たとえ、手のひらの上で転がされているだけだとしても! 2
表向きはやさしいけど、ちょっと意地悪で、本性ドSな蘇枋くんと、蘇枋くん大好きな女の子のお話です!
1話ご拝読ありがとうございました!
ブクマたくさんいただけて、とてもありがたいです。
勢いのまま2話も書きましたので、また楽しんでいただけたらうれしいです!
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ティーカップに口を付けるその横顔がキラキラして見えるのは、女の子だったら仕方がない。
だって今日も今日とて、蘇枋くんはこんなにもかっこいい……。
「蘇枋くん。私ね、今日もテストで90点取っちゃった~」
「へえ、それはすごい。よく頑張ったね」
蘇枋くんは微笑みかけると、私の頭を撫でた。蘇枋くんはかっこいいだけじゃなくて、とてもやさしい。そんな蘇枋くんに頭を撫でられるなんて、幸せで死んでしまいそうだ……。
「あとね、先生の掃除の手伝いもしたんだ~」
「うんうん。えらい、えらい」
「ここに来る前には、お財布拾って、交番に届けたの!」
「風子ちゃんは、いい子だなぁ」
いい具合に、蘇枋くんにたくさん褒められている。
今日の蘇枋くんは特にやさしい。この調子なら、ついに悲願を果たせるかもしれない……。
私は蘇枋くんの様子をうかがいながら、「だからね……」と本題を切り出した。
「今日こそ、蘇枋くんの連絡先教えて欲しいなぁ……って」
蘇枋くんはクスクス笑うと、ゆっくりと私のほうへと体を向け、私の手を握った。
やっぱり今日の蘇枋くんは、いつもと違う! 怖いくらい会話が噛み合っているし、まだ左眼に封印された龍の話も出てこない。
来た……! この日のために、どれだけ蘇枋くんに立ち向かってきたことか……。ようやく蘇枋くんの連絡先をゲットできる。蘇枋くんの連絡先をゲット出来たら、朝から晩までずっと蘇枋くんに、愛情たっぷりのメッセージを送って……。
「ごめんね。スマホ、家に忘れて来ちゃった」
「うん……ッ!! わかってた!!!!」
わかってた、どうせこんな落ちだろうとわかってた……!
今日こそいけるという期待を最高潮まで高め、一気に落とす。蘇枋くんはとてもやさしくて、そしてそれ以上に意地悪である。ニコニコと楽しそうな笑顔が、確信犯であることを物語っていた。
どうせ教えてくれないとわかっているのだ。連絡先ゲットチャンスも24連敗となれば、さすがに私も学習してくる。蘇枋くんは存分に期待を持たせたあと、結局は教えてくれず、毎度私を絶望の底へ叩き落とした。
「風子ちゃんも懲りないわね……」
顔を上げると、ことはちゃんが哀れむような目で私を見ていた。
蘇枋くんの連絡先ゲットチャレンジは、およそ半数が喫茶店ポトスでおこなわれている。つまりポトスで働くことはちゃんは、その半数の現場に立ち合っていた。懲りずに何度も挑戦しては惨敗していく私を、ことはちゃんも呆れているようである。
「でも、ことはちゃん! 今までは連絡先がないっていた蘇枋くんが、今日はスマホを家に忘れたって言ったんだよ!? 蘇枋くんはついにスマホの存在を認めたんだよ!? これって大きな進歩なんじゃないかな!?」
「それって進歩って言えるの?」
「進歩だよ!!」
「そいつのことだから、明日にはまた、裏庭に封印してた龍にスマホが飲み込まれたとか言うんじゃないの?」
うわぁ……、蘇枋くんなら言いそうだ……。私がちらりと蘇枋くんを見ると、紅茶を飲んでいた蘇枋くんは「裏庭に龍は封印してないよ」と言った。
「でも、ひょっとしたら明日にはもう、アマゾンに落としてなくしちゃうかもしれないけどね……」
「わかっているなら、日本にいてほしいかな!!」
蘇枋くんはやさしいが、人が困っている苦悩しているところを見て楽しんでいるところがある。たぶん私の気持ちも全部わかっていて、私のことを弄んでいるのだ。
