自縄自縛の巨人:なぜ中国は「抗日ナラティブ」と「経済失政」の狭間で対日強硬論に逃げ込んだのか
何故中国は日本に対して、今回強硬な態度を取っているのかを解説したい。
中国の厳しい国内情勢と構造不安
まず、前提として中国の厳しい国内情勢がある。以下のような構造不安のなかで、対外強硬路線・ナショナリズムをガス抜きとして利用している。
ゼロコロナ政策の失敗による国民の不満、白紙運動による政権の動揺と大量の死者発生、不動産バブルの崩壊、過剰生産と内巻、更に関税問題、それらによる太陽光とEVビジネスの苦境、GDP成長率の低下と経済政策の失敗、未婚率の上昇と急激な少子高齢化と出生率の急減、共産党内部の腐敗に軍の深刻な腐敗と粛清、戦狼外交による西側諸国との対立激化、デリスキング・デカップリングによる西側企業の逃避と、資本投下の減少と雇用の減少、若者の失業率の大幅増加、それに伴う絶望して無気力化した若者の寝そべり族(日本で言うところの引きこもり)の増加、高学歴化したものの、それに相応しい雇用が用意されないことによる雇用のミスマッチ。
これらに加え、ゼロコロナ期に構築されたデジタル監視社会が国民の不満を鬱積させている。
抗日戦勝80周年ナラティブの強化
これらの深刻な国内情勢を糊塗する為に、抗日戦勝80周年(共産党は、実際には国民党軍が主力であった事実を歴史修正し、自らが抗日の中心的な柱であったというナラティブを捏造・強化している)を盛大に喧伝した。
中国共産党は支配の正当化と、大国としての権利主張のため、抗日戦争で逃げ回っていた事実をひた隠し、中国人民が凶悪なファシスト枢軸の一員である日本と戦い、多大な犠牲を払って日本を屈服させ、連合国に貢献し、戦勝国になったというナラティブを形成したがっている。
これは経済成長による、以前よりはマシで、生活が良くなっているから共産党支配でも構わないと言った実利的な共産党支持が維持できなくなったため、思想的な転換が図られたためである。
高市早苗首相への警戒と中国の対日観
また、高市早苗首相に対して、中国は以前から警戒感を抱き、台湾訪問やその他発言から、極右政治家として誹謗中傷していた。それもあり、なんとか高市首相誕生を阻害しようと、政治工作や影響力工作を行っていたことも傍証されるが、失敗した。
習近平主席にも、高市首相が極右的な人物であると報告が上がっていたこともあり、警戒感から習近平は恒例の就任の祝電も送らなかった。
しかし、高市首相の支持率は極めて高く、日米首脳会談も成功したため、無視しづらい状況が生じた。
米中首脳会談の余波と日中首脳会談
また、米中首脳会談が殊の外上手く運び、実質的に中国が優位と言えるような会談結果となった(この会談自体は、どちらも勝った勝ったと言いはえる内容であり、秀逸な合意と言える)。この会談では米側は台湾問題を持ち出さなかったとしており、これは中国にとっては大きな成果であった。
そのため、日中首脳会談をしても問題ないだろうと判断し、開催が危ぶまれていたが開催の運びとなった。
高市首相のスタンスと台湾・人権問題
これは恐らく、高市首相が所信表明演説で、中国に対して強硬姿勢は見せず、むしろ対話重視の姿勢を見せたことや、靖国参拝を見送っていたことなどから問題ないと判断した外交部の進言によるものだったと思われる。
実際、最初はある程度高市首相も配慮して、台湾問題を口に出さなかった(これは米側と歩調を合わせたのだと考えられるが、以前の高市首相の言動からすれば出していてもおかしくなかった話である)。
また、高市首相から岸田元首相と石破前首相と同じラインでしか、ウイグルやチベット、香港の人権問題しか言ってこず、米中首脳会談では、トランプが台湾に関しては話さなかったこともあり、習近平は台湾に関しても抑制的もしくは後退した発言を望んだのかも知れないが、油断した習近平から触れたため、高市首相は言うべきことを言った。
どのような会話がなされたのか、詳細は公式には出ていないため憶測にしかならないが、日本側から公表されているのは「地域の安定には両岸関係が良好であることが重要」というだけである。日本人からすると当然の意見表明だが、それ以外になにか言われたのか、別の言葉を期待していたのかも知れない。恐らく、それが中国側にとっては面子を潰された形になった。
習近平としては、イヤイヤ外交部に言われてあってやったのに、高市首相が核心的利益に踏み込んできたとして、許せなかったのだろう。
とは言え、これは中国側としても表に出せない話だ。国民には抗日戦勝80周年を喧伝している最中、日本にしてやられたなどとは言えない。
更に、高市首相が台湾との関係をSNS上でアピールしたことも中国には面子を潰された形となった。日本側としてはAPECに正式に参加している代表全てと写真を取り、SNSに上げているので文句を言われる筋合いはないが、中国としてはメンツを立ててほしかったわけだ。
薛剣駐大阪総領事問題とエスカレーション
その中で、立憲民主党の岡田克也衆議院による質問に答える形で、高市首相が具体例を出し、台湾侵攻に対して釘を差したことで、更に面子を潰されてしまった。
そこに、勇み足的に日常的に戦狼外交的なツィートをしている薛剣駐大阪総領事が過激な発言をしてしまい、日本国民にも火がついてしまった。
日本側からペルソナ・ノン・グラータの話も出てきたこともあり、外交部としては、これ以上日本に関して失態することは、習近平に粛清すらされかねない状況であり、引くに引けない状況になっている。
本来であれば、薛剣を
https://note.com/willplion/n/n83cbe58525d1
この記事で書いたように、ペルソナ・ノン・グラータされる前に栄転させるというのが落とし所なのだが、失態し続けている状況と、厳しい国内情勢で反日感情を煽った結果、日本に対して譲歩できないという自縄自縛に陥っている。
中国外交部の苦境と「勝った勝った」構図
外交とは遺恨が残らないようにするために、双方が実態はともあれ勝った勝ったと宣言できる終わりが望ましい。それが出来ない場合は、時間経過で冷却させることになる。
18日の日中局長級会議後、まるで日本の局長が中国の局長に謝罪しているかのような様子の撮影が取り沙汰されている。日本側の承諾もなく本来マスコミが入らない場所で撮られたものなので、中国側の意図は明白で、国内向けに、そして指導部向けに、失地回復のアピールを健気にしているわけだ。
日本にはこれを屈辱的だと騒いでいる人も多いが、むしろこれは中国側の苦境を示す構図である。
中国としては、日本が頭を下げた形で終着したいというアピールであり、国内への勝利宣言であり、上手くできるならこれで外交部は手打ちにしたいのだろう。これは中国側が勝った勝ったといえる状況が僅かながらだが出来たと言える。
あとは、薛剣の処遇問題が終われば、徐々に話はフェードアウトするだろう。
しかし、外交部以外も参戦しつつあり、今後の展開は読みにくくなっている。中国は、これ以上の国内の暴走を引き締める必要がある。
中国は経済的な苦境もあり、日本と決定的な対立は避けたいという事情もある。相手の首を絞めているつもりが、自分の首を絞めるという愚を何度も繰り返さないでもらいたいものである。


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