ソニーでもトヨタでもない…テレビ・新聞が報じない「ものづくり大国・日本」復活の切り札となる「次の主役」
■「見て覚える」技能継承の限界 さらに深刻なのは、技能継承の問題である。試作現場の技能は、マニュアル化しにくい暗黙知に支えられてきた。長年にわたり「背中を見て覚える」形で受け継がれてきたが、若手人材が減少し、熟練者が高齢化する中で、この継承モデルそのものが機能しなくなりつつある。これは努力の問題ではなく、社会構造の変化によって時間切れを迎えた結果だと言える。 こうして見ていくと、試作を担うものづくり中小企業の衰退は、誰か一人の判断ミスによって引き起こされたものではない。合理性を追求した結果として生まれた取引慣行、外部化の進展、技術の複合化、そして人材構造の変化が重なり合い、構造的に避けがたい形で進行してきた現象である。 だからこそ、この問題は自然に解消されることはない。市場原理に任せていれば回復する、という性質のものではないのである。この構造を正しく認識しない限り、次章で述べるような影響は、より深刻な形で表面化していくことになる。 ■試作の衰退がもたらす「本当の影響」 第3章:衰退が進んだ先で、日本の製造業が直面する現実 試作の衰退がもたらす影響は、中小企業の存続問題にとどまらない。むしろ本当の影響は、大手企業の開発力、ひいては日本の製造業全体の競争力に表れる。しかもその影響は、短期的な業績悪化として一気に表面化するのではなく、時間をかけて企業の体質を変え、気づいたときには取り返しのつかない差となって表れる。 まず顕在化するのは、開発スピードの低下である。試作の受け皿が減れば、設計が完了してもモノが上がらない状態が常態化する。試作待ちが発生し、設計変更の反映に時間がかかり、結果として市場投入が遅れる。だが、より深刻なのは単なる遅延ではない。試作のやり直しが難しいという前提が組織内で共有されることで、「一度で決めなければならない」という空気が強まり、設計段階での挑戦そのものが抑制されていく点にある。 この変化は静かだが、確実に効いてくる。設計部門は次第に、技術的に尖った案や構造的に新しい発想を避け、無難で過去実績のある解に寄っていく。表面上はリスク管理が徹底されたように見えるが、実際には試行錯誤を通じた学習の機会が減り、技術的な飛躍が起こりにくくなる。試作が弱るということは、挑戦の余白が失われるということでもある。