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「Metaが日本で広告規制回避策を編み出し、世界展開」とロイター、SNS詐欺広告の現状とは?

桜美林大学教授 ジャーナリスト
「メタが日本で、政府による広告規制の回避策を編み出し、世界に展開した」とロイターが報道(筆者撮影)

メタが日本で、政府による広告規制の回避策を編み出し、世界に展開した――。

ロイター通信は2025年12月31日付の記事で、メタの社内文書の検証からそんな動きがあった、と指摘している。

その動きがあったとされるのは、フェイスブック、インスタグラムなどでの著名人のなりすまし詐欺広告が社会問題化した2024年だ。

両サービスを運営するメタは、日本の規制当局が詐欺対策の効果測定ツールとして、広告の掲載情報を公開する「広告ライブラリ」に着目していることを把握。「広告ライブラリ」に表示される詐欺の疑いのある広告を集中的に削除し、さらに検索結果として表示される広告数を少なくすることで、「当局の目に触れにくくする」という"スクラビング(洗浄)"の手法を編み出した、という。

この手法は成功例とされ、世界展開された、とロイター通信は報じている。

だが日本のソーシャルメディア(SNS)型の詐欺被害は、一時的に沈静化したものの、2025年は前年を上回る増加傾向にある。

対策の強化は、より重要性を増している。

●「広告ライブラリ」検索結果の"洗浄"

我々は新たな指標として「広告発見可能性」を特定した。これは、外部関係者が「広告ライブラリ」で詐欺的広告を簡単に見つけられる場合の、規制リスクの把握に役立つ。規制当局は、メタの詐欺対策の効果を評価する際に「明白な問題の見逃しがないか」を調べる簡易テストとして、「広告ライブラリ」をよく使う。新たな指標は、その代用として利用できる。

ロイター通信の2025年12月31日付の記事は、メタの社内文書のそんな一節を紹介している。

メタは広告の透明性ツールとして2019年から「広告ライブラリ」を公開している。掲載中の広告に加えて、EU、英国で掲載された広告は過去1年分、社会問題、選挙または政治に関連する広告はEU・英国以外の地域でも過去7年分について、広告主や掲載期間などの情報を検索で調べることができる。

※参照:ネット広告透明性ツールは「見つけ出すことすら難しい」、調査結果が示すその実態とは?(04/22/2024 新聞紙学的

ロイター通信によればメタは、日本の規制当局がこの「広告ライブラリ」を同社の詐欺対策の効果を確かめる「簡易テスト」として利用していることを把握。そのテストで「良い成績を収めるため」、「広告ライブラリ」の検索結果に表示される詐欺広告をあらかじめ削除しておく"検索スクラビング"の手法を編み出した、という。

具体的には、日本で詐欺広告の関連で使われるキーワードと著名人の名前を特定。検索を繰り返し実行し、詐欺とみられる広告を「広告ライブラリ」から削除。合わせて広告の掲載先であるフェイスブック、インスタグラムなどからも削除しておくことで、詐欺広告の「蔓延のイメージ」を制御していったという。

社内文書には、この「(詐欺)広告発見可能性」を低下させる目的について、「規制当局、捜査当局、ジャーナリスト」に対して問題のあるコンテンツが「目につかないようにすること」と記されているという。

さらに社内文書によれば、メタはこの「広告ライブラリ」検索結果の事前削除の手法を成功と評価し、米国、欧州、インド、オーストラリア、ブラジル、タイなど他の市場で規制当局の監視に対抗するために展開してきた文書「グローバル・プレイブック」に、この手法を追加したという。

メタはまた、削除に加えて、「広告ライブラリ」の検索結果の表示を、掲載中の広告(アクティブ)のみに絞り込むというデフォルト設定の変更も行ったという。

これにより、規約違反があったとして掲載停止にした広告や掲載終了の広告(非アクティブ)は、デフォルトでは検索結果には表示されなくなり、問題がなさそうな掲載中の広告のみが並ぶことになった(※ユーザーによる設定変更で非アクティブ広告を表示させることは可能)。

