながら、甘木悠はにっこり笑って頷いた。やや笑みが引き攣っていたが。

 

「(……腹芸は苦手なのですね)」

 

 彼の戦闘能力を思えば、実に微笑ましい―――いや、()()()()()弱点に、月影は内心ホッとしながら笑みを返した。

 

「ええ、よろしくお願いいたします」

 

 《天譴》の政治的手腕が不足しているのは、きっとお互いにとって幸いなことだ。彼が上層部から寵愛される理由の一端がここにあるだろう。あまりにも完璧な刃を、俗人は安心して扱えない。鋭すぎる刃には必ず、彼らが握るための(弱点)が必要になるのだから。

 

「なぁんだ……アテが外れましたねぇ。ツマラナイ……断ってくれれば、粛清の口実が出来たのですが」

「……平賀くん。貴方たちがわざわざ来たのは、やはりそれが理由でしたか」

「ギャギャギャ! 怒んなよ、雇い主へのアフターサービス、ホスピタリティってやつだ! 【暁学園】は今しばらく秘密じゃなきゃいけねぇ……勧誘を断った奴は、口封じしなきゃなぁ!

 ……まあ。つっても、その必要は無かったみたいだがね。あーあ、面白くねェ」

「ええ!? 僕たち、そんな理由で呼ばれてたの!? 酷いなぁ……僕は単に、平賀くんに『集合』って言われたから来ただけなのに……」

「踊り狂う道化め……予言しよう、貴様の末路は哀れな物よ(嘘つく人嫌い!!)」

「ピ(同僚の性格が悪そうでしんどくなっている顔)」

 

 《天譴》甘木悠が【暁学園】への加入を正式に受諾したのと同時に、背後の伐刀者たちがやいのやいのと騒ぎ始める。《天譴》は、キャラの濃い彼らに当てられてうんざりした顔をしていた。

 

「……ゴホン、ゴホン! 」

 

 強力な伐刀者故に扱いにくい彼らを統括する立場である月影は、『暁学園理事長』として喧騒をなんとか纏める。

 

「では、甘木くん。今回の『特別招集』は、およそ数か月に渡る長期的な物です。また、任務の性質上、精神的負担も大きいと予想されます。そのため、貴方に一週間の猶予期間と―――

 

 ―――【暁学園】への()()()()()を与えます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか東堂会長が精神を病んで静養しているらしい。

 

「マジ!?!?!??!!」

「マジマジのマジっす。現在リハビリ中らしいっすよ」

「え、えええええ……!! ど、どうしよ……俺のせいなのか……!?」

 

 総理との話を終え、破軍学園に戻ってきた次の日の事である。

 

 荷造りの為にゲーム部部室を訪れた所、桃井からとんでもないニュースを聞かされたのだ。

 し、新宮寺先生から『大丈夫だよ』って聞いていたから完全に油断していた……!! 肉体的に問題ないってことは、問題ないって意味じゃないのか!?

 

「お、お見舞いに行かなきゃ……! 何だっけ、根がある花は不吉だから良くないんだっけ……」

 

 あわあわと慌てながら、スマホを使って『お見舞い マナー』と検索する。

 

「クッキーで良いかな……あとメッセージカードを添えて、出来れば直接会わない方向で……」

『お優しいねえ。死んだ奴に食い物渡すのが人間(オマエら)の文化なのか? 無駄じゃないのか? 負けた分際で雑念を抱かせてしまってすみませんって、むしろ東堂の方が謝るべきだろ』

「東堂会長死んでないから」

 

 グアちゃんは相変わらず価値観がサバンナで困る。

 そんな俺を見て、桃井が呆れた様子でため息を吐いた。

 

「うーん、この……なんなんすかね、この戦闘能力を除けば普通の一般市民で終わったんだろうなぁという性根は……。とりあえず、先輩。あんま余計な事しない方が良いとは思うっすよ」

「なんでさ。東堂会長は目上の人だし、ちゃんと礼儀を通さないと」

 

 ちなみに、俺が可愛い女子と話すと緊張して口が乾くという症状は何一つ改善していない。ゲーム部部員でそこそこ話すようになった桃井相手でもそうなのだ。もうおしまいだよ。

 

 なので、正直東堂会長には直接会わず、病院の受付にお見舞いの品と、あと一言二言の伝言かメッセージカードを添える程度のつもりでいる。俺が断頭したせいで心を病んだかもしれない美少女に直接会うとか、いくらなんでもハードルが高すぎる。

 