「蘇枋くん、なんで私に連絡先教えてくれないの?」
聞いた話によると、蘇枋くんは知らない女の子には連絡先は教えないらしい。だから特別私にだけ、連絡先を教えてくれないわけではない。それでももう、蘇枋くんにとって私は知らない女の子ではないと思いたい。こんなにも何度も蘇枋くんに会いに来ているのだから、そろそろ教えてくれたっていいはずだ。
「風子ちゃんは、どうしてだと思う?」
「私を、からいかいたいだけでしょ? それくらい、私にだってわかるよ」
「それだけだと思う?」
蘇枋くんは、私の髪を指ですくい、耳にかけて顔を覗き込んだ。本当に、この人は……。蘇枋くんは人を弄ぶのも上手いが、女の子をドキドキさせるも天才だ。それともただ、私が単純なのか……。おそらくどっちもなのだろう。
「私に連絡先を教えてくれない、他の理由なんてないくせに……」
「もっと、オレのこと考えて?」
うぅ……、蘇枋くんがかっこいい……! そんなセリフを、その目、その声で言われたら、女の子はみんなひとたまりもない。蘇枋くん、こんなにも女の子を弄ぶのが上手いのだから、その気になったら超売れっ子ホストとかにでもなれそうだ。
「オレの気持ち、わからないの?」
「わからないよ……。蘇枋くんが何を考えているかなんて……」
というか、その甘ったるい視線は心臓に悪すぎる……! これ以上そんな目で見られたら、心臓が爆発してしまう……。「だって、もし連絡先を教えたら……」蘇枋くんがそう言って詰め寄ると、私の心臓は爆発寸前まで高まっていった。
「スマホの連絡だけで満足して、オレに会いに来てくれなくなるでしょ?」
「あ゛ぁあああああ!! 絶対嘘だとわかってる、わかってるけど一応聞いてもいいかな!?」
「うん。嘘だね!」
わかってる、わかっているんだよ……! 蘇枋くんがこんなこと1ミリも思ってないって。蘇枋くんがこんな甘いセリフを、ふざける以外の目的で言うわけないって、わかっているのに、どうしても釣られてしまう……!
「ご感想は?」
「すごくいい、没入型体験アトラクションでした……」
「それはよかった。今のは、いつも頑張ってる風子ちゃんへのご褒美だよ」
蘇枋くんはひどい……。私が蘇枋くんのことを、どう思ってるかわかってるのに。蘇枋くんはふざけているつもりでも、私は蘇枋くんの一挙一動すべてに一喜一憂してる。なのに私が何をやっても、蘇枋くんの心を動かすことができない。
好きになったほうが負けなんだ。わかってるけど、でも悔しい……。
そんなことを考えていると、近くで電子音が鳴り、蘇枋くんはポケットからスマホを取り出して耳に当てた。
「もしもし?」
「忘れたと言ったからには、少しは目の前でスマホ出すの遠慮して欲しかったかな!!」
私が怒ると、蘇枋くんはまったく悪びれる様子もなく、ごめんごめんと平謝りした。わざとだ。私が怒るのも楽しんでいるんだ……。
「蘇枋くんがふざけているつもりでも……、私は蘇枋くんにはぐらかされるたび、傷ついてるんだよ……」
大好きな人に24回も連絡先聞いても断られて、平気なわけがない。
蘇枋くんといると、うれしくなったり、悲しくなったり、感情の変化がめまぐるしい。なのに蘇枋くんはいつも変わらずヘラヘラしていて、私が何をやっても全然反応してくれない。私一人がいつも慌ただしくて、バカみたいだ。
「蘇枋くんの意地悪!!」
私はお会計を置いて、1人でポトスを飛び出した。
蘇枋くんの意地悪。それは前からわかってた。意地悪なところも含めて好きだよ。でも私だって、嫌なことくらいある。確かに勝手に連絡先を聞きに行っているのは私だ。連絡先を教えるのも教えないのも蘇枋くんの自由だし、普通の人なら何度もしつこく連絡先を聞かれたら迷惑だ。だから悪いのは、私なのだけど。
