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薛剣駐大阪総領事の高市首相への暴言問題――ペルソナ・ノン・グラータを回避する『栄転』という落とし所

 中国の薛剣駐大阪総領事の暴言とその落としどころについて、解説したい。そこでまず、ある程度前提状況を理解する必要がある。

習近平政権下の中国による軍事力増強の実態

 中国は習近平政権になって以降、より軍事力増強に邁進し、更に周辺諸国への軍事的威嚇や、直接的に離島の占拠や、武力衝突を行い、核戦力の増強を行っている。軍事力の増強内容は多岐にわたるが、空母キラーと言われつ中距離ミサイルの開発と配備、空母の開発と配備、様々な用途のドローンの開発、第5世代戦闘機の開発と大量配備などが表向きに出ている内容のごく一部だ。

 さらに空母以外の艦隊戦力も大幅に増強し、台湾進攻を見据えて、揚陸艦の開発と配備も行っている。

 またグレーゾーンでの台湾封鎖による政権転覆も考慮して、海警局と言う日本で言うところの海上保安庁に近い立ち位置の組織に、軍艦を配備し、内政による取り締まりという口実での、台湾の封鎖も画策している。

 これは日米の干渉を排除するための策略であるが、米国はいかなる形でも台湾の封鎖は戦争行為と見なすと明言している。

 即ち、日米も台湾も、中国による軍事的エスカレーションの危機に直面している。

台湾有事が引き起こす世界経済への破局的影響

 中国による台湾侵攻が発生した場合、世界経済はロシアによるウクライナ侵攻を超える経済的破局を迎える。

 そもそも中国とロシアでは経済規模が天と地ほど差がある。さらに、ウクライナには申し訳ないが、経済的重要性は遥かに台湾の方が上で、台湾が戦争状態になり、事実上輸出がストップすると、ほぼ全ての工業製品の生産がストップしかねない。

 更に日本への影響は甚大で、台湾海峡経由での輸出入が遠回りになるというだけではすまず、中国からの攻撃を考慮して商船の保護も考えなければならず、悪夢でしか無い。

 そのため、そもそも日本は、中国に台湾侵攻をさせないことが極めて重要であり、抑止メッセージを誤ってはならない。

バイデン政権による曖昧戦略の転換

 米国側でも、それまでの曖昧戦略を、バイデン前大統領の意図的な介入発言と、その後の訂正という茶番を4-5回も繰り返したことからわかるように、事実上の曖昧戦略の転換を意識させることで、中国が台湾の現状変更の意志を示していることに対応しての抑止の効果を高めている。

 よくある過ち、もしくは中国の意図を反映した意見としては、バイデンがボケたとか、バイデン側からエスカレーションしているという意見があるが、因果を逆転した妄言と言えよう。

高市首相発言の真意と抑止力強化の戦略

 さて、薛剣氏の暴言の発端となった高市首相の発言について考えよう。

 現下の厳しい東アジア情勢では、抑止力を高めるのは当然のことであり、抑止は軍事力の増強だけでは無意味で、その意志を適切に示すことも必要となる。

 一部は高市首相の発言は失言であると見做して、攻撃手段として使っているわけだが、これは米政府が前政権でやった茶番と同じで、抑止を高めるためのメッセージと見るべきであろう。

 わざわざ、質問に呼応して具体的状況を答えて、後に具体的に言うべきではなかったと改める。しかし、結果的に日本の介入の可能性を示したことで、抑止のメッセージは強化された。状況的に完全にバイデン前大統領のときと同じパターンである。

 これを全面的に撤回した場合は、中国に対して、日本は台湾侵攻に何もしないという誤ったシグナリングとなりかねないので、当然すべきではない。

薛剣氏の戦狼外交とリトマス試験紙の役割

 さて、次は薛剣氏の取り巻く状況を考えよう。

 まず、あの発言は戦狼外交の一環であることは間違いない。氏は間違いなく、日本国内向けの戦狼外交役を担っている。そのうえで、薛剣氏は2021年から駐大阪総領事を務めており、期間的に帰任が噂されていた。

 また、中国は日本での影響力工作を強めており、今回の発言は戦狼外交としての発言としてだけではなく、リトマス試験紙の役割を果たしている。

 このような暴言でも味方をしたり、取り成ししようとするものは誰か、日本国民はどの程度踊らされるか、SNSでインフルエンサーはどのように扱い、どのような人物が取り込みやすいか観察している。

 また、高市首相の一歩踏み込んだ発言にどのレベルで、どの程度リアクションすべきか混乱している状況がある。

日本側が示す現実的な落とし所

 さて、薛剣氏の暴言について、すでに日本側からの落とし所は実質的に示されている。

 中国側としては発言を削除しただけで済ませて、高市発言こそが問題であるとしたいのだろうが、日本側はそのラインには乗る姿勢を見せていない。

 与野党の一部政治家はペルソナ・ノン・グラータを訴えているが、そこを落とし所にしようとは日本政府も考えていない。

 自民党の外交部会と外交調査会は11月11日、「中国側の問題解決への努力がなされない場合、薛剣氏をペルソナ・ノン・グラータとして国外退去させることも含め、政府が毅然とした対応をとるよう求める」決議を採択したが、ここで重要なのは"中国側の問題解決への努力がなされない場合"とされていることである。

双方のメンツを立てる解決策

 ではこの場合の中国側の対応とは何か。それは中国と日本が双方のメンツを立てて、日本から見れば薛剣氏の自主的な国外退去であり、中国にとっては薛剣氏の栄転による転任、もしくは離任という形で、ペルソナ・ノン・グラータの発動を回避するということである。

 中国は経済的に極めて厳しい状況にあり、日本との関係をこれ以上悪化させたいとは考えていない。日本もまた、中国との関係を悪化させるつもりはない。よって、これが良い落とし所となるだろう。

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