たとえ、手のひらの上で転がされているだけだとしても!
表向きはやさしいけど、ちょっと意地悪で、本性ドSな蘇枋くんと、蘇枋くん大好きな夢主の話です!
夢小説書けて感動です!
拙い文ではありますが、楽しんでいただけたら嬉しいです!
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不良は怖い人ばかりだ。
この町は不良に守られているらしいのだけど、私はあの学校の人たちも怖かった。
「人様にぶつかっといて、ごめんなさいで済むと思ってんの?」
震える中学生を、体格のいい高校生たちが囲む。不良だとひと目で見てわかる高校生たちは、中学生の胸倉を掴んで財布を出せと怒鳴り始めた。
このままじゃ駄目だ……。
誰かに助けを求めようとあたりを見回しても、人通りの少ない高架下には人影はない。
通報はした。だが警察は来るには時間がかかるだろう。というのも、ここには独自の自警団がいる。町でも頻繁に不良たちが喧嘩し、警察が駆けつけるのはいつだって、すべて終わってからだ。いつしかこの町の人は、問題が起きても警察に連絡しなくなり、ますます警察はこの町への出動が遅くなっている。それが不良の絡んだ喧嘩ならなおさらだ。
どうせ不良が起こす事件は、彼らが解決してくれる。警察でさえ、そう思っているのだろう。
あたりに助けを探しているあいだにも、中学生は高校生に財布を差し出していた。しかし高校生は中学生から財布を奪い取ると、中学生の腹を蹴り飛ばした。言いなりになったところで、結局暴力からは逃れられなかった。
周囲には助けてくれるような大人もいない。警察が駆けつけるまでには時間がかかりすぎる。だけどこのまま見過ごすことなんはできない。
すがるように、もう一度あたりを見回した。
すると、遠くであの学校の学ランを来た生徒の姿が見えた。
風鈴高校。不良の集まりの学校だ。
彼らは町を守ってくれているらしく、喧嘩する彼らを町の人たちが応援するのを何度も見たことがある。もし助けを求めたら、来てくれるのだろうか……?
学ランの生徒がいる方へ一歩踏み出そうとしたが、粗暴そうなその横顔を見て、足がすくんだ。
やっぱり不良の人は怖い……。
風鈴高校の生徒は町を守ってくれる英雄だと聞くけれど、町を守ってくれるのは一部の生徒であって、みんながそんないい人であるわけがない。風鈴高校の学ランを着ていたからといって、その人が助けてくれるようないい人なのかなんてわからない……。
躊躇っているうちに、学ランの生徒たちの背中はどんどん小さくなっていき、やがて曲がり角を曲がって消えた。
高架下では、弱い中学生一人を高校生たちが蹴り飛ばしている。財布を取っておいて、それでもまだ足りないのだろうか。弱い相手をいたぶることの、何がそんなに楽しいだろうか。
私は弱い、喧嘩なんてできるわけがない。今出て行ったところで、あの中学生の少年を助けることなんてできない。
体が震えて、足が重い。そこにいて、暴力を振られている中学生を見ているだけで、目には涙が溢れていた。
もしもこの先進んだら、私もあの中学生のようになるのだろうか。それとももっと酷い目に遭ってしまうのだろうか……。
だけど、そうだとしても、
虐げられてる人を見捨てることはできない。
「あの……!」
声を振り絞って、足を一歩踏み出したときだった。
背後から、突然肩を掴まれた。
はっとして振り返れば、眼帯をした男の子がいた。
優しい目をした、顔立ちの整った男の子だ。男の子が笑うと、耳のタッセルピアスが揺れた。
「駄目だよ。こういう時は、ボウフウリンを頼らないと」
発した声色まで優しい。男の子は私の肩から手を放すと、中学生と彼を囲む高校生たちのもとへと歩き出した。その後ろ姿、彼の纏った学ランに、私は目を疑った。
風鈴学園の学ランだ……。
こんなにも優しそうな男の子が、風鈴の生徒なのか……?
