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近年増えている「女子枠」は本当に逆差別?

皆さんこんにちは。#YourChoiceProject ライターの たけ です。

 私は前回と前々回の2つの記事でそれぞれ、「東大(難関大)の低迷する女性比率は、本人の自己責任ではなく、不正義に起因する社会問題であること」、「この低い女性比率は、放置していると様々な実害につながること」を述べ、この女性比率を是正する意義について主張してきました。


 今回は、この問題の解決策として最近広がってきている「女子枠」「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」について扱っていきたいと思います。これらの政策はよく「逆差別だ」「本来大学に入れるはずだった人を排除している」などのような批判が見られます。この記事では、アファーマティブ・アクションがもっと広く受け入れられてほしいという立場をとっている私が(半ば趣味で)読んでいる社会学の本の学説などをもとに主張を展開して、アファーマティブ・アクションについて考えるための新たな土俵を提供できたら、と思っています。

※ちょっと裏話をさせていただくと、編集会議の段階では前々回・前回・今回の記事は元々1本の記事として公開するものの予定でした。しかし、内容がかなり長くなる見込みとなったので、3つに分けてこのように順次公開しています。したがって今回の記事内容は、前回の2つの記事の内容を踏まえた上で読んでいただけると良いかと思います。

前回の記事↓
「東大の女子比率が少ない」のは本人の自己責任?
「難関大の女子比率」低いまま放置すると何が起きる?

「女子枠」に対して、どんな反対意見がある?

 まず、どの方向性で議論していけば良いかを明確にするために、「女子枠」に対する反対意見として、どのようなものが存在しているかを整理しておきましょう。
 私がネットで検索してみた結果、主な反対意見は以下の4つに集約されるように思いました。

  • 「女子枠」は不平等な政策で、法の下の平等に反する

  • 「女子枠」を設けてしまうと、本来合格できるはずだった“より優秀な生徒”を逃すことにならないか?それによって大学のレベルを下げることにつながらないか?

  • 「女子枠」を設けることが、逆に女性を貶める結果にはならないか?

  • 「女子枠」という男女二分法に基づく政策は、性的マイノリティへの配慮が行われたものになっているのか?

 特に、最初の「女子枠は逆差別なのではないか」という主張は、このテーマについて扱った新聞記事・ネット記事でほぼ必ず取り上げられる論点でした(※1、2、3)。したがって、女子枠、アファーマティブ・アクションがより受け入れられるようになるために、まずはここから考えていきたいと思います。

アファーマティブ・アクションは「合法」

 まず、女子枠を含むアファーマティブ・アクションが法の下の平等に反することなのかを考えてみます。

 実は、アファーマティブ・アクションのような「形式的な平等を実現するために導入される」特別措置は、日本も締結している国際条約によって認められている行為なのです。その条約とは、1979年の第34回国連総会において採択された女性差別撤廃条約です。
 同条約の第4条には、このように記されています。

1 締約国が男女の事実上の平等を促進することを目的とする暫定的な特別措置をとることは、この条約に定義する差別と解してはならない。ただし、その結果としていかなる意味においても不平等な又は別個の基準を維持し続けることとなつてはならず、これらの措置は、機会及び待遇の平等の目的が達成された時に廃止されなければならない。(※4)

女子枠のような制度は、まさに「男女の事実上の平等を促進することを目的とする暫定的な特別措置」にあたります。したがってこの条約を締結している日本では、女子枠は「法の下の平等」に反することなく、法的に見ても全く問題ない行為であるはずです。

 しかも、この条約にはある程度の拘束力が持たされています。女性差別撤廃条約を締結している国家は、4年に一度「女性差別撤廃委員会(CEDAW)」という機関にレポートを提出し、審議を受ける必要があるからです(※4)。ここからわかるようにこの条約が努力義務のような形で終わっていない以上、この条約が日本に与える影響も大きいものになりますから、第4条に記されたアファーマティブ・アクションの容認も無視してはなりません。
 ちなみに、2016年に行われたこの審議で、日本は暫定的特別措置(クオータ制)の導入に関する指摘がなされています(※4)。

