第66回なぜ安倍氏か未解明、「迷い」ない判決、弁護側が不十分 3者の見方

花野雄太 新谷千布美 島崎周

 結論は、検察側の求刑通り「無期懲役」だった。安倍晋三元首相銃撃事件で殺人罪などに問われた山上徹也被告(45)に奈良地裁が言い渡した判決を、識者はどう受け止めたか。

波床昌則さん(元刑事裁判官)

 無期懲役の量刑は、犯行の危険性や結果を踏まえれば重すぎるとはいえず、妥当だ。

 被告の生い立ちが犯行に大きく影響したのか、動機の形成過程が最大の焦点だった。教団への恨みや怒りは分かるが、なぜ最終的に安倍元首相を狙ったのか、その疑問が検察側・弁護側の冒頭陳述では明らかにならず、公判を通じても十分には解明されなかった。弁護側はこの点を被告人質問でもっと厳しく、粘り強く質問し、本人から本音を引き出すべきだった。

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元裁判官の波床昌則弁護士

 判決は、被告の不遇な生い立ちは「遠因」にすぎず、安倍氏殺害に至ったことには「大きな飛躍」があるとした。生い立ちが犯行動機に強く結びついているという弁護側の主張の核心部分が、裁判員に十分にアピールできなかった結果といえる。

 公判の審理回数は、裁判員裁判の平均の3倍の15回に及んだが、証人尋問は総花的で、ポイントが絞られていなかった印象を受けた。動機の形成過程にスポットライトを当て、繰り返し尋問をしていれば、動機形成が情状として重視される結果となったかもしれない。

江川紹子さん(ジャーナリスト

 あまりに「迷い」のない判決だ。結論に驚きはなく、犯行自体も確かに強い非難をすべきだ。しかし、その判断に至る中で、一番大事な部分が漏れていないか。

 判決は「合法的な解決を模索することなく、反社会性の大きい殺人を選択した」「その点に生い立ちが大きな影響を及ぼしたとは認められない」などとする。

 しかし「模索」とは、どうすればよかったのか。何ができたのか。

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江川紹子さん=2025年10月16日、東京都内、新谷千布美撮影

 当時、政治権力と旧統一教会は密着していた。宗教2世の窮状に社会やメディアの目も向いていなかった。被告の孤独と絶望感が遠景に追いやられている。

 模索などせず、狭い視野のまま、決めたことに突き進んでしまう姿は、生い立ちと関係があるように思う。オウム真理教の事件でもみられた、カルト宗教的な思考パターンだ。被告は信者ではないが、証人の宗教社会学者の指摘通り、信者の母の影響ではないか。

 なぜ安倍氏の殺害に至ったのか。被告自身が整理できておらず、なんとか整理をして他人にわかってもらおうという気力も感じられない。生きる希望を失い、教団に「一矢報いる」目的をある程度達した以上、どうでもいいのかもしれない。

 こうした被告の心理状態について、専門家を証人に呼ぶなどして、審理を尽くしてほしかった。公判前に、弁護側の情状鑑定の請求が地裁に退けられたというが、するべきだった。

 絶望と孤独が、どんなふうに人間を偏らせ、狭い視野に陥らせるのか。そうした観点がないと、くみ取るべき教訓も十分得られないのではないか。

塚田穂高さん(宗教社会学者=文教大教授)

 判決で山上被告の生い立ちが「不遇」という一言で片付けられ、「宗教2世」問題が事件と切り離されたことには大きな疑問を覚える。弁護側の主張はほぼ退けられ、情状酌量も認められず、かなり厳しい判断だと受け止めている。

 判決は山上被告について、信者である母親の言動や経済的状況などから「生い立ち自体は不遇な側面が大きい」としながらも、「(犯行の)意思決定の過程に大きく影響したとみることはできない」とした。

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文教大の塚田穂高教授(宗教社会学)=本人提供

 宗教を背景にした虐待が法廷で一つのテーマとして上がったことなどから、山上被告の境遇が宗教2世の問題として社会に一定程度認識されたことは前進だ。一方で、判決は旧統一教会の問題性に触れておらず、教団と政治の関係についても捨て置かれた。結局、家族の問題や個人の不遇として受け止められ、深められなかったように感じた。

 宗教2世としての生い立ちが、その後の生き方や考え方にどのような影響を与えるのか。弁護側はその点の立証が足りなかったように思う。宗教2世にも様々な境遇や影響があることを踏まえ、この問題にふたをせず、考え続けなければいけない。

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この記事を書いた人
花野雄太
大阪社会部兼ネットワーク報道本部
専門・関心分野
調査報道、国税
島崎周
東京社会部|文部科学省担当
専門・関心分野
性暴力、性教育、被害と加害、宗教、学び、人権

安倍晋三元首相銃撃事件

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2022年の安倍晋三元首相銃撃事件で起訴された山上徹也被告の裁判は、26年1月21日に無期懲役の判決が言い渡されました。関連ニュースをまとめてお伝えします。[もっと見る]

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連載深流Ⅶ 「安倍氏銃撃」裁判(全70回)

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