眼帯の男の子は振り返って、にこりと私に笑いかけた。
「ここは任せて」
……あれ、なんだこれ……。
さっきまで震えて涙が溢れていたはずなのに、急に胸がドキッとした……。
いや、そんなことよりあの男の子だ。風鈴高校の学ランを着ているけど、どう見ても不良っぽくない。寧ろ乱暴な不良たちとは真逆のような存在に見える。あんな優しそうな男の子じゃ、あの大勢の不良を止めることなんてできない。あの男の子を引き止めるべきじゃないだろうか。
「ま、待って!」
思わず眼帯の男の子を追いかけようとしたが、駆け出すのが遅かった。眼帯の男の子はすでに高校生たちに声をかけてしまっていた。
このままじゃ、あの男の子まで乱暴されてしまう……。不良たちを逆上させたら、何をされるかわからない。今からでも交番へと駆け込むべきだろうか。私がスマホで交番を探そうとした、その時だった。
不良高校生が、眼帯の男の子に殴り掛かった。……が、眼帯の男は、相手の拳をさらりとかわし、寧ろ殴り掛かった不良高校生が倒れた。
一体何が怒っているのだろうか……?
次々と不良の高校生たちが眼帯の男の子に殴り掛かるが、眼帯の男の子はすべて受け流し、殴り掛かった方が倒れていく。
「すごい……」
喧嘩は、目にするのさえ苦手だ。だけど眼帯の男の子のそれは、あまりにも動きが洗練されていて、今まで見て来た喧嘩とは全然違った。柳のようにしなやかに受け流し、一切の攻撃も眼帯の男の子をとらえることができない。
喧嘩は苦手。暴力は怖い。だけど……。
「かっこいい……」
生まれて初めて、人が戦っているのを、かっこいいと思った。
気づけば、中学生を囲んでいた不良の高校生たちは、あっさり全員倒され、尻尾を巻いて逃げ出していた。眼帯の男の子は、傷一つ負っていない。あんなに優しそうなのに、たった一人で全員やっつけてしまった。まさに、眼帯の男の子は、漫画やアニメに出てくるようなヒーローだ。しかも、強いだけじゃなくて、傷ついた中学生にまで、優しく手を差し伸べている。
中学生は、眼帯の男の子に何度も頭を下げて礼を言っていた。眼帯の男の子は、あれだけの喧嘩を繰り広げたあとなのに、中学生に手を振ると、さっさと踵を返してしまった。
登場から去り際まで、何から何まですべてかっこいい!
あの眼帯の男の子は、いったい何者なのだろうか? どう見ても不良には見えないけれど、あの男の子も本当に風鈴高校の生徒なのだろうか? なんで、あんなにも優しそうなのに、喧嘩が強いのだろうか? どうして、関係もない中学生を、なんの見返りもなく助けてくれたのだろうか?
考えるよりも先に、足が動いていた。去っていく眼帯の男の子を追いかけ、「あの!」と声をかけていた。
眼帯の男の子は、私の呼び声で振り返ると、またにこりと笑った。あの笑顔……。喧嘩が強いのに、笑顔はあんなに優しい。その笑顔を見ていると、また胸がドキドキと高鳴った。
「あの、なんで……、えっと……!」
聞きたいことは山ほどあった。頭がまとまらなくて、けれど一番聞きたいことが、口をついていた。
「名前……、名前は、なんて言うんですか!?」
眼帯の男の子は、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりにニコニコ笑い、私に歩み寄って来た。
距離が近づくにつれて、心臓の鼓動が早くなって痛い。
胸を高鳴らせる私に、眼帯の男の子は言った。
「レオナルド・ディカプリオだ」
いや、何を言っているんだ。
「……は? レオナルド・ディカプリオ……?」
「そうだとも。名前くらいは知っているだろ?」
「知っているけれども!!」
え? 冗談? それともはぐらかすための、ただの嘘? もしかして、あんまり自分のこと話したくないのか?
