第40話 樋口英雄
飲み屋で肩を組んでにこやかに笑うあいつと、いきなり写真を撮りましょうよと肩を組まれて、戸惑って無表情の俺。あのときは妙に馴れ馴れしいやつだなと思ったが、他に交流する相手もろくにいなかったということは人寂しくての馴れ馴れしさだったのだろうか。
警察署からの帰り道、電車の中でスマホに残っていた樋口英雄の写真を見なおして、出会った頃のことを思い出していた。
俺は認知プロファイリングでSNSから当たりをつけるという、かなり特異な探偵だが、こういう仕事をしていると嫌でも行方不明者や身元不明遺体については詳しくなる。
実家住みの女子が行方不明になった場合は、トーヨコあたりでタチンボをしていることがほとんどだが、男で、実家住みでもない人間が一ヶ月行方不明というのは、知る限りでは大抵死亡していた。死亡といっても、20代で急病でどこかで死ぬということはないし、仮に出先で倒れて死亡したとしても普通はスマホや財布の身分証からすぐに連絡がいく。こういうケースの死亡というのは、揉め事で殺害されているという意味だ。
数百万の借金でも簡単に人は死ぬ。殺される。案外、あいつは返したって言っていたけど他にも借金をつまんでいたのかもしれないな。なあ、いったいどこに行ったんだよ、樋口
「ステータスオープン!ちがうか・・・『鑑定』!これも違う・・・おーい神様!みてるんなら返事してくれー!それともこれ何かの番組の企画ですかー!?リタイア!中止!おーい!」
俺の名前は樋口英雄。どうやら俺は異世界転生してしまったらしい。マジか。でもマジだなこれ。たしか、メールで、内密にしてくれたら高額報酬の案件があるっていわれて待ち合わせ場所にいったら変な奴らが待ち伏せしてて、死にものぐるいで逃げたらなんか穴に落ちて、気がついたらなんか野原にいて、スマホの電波も通じない。飲まず食わずで一晩さまよいあるき、見つけたのは原始人みたいな生活をしている異世界人の村だった。でも言葉が通じないんだなあ。異世界転生って言葉が通じてチートスキルもらえるものじゃないのかよ?
『”#$&#’%%%』
ちんこ丸出しのガキがこっちを指さしてなんか笑ってら。言葉は通じないがバカにされてるのは「理解る」んだな、海外行ったら日本人で差別された動画のやつみたいだ。
もうこの村についてから3日が経つ。スマホの光を見せたりライターを見せたらすげー驚いてたしメシも食わせてくれたのに、ライターは取り上げられたし、今はガキの相手をさせられてる。
時代は中世どころじゃない、これ異世界の原始時代だろ。魔法とかも無いみたいだしベリーハードモードじゃん。いったいどうなっちまったんだよ・・・
『あなた スケベ バカ わるい』
「スケベ わるい ない 女 欲しい」
『女 狩人 戦士 もらう ある あなた 戦士 ない』
「がんばる 狩り 行く 欲しい」
『あなた 力 ない 大人 ない 子供 狩り まだ ない』
はあ・・・やっぱり駄目か。
この村にきて、1ヶ月くらい経ったか。この原始人たちの言葉も少しはわかるようになってきた。この村は極度に原始的な社会で、男は狩りや戦争で力を示すことでしか女を獲得できない。村一番の戦士は女が3人もいる。
あっちでは狩りなんてしたこともないんだから出来なくてもしょうがないだろクソッ。異世界知識で無双しようにも、マヨネーズの材料は無いし、オセロのルールを説明しようとしたら心の底からバカにする目で見られた。
こっそり夜這いをしようとしたときは3日くらい動けないほどのリンチにあった。こんなのはYoutubeやテレビとかの企画じゃないだろうし、どうやら本当に原始人の世界に異世界転生したらしい。
神様は答えてくれないし、チートスキルもどうやら無い。この世界は魔法とかもない普通の世界のようだし、ここで生きていくしかない。
スマホはバッテリーが切れて使えなくなった。ただ、この探偵七つ道具の一つ、手帳に、原始社会で必要そうな現代知識を書き出せるだけ書き出しておいた。
どうせ、あっちの世界では借金で首が回らなくて、東南アジアに闇バイトで行く予定だったんだ。こっちで第二の人生を始めよう。まずはこの村でオレの価値を示して、女を獲得するところからだ。
『ヒグチ、前言ってた宇宙は何?それってどういう漢字を書くの?』
「宇宙ってのは、ええと、空に光ってるのがあるだろ?あれが星で・・・」
こいつはセイ。村長の息子で、オレの話に耳を傾けてくれる。土下座(意味は通じなかったが)して懇願したら、一緒に頼んでくれて女とやらせてくれたすげー良いやつだ。
原始人の奴らはオレのことをどう思ってるのか、常に蔑むような目でこっちを見てくる。でもセイという村長の息子がオレに目をかけてくれるから、俺は毎日セイの話し相手をするだけでメシが食える。これが利口な生き方ってワケ。嫉妬はやめてほしいよな。
セイからこっそり聞いたんだが、オレは追い出される予定だったらしい。でも、風邪が流行って、村の半数が寝込んだとき、こいつらバカだから濡れた布を全身にかけて治そうとしてたんだよな。熱の悪魔がどうとか。だからオレが、熱があるときは暖かくするのが治るんだって自分だけ風邪を治したとき、セイもそれを真似して治した。で、バカにされてたオレの現代知識に興味を示したみたいだ。
セイはどんどんオレの現代知識を覚えていく。原始人の中ではマシな頭をしてるんだろうな。まあ現代知識のあるオレと話が合うのはセイくらいだし。他の奴らはIQが違いすぎて話が合わないんだろう。
セイにまたお願いして女を都合してもらうにはどう頼めばいいかな・・・
「ゴボボボゴボッ」
剣を刺された喉から血が吹き出てしゃべれない。オレはここで死ぬのか・・・意識が・・・
『余の妻に手を出すことは許さんといったはずだな、ヒグチ。便所を覗いたり貴様の言う変態行為で我慢しておけばよかったものを。その上余に告げ口したら祟りがあるから余には言うなだと?』
それ先月のことじゃないか・・・それくらいのことで・・・ひどい・・・
『しかし、貴様は本当に異世界から来たのかもな。この世界の人間と違う貴様の知識は本当に面白い。そのおかげで余はこうして王、そして大王になれた。だがな、貴様の邪悪さが他に広まっては困るのだ。それにもう最近は新しい話もできなくなってしまったしな。そうそう、貴様の言ってた天然痘とかいう疫病が西の国で見つかってな。皆はいちいち覚えてないだろうが、余はあれを兵器として、うってでようと思うのだ。だからわかるだろう?貴様はもう、その、なんだ。邪魔でな』
「ゴボッ・・・ ゴボッ・・・」
『祟りか!そうか祟りだ!!それも貴様の言う異世界にしかない考え方だ!いや・・・そうだな、天然痘は祟りということにするか・・・余は神の末裔で、余に逆らった祟りであると!最後にもう一働きご苦労であった』
認知プロファイリング探偵松尾光 暇空茜 @himasoraakane
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