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「難関大の女子比率」低いまま放置すると何が起きる?

 皆さんこんにちは。 #YourChoiceProject ライターの たけ です。
 前回の私の記事では、「東大の女子比率は正義によるものなのか」という論点で東大の女子比率を改善する必要性を論じてきました。今回は、この問題を解決しないとどのような弊害が生じるか、という視点からこの問題を論じてみようと思います。

難関大の女子率の偏りがもたらす弊害

 前回の記事で、難関大の男女比率の偏りが不正義によるものであるという主張を述べてきました。前回の結論を踏まえた上で、今回は次に想定される(仮想の)反論を設定します。それは

「仮に不正義の結果女子率が偏ったとして、それは緊急性をもって対応しなければならないほどの問題なのか?」

というものです。この「緊急性」について考えることを通じて、この問題に取り組むことの重要性を述べていきます。


 もちろん「不正義だからそれを正さなくてはならない」というのも1つの答えですが、ここではなるべく客観的な答えを提示すべく、難関大の女子率が低いことがもたらす実害を検討することで、この問いに答えていこうと思います。


 1つ目は、官僚や管理職・研究業界など、日本の諸分野のトップに立つ集団の男女比が偏り、政策決定に支障をきたす例です。ここでは特に、研究業界に的を絞って述べていきます。

 例えば私が興味を持っている東大工学部の「化学システム工学科」は、UT-BASEによると女性の割合は1〜2割だそうです (※1)。東大工学部の学科の女性の割合は、「都市工学科 都市計画コース」「化学生命工学科」を除いては、全て1〜2割となっています (※2)。
 このように研究の場においてジェンダーの非対称性があると、様々な弊害が生まれます。その実例を2つ紹介します。

AIによる性差別の再生産

 1つ目はAmazonの人事採用システムにおいて生じた人種差別・性差別です。2018年のロイターの報道によると、同社が開発を進めてきたAIによる人材採用システムが女性を差別しているという欠陥があり、同システムの運用を取りやめています (※3)。この欠陥が生じた原因を、ロイターは次のように説明しています。

これはコンピューターモデルに10年間にわたって提出された履歴書のパターンを学習させたためだ。つまり技術職のほとんどが男性からの応募だったことで、システムは男性を採用するのが好ましいと認識したのだ。

 その結果、「履歴書の『女性』に関する単語、例えば『女性チェス部の部長』といった経歴が記されていると評価が下が」り、例えば「ある2つの女子大の卒業生もそれだけで評価を落とされ」ることになったのです。

 これはAIシステムを開発する際にサンプルとして男性の人材のみを前提にしていたこと(これまでの男性優位社会の再生産)、そして「AI開発者に男性が多いこと」 (※4)に端を発する性差別の問題でした。もしAI開発の現場に女性がもっと多ければ、このジェンダーバイアスを是正する機会がもっとあったかもしれないことは、容易に推測できると思います。これは、情報系の科学分野におけるジェンダーの非対称性がもたらす弊害の例でした。

研究分野におけるジェンダー非対称が「女性」にもたらす不利益

 2つ目は、技術開発などの現場で男性が多いことによって女性の存在があまり考慮されず、結果その技術が女性に不利益を引き起こした例を紹介します。


 先ほどは「AI開発者に男性が多い」ことを説明するために、東京新聞の記事『AIならフェアな人事ができる? ジェンダーバイアス潜む「ブラックボックス」に挑む』から引用を行いましたが、この記事の後半には『「ジェンダード・イノベーション」とは』というサブタイトルの下、「車の衝突実験で男性を模した人形のみが使われてきたことで、体格の違う女性が事故で重傷を負う確率が高い現実があった」ことや、「薬の副作用が起こるリスクは女性の方が高いことも、医学会では長く見過ごされてきた」ことなど、性差が考慮されないことにより過去にもたらした実害が述べられています。


 実際にどういう事件が過去に起きたのか、調べてみました。

 プレジデント・オンラインの記事によると、男性の方が女性よりも自動車事故に遭う確率が高いにもかかわらず、女性が自動車事故に遭った場合は、「重傷を負う確率は男性よりも47%高く、中程度の障害を負う確率は71%高い」とあります。さらに死亡率では17%もの差が出るようです (※5)。同記事によれば、その原因には、衝突安全テストに用いるダミー人形が「平均的な男性」の体格に基づいていて、それを大きく下回る女性の体格には合わないことがあります。2011年にやっとアメリカの衝突安全テストで「女性」のダミー人形が使われるようになったのですが、それでも妊婦の場合には有効なシートベルトが開発されておらず、さらにそのシートベルトは女性の胸の膨らみを考慮できていない設計になっているそうです。こういった事例も、開発の現場に女性が多く存在することによって解決ができる問題であるはずです。


 次に医療の現場で起こる事例をみていきましょう。おそらく一番有名なのは「サリドマイド」と呼ばれる薬に関するものでしょう。この薬は1950年代から60年代にかけて世界中で販売された鎮静・睡眠薬であり、妊娠初期に服用すると胎児に奇形をもたらす副作用があります。それにより、世界で数千から1万人の胎児が被害を受けたとされています (※6)。NHKによると、この事件の背景には「男女間で病気に差異が出ることはない」という当時の認識から、生理がなく体の状態が安定している男性を研究対象としていたことがあります。そしてサリドマイド事件が起こると、アメリカ政府は臨床試験に女性の参加を禁止する勧告さえ出しています (※7)。このように、医療業界では男性を基準にして研究が行われてきた過去があります。