そう思った直後に、眼帯の男の子は、「もしかして、この眼帯のことも気になる?」と、聞いてもないことを話し始めた。
「実は眼帯の下の右眼には、古代中国の悪霊が封印してあるんだ」
待て。この人、まさか……。
胸がトキメキとざわつきで忙しい。しかし眼帯の男の子は、そんな私を置き去りに、右眼に封印された悪霊のことを語り始めた。
「気を抜くと、右眼の悪霊が封印を解こうと暴走するから、大変なんだ」
優しいうえに、ケンカが強くて、しかも顔までかっこいい、パーフェクトな男の子だと……そう思った。
……だが。この人はそんな少女漫画に出てくるような、パーフェクト王子様なんかじゃない。
「ちなみに左眼には龍がいてね、こっちも危険で、オレでも制御が難しいことがあるんだ」
この人、めちゃくちゃ適当な人だ。
「と、言うわけで。また左目の龍が暴走するかもしれないから、オレは立ち去るとするよ」
そういうなり、眼帯の男の子はさっさと背を向けてしまった。
この男の子は一体何なのだろう。話す前より、話した後のほうがもっとわからない。
もしかして話しかけられて迷惑だった? だから、立ち去りたくて、適当なことを言ってはぐらかした? それとも、ただの変な人?
のんびり歩く、その後ろ姿。まだ歩き始めたばかりなのに、とても遠く感じる。見ているだけじゃ、この距離は埋まらない。ずっと遠く離れて、きっともう二度と手が届くことはない。
「ま、待って!」
私は急いで背中を追いかけ、正面に回り込んだ。
「………へぇ。粘るね」
眼帯の男の子は、迷惑がるわけでもなく、意外そうにちょっと目を見開いた。
「えっと、眼帯くん!」
「アハハハ! 名前は、教えたはずだよ。オレの名前はブラット・ピットだ」
「いや、さっきと変わってるし! 本当の名前は?」
眼帯くんは、ふっと笑うと、顔を近づけて囁いた。
「ナイショ」
眼帯くんの綺麗な顔が近づくと、ぼっと体が熱くなった。たぶん、今顔が真っ赤だ……。
眼帯くんは変な男の子で、適当なことばっかり言ってはぐらかすのに。
なのに、やっぱり胸はドキドキする……。
それは眼帯くんの顔が綺麗だからというだけじゃない。もちろんケンカが強くてかっこいいからというだけじゃなくて、眼帯くんが優しいからというだけでもない。
自分でも、どうしてこんなに気になって、知りたくなるのかわからない……。
眼帯くんは、耳まで真っ赤に染めた私の顔を見て、クスクスと面白そうに笑った。
「素直な子だね」
「こ、これは違……くはないんだけど……」
「面白いなぁ。君は見ごたえがあるね」
「じゃあ、本当の名前を教えて!」
「いいよ。オレの本当の名前はジョニー・デップだ」
「眼帯くん!!」
私が怒ると、眼帯くんはますます面白そうに笑う。ひょっとして、私は眼帯くんにからかわれているのだろうか。なんだか私の気持ちも見透かされているみたいで、恥ずかしい。でも、からかわれると嫌なはずなのに、眼帯くんになら、ちょっとだけいいかもと思えてしまう。
「もういいよ、教えてくれなくても。眼帯くんは風鈴高校の生徒だよね? なら眼帯くんが教えてくれなくても、町の人に聞けばわかるかもしれないし……」
風鈴高校の生徒は有名で、目立つ生徒なら商店街の人でも名前を知っていたりする。眼帯くんはあんなに強いし、こんなにキャラが濃いのだから、きっと知っている人もいるだろう。
「それはちょっとズルいんじゃない?」
「ズルいって……それは、まあ確かに……」
本人の了承もなし、勝手に名前を探るのはよくないかもしれない。でも、いくら聞いたって答えてくれないのだから、他の人に聞くほかないし……。それとも、名前を知られるのさえ迷惑なのだろうか。そうだとしたら、これ以上、詮索はできない。眼帯くんの本当の名前は気になるけど、眼帯くんの嫌がることはしたくない……。
私がうなだれると、眼帯くんは指で私の額を上げて訊ねた。
「君の名前は?」
「え……?」
「自分の名前は名乗らないのに、オレの名前だけ調べ上げるなんてズルんじゃない? だから、君の名前は?」
