キャリア

公開日:2026/01/20 更新日:2026/01/20

「AIは助手」90歳のデジタルクリエイター・若宮正子の人生哲学

81歳でアプリ開発に挑戦し、90歳を迎えた今も講演や執筆を通じて活動を続ける若宮正子さん。

後編では、若宮さんが著書や講演会で伝え続けてきた「自分の殻を破ること」「失敗の価値」「年齢や周囲の目に縛られずに生きるための考え方」など、変化の激しい時代を軽やかに生き抜く仕事論と人生哲学について、じっくりと伺いました。

前編: 世界中を飛び回る90歳・若宮正子に学ぶ、いくつになっても自分を更新し続ける方法

「常識」という透明な箱から一歩外へ

――講演会では、どんな方にお話されることが多いのですか?

さまざまな講演会に伺うので、できるだけお客様に合わせた内容にしています。老人クラブの場合もありますし、若手社会人の方や経営者の方々を対象にすることもあります。本当に多種多様ですね。講演会に皆さんが足を運んでくださることが、非常に大きなモチベーションになっています。

――どういったお話をされるのでしょう。

一般の方向けの講演では、まず「自分自身を半透明なプラスチックの箱の中に閉じ込めてしまっている人が多い」というお話をします。特に地方の女性の方に多いのですが……。その箱は「常識」や「世間体」といった素材でできている箱です。だからこそ、そこから一歩外に出てみませんか、というメッセージをお伝えしています。

――常識や世間体から外れた生き方をするのが怖いという人は、多いと思います。

いつの時代も同調圧力はありますよね。でも、それに屈しないんじゃない。無視するんです。戦っちゃいけません。無視すればそのうちに言われなくなりますから。

失敗経験は、なるべくたくさんしておいたほうがいい

――著書でも「たくさん失敗をしましょう」とおっしゃっていますね。

そうですね。お母さんたちは子どもに失敗させないようにしがちですが、それがよくない。大きな花をたくさん咲かせるためには、「ペケ」とか「駄目」とか「あかん」とか、そういうものが肥料になって育つんですよ、という話をしています。

たとえば、子どもたちが段ボールでロボットを作るとします。ところが、一人だけなかなか完成しない子がいる。するとお母さんがイライラして、「うちの子は駄目ですね」と言うんです。

でも、そうじゃない。たまたま一回でできてしまったら、それで終わりです。でも失敗した坊やは、「何が悪かったんだろう」と考える。だから、むしろこの子のほうが、たくさん学べていいんです。

――失敗したほうが成長できていると。

失敗経験は、なるべく若いうちにたくさんしておいたほうがいいと思います。

たとえば、志望校にも入れて、就職も希望どおりで、「幸せだ」と言う人がいたとします。ところが、結婚の段階になって、急に好きな人に振られてしまったら、ものすごくショックでしょう。でも若い頃から、「世の中はなかなか自分の思いどおりにはならない」ということを知っている人なら、それにも耐えられると思うんです。

――精神的にも強くなっているんですね。

会社経営でも、三つくらい倒産させたら、その人はきっと立派な経営者になれると思いますよ。「プロジェクトX」じゃなくて、「プロジェクトバッテン」がいいんです。

もちろん、家庭を持っていて、簡単には失敗できない人の気持ちも分かります。私自身は独り身ですから、ちょっとヤクザなこともできるんですけどね(笑)。

――守るものがある人も、失敗したほうがいいのでしょうか。

ええ。たとえば子どもにとっても、お父さんが事業に失敗することは、ひとつの貴重な経験になると思います。

日本は80年前に戦争をして、負けました。皆が敗戦者になって、いわば「ペケ」がついてしまったわけです。1億総ペケですね。それでも、私たちはそれを乗り越えてきた。失敗したからといって、それで終わりではないのですから。

――今の時代が難しいのは、SNSなどで成功している人が目に入ってくることだと思います。うまくいっている人や楽しそうな人を見て、相対的に自分を卑下してしまうとか……。

そうなんですよね。でも、SNSって楽しい部分しか書かないものじゃないですか。しんどい部分は、まず書かないでしょう。逆に言えば、「私は世界で一番不幸な女です」みたいな人もいますけど、その人もまた、自分の不幸な部分だけを切り取っているわけです。

結局のところ、生身の人間と付き合ってみないと、本当のことは分からないんですよ。だから、気にしないことが大事。 周りを気にしないだけじゃなくて、自分自身のことも気にしすぎず、好きに生きてほしいと思います

30代はまだ「4回の表」。年齢はただの数字にすぎない

――若手社会人の中には、キャリアに焦りを抱えている人も多いですが、それについてどう思いますか?

