第120話 オタク、子どもを作る



「あぁ……ダメぇ……!」


 客室に戻ると、サフィルさんがみんなに可愛がられて、べっとべとになっていた。

 とりあえずベッドに浄化魔法をかける。


「あ、オタクくんお帰り。もう打ち合わせは終わったの?」


「料理は決まりました。ソースなしなら、宿でも作れます」


 それは良いとして。

 少し目を離した隙に、サフィルさんが散々に攻められてイジられていた。

 焦点の合ってない目の裸のサフィルさんは、幸せそうな笑顔でピクピクしている。


 回復魔法をかけると、我に返ったようだった。

 周囲に軽く注意しておく。


「あのですね、みなさん。やりすぎです。ぼくもそうでしたけど、サフィルさんはそんなに経験ないんですから、もうちょっとゆるめにしましょう」


「サフィルちんの表情、ゆるゆるだよ?」


 表情の話じゃなくてね?

 いきなりハードなことはしないように、と申し上げております。


「サフィルさんがみんなほど激しいのが好き、とは限らないでしょ? 人にはそれぞれのペースがあるんですよ」


「そ、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどさ、オタクくん……!」


 サフィルさんがなぜか申し訳なさそうな声を出す。

 振り返ると、裸のままで脚を開いて、あらぬ場所を指し示しているサフィルさんがいた。


「あ、あのね? シルヴァお嬢様、オタクくんとできないんだって。だから、あたしに代わりにして欲しい、って頼まれて……お願いして良い、オタクくん……?」


 もうすでにトロトロになっているサフィルさんは、恥ずかしがりながら示していた。

 なんてこと頼んでるんですか、シルヴァさん。


 確かにそういう趣味を持ってる有閑貴族もいる、って話を以前にしたけどさ?

