芋縄 啓史 院長の独自取材記事
ありがとう芦屋クリニック
(芦屋市/芦屋駅)
最終更新日:2026/01/08
JR神戸線・芦屋駅から北に徒歩3分のビルの1階に位置する「ありがとう芦屋クリニック」。芋縄啓史院長は、大学病院の救命救急センターでの勤務経験を持ち、多くの診療科でスキルを磨いてきた。クリニックでは主に糖尿病を中心に、内科、外科を幅広く診療。「患者さんの望まれる生き方や生活を最優先し、最良の治療よりも幸せになるための治療を提供したい」と、話す芋縄院長。診療の際は例え話を交えながら丁寧に説明するなど、気軽に相談しやすい雰囲気づくりにも心を配っているという。患者への温かなまなざしが印象的な芋縄院長に、診療にかける思いやポリシーを聞いた。
(取材日2025年12月1日)
生き方を見据え、幸せにつながる治療をともに考える
まずは先生が歩まれてきたご経歴を教えてください。
近畿大学医学部で学んでいた頃、母校への入局を決めた際に、ある教授が「人間は生まれ、ケガをし、やがて命を終える。これはずっと変わらない。だからこそ、誕生に関することと、事故や死を目前にした重傷を診る医療やターミナル医療は今後も重要なものとなるはずだ」と、教えてくれました。この言葉に強く心を動かされ、母校の救命救急センターで働く道を選びました。救命救急の現場は想像以上に過酷で、老若男女あらゆる患者さんが、さまざまな症状を抱えて来られるため、幅広い知識と判断力が求められます。大変さもありましたが、同時に多くの学びが得られる場所でもありました。その後、自らの入院をきっかけに大学病院を離れ、糖尿病診療を中心とした内科の外来や在宅医療専門のクリニックでも経験を積み、2015年に当院を開業しました。
クリニックには、どのような患者さんが多く来られますか?
当院は、糖尿病をはじめ、高血圧などの生活習慣病で受診される方が多いですね。健康診断でコレステロール値などの指摘を受けて来られる方も少なくありません。また、「薬を減らしたい」といったご相談で来院される方も一定数おられます。他院で処方された薬を調整するのは簡単ではありませんが、できるだけ薬を減らしたいという患者さんの気持ちはよくわかります。私自身の考え方は、急性期にはしっかり薬で症状を抑え、慢性期で落ち着いている場合は薬を少なくしていくという方針です。そのため、クリニックを変えたことを機に「症状が安定しているようなら、少しずつ減らしていきましょう」といったアドバイスをさせていただくこともあります。
先生が実践されているオーダーメイドの治療について教えてください。
同じ病気であっても、患者さん一人ひとりがめざす先や生き方は異なりますよね。そうなると、当然、適したな治療法も人によって変わってきます。これが私の考えるオーダーメイドの治療です。その方に本当に適した治療を一緒に見つけるには、丁寧に時間をかけてお話しすることが欠かせません。治療を考える際にはいくつか選択肢を提示し、患者さん自身に選んでいただくことが理想なので、遠慮なく本音をお話しいただけるまで、じっくりと時間をかけさせていただいています。スタッフからは「先生は話し込みすぎる」と、注意されることもありますが(笑)。医師が「これにしましょう」と決めてしまうほうが診察の流れとしては正直ずっと楽で効率的です。でも、流れ作業のような診療をしたくなかったのも開業を選んだ理由の一つです。患者さんにとって納得感のある治療を一緒に考えていく。それが私の大切にしている姿勢です。
最良でなくても幸せになるための医療を提供したい
先生がめざす「最良でなくても幸せになるための医療」とはどのようなものですか?
その病気に対し、あらゆる方法を駆使して治療を施すのは医学的には正しい判断だと思います。ただ、患者さんご本人が治療に抵抗を感じている場合、必ずしも無理に行う必要はないのではないか、それが私の考え方です。今の医療は「長生きすることが善」という前提で語られがちですが、「ほど良いところでいい」という価値観を持つ方も確かにいます。だからこそ、その思いを受け止められる場所が必要だと感じていますし、当院はそうした選択肢の一つでありたいと思っています。開業して10年ほどになりますが、この考えはずっと変わっていません。その上で、「自分だったらどうしてほしいか」「自分の家族だったらどうするか」という視点を忘れず、患者さんに寄り添った医療を提供したいと思っています。
その思いは、救急医療に携わってこられたご経験やお母さまのご闘病の経験に由来するのでしょうか?
