第126話 オタク、行ったり来たりする
一日半ほど、搾られては回復し、搾られては回復し。
親方に預けた剣の引き取りが必要になったので、何とか解放された。
「クルスが初めてだったのに。あたしの大事な場所、オタクくんのこと、覚えちゃった」
上機嫌に微笑むサフィルさん。
避妊はダメ、と言っていたけど一応避妊魔法は使ってます。
だから、このペースでしてたらみんなすぐに妊娠しちゃうんだって。
たぶん二回の狩りで目標額は稼げてるんだけど、支払いが追いついてないから確信が持てない。
妊活はもう少し後になるから、サフィルさんにも待ってもらっている。
それでもサフィルさんは容赦してくれないけど。
着替えと準備を済ませて街に出る。
昼になっているので、たぶんもう仕上がっているだろう。
てくてくと街を歩いていると、一昨日とは違って、今度はサフィルさんの方が手をつないできた。
ぼくがサフィルさん野顔を見上げると、サフィルさんは優しく微笑む。
「可愛い『オンナノコ』とデートだね、オタクくんっ!」
わかって言ってますね、サフィルさん。
手をつないで、そのままバラゴ親方の店に向かった。
「いらっしゃい、クルスさん! ……あれ、新人ちゃんたち、仲良いね?」
店番のエレナさんが、サフィルさんとつないだ手を見逃さなかった。
クルスさんから離れていることに、クルスさんに思いを寄せているエレナさんは安心したようだ。
「こんにちは。あたしの剣、できてます?」
「あー、うん。できてるよ。お父さんは仮眠するって言ってたから呼んでくるね。来たら起こして、って言われてるんだ」
そう言って、エレナさんは店の奥に引っ込んでいった。
親方は夜遅くまで作業してくれていたみたいだ。
ありがたいことだ、と思っていると、親方がやってきた。
仮眠と言うだけあって、眠気を感じさせる顔はしていない。真剣そのものだ。
「おう、剣は鍛え直しておいたぞ。追加の代金は特にない。研ぎ直したから、確認しろ」
「すごい……あたしの剣じゃないみたいに輝いてる……! でも、持ち手はいつもの感触だ……!」
剣を受け取ったサフィルさんは、ためつすがめつ、その刀身を眺めた。
綺麗に研がれた刀身は鈍い輝きを放っている。
「問題ねぇなら持っていけ。何かあるなら今のうちに言えよ。後からの苦情は受け付けてねぇぞ」
「何も問題ないよ! ありがとう、親方!」
サフィルさんが嬉しそうに喜ぶと、親方もふっと笑った。
用事は終えた、と親方はまた、店の奥に引っ込んでいく。
「良かったねー、サフィルちん! 親方の腕、すごいっしょ!」
「どする? このままギルドに行っちゃう? 早く狩りで剣の切れ味、試したいっしょ!」
エイジャさんとリーシャさんはノリノリだ。
今にも未踏地へ行こう、と言い出しそうな勢いだった。
サフィルさんもはやる気持ちが止められないようで、大きくうなずいた。
ところが、ギルドに向かうと、意外なことを言われた。
冒険者ギルドの受付、レイノルド爺さんがぼくらを手招きする。
「ようやく来たな、『紅月』。――指名依頼だ」
「救助ですか?」
クルスさんが尋ねると、爺さんは頭を振った。
一通の依頼書を手にして、ぼくらに見せる。
「今回はパーティ単位の依頼じゃない。――クルス、それとオタク。お前ら二人に、辺境伯家から指名依頼が来てる。受けるか?」
「ボクとオタクくんに? ……シルヴァちゃんが? なんでボクらだけ?」
よくわからないままに依頼書を読むと、そこには確かにぼくとクルスさん、二人の名前と、辺境伯家の家紋が押印されていた。
サインの名前はシルヴァーナさんだ。
でも、文面がおかしい。
「お茶会への……招待? 講師役として?」
「その依頼は今朝一番で届いた。詳しいことは、お嬢ちゃん経由で連絡が行くんじゃないか?」
爺さんは、きょとんと目を丸めているリルカさんの方を促す。
