デジタルアーカイブを利用した歴史研究における史料批判の限界について
〜デジタルアーカイブと史料批判について〜
2026.1.22公開
2026.1.23修正・追記
国立公文書館にいただいた助言より、一部訂正・追記しました
現在、日本近代史研究者(大学学部生を含む)の多くがデジタルアーカイブを利用して研究を行っていると思います。
学部時代がちょうど端境期(外務省記録が部分的にアジア歴史資料センターで閲覧可能)だった人間として、あるいは現在デジタルアーカイブをつくる側にいる人間として、「デジタルアーカイブを利用した歴史研究における史料批判の限界」というものを日々意識しています。
そうした中、国立公文書館デジタルアーカイブを利用していた際に、「史料のある部分について、デジタルアーカイブでの閲覧ではそれが存在していることに気づくことができない(見落としてしまう)」仕様に気づきました。
少なくとも自分にとっては史料批判を踏まえた史料読解に欠かせない情報であり、同アーカイブを利用してきた15年の間、重要な情報を見落としてしまっていたかもしれない可能性があります。
これから同アーカイブを利用する研究者がそんな恐怖体験をしなくて済むように、紹介しておきたいと思います。
ここまで読んで背筋がゾッとした方も是非お読みください
一言で言うと、「簿冊の表紙・目次にあたる画像へのアクセス経路が限定されており、一般に想定される利用方法だとアクセスできない可能性が高い」ということです。
以下、私が気づいた史料群「昭和財政史資料」を例に紹介します。
キーとなる仕様は、簿冊の表紙(と目次)を「件名」として採用していない、というものです。
国立公文書館デジタルアーカイブでは、簿冊の中身を「件名」という単位で区切り、史料内容が分かりやすい(また検索しやすい)ようにされています。
以下は、簿冊『昭和財政史資料第1巻第1冊』のページ(簿冊情報ページ、とします)。
冒頭にある<簿冊情報>に「画像等データ」の欄があり、【閲覧】ボタンがあります。
また、その下にNo. 1の「御大礼関係法規」から16. 「大礼に関する工事等を随意契約に依ることを得るの件」までの件名が並び、それぞれに【閲覧】ボタンが表示されています。
簿冊情報ページの「画像等データ」の欄の【閲覧】ボタンをクリックして開かれるのが以下のページです。
冒頭は表紙+目次の4コマのPDFデータです。
しかし、簿冊情報ページのNo.1〜No.16 の件名一覧にはこの画像データにあたる件名はありません。
つまり、件名一覧の欄だけを見ていると、この表紙+目次の存在に気づくことができません。
そして、多くの場合、研究者は"お目当て"の史料=件名の【閲覧】ボタンからこの簿冊を見始めるのではないかと思います。
また、キーワード検索をする場合も、結果に現れる各件名の【閲覧】ボタンから簿冊にアクセスするのではないかとも思います。
その場合、ある件名の閲覧ページから前後の件名を確認することも多いと思いますが、その際には別の仕様が壁となり、表紙+目次の画像データにたどり着くことができません。
→以下の【追記】を確認ください
以下は簿冊ページの件名一覧のNo.1 「御大礼関係法規」から【閲覧】ボタンをクリックした先のページです。
【次の件名>】、【「末尾>>】のボタンはあっても、【<前の件名】はなく、表紙+目次の画像データの存在が示されていません。
件名No.1「御大礼関係法規」が簿冊のトップ画像のように見えてしまいます。
このように、件名ごとのページには表紙+目次の画像データへのアクセス経路は存在しません。
【追記】
同ページ左上の冊子表題(青字)をクリックすると表紙+目次の4コマから始まるページに飛べることを、国立公文書館よりご教示いただきました。
ちなみに、先ほど説明した、簿冊情報ページの「画像等データ」の欄の【閲覧】ボタンをクリックして開かれるページも、【次の件名>】をクリックしNo.1 に移ると、【<前の件名】は表示されず、戻る(=表紙+目次に辿りつく)ことができません。
以下で確認ください。
まるでマジック。
「昭和財政史資料」は極めて数が多く、かつ簿冊表題(第*号第*冊)からは内容が分からないので、目録からのブルドーザーよりも、キーワード検索で史料=件名単位にたどり着く人が多い史料群だと思います。
この場合、件名単位の画像データへの直接アクセス(件名の隣の【閲覧】ボタン経由)になるため、その経路では原史料(簿冊)の表紙+目次の画像データを(自然には)発見することができません。(前掲・追記参照)
では、キーワード検索で"お目当て"の史料=件名単位を発見した場合、どうすれば表紙+目次に辿りつけるのでしょうか。
・方法①(前掲・追記参照)
当該件名の【閲覧】ボタンをクリック
→左上の簿冊名をクリック=冒頭が表紙+目次
・方法②
当該件名の【閲覧】ボタンをクリック
→右上にある【簿冊詳細を開く】ボタンをクリック
→簿冊詳細ページが開く
→【閲覧】ボタンをクリック=冒頭が表紙+目次
※ちなみにこの簿冊詳細ページは簿冊情報ページとは別のものです
・方法③
検索結果一覧、あるいは件名表題をクリックすると開く件名・細目詳細ページから簿冊表題をクリック
→簿冊情報ページが開く
→「画像等データ」の欄の【閲覧】ボタンをクリック=冒頭が表紙+目次
件名・細目詳細ページ
なお、「昭和財政史資料」は他の国立公文書館デジタルアーカイブ登録資料と同じくアジア歴史資料センターにも目録がありキーワード検索にも引っかかりますが、件名一覧には表紙+目次が採用されています。
以下がアジ歴での『昭和財政史資料第1号第1冊』簿冊ページです。
ただし、閲覧先は国立公文書館デジタルアーカイブなので、件名単位の閲覧ページから【<前の件名】ボタンをクリックしても表示+目次の画像データに辿り着かないのは同じです。
以上、国立公文書館デジタルアーカイブの少しクセのある仕様の紹介でした。
私がこの仕様に気がつき、自分が見てきた簿冊の表紙+目次の画像データを確認したところ、表紙に表題以外の情報が記載されていることが判明しました。
その簿冊の性格を端的に示すものでした。
史料解釈に大きな修正が必要になるものではありませんでしたが、それは偶々のことで、かなりヒヤッとしました。
【追記】
今回紹介した記事について、国立公文書館より、今後利用方法への明記など改善を目指す旨のご連絡をいただきました。
今回は史料群「昭和財政史資料」の話でしたが、国立公文書館デジタルアーカイブ上の他の史料群にも同様のことがあるかもしれません。
また、アジア歴史資料センターでも同じ仕様になっているものを見つけたことがあるのですが、記録を取っておらず、示すことができません。
デジタルアーカイブを提供する側になって痛感するところですが、こうしたシステムにはどうしても細かな"エラー"が生じてしまいます。
史料批判の点で問題が生じてしまうのは、歴史学研究者はエンジニアではなく、エンジニアは歴史学研究者ではない以上、当然のことだと考えます。
デジタルアーカイブ上で史料を閲覧し、研究に利用する場合は、「デジタルアーカイブであるが故に見落としている情報があるかもしれない」という姿勢で望むのが適当であろうと思います。
以上