「平等」と「公平」を取り違えないで

 ここまでは「女子枠」「アファーマティブ・アクション」が合法であるという主張を述べてきました。しかしそれでもこれらが平等論に反しないのかどうかに納得感を得られない人がいることでしょう(そもそも、ここまでの議論で私は「平等」という概念に直接は触れていませんからね)。そこで、「平等」「公平」の2つの言葉の違いから始めて、女子枠によって実現が期待される社会像に少し触れたいと思います。


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 これは、ボストン大学のダイバーシティ・インクルージョン部門のWebページに掲載されている、「現実」「平等」「公平」「正義」の4つの概念の違いをイラストでわかりやすく解説した画像です(※5)。

左から2番目が「平等」を表す画像で、3番目が「公平」を表す画像です。「平等」の方では、野球観戦をするための環境が全く同じに揃えられています。その反面、背が低い人は観戦が困難なままとなっています。一方「公平」の方では、このような背が低い人でも観戦ができるように、足場の高さを調整してくれています。

 「筆記試験の点数のみで見るのが公平だ」(※6)と女子枠に反対する声は、左から2番目のような、条件が全く同じ入試環境を想定していることでしょう。しかし、この「平等」な入試方式では、受験生一人一人の背景にある社会的文脈・親からの期待など、外的要因によって自由な進学ができる人、そうでない人が生まれてしまいます(この入試の公平性の議論については、前々回の記事「「東大の女子比率が少ない」のは本人の自己責任?」を読んでみてほしいです)。女子枠というのは、このようにして自由な進学が阻まれやすい属性である女子学生──事実、弊団体の共同代表の著書では、「女子学生は様々な形で男子学生とは異なる障壁にぶつかっていて、それによって今までであれば受験を諦めてしまっていた」とも述べられています(※7)──の受験へのハードルを調整することで、左から3番目の画像のように、どんな人でも自由に進学できるような社会を作るための制度なのです。


 確かに、女子枠の導入によって一般入試の枠が少なくなり、以前までは入学できた人(男子学生)が入学できなくなることもあるでしょう。しかし、彼らも含めたこれまで受験で合格を掴んできた人たちには、一番左の画像で一番高い台に乗っている人たちも一定数いるというのが実情です。

 左から2番目(もしくは一番左)のような今の状況と、属性に関わらず全員にチャンスが行き渡るようになっている左から3番目の状況。あなたはどちらを好みますか。

マイケル・サンデルの指摘

 さらに、前回・前々回の記事でも取り上げたハーバード大学教授マイケル・サンデル氏の著書『これからの正義の話をしよう』の第7章「アファーマティブ・アクションをめぐる論争」から、「女子枠は逆差別」という主張に対する反論となりうる、興味深い内容を紹介します(※8)。


 私が特に注目したのは、この章の副題の1つ「人種優遇措置は権利を侵害するか」という部分です(この本の中でのアファーマティブ・アクションは、性別ではなく人種に着目したものとなっています。以下引用部分では「人種」という用語が多く出るのはそのためです)。

 サンデルは、アファーマティブ・アクションに反対する人々は、「学生の多様性を高め、より平等な社会を実現するという目標(中略)の実現にアファーマティブ・アクションがいかに役立とうと、人種や民族を入学選考の基準にするのは不公正だと主張する。なぜなら、そのような基準は(中略)出願者の権利を侵害し、本人の落ち度ではない理由で、彼らを不利な立場に置くからだ」と述べています。それに対してサンデルは、ロナルド・ドゥウォーキンという法哲学者の「アファーマティブ・アクションにおける人種の考慮は誰の権利も侵害しない」という主張を引用します。


 これはどういうことでしょうか。サンデルは、アファーマティブ・アクションに反対する人々が求めるのは、「学業に関する尺度のみで審査される権利」だと推測しています。これに対して、

ドゥウォーキンが指摘しているように、そのような権利は存在しない。(中略)ドゥウォーキンによれば、大学の使命を定義し、選考方針を定めるのは大学自身であって、出願者ではない。学業成績であれ、運動能力であれ、どの資質を重視するかを決めるのは大学だ。(中略)だが最初の段階から、特定の基準に基づいて審査される権利を持つ出願者はいない(※ 強調部分は筆者)。

