2026年度共通テスト「情報Ⅰ」は受験生に何を求めているのか?
大阪大学で情報教育の研究をしている北村です.どこかの高校で教科情報の非常勤講師をしている北村でもあります.
昨年は最速解説(自称)を書かせてもらいました.
今年も感想を書いていくのですが,正直昨年ほどテンションは高くないです.ざっくり言うと「しんどい・・・」という感じでした.問題を解くのも,問題が解けるようになるのも,です.
今年は,この問題セットを解き切るために,何が要求されていたのか,ということを考察したいと思います.
問題文はこちら(朝日新聞 Web サイトより):https://www.asahicom.jp/edu/kyotsu-exam/shiken2026/mondai_day2/joho1_o0sl5b1v/pdf/joho1.pdf
第 1 問
問 1 - a
この問題は良いなと思いました.定期テストだとつい「主記憶装置」や「補助記憶装置」の方を穴抜きにしたくなってしまうのですが,特徴の方が重要です.
この問題が要求しているのは「日頃から『なぜ?』を考えること」です.記憶装置が 2 つも出てくるなんておかしいじゃないですか.でも,そこにはきちんと理由や棲み分けがあるんですよね.
問 1 - b
この問題も良いなと思いました.各用語の定義丸暗記でなく具体例が思い浮かぶレベルで理解・記憶できているかが問われています.
誤答選択肢ですがソーシャルエンジニアリングが入っているのも良いですね.まずはカフェで離席するときにパソコンをロックするとか,そういう身近なところからセキュリティを意識していってほしいです.
問 2
これは・・・面白いのか・・・? 2 進法に絡めたアートみたいな感じです.実用性は謎です.
解答用紙に e と f の列が増えたことは情報入試界隈(?)では事前に話題になっていましたが,実際受験した人の何割が知っていたのか気になります.公平性の観点で文句が出るとまずいので,一年寝かせてくる手もあるかなと思っていたのですが.ただ基数変換は流石に共通テストを受ける層なら常識ですよね.
何にせよ,0 と 1 をマス目に書き込んだり,間違えずに基数変換したり,丁寧な仕事が求められています.
問 3
随分とご高齢な利用者が多いサービスですね.何のサービスなのか気になります.
そもそも,スクロール距離の平均を小さくすることがユーザにとってベストなのでしょうか? 1961 年とか半端な値が初期値になっていたら気持ち悪くないですか? 年を遡らないといけないってちょっと嫌な人もいるんじゃないですか?
データドリブンな UI の設計というのは良いと思うのですが,こういう無機質で機械的な計算ではなく,ユーザアンケートの結果とかを元にしたら良かったのにと思います.
そして,中央値の性質を知っているかを問うて何になるんですか? その場で考えて気づかせたいなら,もう少し丁寧な誘導があっても良かったのではと思います.
情報デザインの皮を被った,算数パズルみたいな問題です.情報Ⅰが目指すべき方向性がこれなのかはよくわかりません.
問 4 - a
これは実は,プログラミングの問題なのかもしれません.特に「い」について,ドメイン名が @ の前に正しく書かれているので,コンピュータが空気を読んで良い感じに受信側メールサーバまで届けてくれるのでは思った受験生もいるかもしれませんが,そんなことはありません.無慈悲に @ で区切って機械的に処理していくだけです.
コンピュータの気持ちになりきって動作を再現できる能力が求められています.
問 4 - b
この問題,微妙に不適切だと思っています.「受信側のメールサーバの IP アドレス」を(ドメイン名から)特定する仕組みならまだ良かったのですが,問題文には「通信先」の IP アドレスとだけ書かれています.この場合,ルーティングも答えになるはずです.あるレイヤーで捉えたとき,途中のルータから見た次の転送先のルータも「通信先」ですので.
まあただ,受験問題はやたら DNS が好きなので,空気を読んで今回もどうせ DNS だろと思っておくと正解です.キーワードの「ドメイン名」を出さずに出題を捻ったつもりなのかもしれませんが,そろそろ DNS 以外を出してほしいです.
第 2 問 - A
マイナンバーか何かをモデルにしたと思しき問題です.日頃から身近な情報システム(の炎上)にアンテナを張っておくことが大切です.
マイナンバーの導入当時も相当燃えました(今もかもしれませんが).コンビニで他人の住民票の写しが出てきた事件もありました.
こうした事案に対して「ヤバい」と思う嗅覚は大切です.きちんと自分で納得するまで仕組みを調べて,大丈夫そうだと思えたときに使えばいいのです.授業でこうした事件を取り上げて原因や解決策を調べる活動があっても良いのかもしれません.
