ソニーでもトヨタでもない…テレビ・新聞が報じない「ものづくり大国・日本」復活の切り札となる「次の主役」
■フィジカルAI時代に「最も大切なこと」 ---------- 試作とは、単一の加工技術を適用する作業ではない。どの加工法を選び、どの順序で組み合わせ、どこで精度を追い込み、どこで妥協するのか。その一つひとつの判断が、組立製品としての成立性や、量産への移行可能性を左右する。つまり、汎用的基盤加工技術は「下請け的な作業」ではなく、製品価値を実質的に形づくる中核的な要素技術なのである。 本文で述べてきた通り、試作とは日本の製造業にとっての「学習装置」である。その学習が実際に起きている場所こそ、この汎用的基盤加工の現場だ。設計では見えなかった問題をあぶり出し、加工条件を変え、再試作を重ねることで、製品は現実に耐えうる形へと鍛え上げられてきた。試作を担うものづくり中小企業は、まさにこの領域で知を蓄積してきた存在である。 だからこそ、フィジカルAIが最初に向き合うべき対象も、この汎用的基盤加工技術の領域になる。加工条件や結果をデータとして捉え、次の判断へと還流させることで、試作は「手探りの作業」から、再現性のある知的な学習プロセスへと進化する。ここを押さえずにフィジカルAIを語ることは、現場を持たない空論に等しい。 そしてもう一つ重要なのは、これらの加工技術を理解し、組み合わせ、最終判断を下すのは人であるという点だ。汎用的基盤加工技術を軸に試作を成立させてきた知こそが、フィジカルAI時代において最も価値を持つ。この領域を読み解ける人材こそが、次章で述べる「ハイブリッド型ものづくり人材」の中核となるのである。 ---------- ■最終的な成否を決めるのは「人」 第5章:人材をアップデートしなければ、変革は実現しない フィジカルAIが試作・基盤加工という領域において現実的な突破口となり得ることは明らかになった。しかし、ここで一つ、はっきりと確認しておかなければならない。技術だけで現場は変わらない。この変革の成否を最終的に左右するのは、AIそのものではなく、それを使いこなす人材である。 これまでの試作現場では、加工技能や材料知識、経験に裏打ちされた勘、突発的なトラブルへの対応力といった能力が重視されてきた。それらは、日本の製造業が長年にわたって世界で評価されてきた理由そのものであり、決して否定されるべきものではない。むしろ、これからの変革は、こうした技能を土台として進めなければ成立しない。 しかし同時に、21世紀後半に向かう現在、試作・基盤加工の現場に求められる人材像は、確実に変化している。加工条件や結果を感覚だけで判断するのではなく、データとして捉え、そこから意味を読み取る力が必要になっている。AIやITを「よくわからないもの」として距離を置くのではなく、道具として使いこなし、自らの判断を補強する存在として位置づける力が求められるようになっている。