ソニーでもトヨタでもない…テレビ・新聞が報じない「ものづくり大国・日本」復活の切り札となる「次の主役」
■現場で学び、進化する力を「再起動」 さらに、フィジカルAIは試作と量産の間に横たわる断絶を埋める役割も果たす。試作段階で蓄積されたデータや知見が、そのまま量産工程の条件設計や品質管理に活かされるようになれば、「試作でできたが量産で再現できない」という典型的な問題は大きく減る。これは、大手企業にとっても極めて大きな価値を持つ。 なぜ今、この変革が可能なのか。その理由は、技術的な前提条件がすでに整っているからである。センサーは低価格化し、加工機や設備に容易に組み込めるようになった。エッジAIによって現場でリアルタイムに判断を下すことも可能になり、クラウドやデジタルツインとの連携も現実的な選択肢となっている。足りないのは技術ではなく、「どこに使うか」という視点である。 そして、その使いどころこそが、試作・基盤加工という領域なのだ。ここをフィジカルAIによってアップデートすることは、単なる現場改善ではない。日本の製造業が本来持っていた「現場で学び、進化し続ける力」を、21世紀の技術によって再起動する試みなのである。 ---------- 【コラム】なぜ「汎用的基盤加工技術」が試作の成否を決めるのか 組立製品(試作品)の競争力は、設計思想やソフトウェアによって決まると思われがちだ。しかし実際には、その成否の大半は、設計と現実の間にある「汎用的基盤加工技術」によって決まっている。試作段階で起きる成否の分かれ目は、図面の優劣ではなく、加工技術をどう選び、どう組み合わせ、どう判断したかにある。 提示した図は、組立製品(試作品)がどのような要素技術の階層によって成立しているかを示している(図表1)。最上層にはソフト系があり、プログラムやデータが製品の知能化やユーザー体験を担う。その下にエレクトロニクス系があり、電子部品や制御回路、アクチュエータによって機能と応答が実現される。そして最下層に位置するのがメカニクス系である。剛体やフレーム、金型といった骨格、機構・仕組み、締結や動力伝達、流体・密封といった機械要素が、製品の物理的成立条件を決定づける。 重要なのは、これら三層の要素技術が、右側に示された加工技術(汎用的基盤技術)によって初めて現実のモノとして成立するという点である。旋盤やフライスによる除去加工、板金・プレス・剪断といった塑性加工、放電加工やワイヤーカット、レーザー加工、鋳造・鍛造・ダイキャスト、さらには熱処理や表面処理。いずれも「汎用的」と呼ばれるが、試作段階では材料も形状も条件も確定しておらず、条件出しそのものが高度な技術判断となる。 ----------