確かに、武器屋に寄ったからね。
入れ違いで宿に手紙が来ててもおかしくない。
「はぁ。……よくわからないけど、サインが本物だから受けます。オタクくんも良いよね?」
「はい、良いですよ。お茶会の話は以前してましたし、武勇伝でも聞きたいんじゃないですか?」
シルヴァさんは以前、周辺地域の貴族令嬢の、その妹方を招いてお茶会を開く、と言っていた。
そのお茶会に花を添える武勇伝が欲しいんだろう。
クルスさんはパーティリーダーだし、ぼくは以前にも別のAランクパーティの在籍経験がある。
講師役ってことは、たぶんそういうことだ。
ぼくら二人がサインをすると、爺さんが受け付けてくれた。
とりあえず、狩りどころじゃなくなっちゃったな。
「一度、宿に戻りましょうか。シルヴァさんからの連絡が届いてるかも」
「そうですわね。お姉様のことですから、貴族街を出る機会は一度に済ませているかも。連絡と依頼を、今日同時にやっている可能性は高いです」
シルヴァさん、あれでせっかちなところがあるからなぁ。
以前の観光護衛のときも、依頼するより先に宿屋に押しかけてきたし。
とりあえず当面の救助依頼がないことだけを確認して、ぼくらは宿に戻る。
慌ただしい一日だなぁ。
間が悪いというか何というか。
連絡が来たのが昨日だったら、一日中宿にいたのに。
……人様には見せられないことしか、してなかったけど。
「あれー? あれって、リルカちゃん家の馬車じゃん?」
「本当だ。やっぱ連絡来てたんじゃん。ちょうど入れ違いになったっぽいね」
宿の前に、辺境伯家の馬車が停留していた。
従者の人が馬車外に降りているので、宿屋の中に入って待ってるらしい。
「女将さーん、表の馬車、ウチらに用ー?」
「お姉様がた! お待ちしておりましたわ!」
食堂に入ると、なんとシルヴァさん本人が待っていた。
飛びついてくるシルヴァさんを、エイジャさんが抱き留める。
「シルヴァちゃん、わざわざ知らせに来てくれたの?」
「はい、クルス様! たまには貴族街を出てみたくなりますので!」
どうやら、連絡にかこつけて貴族街を飛び出してきたみたいだ。
息抜きになるなら外出するのも良いと思うけどね。
「依頼書にサインして、クエストは受けてきたけど。その件だよね?」
「はい、受けていただいたのなら話が早いです。招待状をお持ちしたので、わたくし自らが届けに参りました。事情の説明もさせていただきますわ」
ああ、なるほど。家を出られた口実は、招待状を届けに来たのか。
それは辺境伯様も外出を許すよね。
「じゃあ、とりあえず部屋に行こうか。ここじゃ目立ちすぎる」
そう言って、ぼくらは宿の上の自分たちの部屋に戻った。
クルスさんたちは装備を脱ぎ始めたけど、シルヴァさんはドレスを脱がなかった。
どうやら今回は、真面目なご招待みたいだ。
「というわけで、以前にお伝えしたとおり、友好的な貴族一派のご令嬢たちと、お茶会を催すことになりまして。クルス様とオタク先生に、冒険の話を聞かせていただきたく招待させていただきました」
「ああ、やっぱり。たぶんそうだろうな、と思ってたよ」
クルスさんも思い当たっていたようだ。
それくらいしか、ぼくらが同席する理由はないよね。
「なんでクルスとオタクくんだけなん?」
「本当はお姉様がたも全員お招きしたかったのですが……参加する未婚のご令嬢が、三人だけでして」
ああ、そりゃ無理だ。
人数的に釣り合ってない。
「……メインゲストより多い人数が同席したら、ご令嬢たちが萎縮しますね」
「そうなのです。ですので、貴族の心得にご見識のありそうなクルス様と、元Aランクパーティのオタク先生のお二人に人数を絞らせていただきました」
なるほどね、とぼくらはシルヴァさんの話を聞いていた。
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