学校で「日本人ファースト」と言わないで...実は既にあった、教室内の”見えないヒエラルヒー”
――「この国に生まれたことが、罪ですか?」
日本で生まれ、日本語しか知らずに育ちながら、在留資格を持たず生きる子どもたちがいる。国民健康保険にも入れず、進学や就労の道も閉ざされ、強制送還の不安と隣り合わせの日々を送る。
子どもたちを物語の主役とした書籍『仮放免の子どもたち』では、データや政策を整理したコラムも収録し、外国人政策の「今」を描き出す。
*本記事は、池尾 伸一『仮放免の子どもたち 「日本人ファースト」の標的』(26年1月22日発売)の一部を抜粋・編集しています。
教室内に存在する「見えないヒエラルキー」
学校で「日本人ファースト」と言わないで――。2025年夏の参院選をきっかけに参政党を中心に広がる排外主義ととられかねない主張に対し、教育関係者が懸念を強めている。外国にルーツを持つ子どもたちへの差別やいじめを助長する可能性があるからだ。
多文化共生に取り組む教員らでつくる「全国在日外国人教育研究協議会(全外教)」は「言わない・言わせない『日本人ファースト』」とする緊急声明を公表した。参院選で外国人差別を正当化するような主張が広がったとしたうえで、「子どもたちは『ああ、こういうことを言ってもいいんだ』と学習してしまいました」と危機感を示した。
対策として、学校で外国にルーツを持つ子どもたちが安心して学べるように署名活動も行い、集まった5069人の署名を、夏休み明けに全国の教育委員会に提出した。子どもたちの差別的な言動への指導・監督や、外国籍の子ども向けの相談体制の整備を求めた。
ただ、教室の国際化が進み、多様なルーツの子どもたちが一緒に机をならべる中で、「見えないヒエラルヒー」がすでに厳然と存在している。参政党が「日本人ファースト」というが、学校の教育は実際には残酷なまでにすでに「日本人ファースト」なのだ。
日本に住む外国人は、在留資格を持つ人だけでも2024年12月末で約376万人にのぼる。このうち18歳未満の未成年者の総数は約34万人で、10年間で1.5倍に増えた。小・中・高等学校に在籍する外国人の児童・生徒数をみても、公立学校だけで2024年時点で約13万8000人と、10年間で8割増えた。これだけでなく、在留資格を持たない、非正規滞在者の子どもたちもいる。
いま日本の小・中・高の教室では、多くの外国籍の子どもが学んでいる。埼玉県川口市、群馬県の桐生・太田・館林各市、愛知県の三河地方など、外国人の多い地域の小・中・高では、教室で学ぶ外国人の割合が1割を超えるという学校も少なくない。
子どもたちは同じ教室で机を並べて学ぶが、外国籍の子どもたちは在留資格ごとに「できること」「できないこと」が厳格に定められている。入管難民法のつくりだした「見えないヒエラルヒー(階層)」の世界だ。親の在留資格によって子どもの在留資格が規定される点では、親の階層が子に引き継がれる江戸時代のような身分制度も想起される。子ども自身の努力だけでは変えられない、子どもたちにとっては残酷な階層構造である。
「できないことだらけ」の仮放免の子ども
日本人の児童生徒や、外国籍から日本国籍に帰化した子どもたちは在留資格による制限はない。対照的に、最も「できないことだらけ」なのは超過滞在(オーバーステイ)などで在留資格をなくした家族の子どもたちだ。入管から一時的に解放された形の「仮放免」や、「監理措置」下で暮らしている。何度も触れてきたように、「国民健康保険に入れない」「生活保護の対象外」など生活に制限がある。親の収入にかかわらず高校授業料の相当額を国が支援金を出して実質無料にする「高校無償化」制度も、在留資格がない子どもたちは対象外だ(自治体によっては独自の制度・運用で無償化対象にしているところもある)。
小・中学校の義務教育については、文科省は、国籍・在留資格の有無を問わず教育を受けさせるよう求めた国際的な「子どもの権利条約」に基づき、在留資格のない場合も学校に無償で受け入れるよう自治体の教育委員会に求めている。
一方、子どもの権利条約では大学、専門学校などの高等教育についても「能力に応じ、すべての者に対して高等教育を利用する機会が与えられるものとする」と明記している。だが、文科省は在留資格のない人の入学を認めるかについては「受け入れを妨げるルールはない」としながらも、実際に受け入れるかの判断は各学校に委ねている。この結果、在留資格のない人を門前払いにする学校は少なくない。試験は受けられても合格した段階で、大学に住民票の提出を求められ、入学を断念した人もいる。
在留資格がない家庭の多くは、両親が働くことを禁じられているため一般に貧しい。それにもかかわらず、大学に進学しようとしても奨学金もほとんど活用することができない。日本人なら国が支援する日本学生支援機構(JASSO)の奨学金があり、所得が低い場合、給付型なら自宅外通学の私大で、2025年時点では年間最大約91万円が毎年、支給される。卒業後に返す前提で貸与型の奨学金を活用することもできる。
しかし、在留資格がない人は日本学生支援機構の奨学金の対象外だ。在留資格がない人も使える奨学金を提供する民間団体も出始めているが、対象人数は少なく、狭き門だ。かと言って、自分でお金を稼ごうとしてもアルバイトも禁止されている。仮放免の若者が大学や専門学校に行こうとしても、大学側の拒否姿勢に加え、授業料を工面することも難しく、二重、三重の厚い壁に阻まれることになるのだ。
大学や専門学校を卒業した場合、入管庁が在留特別許可を与え、仮放免から脱出し就職までこぎ着けることもある。しかし、在留特別許可を与えるかどうかについての判断は入管庁の裁量に委ねられていて、取り扱いはその時どきで変わる。若者からすると、トンネルの先に明かりがみえないまま、学費捻出に苦労しながら勉強を続けなければならないことになる。
「まるで『無理ゲー』です。目隠しをされ、手を縛られて、それでも向こう岸まで泳ぎつけと言われているようなものです」。ある専門学校生の女性はわたしに苦しさを吐露した。
(※外国人当事者及び家族は注記のない限り仮名。敬称略。当事者らの年齢は取材時点。)
『警察官になりたくてもなれない...外国籍の子どもが直面する“職業の不自由”』へ続く。