全部私一人が勝手に突っかかって、私一人が勝手に怒って、落ち込んで……。
私って、ほんとバカだ……。
でも、どうせこうやって落ち込んでも、また少し経ったら蘇枋くんに会いたくなってしまうのだ。
連絡先を聞きに行くのだって、ただの蘇枋くんに会いに行く口実なのかもしれない。何度も蘇枋くんを追いかけて、そのたびからかわれて……それでもまた、会いに行きたくなるの。
一人で拗ねて、お店飛び出して……。蘇枋くんも、今頃呆れてるかな。あの蘇枋くんが、呆れるほどの関心が、私にあるのかもわからないけど。
どこへ行く当てもなく歩き続けていくと、いつの間にかに商店街を抜けていた。わからない場所ではない。知っている道だ。そのまま歩き続けていると、路地裏の方で何かが倒れる音がし、足を止めた。
野良猫だろうか? そっと路地裏を覗き見れば、見慣れた学ランを着た背中がうずくまっていた。風鈴高校の学ランだ……。学ランを来た男の子は、何か苦しそうに唸っていた。
風鈴高校の生徒は、みんな不良である。そして私は不良が苦手だ。意味もなく人に暴力をふるうような人が理解できない。風鈴高校の生徒でも蘇枋くんは稀有な存在で、とてもやさしい。でも蘇枋くん以外の風鈴高校の生徒には、いまだに苦手意識があった。しかし……。
風鈴の男の子は、苦しんでいるようだ。ひょっとして、怪我でもしているんじゃないだろうか。
不良は怖い……。蘇枋くん以外の風鈴の生徒とは、正直関わりたくない。
だけどこんなに苦しんでいる人を、見捨てていいのだろうか……。
「……あの、」
おそるおそる、苦しみに唸る背中に声をかけた。
「大丈夫……?」
風鈴の男の子が振り返ると、手は赤く腫れ、顔には痣や出血の痕があった。
「大変……!」男の子に駆け寄り、傷の個所を確認する。ひどい怪我だ。私では治療してあげられない。どこかの病院に連れて行ってあげなければ……。
「痛かったね……。早く病院に行こう? 立てる?」
男の子に手を差し伸べると、男の子は首を横に振って、「俺から離れろ」と言った。
「一緒にいたら、あんたまで巻き込むことになる。俺は平気だから、あんたは早く行け!」
巻き込まれる? いったい何のことを言っているのだろうか。男の子が何を言いたいのかは、わからないが、こんな怪我人を放っておけるわけがない。
「俺は追われてるんだよ! 俺と一緒にいたら、あんたが危ない!」
男の子は必死で訴え、私を逃がそうとしていた。
不良は、みんな怖い人ばかりだと思っていた……。
でも蘇枋くんも、この人も、全然悪い人になんて見えない……。
「置いてなんて行かないよ。ほら、肩を貸してあげるから、病院まで一緒に行こう?」
男の子の返事も待たず、脇に肩を入れて立たせようとした時だった。
「見~つけたぁ~!」
振り返れば、8人ほどの粗暴そうな男たちが立っていた。男の子を追っていたのは、この人達だろうか。
「あれ? 女の子がいる? しかもそいつの肩を持ってるってことは、もしかして知り合い?」
「あなたたちは、なんですか? なんでこの人を追いかけてるんですか?」
男たちは、私を頭の先から足の先まで舐めるように見ると、顔を見合わせて下品に笑った。
「俺たちはただ、女の子が暇してたから、一緒に遊ぼうって誘っただけ。なのにそいつが横から入って来て、邪魔しやがったんだ」
「違うだろ! あの子は怖がってたんだ! だから助けたんだ!」
「正義のヒーロー気取りかよ。これだからボウフウリンってやつは、気に食わないんだ。おかげで女の子には逃げられるし……。……まあでも、かわりの子を見つけたからいいか」
男たちの視線に、背筋がぞっとした。目的は察した。ボウフウリンの男の子は、「早く逃げろ!」と言い、私を押しのけて前に出た。
「ここは俺が引き止める! だからあんたは、早く逃げろ!」