ロイター通信の取材に対し、メタ広報担当のアンディ・ストーン氏は、誤解を招くようなことは何もないとし、「メタのチームは定期的に『広告ライブラリ』をチェックし、詐欺広告を特定している。『広告ライブラリ』に表示される詐欺広告が減るということは、プラットフォーム上の詐欺広告も減っていることを示すからだ」と述べている。

ロイター通信はこれ以前にも、メタの社内文書をもとにした詐欺広告問題を取り上げている。

11月6日付の記事では、メタは1日あたり推定150億件の明らかな詐欺の兆候を示す「高リスク」詐欺広告を表示しており、その広告から年間約70億ドル(約1兆1,000億円)の収益を得ている、と社内文書に記されていると報じた。

この報道を受け、米上院の有力議員、ジョシュ・ホーリー氏(共和)、リチャード・ブルメンソール氏(民主)は、連邦取引委員会(FTC)と証券取引委員会(SEC)の委員長に対し、同社を調査するよう要求している。

●日本で注目された「なりすまし詐欺広告」

ロイター通信が指摘する"検索スクラビング"の手法が編み出された2024年は、日本で著名人を騙るなりすまし詐欺広告が社会問題として注目された時期だ。特に関心が高まったのは同年4月だ。

4月10日には詐欺広告でなりすましをされた被害者、前澤友作氏、堀江貴文氏が自民党の勉強会に出席。プラットフォームへの規制を訴えた。

4月16日には、これを受ける形でメタの公式サイトで「著名人になりすました詐欺広告に対する取り組みについて」と題する声明を公開。「詐欺広告をプラットフォーム上からなくすことは、Metaのビジネスにとって必要不可欠」などと釈明をした。

また、詐欺広告被害者らが、メタを相手取る集団訴訟を起こした。4月25日の神戸地裁への提訴(原告5人)を皮切りに、10月にはさいたま、千葉、横浜、大阪、神戸の各地裁(原告計30人)、翌2025年2月にはさいたま、千葉、横浜、大阪の各地裁(原告計24人)、6月には名古屋地裁(原告5人)に提訴しており、原告は計64人に上る。

この時期の警察庁のまとめ(2024年1月~5月)では、SNS型詐欺の認知件数は3,049件、被害額は約430億2,000万円。「被害者との当初の接触手段」としては「バナー等広告」が最も多く51.8%、次いで「ダイレクトメッセージ」が19.1%だった。「バナー等広告」の内訳はトップがインスタグラム(31.7%)、次いでフェイスブック(22.0%)。「ダイレクトメッセージ」の内訳はトップがインスタグラム(29.6%)、次いでフェイスブック(22.0%)。どちらもメタのサービスが半数以上を占めた。

自民党は2024年6月3日、4月の勉強会などを踏まえ、「著名人ニセ広告等を利用したSNS型投資詐欺対策に関する提言」をまとめている

ロイター通信の今回の報道では、広告の"検索スクラビング"について、メタの社内文書は「前週1週間で発見した(詐欺の疑いの)広告は100件未満、そのうち最後の4日間は該当ゼロだ」とその成果を挙げ、日本の政治家もインタビューでこの改善を称賛した、と記されていたという。

ロイター通信の記事では、この政治家を自民党の「コバヤシ・タカユキ」だとし、「詐欺広告はすでに減少している」との発言が紹介されている。小林鷹之氏(現党政調会長)と見られるが、少なくとも記事データベースなどでは、そのような発言は見当たらない。

一方、提言をまとめた自民党ワーキングチームの事務局長、小林史明氏(現党経済産業部会長)は、「この政策の議論を進める中でMetaに対応していただき、詐欺広告が激減していることを確認している。その意味では効果が出てきたと考えている」(2024年6月5日付、CNET Japan)、「Meta(メタ)のサービスに詐欺広告が目立っていたがこのワーキンググループの働きかけにより大きく減少した」(同月26日付、DIGIDAY日本版)といった同趣旨の発言をしている。

警察庁の2024年通年のまとめによると、SNS型投資詐欺は4月をピーク(認知件数816件、被害額115億1,000万円)に、5月(同545件、96億7,000万円)、6月(同521件、76億3,000万円)と減少傾向を見せている(※だが、後述のようにその後、増加に転じている)。

