「老後資金1億円」目指す資産形成、インフレでどう変わる
インフレ時代の老後1億円計画(1)
日本経済の「失われた30年」で忘れ去られたのが、インフレだ。1990年代後半から「物価は上がらないもの」という感覚が常識だった。今の30歳以下は、物価上昇を体験したことがほとんどない。
物価上昇なき世界では、今日の1万円で買えるものは、来年もその先も1万円で買えた。預金金利がゼロ近くでも、元本割れがなければ安泰だった。リスクを取って投資しなくても、現金があれば将来も同水準の生活は可能に思えた。
だが、平均で年2%超の物価上昇が5年続き、今や常識は「物価は上がるもの」と塗り替えられた。
30年後、1億円の価値は4割以上目減り
インフレでは現金・預金で買えるものの価値が徐々に目減りする。お金の価値が減り、ものの価値が高まるのだ。仮に物価上昇率2%が続くと、1億円で買えるものの価値はどうなるか。30年後に1億円で買えるものは、25年の価格に直すと5500万円分しかない。お金の価値が45%も減ってしまう。
インフレ下では「お金をためてから買おう」と待っていると、値上がりで予算が足りなくなる。預金金利が物価上昇率より低ければ、口座の残高で買えるものは時とともに減る。価値が目減りする預金は果たして「安全資産」なのか。逆に長期の借金は徐々に負担感が軽くなる。望ましいインフレならば賃金も上がり、返済しやすくなる。
バブル崩壊後の1990年代後半以降、日銀の超低金利政策で預金金利は急低下し0%近くに。ただ、物価が下落傾向だったデフレ下では、たとえ預金金利が0%でも物価変動率を上回っていた。ところが2020年9月〜25年9月の前年比物価上昇率は年平均2.3%で、4%に達する月も。金利が物価に完全に負け、預金の価値は目減りしている。
「狂乱物価」といわれた70年代のオイルショック時、時に前年同月比25%近くにもなった物価上昇に、預金金利は全く追い付けなかった。「資産防衛のために株式投資をしよう」と言う個人も目立った。今も投資の理由に「インフレ対策」を挙げる個人投資家は珍しくない。
インフレ時代の「老後資産1億円」の目標は、額面ではない。今の1億円で買えるものと同じだけのものを、物価が上がった将来も買えるようにすることだ。それには長期でインフレ率を上回る投資リターンの実現が求められる。
(大賀智子)
[日経マネー2026年1月号の記事を再構成]
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP(2025/11/20)
価格 : 980円(税込み)
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(更新)- 鈴木亘学習院大学経済学部 教授分析・考察
老後資金1億円というのは通常、公的年金を含むベースのことである。公的年金の総額は厚生年金加入の世帯平均で約6千万円であるが、だいたい物価連動(正確には物価スライドーマクロ経済スライド)の資産と考えてよいから、実は1億円のうち、半分以上はインフレ対応ができている。残りの資産は預金だけではなく、NISAやiDecoを使ってインフレヘッジを行う方が良いが、同時にリスクもある。老後の資産形成を目指すのは子育てが一服した40代後半から50代の世帯であるが、老後に近い世代があまりリスクを取りすぎるのも考えものである。半分以上はインフレ対応ができていることを前提に、最適なポートフォリオを考えるべきであろう。
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(更新) - 柯 隆東京財団 主席研究員ひとこと解説
インフレの時代に突入しており、銀行預金の実質金利はマイナスになっている。預金するだけでは、資産は目減りする一方である。重要なのはポートフォリオの最適化である。投資信託、優良株、金、ビットコインなど少しずつかつ長期に持つべきであろう。今回のインフレは簡単に終息しない。なぜならば、主要各国の中央銀行は過剰流動性を放出しているからである。
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