「私ももう年だから」って、80代、90代の人が言うなら分かるけど、最近は30代の人でもそう言うでしょう。でも、そんなことを言ったって、20代に戻れるわけじゃないんです。

年齢なんて単なる数字にすぎません。私自身だって、いろいろな成果が出てきたのは70代、80代になってからですよ。でも、その間ずっと、自分で自分を育ててきたんです。

<若宮さんがデザインした「エクセルアート」のうちわ。58歳から独学で習得したパソコンを使いこなす>

人生100年時代なんですから、結果が出るのが遅くて当たり前。小学校の成績なんて関係ないし、学歴だって関係ない。 30代なんて野球で言えば、まだ4回の表くらいのところですよ

――焦る必要はないのですね。

一方で 「悩む」ということは、とても大事なことなんです 。「悩みなさい」というのも変な言い方ですが、悩む時期があること自体が、将来にとってすごく意味のあることだと思っています。それを否定的に捉えずに、大いに悩んでほしい。悩まない人生なんて、おかしいですからね。

根性なんてなくていい

――最近の若い人を、若宮さんはどのように見ていますか。

大変な時代を、一生懸命に生きているんだなと思いますよ。今は変化の時代でしょう。私たちの頃は、どちらかと言えば、変化を嫌う時代でしたからね。

私たちが若い頃は、いわゆる根性論の時代でした。昔は高校野球のピッチャーが何回も登板していましたが、今ではそんなこと、とんでもないですよね。

――年配の方の中には、「今の若者は根性がない」と言う人もいますよね。

私は、根性なんてなくていいと思います。そんなにひとつのことにこだわっていても、不確実で変化の激しい時代ですから。何かに詳しい人であっても、今はAIが登場して、そうしたスキルが必要とされなくなることもある。

今は、 根性よりも「好き」が成功につながる時代です 。たとえばノーベル賞の受賞者だって、結局は「好き」だからこそ続けられた。根性だけでは、なかなかできない仕事ですよね。

――若宮さんの若い頃は、終身雇用の時代ですよね。

そうですね。私は三菱銀行で、18歳から64歳まで勤めました。

――今は転職が多くなっていますが、その点についてはどう思いますか。

いいと思いますよ。世の中を幅広く学ぶことができますから、転職はそういう意味で、肯定的に捉えてもいいんじゃないかと思います。

たとえば、食品メーカーで何かを作っていた人が、コンビニで働くとしますよね。そこで初めて、自分が作った商品に対して、お客さんがどう反応しているのかが見えてくる。「棚を見て、気にはなっているようだけど、値段を見てやめたな……」とかね。売上や統計だけでは見えてこなかったことが、実感として分かるようになる。それは、ものすごく勉強になると思うんです。

――自分がやりたいことが見つからず、悩んでいる社会人には、どんな言葉をかけますか。

やっぱり、もっと自分の視野を広げることが大事だと思いますね。たとえば、ボランティアを1週間でもやってみる。日曜日に、こども食堂で働いてみるとか、スキマバイトをしてみるのもいいかもしれません。そういう、一見すると自分とは関係なさそうな場所にこそ、新しい発見があると思います。

前編: 世界中を飛び回る90歳・若宮正子に学ぶ、いくつになっても自分を更新し続ける方法

プロフィール

若宮正子(わかみや・まさこ)

1935年東京生まれ。58歳からパソコンを独学で習得し、2017年にゲームアプリ「hinadan」を公開。「エクセルアート」の創始者。2017年より政府主催会議の構成員を多数務め、デジタル庁デジタル社会構想会議構成員、ICTエバンジェリスト、デジタルクリエイターとして、IT分野において広く活動している。

著書
『やりたいことの見つけかた-89歳、気ままに独学』(中央公論新社)
『88歳、しあわせデジタル生活-もっと仲良くなるヒント、教えます』(中央公論新社)
ほか多数

取材・文:前多勇太
撮影:島崎雄史
編集:求人ボックスジャーナル編集部 内藤瑠那