第3回山上被告に「自分をえぐり抜かれた」宗教2世 「石ころ」への共感も

 安倍晋三元首相銃撃事件の第10回公判が終わった2025年11月20日の夕方、記者は奈良市内で行われた、ある弁護士の会見に出席した。

 全国霊感商法対策弁護士連絡会に所属する神谷慎一弁護士(55)。会見で神谷氏は涙を流した。記者が神谷氏の涙を見たのは、この日2度目だった。

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 《「山上さんは自分だと投影する人が何人もいた」「もし山上さんがやっていなければ私がやっていたんじゃないかと言う人もいた」。神谷氏はこの日、弁護側証人として出廷。法廷で連絡会に寄せられた宗教2世の声を紹介した。弁護側にどうすれば事件を防げたのかを聞かれると、「圧倒的に自分が努力不足だった。もっと早く(2世の)相談の窓口を作るべきだった」と涙ぐんだ》

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【動画】会見で涙を流す全国霊感商法対策弁護士連絡会の神谷慎一弁護士

 自身も北海道大在学中に勧誘され、両親らの熱心な説得で脱会するまで10カ月ほど信者だった。

 2世の多くがなぜ自分と被告を重ねたのか。記者は証言を補足してもらおうと、改めて話を聞いた。

 神谷氏は、安倍元首相が2021年に教団関連団体に寄せたビデオメッセージの存在が大きいと指摘した。

 「多くの2世が絶望した。人生を壊され、希望を失わせた教団を首相経験者が後押ししたことで、国は教団を追及するどころか応援するのかと」

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 《神谷氏の会見の前日、被告の妹が証言台に立った。自殺や事件を起こす以外に山上家に方法はなかったのかと弁護側が尋ねた。妹は「相談窓口を探したが、脱会支援の窓口であり、親が入信して困ったときの相談窓口は見つけられなかった」と述べた》

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 神谷氏は裁判の前から、被告の妹の相談にのり、やり取りを重ねてきた。

 取材に対し神谷氏は「とても重たい当事者の言葉。私にとって痛恨の事件であり、起きる前に何かできたのではないかとずっと悔いている」と話した。

 法廷で被告の顔を見て申し訳ない気持ちになったという。自身の尋問が終わると、被告に一礼し、被告も頭を下げ返していた。

 2世が裁判での被告の発言をどう考えているのか。記者は聞いて回ることにした。

 最初に話を聞いたのは東日本の40代男性。事件後、「田村一朗」の仮名でブログを始めた。「自身の経験が必要な誰かに届く」ことを願った。

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SNSで「田村一朗」の仮名でメッセージを発信している2世信者の男性。手にしている桜井義秀・北海道大教授などが書いた本を読んだことで旧統一教会に疑問を抱き始めた=2025年12月3日、東日本の自宅で

 自身が小学校低学年の頃、両親が旧統一教会に入信。両親から教義を教え込まれた。両親は不動産を売り、借金もして計1億円ほど献金した。

 将来やりたい仕事があり、大学進学を望んでいた。その矢先、教団から「教会の活動に身を捧げよ」と指示された。大学進学をあきらめ、コーヒーやハンカチの訪問販売に回った。

 地元教会の幹部だった両親に消費者金融などのカードを作るよう言われ、300万円ほど借金。かなりの額を教団に渡した。

 両親からは「教会が責任をもって返す」と聞かされていたが、戻らずに任意整理に踏み切った。

 30代にさしかかったころ、周りの信者の家庭が高額献金で続々と崩壊していくのを目にした。「教会に従って献金すれば世の中が良くなると思い込んでいたが、真逆なのでは」と疑問を感じ、教団と距離を置いた。

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 《被告は45歳。裁判で弁護側からその年齢まで生きていると思ったかを問われ、「生きているべきではなかった。大変ご迷惑をおかけしておりますので」と話した》

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山上徹也被告が勾留されている大阪拘置所の入り口=2025年10月27日、大阪市都島区、市原研吾撮影

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 被告の言葉を聞き、田村さんは「自分という存在がえぐり抜かれたような気がした」という。