「そんなにボロボロの体で、8人足止めできるとでも思ってんのか?」
私を庇おうとした男の子は蹴り飛ばされ、コンクリートに転がった。酷い……。こんな怪我をしている人に、まだ暴力をふるうなんて……。
それに比べ、ボウフウリンの男の子は、怪我をしているのに私を庇おうとしてくれた。やっぱりだ。不良はみんな、乱暴で怖い人たちばかりだと思ってた。でも、町の人たちが言うように、風鈴高校の生徒はほかの不良とは違うのかもしれない……。
だったらなおさら、この子を置いてなんて逃げられない。
男たちがボウフウリンの男の子に追い打ちをかけようとし、私は咄嗟に腕を広げて前に出た。正直怖い。体は震えていた。だけど、体は勝手に動いていた。
「私が残れば、この人は逃がしてくれるんですか?」
「おい!」
けが人ひとりに、8人もよってたかって追いかけて、この人たちは恥ずかしくないのだろうか。
不良は怖い。だけどこんな卑劣な連中に屈しちゃいけない。
「どっちにしろ、逃がすつもりはねぇよ」
男たちは震える私を見て笑った。
ボウフウリンの男の子を庇うために出たものの、やっぱり怖い……。
男の1人が私の手を掴もうとすると、ボウフウリンの男の子が再び立ち上がり、その手を振り払った。するとボウフウリンの男の子は、また腹を蹴り飛ばされてしまった。けが人なのに、何故こんなことができるのだろうか……。
「さあ、行こう。一緒に楽しいことして遊ぼう」
怖い……。助けて……。
私がぎゅっと涙で濡れた目を瞑り、男の手が触れる直前だった。
すぐ近くで、何かが倒れる音がした。
恐る恐る目を開けて音のした方を見れば、手を掴もうとした男が倒れていた。
「お待たせ、風子ちゃん」
はっと見上げてその顔を見たとき、堪えていた涙がほろりと一粒落ちた。
「こわかったよ、すおうくん……」
「うん。待たせてごめんね」
蘇枋くんのやさしい笑みが、私を安心感で包み込む。もう大丈夫なんだって、心からそう思えた。
「蘇枋! 来てくれて助かった……」
「山本君こそ、グループに連絡くれてありがとね。……おかげで触れられる前には間に合った」
蘇枋くんは、ボウフウリンの男の子を山本くんと呼んだ。ひょっとして二人は知り合いだったのだろうか。二人はボウフウリンの生徒だし、顔見知りでもおかしくはないが。
「ところで山本君。その女の子と、少し離れたところに逃げられる? オレ、今からその子には見せたくないことするから」
「お、おう……。ほどほどにな」
山本くんは、私に「ここは任せて行こう」と言った。
「あいつ、強いからここは任せて大丈夫だ」
蘇枋くんは、どうやら不良の中でもケンカが強いほうらしい。このあいだ中学生から守った時も、無傷で不良たちを撃退していて、余裕な様子だった。ちらりと後ろを見ると、背中越しでも蘇枋くんが怒っているのを感じた。あのやさしい蘇枋くんが怒っているのを、初めて見た。
蘇枋くんでも、友だちを傷つけられたら怒るのか……。
私と山本くんは二人で逃げ、そのまま病院へと向かった。山本くんの手の怪我は思った以上に悪かった。私が心配しながら待っていると、やがて病院には蘇枋くんもやって来た。
8人の不良を相手にしても蘇枋くんは無傷。山本くんにあれだけの傷を負わせた相手なのだから、蘇枋くんでも怪我をしてしまうのではないかと心配していたのだが。もしかすると蘇枋くんは、私の想像以上にケンカが強いのかもしれない。
「山本君は?」
「治療中だよ。蘇枋くんは? 見たところ傷はなさそうだけど……」
「オレのことはいいよ」
蘇枋くんは、椅子に座る私の前にしゃがみこみ、私の手を握って顔を見上げた。
「風子ちゃんは? 怪我してない?」
「うん。蘇枋くんが来てくれたから、私は大丈夫だよ!」
「そっか……。よかった……」