と述べています。つまり、大学側が「大学の使命を果たすため、構成員としてもっと多くの女子学生が必要だ」という問題意識のもと女子枠などを設けたのであれば、そのことは受験生側の「公平な学力試験で合格者を決めるべきだ」といった要求に先行する、ということです。そのような要求をする権利がそもそも存在しないから、誰の人権侵害にもなっていない、というわけです。


 そしてのちの節でサンデルは、「もし多様性を確保することが共通善の役に立つなら、そして嫌悪や侮蔑によって差別される人が一人もいないなら、人種の優遇は誰の権利も侵害しない。(中略)どの美質が高く評価されるかは、公営住宅の管理者や大学の理事が定める使命によって決まるのである」と述べています。「では大学が定める使命は何だったら良いのか」という問いも残っていますが、少なくとも「大学の構成員に女性を増やさなければならないこと」、そして、「女子枠は男子学生に対する嫌悪や侮蔑に基づく制度ではないこと」の2点は、アファーマティブ・アクションが「逆差別」だと考えている人の中であっても納得していただける人も多いのではないでしょうか。

女子枠は大学の質を下げるのか

 最後の章として、最初に整理した女子枠への反対意見の2番目である、「「女子枠」を設けてしまうと、本来合格できるはずだったより優秀な生徒を逃すことにならないか?それによって大学のレベルを下げることにつながらないか?」に対しても、女子枠の実情を踏まえて、私の主張を展開していこうと思います。


 東京工業大学が2024年からの女子枠の導入を発表した時、学生側からは女子枠の撤回または再検討を求める署名運動が起こりました。そこでも、「実質的に入学する学生の質の低下を招くのではないか?」「一般入試でこれまで不合格だった層を性差によって掬い上げるのは本当に質の低下とは呼ばないのか?」などの意見が挙げられています(※9)。さて、ここで挙げられた反論のように、女子枠で入った学生は、大学の質を下げることになるのでしょうか?

 東工大の場合は女子枠の導入から間も無いため、このことについて実証的に検討することは難しいでしょう。しかし、東工大よりも以前から女子枠を導入していた大学においては、女子枠の導入によって大学の質が低下した、と言うことは困難なようです。

 山田信太郎D&I財団が2024年1月に、女子枠による入試を実施している(予定も含む)大学に対して行った調査によると、2020年度以前にすでに女子枠を導入していた3つの大学では、「2016年度入試の導入から8年で10%だった工学部の女子学生比率が15%となった」「約半数の女子が大学院に進学し、意欲的な女子学生が研究面でも貢献」など、女子枠の導入は大学側から見ても「成果」として映っていると考えられます(※10)。「女子枠で優秀な学生をとることができるのか」と言う疑問についても、名古屋大学工学部(2023年度より女子枠を導入)によると、「元気な女子学生が多く、成績も上の中くらいで優秀」と述べられています(※1)。このように、女子枠がすでに導入されていた大学においては少なくとも、東工大の学生が危惧していたような「大学の質の低下」は起こっていないと考えられます。


 もちろん、女子枠を導入している大学が挙げた課題として、「学習面でのフォローアップ」「女子枠入学者のスティグマ化」などがありました(※10)しかしこれらに対して私は、それぞれ大学側が個別に対応するような問題・女子枠の理解が進めば自ずと解決する問題だと考えており、これだけで女子枠の意義を矮小化してはいけない、と考えております。

まとめ

 前々回から出してきた3本の記事は、元々は「なぜ東大の女子比率は是正されなければならないのか」というタイトルの下、大学の女子比率を上げる取り組み(あるいは、私自身がそこに参画すること)の意義を述べる1本の記事の予定でした。

 あまりに長すぎて分割したため、最後は女子枠の話だけで終わってしまいました(しかも少し前に女子枠についての座談会の記事が出ていますね)が、この記事も含め、今回は新聞記事や社会学関連の本などをしっかりと引用して、納得感の強いように私の意見をまとめたつもりです。

 各(理工系・難関)大学が女子比率の低迷を解決しようとアファーマティブ・アクションの導入が広がっていますが、それに対しては逆風ばかりなのが現状です。私のように、この状況に一石を投じてくれる人が少しでも増えていったら嬉しい限りです。

出典・参考文献

  1. 朝日新聞デジタル「大学入試の女子枠は「男性への逆差別」か? 実施の40大学が語る「反応」と「課題」 」https://www.asahi.com/thinkcampus/article-110453/ 2024/9/15アクセス