大学病院の在職中、母が大きな病気を患い、自分から薬で治療することを選びました。ただ、副作用が想像以上につらく、後半は食事もほとんど取れなくなってしまいました。そんな中で母が漏らした「こんなにつらいなら、無理に頑張らなくても良かった」という言葉が心に残っています。この経験から、誰もが“頑張る治療”だけを選択する必要はないのではないか、と考えるようになりました。また、救急医療の現場では最期の瞬間に立ち会うことも多くありました。多くの症例に向き合う中で、「人は必ず最期を迎える」という当たり前のことを、あらためて強く意識するようになったんです。だからこそ、年齢や病気の進行によっては、医療が介入しすぎることが本当に幸せにつながるのか。その点を大切に考えるようになりました。こうした経験の積み重ねが、自分のめざす医療の形へと導いてくれた気がします。
診療で大切にしていることを教えてください。
「人を見て法を説く」という仏教の言葉があります。相手の性格や時と場所を考慮した上で、その人に最もふさわしい方法で説得し、対応せねばならぬという意味です。内科医は薬で困り事を軽減する職業です。インターネットやAIが普及している昨今、投薬を主とする内科では、寿命を延ばす「正しい医療」や処方内容を患者さん自身が知ることができます。しかし、その「正しい医療」によって幸せになるかどうかは、患者さんの要望を聞くこととそれなりの知恵が必要だと考えています。私は、「AIでは提示できない、患者さんの困り事を減らせるような医療」も提供できるよう心がけています。
説明も治療も、その患者仕様に
シンプルな処方を心がけているそうですね。
薬の処方は先ほどお伝えしたとおり、できるだけシンプルに、必要なものを過不足なく。糖尿病などの生活指導もあまり細かいことは言いません。続けられないことは生活習慣病の改善には役に立ちませんからね(笑)。ただ、食べ方についてだけはしっかりとアドバイスしています。具体的には、「ゆっくり噛んで食べること」と「粉状や液体の炭水化物をできるだけ控えること」。この2点だけは必ずお伝えしています。固形のまま口に入れる方が自然と噛む回数も増え、体への負担も少なくなります。医療や健康に関する正解は時代とともに変わることもありますが、「ゆっくりよく噛む」という習慣だけは、何十年先でも悪い方向には働かないですからね。
8時半〜15時という診療時間は、少し珍しい設定ですね。
特別なこだわりがあったわけではなく、単にこの周辺にその時間帯で開いているクリニックがほとんどなかったからです。ただ、実際に始めてみると、通勤前や昼休みに受診しやすいと、患者さんから思いの外好評をいただいています。私自身は、町のコンビニのように「特別なものはないけれど、だいたいのことには対応できる」そんなクリニックをめざしています。専門的な治療が必要な場合は他の病院をご紹介するので、エックス線など大がかりな検査機器はあえて置いていません。その代わり、日常的な病気については、コンビニのようにいつでも気軽に受診できて、気軽に相談できるクリニックとしてご利用いただけたらうれしいですね。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
私は医療というのは、手間をかけることがいい結果につながらないこともある、と思っています。だからこそ、ご本人がどんな治療を望み、どのような生活を送りたいのかを丁寧に伺いながら、当院でできる中で最適な治療を一緒に考えていきたいと思っています。当院は町のコンビニのように使い勝手の良さを大切にしています。専門的な治療を希望される方は専門病院へ、「毎日の暮らしが少し楽になれば十分」という方は当院へ、といった具合に目的に応じて上手に使い分けてもらえればうれしいですね。また、当院では薬を減らしていく方向で相談しながら治療を進めることを心がけています。どうぞ気負わず、気軽に来院いただければと思います。