【速報】G7財務大臣会合:「レアアース対中依存の迅速な削減」で合意——2010年の教訓を踏まえた多国間協調の幕開け——
会合の概要
2026年1月12日(米国東部時間)、米財務省において重要鉱物(クリティカルミネラル)に関する財務大臣会合が開催された。米財務長官スコット・ベッセント(Scott K.H. Bessent)が議長を務め、G7各国(日本、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ)に加え、欧州委員会、オーストラリア、インド、メキシコ、韓国が参加した。日本からは片山さつき財務大臣が出席し、ベッセント長官との二国間会談も実施された。
米財務省は声明において、本会合の目的を「重要鉱物、とりわけレアアース(希土類)のサプライチェーンを確保・多様化するための解決策を協議すること」と明記した[^1]。
主要な合意事項と政策オプション
片山財務大臣は会合後の記者会見において、「レアアースの対中依存度をスピード感を持って引き下げる」ことでほぼ合意に達したと発表した[^2]。同大臣は、短期・中期・長期の政策アプローチとして以下の手段を提示したと説明している。
第一に、労働条件や人権尊重を基準とする新たな市場の創設。これは中国が低賃金・劣悪な労働環境を背景に安価なレアアースを供給しているとの懸念に対応するものであり、本論で論じた「バッテリーパスポート」を通じた環境デューデリジェンスの延長線上に位置づけられる。
第二に、政策ツールの多面的展開。具体的には、公的金融機関による支援、税制・金融上の優遇措置、貿易・関税措置、検疫措置などが挙げられた。これは本論で分析した米国の国防生産法(DPA)タイトルIIIに基づくMP Materialsへの投資と同様のアプローチである。
第三に、最低価格制度(プライスフロア)の検討。中国による過剰供給・ダンピングに対抗し、生産者の採算確保を図る目的で議論が行われた[^3]。本論で指摘した「南鳥島開発は筋悪案件」という問題に対し、国際的な価格支持メカニズムで対処しようという発想である。
片山大臣は、参加国とEUを合わせると世界のレアアース需要の60%以上を占めることを指摘し、これら諸国の連携強化がサプライチェーンにポジティブな影響を与えるとの見解を示した。
背景:中国の輸出規制強化と日本への圧力
本会合の開催は、中国が2026年1月6日に日本向けデュアルユース(軍民両用)品目の輸出規制強化を発表した直後というタイミングで行われた。対象品目にレアアース製品が含まれるとの懸念が広がる中、片山大臣は会合において「こうした措置は非常に問題だ」と述べ、中国に対し撤回を求める日本の立場を説明した[^4]。
この状況は、本論第4章で詳述した2010年の尖閣諸島沖衝突事件後のレアアース禁輸を想起させる。当時、日本は対中依存度約90%という脆弱性を露呈し、その後の多元化努力により2024年時点で約62〜72%まで低下させたものの、依然として高い水準にある。とりわけ重希土類は対中依存がほぼ100%であり、「量」の依存度は低下しても「質」の依存度は依然高いというのが現状である。
日本の役割:2010年からの知見の共有
片山大臣は会見において、2010年の輸出停止後に日本が対中依存を約90%から約60%に低減させた経験を各国に共有したと述べた。これは本論で分析した通り、調達先の多元化、使用量削減技術の開発、リサイクル推進という三本柱によるものである。
日本はこの知見を武器に、多国間協調における「先駆者」としての立場を主張する機会を得た。片山大臣は「参加国からの理解を得られた」と述べ、日本の経験が今後の国際的な政策形成に貢献する可能性を示唆した[^2]。
各国の反応と温度差
ベッセント財務長官は会合後、「参加国が重要鉱物サプライチェーンの主要な脆弱性に迅速に対処したいという強い共通の意思を感じた」とX(旧Twitter)に投稿し、「デカップリング(分断)ではなく、プルーデントなデリスキング(慎重なリスク低減)を追求する」という方針を示した[^1]。
一方、ドイツのラルス・クリンベイル財務相は、最低価格制度や供給パートナーシップが議論されたことを認めつつ、「議論は始まったばかりで、未解決の課題は多い」と慎重な姿勢を示した。同氏は「反中国連合」の形成には警戒感を示し、「欧州は自ら行動を加速させる必要がある。不平を言ったり自己憐憫に陥っても何も解決しない」と述べ、EU独自の原材料ファンドやリサイクル促進の重要性を強調した[^3]。
オーストラリアのジム・チャーマーズ財務相は今週、12億豪ドル(約8億米ドル)規模の重要鉱物戦略備蓄(Critical Minerals Strategic Reserve)を2026年末までに稼働させる計画を発表しており、本会合への参加はその国際連携の一環と位置づけられる[^5]。
本論との接続:多国間枠組みの具体化
今回の会合は、本論第9章で提唱した「南鳥島開発の最適解」——すなわち、日本単独ではなく多国間枠組みでリスクと便益を分散させる戦略——の実現に向けた重要な一歩と評価できる。
