23日に衆議院が解散します。政治家の発言やメディアなどで頻繁に耳にする「解散は総理の専権事項」というフレーズ。果たしてその解釈は正しいのか。憲法学者で九州大学の南野森教授は「誤解がある」と指摘します。どういうことか、聞きました。
――高市早苗首相は会見で23日に衆院を解散すると表明しました。どう見ていますか。
首相の「内閣総理大臣として決断した」という発言は、憲法7条が定める天皇の国事行為としての解散は内閣の助言と承認が不可欠とする原則と整合せず、懸念を覚えます。
解散は閣議において全員一致で決定されるもので、この手続きは、解散の正当性を担保する上でも重要。首相には閣僚の罷免(ひめん)権があるとしても、「高市内閣として」の決定といわなくてはいけませんでした。
過去には、2005年の郵政選挙に際して、当時の小泉純一郎首相は異を唱えた農林水産相を罷免し、自ら農相を兼務し閣議決定した。一方で、三木武夫首相のように、多くの閣僚の反対で解散を断念したケース(1976年)もあります。
衆院解散、認められる三つの目的
――「専権事項」と見なすことで、他にどのような影響がありますか。
「専権事項」との認識は、首相が好きなときに好きな理由で解散して良いと誤解を招きかねない。憲法には、どこにもそのようなことは書いてありません。
解散権は、任期満了前に衆院議員全員を首にできる非常に大きな権力です。与党に有利なタイミングで選挙が繰り返されれば、野党は圧倒的に不利で政権交代が極めて困難になる。国会のチェック機能の形骸化や政策の停滞を招く恐れもある。また議員が常に選挙を意識すると、国のために働くという本来の趣旨がおろそかになることも懸念されます。
――憲法における解散の規定とは?
実は、不明確で不十分だと言わざるを得ません。内閣不信任案が可決され、内閣総辞職か衆院解散を選ぶ69条を除けば、具体的な条文はない。憲法制定直後は69条に限定されていました。
敗戦後の日本を占領・統治したGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)撤退後、天皇の国事行為として内閣が助言と承認をすればよいという理屈が政府解釈となり、7条に基づく解散が常態化しています。司法も判断を避けてきた。
しかし強大な権力である以上、目的に照らして不適切な解散は「権力の乱用」として厳しく批判されるべきです。
――認められる目的とは。
たとえば、①衆院で内閣の重要案件が否決、審議未了になった場合、②政界再編など内閣の性格が基本的に変わった場合、③内閣が基本政策を根本的に変更する場合などがあげられる。これに対し、内閣の一方的な都合や党利党略で行われる解散は不当であるとされています。
――連立枠組みの変化は、②にあたらないのでしょうか。
公明党から日本維新の会へという連立の枠組みの変化は、自民党が中核となりその総裁が首相を務めるという基本的な政権の性格は変わっていないので、該当するとは考えにくい。
仮に野党が一本化して、比較第一党の自民党以外の党首が首相になっていれば、24年衆院選の結果からは予期されない枠組みの変更であり、解散の目的に合致する可能性はあったでしょう。
――首相は会見で「国論を二分するような大胆な政策、改革にも、果敢に挑戦していきたい」と述べました。③の基本政策の変更にあたるでしょうか。
政策の大きな変更は、解散の正当な理由になりますが、首相が述べた政策は、具体性が乏しいと言わざるを得ません。
たとえば皇室典範と憲法改正に正面から取り組むと表明したが、具体的な改定内容やプロセスは不明瞭。消費税もいつから引き下げるかなど具体的な言及はありませんでした。国民に十分な説明がなされない現状では、要件を満たしているとはいえません。
また首相は「高市早苗に、国家経営を託していただけるのか。直接、ご判断を頂きたい」と述べた点は、憲法の原則に照らして危険な発言です。
「高市政権か、否か」の問題は
――どういうことでしょう。
憲法は議院内閣制を採用しています。国民が直接選ぶのは国会議員であり、その国会議員が協議して内閣総理大臣を選ぶ制度です。
首相が立憲民主党の野田佳彦代表や公明党の斉藤鉄夫代表らの名をあげ、まるで人気投票かのように選択を迫り、選挙後には白紙委任を求めるような姿勢は、議院内閣制の原則をゆがめ、権力の独走を招きかねない。注意が必要です。
――解散権についてどのような点に着目する必要がありますか。
刑法と異なり、憲法を守らなくても直ちに罰せられない。だからこそ内閣、特に内閣総理大臣は解散権を謙抑的に行使すべきです。
解散権の乱用を防ぐために、憲法改正や法律制定は一つの手ですが、議員自身の権限を縛るので難しいでしょう。だからこそマスコミは「総理の専権事項」「伝家の宝刀」など誤解を招く表現を安易に繰り返すべきではありません。有権者も乱用するな、大義を説明しろと言い続けなければいけません。
今回の選挙でも解散の正当性は投票の判断基準の一つになるでしょう。
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