  2. Polimill「大学入試における女子枠「反対」が約5割。「大学入試は公正に能力によって選別すべき」や「女性の割合を増やすためだけの改革では、女性の立場や評価を貶めるものになるかもしれない」などの反対意見が寄せられた。」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000247.000088829.html 2024/9/15アクセス

  3. Surfvote「大学入試において女子枠を作るべきか?」https://surfvote.com/issues/94elkwj6wxei 2024/9/15アクセス

  4. 三成 美保・笹沼 朋子・立石 直子・谷田川 知恵『ジェンダー法学入門 第3版』法律文化社 2019年

  5. ボストン大学「Inequity, Equality, Equity, and Justice」https://www.bu.edu/diversity/resource-toolkit/inequity-equality-equity-and-justice/ 2024/9/15アクセス

  6. Yahoo!ニュース「「女子枠」反対の声根強いが…理工系大で加速、入試改革の必要性」https://news.yahoo.co.jp/articles/2597ac500b7fb57bd0dc7add86647daa9f0be609 2024/9/15アクセス

  7. #YourChoiceProject『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』光文社新書 2024年

  8. マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』早川書房 2011年

  9. 東京工業大学学生有志「東工大の女子枠導入への署名活動-署名活動についての説明」https://sites.google.com/view/titech-joshiwaku/explanation 2024/9/17アクセス

  10. 山田進太郎D&I財団「理工系学部の「女子枠」実態調査2024 アンケートから読み解く、24大学の「女子枠」制度の現在地と展望」https://www.shinfdn.org/posts/F7R1vmwx 2024/9/17アクセス

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コメント

6
エヌ氏
エヌ氏

デマばかりの記事です。
女性差別撤廃条約を締結している国でも女子枠は違憲として退けられています。なぜなら、女子差別撤廃条約はアファーマティブアクションの設置自体を認めているものの、容認だけなので現地の憲法とバッティングすれば、否定されます。
前々回の記事というのもバイアスばかりです。現在の日本においては高等教育に勧めていないのは男性であり、進学について親の影響が強いのも男性です。これは、内閣府男女共同参画局の公的な資料からも明らかです。
こうやってデマで男性差別を推進するのはやめてくださいね。

meganesky
meganesky

女子枠は逆差別ではなく単なる性差別ですよ。

ひだけん
ひだけん

記事中にある「女子枠を含むAAがCEADWを根拠に合法である」という主張は誤りです。「この条約に定義する差別と解してはならない」という文言は、あくまでこの条約の枠内での話に限定されます。条約上は許容されるが、憲法上は許されないという状況は十分にありえます。実際CEDAWに批准している国の中でも、AAに対する違憲判決が出た事例は枚挙に暇がありません。有名なものだとドイツのカランケ判決などが挙げられると思います。フランスでも議員クオータに違憲判決が出て、改憲してパリテを実現しています。日本の憲法学の世界でも枠を用いたAAは違憲説が主流です。以下に参考になる文献を紹介しておきますので、ご参考になれば幸いです。

「たとえば国立大学への入学につき、一定の社会的弱者に優先枠を設けることは、仮に実質的平等の要請にかなうものであるとしても、受験機会の平等という形式的平等の要請に明らかに反する。積極的な差別是正措置は一般的には是認されるとしても、方法や限度を誤ると「逆差別」として許されないことになる。」
野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利(2012)「憲法I[第5版]」有斐閣

金井福子
金井福子

「大学の使命を定義し、選考方針を定めるのは大学自身であって、出願者ではない」
その理屈でいくと大学が「女性の上方婚が少子化の原因となっているので来年度より本校を男子校とします。本校の使命は少子化を解決することです」と言ったら納得するのだろうか? 否、共通善に反してるとして意義を唱えるはずである。

大事なのは共通善であって大学の独断であってはならない。すると本来なら、「本人の落ち度ではない理由で、彼らを不利な立場におくこと」が共通善となるかが争点のはずなので、氏の主張はそこから目をそらして結論を先取りした詭弁である。

はい反論どうぞ。
どうせ逃げるからみんな見ててごらん。

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近年増えている「女子枠」は本当に逆差別? |NPO法人 #YourChoiceProject
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