「……メッセージカードになんて書く予定です?」

「え、考えてなかったけど……『首切っちゃってごめんなさい』『次からはもっと手加減するので元気出してください』みたいな事をオブラートに包んで……」

「あ、そういえば東堂会長は面会謝絶だったっす。お見舞い品は私から渡しておくっすよ」

「え、そうなの? 」

「そうっすそうっす。今急遽思い出したっす」

「ええ……?」

 

 なんか胡散臭いが、内心お見舞いイベントが潰れた事への感謝の方が大きいから何も言わない。

 

 どうするんだよ、東堂会長に『あなたのせいです!!!!!』とか激ギレされたら。

 多分俺は『いや全部が全部俺のせいではないだろ……』と反発してしまうだろうし、確実に人間関係がまた焼け野原になる。折角復興の兆しが見えていたというのに。

 

「……そもそも先輩、そんなことしてる余裕あるんすか? 総理からの仕事はどうなったんすか」

「あー……あれはねぇ」

「あの日はめっちゃ急いで戻ってきたし、なんかコソコソ荷造り始めてるし……やってることかなり怪しいっすよ」

「ね~……アハハ……」

 

 やっべ。

 そうじゃん、俺はあと一週間以内に荷物を纏めて破軍学園を出なければならない身。東堂会長へのお見舞いとか言ってられる身分じゃ無かった。

 

「あの……あれよ。ちょっと実家に帰るから、俺」

「は?」

「あとアレ、あの……何日だっけ。7月25日。この日はその、出来れば破軍学園に来ない方が良いよ」

 

 暁学園(俺たち)が襲撃するから。

 とは言えない。ただ、事前に知り合いへ忠告するくらいは良いよと総理からお墨付きを得ている。あと、友人が居たら暁学園に誘っても良いよと。

 

 総理は少々俺の事を誤解している。

 俺にそんな難しい事が出来るわきゃねえのだ。

 

「あとその……なんか、て、転校とか興味ある……?」

「……先輩、月影総理に何言われたんすか?」

 

 桃井がジットリとした目で俺を睨みつける。

 ヤバい。

 

「……あの……時候の挨拶を……」

「内密の任務、っすね。総理が直接動いたって事は、国内の意志はほぼ統一されてる。破軍学園が狙いの極秘任務? 多分穏当な物じゃない……けど、じゃあ目的は何すか? 学園、七星剣武祭……《七星剣王》。先輩を招集したのはそれが理由っすね。校門に超高級車で乗り込むなんて目立つ手段を取っても《七星剣王》が欲しかった。ん、極秘任務なのに目立つ真似をした……? いや、出来たのはなんで? 破軍学園にも協力者が居る? 襲う相手なのに? 総理と破軍学園の利益が一致した? いや、国民という大きな枠で一致したと考えるべき。国民の機運、政治の動きは……月影総理は風祭グループと懇意、風祭の最近の取引相手はむしろ《同盟》に偏ってる……。反《連盟》。連盟脱退。それだ、それっすね。」

 

 俺の言葉を意にも介さず、桃井がブツブツと呟く。

 ヤバすぎる。

 

「た、楽しく《七星剣武祭》の思い出話をしてェ……」

「連盟脱退の契機として、破軍学園に襲撃を掛けるんすね。目的は相手の面子(メンツ)を潰す事による《七星剣武祭》の出場枠の確保っすか? "転校"って言ったっすよね。月影総理は新たな『国立学園』を創って、そこの生徒に《七星剣王》を取らせるつもりですか。現《七星剣王》である先輩が直々に《連盟》を批判すれば、世論への影響も大きそうっすもんね」

「お、おいしいお茶菓子を食べて……」

 

 ヤバい。泣きそうになってきた。

 失言した。それは分かるが、しかしワンミスで此処まで持ってかれるか?

 

 いくら何でも桃井が名探偵すぎる。そんな訳無いじゃん、転校と7月25日でそこまで分かるわけないじゃん。おかしい。桃井は別にそんな頭良くなかったはずだ。テストも平均点前後と聞いたぞ!! そう言ってたじゃないか!!