ちなみに今回の問題は全然納得していません.アクセスコードが漏洩する可能性を考慮するなら,履歴書等を Web で提出するタイミングで盗聴される可能性もあるはずです.役所のせいで漏洩したという話にはならないのかもしれませんが,システム全体としてセキュアになっているのかはよくわかりませんでした.(じゃあどうすればセキュアになるのか,は考え中です)
題材は良いと思うのですがなんか詰めが甘くて騙された気分になる問題でした.
第 2 問 - B
これもまた丁寧な仕事が求められています.1 つ 1 つ丁寧に考えれば解けないことは無いのですが,0 が黒で 1 が白というのは人によっては直感に反するので,混乱しながらも頭をバグらせないように論理演算を繰り返す必要があります.普段機械にやらせていることを機械のように正確に実行することができれば大丈夫です.(正直しんどい・・・)
論理演算による画像処理は情報入試典型となりつつあるようなので,今後は画像編集ソフトでレイヤーを重ね合わせて面白画像を作る活動も授業で増えていくのかもしれません.
ただ,これは普通に生きていれば知ることのないコンピュータの裏側の仕組みの話という感じがして,身近かと言われると微妙な気もします.もう少し身近寄りで関心が持てそうな設定何か無いかな・・・.
第 3 問
プログラミングの大問は標準的な出題でした.問 1 ではプログラムを書かずに,手作業で実験を行い,実装方針を整理しています.問 2 ではそれを繰り返し処理のあるプログラムに書き起こします.問 3 では,問 2 で作成したプログラムを取り囲む新たな繰り返し処理を入れることで,最終的に二重ループの完成です.小さく動くものを作って,段階的に拡張していく開発の流れを経験していれば強いです.
問題設定も,お客様を長時間お待たせするわけにはいかないという可愛くも身近な発想で,自然です.
ただ,細かいところで気になる点はいくつかあります.
まず,今年も添え字は 1 から始まっていました.「特に説明がない場合,配列の要素を指定する添え字は 0 から始まる」という文はもはや古典ですね.去年とか,部員 ID を 0 から振れば良かったのではと思うのですが,それをしなかったということはもう添え字が 0 から始まる問題設定を作るのは相当大変なのではと思います.
次に,最大値関数が登場したこと.ここは例年なら条件分岐を使うところではないかと思いました.難易度を下げる意図なのか,逆に見慣れない表現で難易度は上がるのか.それがアリなら,今後配列の最大値や合計値を求める関数を使っても良いのか.限られた授業時間であんな表現もこんな表現もあるよと提示しても生徒は消化しきれないので,こうした関数は使わない暗黙的なレギュレーションがある方が現場は楽なんですが,楽はさせてもらえないようです.
問 2は配列を 0 で初期化して順番に埋めていくという挙動で,漸化式っぽさが強かったなと思いました.値が途中で上書き(変更)されることなく,一度埋めればそのままというのは,繰り返し処理特有のトレースの難しさが低減しています.
また,論理演算子の and が登場しました.『共通テスト用プログラム表記の例示』に載っているのですが,丁寧に説明がなされていました.一方で,break 文は出てきません.break 文を使わないせいでループが余計に 1 回実行されてしまい,その挙動を開き直って問題にしてしまっています.break が許されていれば and も while もいらなかったのに・・・.
プログラミングの問題って,出題範囲を明確にするのが難しいなと思いました.
そして一番気になっているのは,図 3 の 10 行目「saichou = 0」です.共通テスト用プログラム表記では,変数の定義の扱いが曖昧になっています.もし 10 行目「saichou = 0」が変数の定義を含意していることを想定すると,02 行目と 03 行目の間に挿入した「saichou = 0」とはスコープが異なる別の変数ということになり,while 文の判定で使われている saichou の方は値がずっと変わらないままになってしまいます.
具体的に C++ で書き下すと次のようになります.
#include <iostream>
using namespace std;
int main(){
int Touchaku[] = {-1, 0, 3, 4, 10, 11, 12};
int kyakusu = 6;
int taiken = 1, saichou = 0;
while (taiken <= 15 && saichou < 10) {
int Kaishi[] = {-1, 0, 0, 0, 0, 0, 0};
cout << "配列Kaishiを初期化しました!" << endl; // 「ソ」を求めるために追加
int Shuryou[] = {-1, 0, 0, 0, 0, 0, 0};
Shuryou[1] = taiken;
for (int i = 2; i <= kyakusu; i++) {
Kaishi[i] = max(Shuryou[i - 1], Touchaku[i]);
Shuryou[i] = Kaishi[i] + taiken;
}
int saichou = 0; // ここが変数の定義を含意する場合
for (int i = 1; i <= kyakusu; i++) {
saichou = max(saichou, Kaishi[i] - Touchaku[i]);
}
if (saichou < 10) {
cout << "体験時間" << taiken << "分間:" << "最長待ち時間" << saichou << "分間" << endl;
}
taiken = taiken + 1;
}
}これを実行すると次のようになります.
