「頭がよくないと、お金をあげませんってことですか」脳性まひの男性が問う 生活保護「補償」が突き付けた命の格差

2026年1月21日 06時00分
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〈連載・ゆがめられた生活保護 違法判決の後〉➀
安倍政権下の2013~15年の生活保護費の基準額引き下げを違法として取り消した最高裁判決を受け、政府は生活保護利用者への補償を決めた。
本来手にすることができた生活費が全額戻る――。当事者たちはそう考えたが、違った。高市政権は補償を一部に限り、裁判を起こした原告とそうではない「非原告」で大きな差を付けた。
それはなぜか。違法判決後の対応のあり方を問う。(中村真暁)


◆勝訴判決の裏で進む「再改定」の罠

「意見を言うこと自体難しい立場の人がいる。そういう人が、どんどん切り捨てられるのかと思うと悔しい」
車いすに腰かけた川西浩之さん(53)=東京都世田谷区=は、そう声を強めた。2001年から生活保護を利用している。裁判を起こさなかった「非原告」の一人だ。

スマホは買えず、ボタン式の「ガラケー」を使う川西浩之さん=2025年12月17日、東京都世田谷区で(中村真暁撮影)

「頭がよくないと、お金をあげませんってことですか」とも続けて言った。
生まれたときに脳性まひとなり、足や肩から指先までの両腕全体に不自由さがある。手先がうまく使えず、複雑なひも結びはできない。特別支援学校を卒業後、2001年から生活保護などを利用し1人暮らしをしている。
生活保護費の基準額引き下げを巡っては、2014年以降、1000人を超える人たちが国と裁判で闘ってきた。
川西さんは裁判を傍聴するなどして原告たちを応援してきた。それだけに最高裁で勝ち取った「違法」判決には、「よかった」と胸をなで下ろした。
しかし、政府は違法とされなかった手法で基準を「再改定」し、一律2.49%下げ直す方針を決めた。
生活保護利用者には、当時の支給額と再改定後の差額分を補償し、原告だけは特別給付で上乗せするとした。
  • 生活保護費の基準額引き下げに対する補償内容は?

    2013~15年の生活保護基準額引き下げを違法とする最高裁判決を受け、厚生労働省は有識者9人による専門委員会の意見に基づき、補償のあり方を検討。生活保護費の調整手法を見直し、当時の経済状況に当てはめて給付額を算出した上で、当時の減額分との差額を全利用者に支払うこととした。原告には、長期間の訴訟負担などに配慮し、補償する保護費とは別に特別給付金を上乗せする。対象は原告約700人と原告以外の約300万世帯。世帯にもよるが、1世帯当たりの補償額は原告で約20万円、原告以外は約10万円。

◆裁判を起こせなかった「理由」がある

川西さんは2013年からの引き下げについて、当時裁判を起こすために必要な不服申し立ての手続きをしていた。
だが、実際に裁判を起こすには至らなかった。川西さんはその理由を語った。
「裁判をするには、難しい書類を書かなければならないと思っていた。家族の状況も公にするのかと思うと、嫌になってしまって…」
いま、生活は苦しくなるばかりだ。川西さんは小銭が入った貯金箱を見つめ、「やりくりしようとしても、お金が足らないんです」と打ち明ける。

小銭が入った川西さんの貯金箱=2025年12月17日、東京都世田谷区で(中村真暁撮影)

一般的なスマートフォンは高くて買えず、ボタン式のいわゆる「ガラケー」を7、8年ごとに買い替えている。
旅行や友人の結婚式に行きたい。でも、何度も何度もあきらめてきた。
生活保護利用者には、障害や高齢などの事情を抱える人が多い。書類の作成も、そのために必要なものを調べるのも容易ではなく、川西さん以外にも裁判という手段で意見を表明しにくい人は大勢いる。

◆「僕の後ろには、たくさんの人がいる」

だからこそ、川西さんは今回の国の決定が、そうした人たちの命の価値を軽んじていると指摘する。
「厚生労働省は原告に補償すれば、終わりだと思っているのだろう。でもそれって、提訴できるほどの能力がないと、お金をあげないということ。いかに生存させたくないかということでもある。僕たちをばかにしている」
声を上げられるかどうかで、「命の値段」に差がついていいのか。川西さんは訴える。
「僕の後ろには、たくさんの障害者や生活に困っている人がいる。そうした人を助けられる国に、変わってほしいんです」

生活保護費の基準額引き下げ訴訟 安倍政権は2013~15年、生活保護のうち生活費に充てる「生活扶助」の基準を平均6.5%減額。独自指標による物価下落を反映した「デフレ調整」と、低所得世帯の消費実態との比較で保護世帯間の均衡を調整した「ゆがみ調整」を併せて行った。これに対し、全国で1000人超の利用者が「生存権を脅かす」として国や自治体を相手取り提訴し、一連の訴訟を「いのちのとりで裁判」と呼んだ。最高裁は2025年6月、デフレ調整は「裁量権の逸脱や乱用があり違法」と断じ、減額処分を取り消した。1人当たり1万円の国家賠償請求は退けた。

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    みんなのコメント1件

  • ユーザー
    ピーナッツ 7 時間前

    この記事を読んで司法書士業界のCMが増えるのではと思います。
    司法書士業界が今のサラ金過払い訴訟で儲かる感じで儲かるのかな?

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