ロイター通信の記事では、メタの社内文書の日付などは明示されていないが、2024年4月から6月がメタの取り組みのハイライトだったように見える。

●メタが懸念した「本人確認」

メタが広告の"検索スクラビング"に注力したのは、日本の規制当局による広告出稿の「本人確認」義務化を懸念したからだと、ロイター通信は伝えている。

なりすまし詐欺広告の対策として、前述の自民党の提言には「広告の発信者に関する本人確認を行うための手法を検討すること」が盛り込まれており、政府の犯罪対策閣僚会議が2024年6月18日付でまとめた「国民を詐欺から守るための総合対策」でも「SNS事業者等による実効的な広告審査等の推進」として「広告出稿者の本人確認の強化を要請」が挙げられている

ただし、これらはいずれも法整備による「本人確認」義務化を見据えた書きぶりではなく、要請ベースにとどまっている。

これに対してメタは、同年7月16日の声明「詐欺広告に対する取り組み強化について」で、「広告主に対する審査の厳格化」として、新規の広告主に対して「広告を掲載する前に広告アカウントに紐づく有効な電話番号の確認」の手順を取り入れた、と布石を打っている。

日本ではその後、「本人確認」義務化の議論が高まっているようには見えない。ロイター通信の記事を踏まえると、この一連の経緯の中で、メタは日本での広告の"検索スクラビング"を成功例と位置付け、世界に展開したようだ。

メタが懸念した「本人確認」義務化が、まったく杞憂だったわけでもない。

台湾では2024年7月に施行された「詐欺犯罪被害防止法」で、グーグル、ユーチューブ、LINE、フェイスブック、インスタグラム、ティックトックの6プラットフォームを対象に、詐欺防止策を義務付け。その1つとして、広告主の本人確認も義務付けている

台湾デジタル発展省は2025年だけで、メタに対し、広告主の情報開示義務違反を含む合わせて4件の「詐欺被害犯罪防止法」違反で、計1,850万台湾ドル(約9,240万円)の罰金を科している

ロイター通信の今回の記事によると、メタの社内文書は、台湾のような法規制によって抑え込まれた詐欺広告は、複数国を掲載対象としていた場合、法規制のない残りの対象国に流入する、と記している。2025年3月のメタ社内文書は、こう述べているという。

台湾をターゲットとする未検証広告の収益は、残りの対象国へ再分配/再ルーティングされた。これには有害広告も含まれる。

日本も例外ではないだろう。

●メタの「成功」と日本の被害の深刻化

メタにとっては、日本での広告の"検索スクラビング"は「成功」事例だったようだ。

だが、日本の状況は2024年当時に比べてさらに深刻化した。

前述の警察庁の2024年通年のまとめでは、SNS型投資詐欺のSNS型投資詐欺の認知件数は合わせて6,413件、被害総額は871億1,000万円。4月以降、減少傾向にあったものの認知件数では11月、被害件数では10月にいったん底を打ち、増加に転じている。

さらに2025年(11月末現在)のまとめを見ると、SNS型投資詐欺の認知件数はすでに前年を上回る8,217件、被害総額が1,071億1,000万円だ。11月だけでも、認知件数が974件、被害額が125億9,000万円と、2024年4月のピーク時を上回っている。

その態様にも変化がみられる。

2025年のまとめでは、「被害者への当初の接触手段」は「バナー等広告」の割合は39.0%に下がる一方、「ダイレクトメッセージ」が38.4%を占めた。「バナー等広告」ではトップがユーチューブ(27.1%)となり、次いで「投資のサイト」(18.3%)。インスタグラム(16.1%)は3位、フェイスブック(6.5%)は6位だった。「ダイレクトメッセージ」の内訳はインスタグラム(28.6%)、LINE(17.4%)、フェイスブック(14.3%)の順だ。

そして、「被害時の連絡ツール」は2024年も2025年も一貫してLINEが90%超を占める。

ソーシャルメディアを舞台とした詐欺被害が拡大していることは間違いない。

その対策の強化は、より重要性を増している。

[※情報開示:筆者が運営委員を務める日本ファクトチェックセンターは、Google.org、LINEヤフー、Metaから資金援助を受けている]

(※2026年1月5日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

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ありがとうございます。
桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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