本論では、Minerals Security Partnership(MSP)やQuad(日米豪印)のクリティカルミネラル協力を活用し、南鳥島プロジェクトを既存枠組みに位置づけることを提案した。今回のG7+拡大会合は、まさにその「既存枠組み」を強化・拡張する動きである。
特に注目すべきは、会合で議論された「最低価格制度」である。本論で指摘した通り、南鳥島の深海採掘は中国のダンピング攻勢に対して脆弱であり、「筋悪案件」となるリスクを抱えている。しかし、国際的な価格支持メカニズムが導入されれば、この経済的不利は緩和される。本論で論じた「環境デューデリジェンス」と「最低価格制度」の組み合わせは、南鳥島産レアアースの競争力を構造的に向上させる可能性がある。
今後の展望と課題
本会合では共同声明は発出されず、具体的な行動計画は今後の協議に委ねられた。フランスが議長国を務める2026年のG7において、重要鉱物問題は中心的な議題となる見通しである。
実効的な政策の実現には依然として多くの課題が残る。最低価格制度については、各国の財政負担の分担、WTOルールとの整合性、価格設定の具体的水準などが未解決である。また、ドイツが示した「反中国連合への警戒感」は、欧州の対中経済関係を考慮すれば理解できるものであり、G7内部での温度差を調整する外交努力が必要となる。
しかしながら、本論で論じた通り、レアアースの原価割合が最終製品価格に占める比率は小さく(EVで1〜2%、スマートフォンで0.1%未満)、国産化や代替調達のコスト増は吸収可能な範囲にある。問題は、そのコスト増を「誰が」「どのように」負担するかという制度設計にある。今回の会合で議論された最低価格制度や公的金融支援は、まさにその負担配分メカニズムの萌芽といえる。
結論:「冷徹な平和」の時代における多国間協調
2010年の尖閣危機から15年余り、日本は再び中国のレアアース支配への対応を迫られている。しかし今回は、単独での対応ではなく、G7およびパートナー諸国との多国間協調という枠組みが形成されつつある。
本会合は、レアアースを「戦略物資」として位置づけ、経済安全保障の観点から供給網を再構築するという共通認識の出発点となった。ベッセント長官が示した「プルーデントなデリスキング」という方針は、完全なデカップリングを避けつつも、特定国への過度な依存を是正するという現実的なアプローチを示している。
日本にとって、この多国間枠組みは南鳥島開発を含む国内資源開発の「受け皿」としても機能しうる。本論で提示した戦略オプション——MSPやQuadとの連携、環境デューデリジェンスを活用したEU市場へのアクセス確保——を具体化する機会が到来しつつある。
本論の結論で述べた通り、経済安全保障とは、相手が善良な取引相手であることを期待するのではなく、そうでない前提で備えることである。今回のG7会合は、その備えを多国間で制度化する試みの第一歩として位置づけられる。2010年の教訓を多国間で共有し、制度化する試みが始まったといえるだろう。
関連記事:冷徹な平和(Cold Peace)の時代へ:中国の構造的敵対と「パイプ」幻想の終焉
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脚注
[^1]: U.S. Department of the Treasury, “Secretary Bessent Convenes Finance Ministerial on Securing Critical Minerals Supply Chains,” January 12, 2026. https://home.treasury.gov/news/press-releases/sb0356
[^2]: 「【片山大臣会見ノーカット】『中国依存軽減で合意』G7財務相がレアアース関連で会合」テレ東BIZ, 2026年1月12日. https://www.youtube.com/watch?v=q0ud0ysapuk ; 共同通信「G7、レアアース対中依存低減へ 資源国と供給網多様化で連携」東京新聞, 2026年1月13日.
[^3]: “G7, other allies discuss ways to reduce dependence on Chinese rare earths,” Reuters, January 12, 2026. https://www.reuters.com/world/china/us-urges-partners-allies-increase-critical-minerals-supply-chain-resiliency-2026-01-12/
[^4]: 「G7、レアアース対中依存低減へ 資源国と供給網多様化で連携」東京新聞, 2026年1月13日. https://www.tokyo-np.co.jp/article/461635
[^5]: Mining.com, “Bessent says Australia, India invited to G7 meeting on critical minerals,” January 12, 2026.


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