蘇枋くんは、私の手を握りしめてうな垂れた。無傷なように見えたが、ひょっとしてどこか痛いのだろうか。蘇枋くんのつやつやの髪をじっと見つめ、ついその頭に触れていた。初めて触ったが、蘇枋くんの髪は女の子みたいにさらさらだ。
「風子ちゃん?」
「勝手に頭触ってごめんね! ……蘇枋くん本当に大丈夫? どこか痛いとこあるんじゃない? 元気なさそうだよ?」
決して、天使の輪が浮かぶつやつやヘアーに触りたかったわけじゃない。本当に蘇枋くんを心配していたのだ。蘇枋くんは私の手を掴むと、頬に添えて「オレのことは気にしないで」と微笑んだ。
「ちょっと自分の不甲斐なさに、嫌になってただけだから」
「不甲斐なさ? 蘇枋くんが?」
山本くんを守れなかったことだろうか? 山本くんを助けられなかったことで落ち込んでいたのか……。蘇枋くんは意地悪でいい加減で変な人だけど、意外と友だち思いなのだ。
「蘇枋くんは不甲斐なくなんかないよ。蘇枋くんが来てくれて、私はすごくほっとしたんだよ。蘇枋くんが来てくれた、じゃあもう大丈夫だって」
「ごめんね。もっと早く風子ちゃんを見つけられたら、怖い思いもさせずに済んだのに……」
いや、よく考えてみれば、そもそも何故あの場に蘇枋くんが来てくれたのだろうか。ポトスを飛び出した私を、追いかけてくれたわけでもなさそうだし。たまたまにしては、運が良すぎる。
「蘇枋くんは、どうしてあの場に駆けつけることができたの?」
「山本君は、オレのクラスメイトで、クラスのグループがあるんだよ。そこに、女の子と一緒にいて、危険だから助けてくれってメッセージが来たんだ。まさかと思って行ってみたら、本当に風子ちゃんがいたから驚いたよ……。山本君も、人に助けを求めるのが苦手なタイプなんだけどね。女の子が一緒にいたから、クラスのグループにも助けを求めることができたんだろうね」
「じゃあ、私も山本くんを助ける役に立てたかな?」
私は結局、山本くんのために何もできなかった。山本くんを庇ったつもりでも、最終的に山本くんと私を助けたのは蘇枋くんだ。私はいなくてもよかったのかなとも思ったけど、私がいたことでクラスメイトに助けを求められたのなら、一応役には立っていたのかもしれない。
少しでも貢献できたことに喜んでいると、蘇枋くんは「風子ちゃんって、本当に……」と呟きながら、私の膝の上に頭を置いた。
「風子ちゃんは、どうしてそんなにバカなんだろうね……」
「バカ!?」
膝の上には蘇枋くんの頭。いつもならときめくようなシチュエーションなのに、バカと言われては素直に喜ぶことができない。確かに後先考えない行動だったとは思うけど、さすがにバカは言いすぎだ。
「風子ちゃんは、役に立たなくてもいいよ。役立たずの風子ちゃんで十分」
「バカって言うし、役立たずって言うし! いくら蘇枋くんでも、さすがにちょっと傷つくよ!?」
私が反論すると、蘇枋くんは特大のため息をついた。
「風子ちゃん。スマホ出して」
「スマホ?」
私は蘇枋くんに言われるがまま、スマホを差し出した。すると蘇枋くんは、自分のスマホも取り出して何か操作すると、すぐに私のスマホを返した。
「これからは、少しでも危ないことをしようと思ったら、実行に移す前にオレに相談しようか」
「これって、まさか……!」
新しい通知を見れば、そこには“蘇枋隼飛”の名前があった。念願の、蘇枋くんの連絡先だ。あんなにも挑戦と敗北を繰り返して来たのに、まさかこんなあっさり手に入ってしまうとは……!
「もしかして私、蘇枋くんにとって知らない女の子から昇格した!?」
「そうだね。風子ちゃんは知らない女の子から、バカな女の子に昇格したよ」
「それって降格してないかな!?」
しかし、だ。何はともあれ、ついに蘇枋くんの連絡先をゲットしてしまった……。これで毎朝、毎晩、毎時間、蘇枋くんにメッセージを送ることができる!