 裁判を傍聴しようという気にはなれなかった。合わせる顔がないと思ったからだ。

 被告は母に促されても入信しなかったが、自分は妄信した。物販に駆け回り、教団の活動に加担した。それを考え、「本来、被告が狙うべきは自分のような存在」と考えるようになった。

 被告は事件前、カルト問題を扱うジャーナリストらに連絡を取ろうとしていた。

 田村さんは脱会から間もなくして、情報発信をしようとしたことがある。でも、教団を批判することが怖くなり、ためらった。

 2世同士が話す環境があればどうだったのか。「事件前にブログを立ち上げて積極的に発信していれば、何か違ったかもしれない」

【動画】無期懲役を求刑された山上徹也被告に温情ある判決を求めるデモ

 裁判が結審して3日後の25年12月21日、雨の中で50人超がデモ行進した。

 結審の日、記者は傍聴券の抽選に並んだ人からデモの告知のチラシを渡された。どれだけ集まるのかが気になっていた。

 「加害者になる前に 被害者だった」「人生を取り戻す機会を」。参加者は裁判が行われている奈良地裁前を通り、訴えた。

 デモに参加していた元信者の70代半ばの女性に話を聞かせてもらった。

 「子どもの幸せのためと信じ、生活が苦しくても献金してしまう。親子ともに被害者なんです。山上家ほどではなくても、似た2世家庭が多い現実をわかってほしくて」

 記者は田村さんの紹介で、「はつほ」の名でX(旧ツイッター)で2世支援に関わる内容を発信する東日本の2世の女性と連絡がついた。

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 《被告の妹は法廷で、弁護側に問われ、母の教団活動への入れ込み具合を証言した。

 「平日は毎日、日曜も午前は家にいない。教団活動と献金で頭がいっぱいで私には無関心。40度の熱でも病院に連れて行かず、教団の活動に行くくらい」》

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 はつほさんは両親が信者だった。献金で家計が苦しくなっても子どもに目を向けず、教団活動ばかり気にしていたという。

 「ネグレクト(育児放棄)への怒りをどこにぶつければいいのか。誰も理解も支援もしてくれなかった」

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 《被告は弁護側に高校の卒業アルバムで「将来の夢」について何と書いたかを聞かれ、「石ころ」と回答。その理由について「ろくなことがないだろうということです」と語った》

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 はつほさんは25年12月8日、被告の「石ころ」発言についてXに書き込んだ。

 「これって、凄(すご)く分かる。目立たなくてもいい、平凡でありきたりの普通になりたかった」

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宗教2世の女性は、山上徹也被告が高校時代の夢に「石ころ」と書いたことを「凄(すご)く分かる」とXに投稿した

 同じ頃こうも書いた。

 「被告の代わりに私が叫ぼう 『平穏な日常を、人生を返して!』」

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 甲斐江里子、黒田陸離、市原研吾が担当しました。

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    藤田直哉
    (批評家・日本映画大学准教授)
    2026年1月20日5時0分 投稿
    【視点】

    全国霊感商法対策弁護士連絡会の神谷慎一弁護士も元信者で、宗教二世でもあるが信者でもあったので、加害者側であるという自己認識を持って活動されているのですね……。複雑な感情、加害と被害が入り混じるような状況が、胸に来ます。 ……そもそも、なぜそのような妄信が発生してしまうのか。どうして人はカルトを信じることが必要になってしまうのか。そこを解決することをできないのだろうか。それに対する解決を社会的・政治的課題として取り上げ、解決を志向することはできないだろうか。 少なくとも、そのような心理的にニーズを利用し、お金を儲けたり集票する組織や集団がなければ、家庭崩壊やネグレクトがこれほど広範に発生することはなかったのではないか。カルトや、それを利用した政治、黙認した制度やメディアには大きな責任があろうと思います。日本や家庭を守ると主張しながらそれでは、当然信用されなくなり、信任されることもなくなるのではないでしょうか。そのような組織や人が強く裁かれ、犠牲になる人が減る方向に社会が進むことを期待します。

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