配列Kaishiを初期化しました!
体験時間1分間:最長待ち時間0分間
配列Kaishiを初期化しました!
体験時間2分間:最長待ち時間2分間
配列Kaishiを初期化しました!
体験時間3分間:最長待ち時間4分間
配列Kaishiを初期化しました!
体験時間4分間:最長待ち時間8分間
配列Kaishiを初期化しました!
配列Kaishiを初期化しました!
配列Kaishiを初期化しました!
配列Kaishiを初期化しました!
配列Kaishiを初期化しました!
配列Kaishiを初期化しました!
配列Kaishiを初期化しました!
配列Kaishiを初期化しました!
配列Kaishiを初期化しました!
配列Kaishiを初期化しました!
配列Kaishiを初期化しました!「配列Kaishiを初期化しました!」は,ばっちり 15 回出力されてしまいます.
10 行目は削除すると一言書いておけば良かったに・・・みんながみんな Python を使っているわけではないだろうに・・・と思いました.
第 4 問
問 1 ではオープンデータや欠損値について問われました.グラフの作成方法についても問われました.問 2 ではデータとデータを組み合わせて新たな列を計算する加工のプロセスが問われました.表計算ソフトで数式を使って列と列から新しい列を作り出すようなイメージです.
昨年は似た問題として尺度水準が問われていました.データサイエンスはグラフを読み取るパートだけでなく,問いを立てたりデータを収集したり整形したり適切なグラフを作ったり結果をまとめたりするパートも含まれますので,今後も似たような位置付けの問題が出続けると思われます.データサイエンスによる問題解決の一連の流れを体験しておくことが求められています.
問 3 以降はグラフの読み取りですが,散布図がなかなかに細かい・・・.2 日目の最後の時間で集中力も限界.試験時間は残り僅か.焦らず丁寧にグラフの細部と選択肢の文章表現を照らし合わせて正誤判定できたかが問われました.辛い.
問 3 - b「コ」「サ」は論理学っぽさがあってちょっと面白かったです.
今年はある程度自然で一貫性のあるストーリーだったと思います.桜の開花日に関する経験則があることを知って,実際検証してみたら特定条件下でずれることがわかって,補正によってもっと精度の高い予測モデルを作ろうとしています.
情報Ⅰの範囲で予測に使えるのは回帰直線だけなので,こうした設定の問題を作るために今後も重宝されるのではないでしょうか.
まとめ:2026年度共通テスト「情報Ⅰ」は受験生に何を求めているのか?
セット全体としては,問題量が多く,最後まで解くのが大変だったのではないかと思います.疲れてケアレスミスも連発.自己採点しながらどうしてこんな簡単な問題を間違えてしまったんだと嘆いている姿が目に浮かぶようです.もっとゆっくりじっくり良質な問題と対話できたら素敵なのにと思います.
ただ,そう理想ばかり言ってもいられません.得られた学びもありました.ここまで太字にしてきた内容をまとめると,次のような形になります.
受験生個人が身につけるべきこと
日頃から身近な情報技術や関連するニュースに関心を持ち,「なぜ?」「どうして?」「具体例は?」を考えたり調べたりする態度
特に二進法を題材にしたお遊びや基数変換について,素早く正確に手作業で実行・計算することができる技能
2 日目の最後でも焦らず丁寧な仕事ができる集中力・精神力
授業等の学習活動で取り入れるべきこと
情報のデジタル表現の単元で,画像編集ソフトでレイヤーを活用した画像製作実習
小さなプログラムに対してそれを覆うループを追加するような,段階的に複雑化させていくプログラム開発の流れの体験
オープンデータの収集,欠損値の処理,表計算ソフトによる数式を活用した列の追加といった,グラフを読み取る以外の部分のデータサイエンスのプロセスの体験
いろいろとツッコミを入れたくなるところもあったのですが,得られた知見も多かったので今後の授業設計に役立てていきたいと思います.
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共通テスト対策の冊子を note にて公開しています.オープンデータや欠損値ももちろん載せていました!


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