「ありがとう、蘇枋くん! いっぱい、いっぱい連絡するね!」
「うん。いいよ」蘇枋くんは、やさしく笑った。
そう、蘇枋くんは「いいよ」って、やさしく笑ったのだった。
だけど私はあの時から、なんとなく予想はしていた。蘇枋くんのああいうやさしい笑みは、信用しちゃいけない。
蘇枋くんは私をバカと言うけれど、私には学習知能がある。私の経験上、あの蘇枋くんの笑みは、当てにならない。
だから私は、30通メッセージを送って一度も返事が来なくても、そもそも既読さえつかなくても、全然気にしないのだ。いや、気にしないわけじゃない。返事は欲しい、せめて既読だけでも。でもしばらくは、大好きという思いを込めたメッセージを蘇枋くんに送れるだけで、私は幸せだ。
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お昼には、必ずメッセージが来る。たぶん「蘇枋くんの今日のお昼は何?」とか、「今日も蘇枋くんに会いたいな」とか、そんなメッセージだ。
桜君の恋愛センサーは優秀である。風子ちゃんからメッセージが来ると、必ず桜君はピクリと反応した。風子ちゃんがメッセージを送りまくるから、そのたび桜君が反応していて面白い。けれど桜君も、それに一緒にご飯と食べているにれ君も、オレのスマホを鳴らし続けている相手は知らない。だから二人は、通知音が鳴り続けるオレのスマホを不思議がっていた。
「蘇枋さん、スマホいっぱい通知来てるけど、見なくていいんですか?」
「うん、大丈夫だよ。放っておかれるのも好きな子なんだ」
「も、ももも、もしかして、蘇枋さんの彼女ですか!?」
「か、彼女!?」桜君は、顔を真っ赤に染めて咽た。
「アハハハ! 違うよ。うーん、しいていうなら子犬かな?」
「犬もスマホいじれんのか!?」
なんでも真に受ける桜くんは、素直に信じて驚いた。やっぱりこれくらいバカな子は、見ていて面白い。オレが「そうだよ。今度どこかの犬に、スマホ渡してごらん?」と言うと、にれくんが「ダメですよ!」と口を挟んだ。
「桜さんは、そういうの本気で信じちゃうんですから!」
「にれくんはやさしいね。オレは、桜君が犬にスマホを渡すところ、見てみたかったなぁ」
「おい蘇枋! テメェ、またオレに嘘ついたのか!?」
嘘をつかれるたびに、桜君は元気いっぱいに怒る。そんな桜君を見ていると、見ているこっちもパワーがもらえるような気がする。
窓の外には青空と太陽、そして教室には元気いっぱいに怒る桜君。教室のそこかしらで怒鳴りあう、クラスメイト達の声。今日の風鈴高校も、なんて平和なのだろう。
「なあ、蘇枋」
窓から視線を移すと、横には手に包帯を巻いた山本君が立っていた。どうやら先日の怪我は重傷だったらしい。こんな怪我をする前に、クラスメイトへ助けを求められたらよかったのだけれど。
あの後山本君は、桜君に怒られていた。そんな風にクラスメイトを怒れるようになった桜君も成長だが、あれからちょくちょく桜君に相談するようになった山本君も、今回のことで少し成長したようである。
「この前のことなんだが……」
「お礼ならもういいよ。寧ろ連絡してくれて、ありがとね」
「そうじゃなくてだな……」
山本君は、少し頬を赤らめ、照れながら口ごもっていた。桜君に相談するようになってから、彼は少しずつ人に心を開くようになっていた。桜君の影響力には、いつも感心させられる。そんな桜君は、山本君の顔が赤くなると、つられてぼっと顔を赤く染めていた。
「この前、俺と一緒にいた女の子。病院までついて来てくれた……」
「ああ……」
風子ちゃんのことだろうか。ひょっとすると、山本君なりに風子ちゃんにも恩を感じているのかもしれない。彼がこうして人に心を開くようになったのも、風子ちゃんがきっかけの一つであると言えなくもない。
「もしかして、蘇枋の知り合いか?」
「うん。そうだよ」
知り合いと言うか、飼い犬のような……。そう言いかけたが、山本君の照れて赤くなった顔に、何か薄っすら嫌なもの感じた。
「なあ、蘇枋。あの子の連絡先とか知ってたら、俺に教えてくれないか?」