ソニーでもトヨタでもない…テレビ・新聞が報じない「ものづくり大国・日本」復活の切り札となる「次の主役」
■単なる「職人」でも、「IT人材」でもない さらに重要なのは、現場の人材が設計者やIT人材、さらには経営層とも共通言語で対話できることである。試作という工程は、設計と量産をつなぐ中間に位置している。ここで情報が断絶すれば、フィジカルAIも十分に機能しない。現場の判断がデータとして設計にフィードバックされ、量産工程へとつながっていく。その循環を成立させるためには、工程全体を俯瞰し、どこに課題があり、どこを改善すべきかを考えられる人材が不可欠になる。 言い換えれば、これから求められるのは、単なる「職人」でも「IT人材」でもない。技能、データ、システム思考を併せ持つハイブリッド型のものづくり人材である。この人材像は理想論ではない。フィジカルAIを実装する現場では、すでに必要不可欠な存在となりつつある。 ただし、こうした人材は自然には育たない。日々の納期対応に追われ、試行錯誤の余裕がない現場に任せきりにしていては、育成は進まない。意図的に学ぶ時間を確保し、失敗を許容し、現場と理論を往復できる仕組みを設計する必要がある。ここで決定的な役割を果たすのが、大学をはじめとする教育機関である。 ■大学に求められる「新たな役割」とは 大学は、研究成果を発表する場である以前に、産業の未来を担う人材を育てる社会装置である。特に工学系やMOT(Management of Technology、技術経営)系の大学院は、技術と経営、現場と理論をつなぐ役割を本来担っている。フィジカルAI時代のものづくりにおいては、現場で起きている課題を抽象化し、再び現場に戻すことができる人材を育てることが求められる。 試作・基盤加工という領域は、これまで教育の中心から外れがちだった。しかし、この領域こそが日本の製造業の競争力を支えてきた中核であり、次世代に引き継ぐべき知の宝庫である。人材をアップデートするとは、現場を軽視することではない。むしろ、現場を再び「学びの中心」に据え直すことに他ならない。 フィジカルAI時代の変革は、設備投資やシステム導入だけでは完結しない。人材のアップデートなくして、試作・基盤加工の再生はあり得ない。そして、この人材こそが、次章で述べる社会全体の取り組みを支える基盤となるのである。