中国、南京のシンガー、李志さんのライブにお招き頂き、東京ガーデンシアターへ。
本国での公演を禁止されて五年目にようやく実現したライブとのことで、中国全土からオーディエンスやミュージシャンが駆けつけ、客席で見守る李志さんのご両親に対しても暖かな歓声が湧き起こり、大会場にもかかわらずアットホームな祝福の感覚で満ちていた。
李志の歌声は音源からの想像をさらに上回る深さ、骨太さで、ロックやフォーク、レゲエなどに加えて、当地の人々の悲心を引き受け続けてきたオールドスタイルな歌謡曲もベースとなっているであろうそのサウンドは、歴史の荒波にもまれて来た彼の国のポップカルチャーが、西側に属した国々から一定の時間差を伴ってようやく花開いた瞬間の潜在記憶とレガシーを切実に引き継いでいることから、1979年生まれの自分とはほぼ同年齢にもかかわらず、パラレルなもうひとつのポップ史を生き延び、逆風の中での成熟をなしえた一人の人間としての大きな説得力にあふれ、敬意を覚えずにはいられなかった。
李志は本物の人間であり、本物の歌い手だった。そして見たことがないほど柔らかな笑顔を見せる紳士的な人だった。彼が背負って来たものは自分自身の音楽だけではないのだと、多くを語らずとも直感した。彼のこれからの音楽人生が新たな祝福に満ちていることを、心から願う。
この奇跡のようなツアーを実現し、五年間という、志を抱えた演者にとってあまりに大きな空白を埋めてみせたPANDA RECORDの喜多さんからも非常に大切なことを教わった。
東アジアのふたつの音楽シーンのあいだに、つかのま美しい虹の架け橋が現れたような一夜だった。
panda-record.zaiko.io/item/363255