勤務先の不正を告発したら、退職後に企業から損害賠償を求めて訴えられる――。近年問題となる「スラップ(どう喝)訴訟」は、なぜ防げないのか?
「通報後」の賠償請求のみ禁止
スラップ訴訟は、企業など資金や権力を持つ側が、声を上げる告発者らを萎縮させる目的で起こす裁判とされる。勝訴の見込みがなくても、個人を経済的・精神的に疲弊させることが可能だ。
日本ではスラップ訴訟を規制する法律がなく、問題となっている。
内部告発者を保護するルールとして公益通報者保護法があるが、スラップ訴訟との関係はどうか。
その7条では「公益通報によって損害を受けたことを理由として、通報者に賠償請求することはできない」と規定しており、企業側の賠償請求を制限している。
ただ、条文の「公益通報によって損害を受けた」というところがポイントだ。
別の理由での賠償請求ならば、制限されないためだ。
たとえば、企業側がよく問題視するのが通報者の資料持ち出しだ。通報者は通報内容を信じてもらうため、企業の内部資料を持ち出すことがあるが、これが「情報流出にあたる」として企業から賠償請求をされることがある。
専門家「提訴も『不利益』とすべきだ」
公益通報者保護法に詳しい日野勝吾・淑徳大教授は「『公益通報』にあたるかどうかは、最終的には裁判所の判断に委ねられており、正当な通報行為を目的とした場合であっても、企業側の判断によっては秘密漏えい行為として取り扱われてしまう。また、7条で『公益通報前の損害』に対する賠償請求を制限していないため、機密情報の流出などを理由に賠償請求が許される状況が起きている」と指摘する。
そこで、日野教授が提案するのは、公益通報者保護法が禁止する「通報者の不利益取り扱い」の規定に、「提訴」も入れることだ。
現行法の条文では解雇や降格、減給、退職金の不支給といった事例を挙げて不利益取り扱いを禁止しているが、ここに「裁判の提起」を入れるという考えだ。
日野教授は「通報者が在職中はもちろん、退職後も守られる規定にする。不利益取り扱いの範囲をもっと幅広くしておかないと、公益通報者保護法が機能しない」と話している。【遠藤浩二】