light
The Works "いつか皆と一緒に食べられる日を願って" is tagged "蘇枋隼飛" and "WINDBREAKER".
いつか皆と一緒に食べられる日を願って/Novel by そら

いつか皆と一緒に食べられる日を願って

1,783 character(s)3 mins

人前で食べない蘇枋の話。
全て捏造です。
閲覧は自己責任でお願いします。

1
white
horizontal

『なんで食べないの?』
人前で食べない俺に、みんなは聞く。
そりゃあ当然だろう。
みんながもんじゃを食べてる中、俺だけお茶をすすっているのだから。
俺は笑顔で自分で決めた常套句をいう。
『俺、ダイエット中なんだ』

気づいたら人前で食べられなくなっていた。
きっかけはわからない。
元々少食ではあるが、食べ盛りの思春期に入っても食欲が増すどころか、どんどん減る一方で中学に入る頃には1日1食で十分な胃袋になってしまった。
自分で握ったおにぎりを食べれば腹が満たされた。
食欲がないせいで、周りがどんなに美味しそうに食べていても、美味しそうとも食べたいとも思わない。
そんな俺の事情を知らない周囲は、当たり前のように俺に食事を差し出し、遠慮すれば「美味しいから一口でも」と、食べ物を分けてくれる。
でも、俺は食べたくないし、食べられない。
体が受けつけないから仕方ない。
思いつく限りの言い訳をし、断固として断る俺に周りの反応は十人十色、不満げな顔をする者もいれば、調子に乗ってさらに勧めてくる者もいた。
俺が食べないことで、人間関係にひびが入るのは相手にとっても自分にとっても気持ちのいい事ではない。
だから俺は断るための決まり文句をつくった。
『オレ、ダイエット中なんだ』
貼り付けた笑顔で言うと、相手はまず驚きの表情を浮かべてから訝しげな目を向ける。
「お前、そんな太ってないじゃん」
「ダイエットする必要ないだろ」
俺の標準的な体型を見てそう思うのだろう。
見えてないだけで…と続けると、その胡散臭さに呆れられ、それ以上追求してこない。
何度も言い続けていたら、いつしか蘇枋は「食べない人」というレッテルを貼られ、初対面でない限り、俺に食べ物を勧めてくる奴はいなくなった。

風鈴に入学してすぐ獅子頭連と喧嘩が起こり、俺もタイマンに参加した。
相手は弱い者いじめするカッコ悪い奴で、大人の階段を登るためにしっかりと教育してあげた。
俺を含む5組のタイマンの結果、風鈴の勝利に終わり獅子頭連と和解、打ち上げでみんなでご飯を食べることに。
風鈴の総代梅宮さんは喧嘩終わりなのに、美味しそうにメシを食べる。
「オレさ、こうやってみんなでワイワイして食べることが好きなんだよ」
俺が全く感じたことのないことを言われ、正直驚いた。
こんなにも、自分と正反対な人がいるのか。
メシを食べる梅宮さんの笑顔を見れば、心の底から美味しいと言っているのがわかる。 
梅宮さんの笑顔は周囲を包みこむような温かさがあり、不思議と和やかな気分になる。
なのに俺は…
こんな状況でも、相変わらず食欲はないし美味しそうとも思えなかった。
俺は場違いだ。
みんなも食べようぜ、と梅宮さんが目の前の料理をすすめると、皆が美味いと言いながら食べ始める。
俺は箸をとることができない。
なぜか手がカタカタ震える。
食べない俺に周囲の視線が向く。
悪気のない眼差しに胸が詰まる。
見ないでほしい。
俺のことなんて気にしないでほしい。
「食べないのか?」
固まっている俺に、隣から声がかかる。
誰だろう、柊さんかな? 
『オレ、ダイエット中なんで』
普段なら笑顔で言える言葉が出てこない。
言えない。
今までなら周りの顔色なんて気にせず言えた言葉が、どうしてかこの場で言うのは憚られた。
この温かい雰囲気をオレの一言で壊してしまいそうで、怖かった。
どうしよう。
笑顔も取り繕えなくて、引き攣った顔のまま俯いていた。

「大丈夫だ、蘇枋。無理しなくていい」
え…
オレの心の中を覗いたかのような台詞に息を呑む。
恐る恐る顔を上げると、優しく笑う梅宮さんと目が合った。
「誰もお前を責めてるわけじゃないんだ。いつか笑って食べられる日がくるといいな」
なんで…
どうしてそんなにわかってしまうんだろう。
オレの不安を取り除くような優しい言葉をかけてくれる。
何か言いたいけど、ここで何を言うのが正解なのかわからない。
顔を上げて気づいたが、俺を見る周囲の視線は温かかった。
中学の頃の、冷たい視線を向ける者や嫌な顔をする者がこの場にはいない。
そのことにほっとしている自分がいる。
もしかしたら、俺は心のどこかでこういう温かい場所を求めていたのかもしれない。
自分の居場所が見つかった気がして笑みが溢れた。

Comments

  • ぱらぱらり
    April 9, 2025
Potentially sensitive contents will not be featured in the list.
© pixiv
Popular illust tags
Popular novel tags