 近年では「性差医療」という医療方式が注目を浴びており、サリドマイド事件のような問題が起こることは少なくなると予測されます。しかし、研究分野において男性優位になることがもたらす弊害は、この例を見ればわかっていただけると思います。

東大内で平然と行われる差別

 そして、東大の中に男性が圧倒的に多いことは、学内においても大きな問題を引き起こします。それは、「東大女子お断りサークル」の存在です。


 東大の現役副学長である矢口祐人氏が、著書『なぜ東大は男だらけなのか』の序章で、東大内のジェンダーの不均衡を意識したきっかけとして「中でも忘れられない」としている問題です。東大新聞オンラインの2019年の記事によれば、Webサイトや新歓用ビラなどの情報で東大女子が参加できることが判明しなかったサークル52個のうち、3つのサークルが「参加を認めない」と回答していました。さらに、東大の女子学生83人に、「東大女子が入れないサークルによる不利益を被ったことがあるかどうか」に関する調査を行うと、13人が不当な扱いを受けたことがある、と回答しています (※8)。この状況に対し、先ほど名前を上げた矢口祐人氏の元には、「日本が世界に誇る東大がこんな差別を平然と許して良いのか」「先生方は東大がこのままで良いと思っているのか」「私たちは東大が女性排除を認める大学だとは聞いていなかった」などの女性留学生からの声が届いたそうです(※9『なぜ東大は男だらけなのか』p24より引用)。これを受けて同氏は、「東大の学生と教員の論理がいかに男性の視点を軸にしたものであるかを認識せざるを得なかった」と、この問題と、(東大の男女比率の差がもたらすと考えられる)東大の男性優位の現状を結びつけています。
 
 この例が示すように、東大の構成員の男女比が偏っていることは、新たな差別の問題を生み出しているとも考えられるのです。

まとめ

 前回に続き今回の記事では、「難関大の女子比率を放っておいてしまうとどうなるか」という点に着目して、「不正義」とは別の視点でこの問題を解決する意義を強調してきました。この記事で述べたように、世界の科学技術が健全な発展を遂げるためにも、女子比率を是正することには意味があるのです。

出典・参考

  1. UT BASE「化学システム工学科」https://ut-base.info/faculties/37 2024/8/15 閲覧

  2. UT BASE「工学部」https://ut-base.info/faculty_categories/1 2024/8/15 閲覧

  3. Reuters「焦点:アマゾンがAI採用打ち切り、「女性差別」の欠陥露呈で」https://jp.reuters.com/article/idUSKCN1ML0DM/ 2024/8/17 閲覧

  4. 東京新聞「AIならフェアな人事ができる?ジェンダーバイアス潜む「ブラックボックス」に挑む」https://www.tokyo-np.co.jp/article/311150 2024/8/17 閲覧

  5. プレジデント・オンライン「「男女差47%」自動車事故で女性の重傷リスクが圧倒的に高い理由」https://president.jp/articles/-/46283 2024/8/17 閲覧

  6. 厚生労働省「サリドマイド薬害事件の歴史と薬の催奇形性・先天異常に関する教育の重要性」https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000rwbu-att/2r9852000000rwkk.pdf 2024/8/18 閲覧

  7. NHK「”男性目線”変えてみた 第一回 性差医療の最前線」https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/ZN86YR4VJ2/ 2024/8/26 閲覧

  8. 東大新聞オンライン「東大女子の参加を認めないサークル  東大内に少なくとも3つ」https://www.todaishimbun.org/gender20190307/ 2024/8/18 閲覧

  9. 矢口祐人「なぜ東大は男だらけなのか」集英社新書 2024年 pp. 22-2

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コメント

4
Shigki Nakmura
Shigki Nakmura

地方国立大学は女性比率が増えています。また公立高校も女性比率は増えています。山本五十六が卒業した長岡高校は戦前は男子校ですが現在は女子生徒が多くずっと生徒会長は女子です。

東京大学などが1人負けですね。出身校は男子校ばっかりですし

さくらと島
さくらと島

地方国立大に進学した子から「女性比率は4割。差別はないと思う」と、一方、都内国立大学に進学した子から「男女差別、首都圏と地方の差別が散見される」と。その地方の女子進学率は低いのですが、大学内の男女比率は6:4。いったいどうなっているのでしょう。東大や難関大のゆがみが際立つのか、地方は少子化により男子優遇もできなくなっているのか・・・??

はろ
はろ

地方の場合、県庁所在地クラスとかの都市部でないと、そもそも東大を目指せるレベルの高校がないのが現実。自分もそういう田舎で育ちました。現在の入試の是非はともかく、地方では男女問わず、東大を目指さない、というより、そもそも目指せない環境も少なくないのです。
進学校に行くために、高校から親元を離れざるをえないのはざらです。
地方でも、政令市、県庁所在地、それ未満といろいろで、地方の解像度を上げる必要がありそう、と思います

はろ
はろ

地方女子が東大や難関大に進学すると、卒業後にまた壁に直面しがちです。
まず、難関大を出ると地元に愛着があっても特に女子はUターン就職先がなかなかない。東京で就職して結婚、子どもを持つと、実家は遠くサポートを得にくく、東京生まれ東大卒女性との間に圧倒的な育児サポート体制の差が出てきます。
男女とも安心して育児を対等にできる就労環境、育児サポート体制が整えばまた別かもしれませんが、東京女子と地方女子の格差は、卒業後も何かとつきまとうのが現実かと思います。人生全体を考えると、意外と根深い問題です。
とりとめなくすみません。

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