 なんで会ったばかりのサフィルさんに頼んでるんですか。


「その。えと……シルヴァお嬢様、オタクくんの子どもを抱きたいんだって。どうしても」


「いやいや。サフィルさんがすることじゃないですよ。サフィルさんだって、ぼくとの子どもを作りたいわけじゃないでしょ?」


 ところが、サフィルさんは顔を赤くしてぼくを見上げ、言った。


「……オタクくんなら……作っても、良いよ……?」


 頭を抱えるしかない。

 サフィルさんも確かにこの世界では成人年齢なんだけど、そんなに軽率に決めて良いものでもない。


 と思ってると、エイジャさんが後ろからぼくを抱きしめて、動けないようにした。


「シルヴァちゃんねー。子どもは引き取って育てたいんだって。もし妊娠したら、子どもが生まれるまではサフィルちゃんの面倒も見たいって言ってるしさー」


「ウチらとの繋がりを作って、自分のいる場所を、ウチらの帰ってくる場所にしたいみたいよ? 健気だよねー!」


 それは確かに健気だけども。

 シルヴァさんはリルカさんと違って、一緒に冒険できるほどの技能はない。


 ぼくらの支援のために政治活動はしてくれているけど、ぼくらとはほとんど別行動だ。

 だから、もっと繋がりが欲しい。もっと言うなら、このパーティとの子どもが欲しい。


 まるでプロポーズのようなことを言われてるけど。

 それが、貴族令嬢の立場を持つシルヴァさんの、家への縛りと自分の権力を活用した、精一杯の苦肉の申し出なんだろう。


「どうか。お願いいたします、オタク先生」


「……避妊魔法を、使わなければ良いんですね?」


 逃げ場を塞がれて確認すると、ベッドの上の裸のサフィルさんは、両手を広げてぼくを招いた。


「うん。来て、オタクくん!」


 なんだかとんでもないことになりました。



**********



「子どもできてるかなぁ……?」


「そんなに簡単にできるものじゃないと思います。避妊魔法や、不妊治療の魔法はあるんですけど、強制妊娠の魔法はないですから」


 あったら擬似的な生命の創造だしね。悪用されるから、禁呪指定待ったなしだ。


「じゃあ、もっと種付けしてもらわないとね」


 サフィルさんはノリノリだった。

 何が彼女をそんなに駆り立てるんだろう。


「あの。サフィルさん、良いんですか? もしかしたら、この先、他の人との出会いがあって家庭を持つかも知れないのに……」


「良いよ。あたし、家族が欲しいから」


 家族。

 サフィルさんは両親がもういない。孤児だったんだっけ。


「このパーティは、みんな本当の家族みたいに温かい。だから、子どもを作っても良いと、本当に思ったよ」


「あの。責任は取り――」


 ぼくが言おうとした瞬間、クルスさんがぼくの口を塞いだ。

 ぼくに何も言わせないようにしながら、にっこりとサフィルさんに微笑みかける。


「大丈夫、サフィルちゃんを一人にはしないよ。子どもが生まれたらボクらも一緒に育てるし、ボクらとオタクくんの子も兄弟になるから。一緒に遊ばせようね」


 そのうちクルスさんたちとも作ることになるらしい。

 いや、このままだと遠からずそうなるのはわかりきってるけど。


「……もうちょっと、お金を稼がないと、ですねぇ……」


「あら。まだ未払いの報奨金がたくさん残ってましてよ? 現金で支払うと、貴族街の現金が枯渇すると申しましたではありませんか」


 まだ大金が入ってくるらしい。

 あれ? 貯蓄はもうできてた?


「師匠。素材が高価すぎて、一度に支払いができないんです。利権などで利益を回収してからでないと当家の資産をすべて渡しても足りないので、債権の状態になっております」


「そう言えば、ベヒモスの剥製のときにシルヴァちゃんがそう言ってたっけね。……もちろん、支払いは今じゃなくて良いよ」


 クルスさんが思い出したように言った。

 レッサーベヒモスの素材を渡すときにそんな話があったっけ。


 もちろん、支払いを待つのは問題ない。

 というか、辺境伯家が払えなくて貸し倒れするのは論外だし。まかり間違って、辺境伯様が支払いを踏み倒して素材を『接収』したりしたら、ぼくらの儲けはゼロだ。


 辺境伯様自身はそんな無体なことはしないと思うけど。

 周囲にも家臣の貴族がいるわけで、貴族の考えで完全に奪い取られたらぼくらが不利だ。


 無理なく代金を払ってもらえて、辺境伯様も潤う。

 お互いに利益のある結果が理想だ。


「わたくし自身がオタク先生の子どもを身ごもることは許されませんが、オタク先生の子どもを預かって育てることには、お父様も賛同してくださると思います」


「そのくらい、お父様たちも師匠たちを高く評価しているんですわ。できることなら、繋がりを絶やしたくない、と考えてらっしゃるようで」


 希少素材の納品の効果が出たか。

 辺境伯様には最近会ってないけど、本人のぼくらへの印象は良いみたいだ。

 家に莫大な利益をもたらしてるだろうから、貴族としては得がたい収入源だろうけど。


 ただ、問題はリルカさんやシルヴァさんとやってる内容がバレると、ぼくが打ち首になりそうなんだよね。

 普通の父親ならまず怒る。


「ま。あたしが先にオタクくんの子ども産むよ。そしたら、オタクくんもどっか行かなくて済むじゃない?」


「それは良い考えだけど、ボクも同じ気持ちでいることも忘れないようにね、サフィルちゃん?」


 張り合うようにクルスさんもにっこりと微笑む。

 その笑顔に気圧されるように、サフィルさんは縮こまった。


「あ、あたしの初めての相手、一応はクルスなんだけど……その相手も一緒に同じ相手の子どもを産む、ってどういう関係なの?」


「いーんじゃん? 賑やかなのは良いことっしょ!」


 気楽にエイジャさんとリーシャさんが笑う。

 その周りを、話がよくわかってなさそうなエカナさんが飛び回っていた。



 まぁ、このパーティから逃げられそうな予感は、しないなぁ。


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