 

「先輩は月影総理に信頼されてるか、少なくともかなり重要視されてるみたいっすね。すっごく気遣われている。『甘木悠の友人』ってだけで、空きが少ないか、極秘のはずの新学園に人を捻じ込めるレベルには」

 

 終わりだ。

 ごめんなさい、総理。こんな身近にコロンボが居るとは思ってもいなかったんです。

 

「も……桃井さん、いや桃井さま……! ど、どうかそこらへんの事はご内密に……!」

「んふふふふ。ここで私の首を斬らない辺りが、信頼築けてる感あってベネっすねー」

「さすがにそんな事したら異常者でしょ……」

「リムジン斬ろうとした奴は言う事が違うっすね。おらおら」

 

 平身低頭して懇願する俺に、桃井は獲物をいたぶるような笑みを見せる。助けて。

 

「先輩、これ最初に言ったのが私っすよね。ゲーム部部員の中で一番信頼度高いっすか、私? おっほほほ。愉快愉快っす」

「ワァ…」

「ちいさくてあわれな怪生物っすねぇ。泣いちゃった!」

 

 桃井には大変申し訳ない事に、同年代女子との絡みが少ない俺たちゲーム部部員は、ピンクのボブが可愛らしい桃井に対し『なんかふわっとした動機で俺の事たまたま好きになってくれないかなぁ』とキショイ欲望を向けてしまっている。ゲーム部全員がだ。それを見抜かれ、俺は動揺からちいあわ(小さくて哀れ)と化した。

 

「……と、冗談はこれくらいにして」

 

 ごめんなさい総理、破軍学園襲撃のXデーは今日になるかもしれません。参加者俺一人。

 俺が月影総理へ連絡するか迷い始めたその時、桃井がニヤニヤ笑っていた表情をスッと元に戻した。

 

「転校手続き、どうぞよろしくお願いするっす」

 

 そう言って、ぺこりと深く頭を下げる。

 

「……え。マジで? な、なんで……?」

「自分、勝ち馬には乗る主義っすからねぇ。月影総理という政治的怪物と、先輩というおかしな怪生物。この二つが組むなら、まあ上手くいくだろうと思うっす。進路も決まって無かったし、ここで政治系のコネを作っておくのも悪くないっすね」

「か、考え直した方が良いんじゃない……? あそこ、結構嫌な意味でキャラが濃い奴らの集まりというか……」

「転校誘ってきた奴が日和るんじゃねーっすよ。オラッ。良いんすよ、破軍学園のブランドはこれから先大きく落ちると予測したんで。泥船から逃げるのは自然の摂理っす」

 

 そう言って、桃井は軽く俺の肩をパンチした。痛くは無い……が、かなり俺に都合が良くてちょっとビビる。桃井様がブツブツ推理を開陳し始めた時、マジでこの世の終わりだと思ったのに。

 

「……あと。先輩、情報共有の仕方が致命的に下手くそっすね」

「ごめんなさい……」

「ダダ漏れすぎて腹に穴空いてんのかと思ったっす。腹芸カスすぎ。ゲーム部部員にはウチから伝えといていいっすか? 情報漏洩エグい事になるっすよ、先輩がやったら」

「ハイ」

「ま、多分他の部員たちは学校休むくらいの消極的判断に留まると思うっすけど……取りあえず、そういう事で月影総理にはよろしくっす。新学園に一人追加って伝えといてください」

「ハイ」

「哀れな生き物っすね……おらっ、これを機にちゃんと覚えるんすよ! 騙されてからじゃ遅いんすからね!」

  

 桃井は俺の肩を軽く揺すった後、ふと何かを思いついたように笑った。

 

「悪い女に騙されてからじゃ遅いっすよ~」

 

「……………………」

 

 桃井って……マジで、俺の事好きなんじゃないか……?

 本当にそういうの止めた方が良いと思います。俺だって同級生女子にキショイ願望を抱きたくなんて無いのだ。ある一面においてはスクールカーストの被害者なんです。

 

「ぉひっ…ヒッホホ」

「は?」

 

 噛んだ。もうだめです全部。

 

 取りあえず、俺は円満に破軍学園から友人たちを避難させることに成功した。そういう事にしておく。

 正直、何の罪もない破軍学園に襲撃掛けるのはマジで心苦しいしやりたくない。だが、政治や戦争においては、時にそういう事をしなければならない場合もある。そういう可能性と生活の安定を天秤にかけて、俺は魔導騎士を選んだのだ。

 

 やろう。だいたい、元より仕事なんて全部嫌なのだ。だからこそ給金がもらえるわけで。

 元々の仕事の嫌さを10000として、これは10100だからほぼ誤差みたいなものだ。

 

 内心でそう決意と理論武装を固める。許してください全部。

 

 という訳で、俺は破軍学園への襲撃へ加担する事となった。履歴書に書けねえよこんな事。

 

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