内外経済ウォッチ『日本~「責任ある積極財政」の実像~』(2026年2月号)

星野 卓也

目次

拡張色は薄まった高市財政

高市政権が掲げる「責任ある積極財政」を巡って、政権発足当初から財政規律の弛緩を懸念する声が根強かった。高市首相は自民党総裁選の段階から、プライマリーバランス(PB)目標が成長投資の足かせになってきたとの見解を示し、積極的な財政運営への意欲を隠さなかった。こうした経緯から、2025年末の予算編成は、その路線が実際にどのような姿を取るのかを見極める試金石として注目を集めた。

結論から言えば、懸念されたような拡張一辺倒の路線にはならなかった。補正予算では積極姿勢がのぞいたものの、その後の税制改正と当初予算は、総じて穏当な内容に落ち着いた。金利上昇という市場の牽制が財政運営に影響を与えた格好だ。

2025年度補正予算は、財務省原案の14兆円程度から高市首相の指示で4兆円程度が積み増され、最終的に18.3兆円になったと報じられている。新規国債発行額も11.7兆円と前年度から増加した。この動きが報じられた11月中旬以降、長期金利は上昇基調を強めた。市場が反応したのは国債発行額の絶対水準というよりも、首相が積極財政色を前面に出して予算編成を主導したという「姿勢」だった可能性が高い。

この金利上昇が、その後の税制改正や当初予算に影響した。税制改正では「年収の壁」対応として課税最低限を178万円に引き上げることが決まったものの、減税規模は当初の国民民主党案(8兆円弱)から1.8兆円程度へと大幅に縮小した。2026年度当初予算も歳出総額122.3兆円と過去最大となったが、歳出増加額のうち国債費と地方交付税交付金で約7割を占める。いずれも金利上昇や税収増に連動する機械的な増加であり、高市政権が独自に拡大したものではない。むしろ注目すべきは、当初予算ベースで28年ぶりに一般会計PBが黒字化する見込みとなった点だ(資料)。積極財政を打ち出すもとで、着々と財政赤字の縮小が続いている状況となっている。

骨太方針2026の焦点

今後の焦点は、6月頃に策定される「骨太方針2026」である。ここでは財政健全化目標の見直しが俎上に載る可能性が高い。想定される方向性は3つだ。第一にPB目標の複数年度化、第二に債務残高対GDP比の安定化目標の格上げ、第三に成長投資を別枠とする「ゴールデンルール」型の導入である。市場はその実効性などから財政への影響を見極めることになる。

また、日本版DOGE(租税特別措置・補助金見直し担当室)が2027年度予算から本格稼働する。これは単なる歳出削減ではなく、効果検証が不十分な施策を精査し、成長分野へ資源を再配分する取り組みだ。「補正予算の常態化・肥大化」への対応も検討されており、財政運営の透明性向上が図られる見込みである。

高市政権の「責任ある積極財政」は、野放図な財政拡張というよりは、金利環境を意識しながら財政の質的改善を図る現実路線へ向かっているように映る。今年の骨太方針は「責任」と「積極」の具体的な中身を明らかにする場となろう。

図表
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星野 卓也


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星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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