「え……、え、ええっと、風子……鈴木風子です!」
「そう。風子ちゃんって言うんだね」
名前、聞いてくれるんだ……。私になんて興味もないと思ってたのに。嬉しくて顔を赤らめていると、眼帯くんは「また赤くなってる」と言ってからかった。やっぱりちょっと意地悪だけど、そんな意地悪でさえ胸がきゅっと反応する。
「私の名前を教えたから、眼帯くんの名前も……」
「だから、オレの名前はレオナルド・ディカプリオだってば」
「だからって言うけど、さっきからコロコロ何回も名前変わってるからね……!!」
少しは距離を縮めてくれるのかと思ったけど、結局手の平の上で転がされたまま。結局やっぱり名前は知られたくないのだろうか? でも私の名前は憶えていてくれるのだろうか? 眼帯くんは不思議で、何を考えているのかさっぱりわからない。そういう掴めないところさえ、ちょっといいなって思ってしまうから、眼帯くんはずるい。
「次に会ったときには、“眼帯くん”じゃなくて、ちゃんと本当の名前で呼ぶから! そうしたら、その時は振り返ってくれる?」
「さあ、それはどうかな? 左眼に封印された龍がうるさくて、声が聞こえないかもしれないし」
「そんなぁ……」
眼帯くんは掴みどころがなくて、何を言ってものらりくらりとかわされる。だから、いつかまた町で声をかけても、聞こえないふりをされてしまうような気がした。それとも、気分によっては、今みたいに構ってくれるのだろうか……。
「じゃあね。今度こそ行くよ」
風鈴高校の生徒は、町を守るためにパトロールというのをしているらしい。ひょっとすると、眼帯くんもパトロールの際中だったのかもしれない。それなら、これ以上引き止めてしまっては、眼帯くんに迷惑をかけてしまう。
「ばいばい……」私は小さな声で言い、眼帯くんに手を振った。
結局、引き止めても大きな成果はなかった。私の名前は知ってもらえたけれど、あの掴みどころのない眼帯くんが、私の名前を憶えていてくれるとも思えない。本当は“またね”って言いたかったけれど、次に会う頃には私のことなんて忘れているような気がする。私は絶対に、眼帯くんのことを忘れたりしないのに。
「ああ、そういえば……」
眼帯くんは踵を返して訊ねた。
「風子ちゃん。風子ちゃんは、レオナルド・ディカプリオの日本名って知ってる?」
日本名? 帰化した外国人が、日本人としての新しい名前をつけたりするやつのことだろうか? いや、というかそもそもレオナルド・ディカプリオは日本国籍なんて持ってない。だとすると、日本での呼び名とか? 日本ではレオ様とか呼ばれていたような気はするが……。
「蘇枋隼飛。それが日本名だよ」
「すごく日本人の名前!! 眼帯くんってば、また適当なことばっかり言って! ていうか、そもそもレオナルド・ディカプリオは日本国籍なんて……」
そこまで言いかけて、私ははっとした。
「蘇枋、隼飛……くん? もしかして、眼帯くんの名前、蘇枋隼飛くんっていうの!?」
「まあ、オレのことをそう呼ぶ人もいるかな」
蘇枋くん……。それが、眼帯くんの本当の名前……。
「蘇枋くん……、蘇枋くん!」
名前を知れたこと、蘇枋くんが名前を教えてくれたこと。全部嬉しくて、ついぴょんぴょん跳ねながら、蘇枋くんに大きく手を振っていた。体が熱い、ふわふわしてる。ただ名前を教えてくれただけなのに、こんなに舞い上がって、バカみたいって思われているかな。でも、本当に嬉しくてたまらないんだよ。
「またね、蘇枋くん! 今度見つけたら、振り返ってくれるまで呼ぶからね!」
左眼の龍がさわいでも聞こえるように、何度だって名前を呼ぼう。せっかく蘇枋くんが、呼びかけるための名前を教えてくれたのだから。
蘇枋くんは笑って私に手を振り返すと、おじいちゃんみたいに後ろで手を組んで歩き出した。
生まれて初めて、男の子にこんなにドキドキした。体はまだぽかぽかしている。
家に帰って、ご飯を食べても、お風呂に入っても、その次の日に学校へ行っても、頭のなかはずっと蘇枋くんでいっぱいだった。
早くまた会いたい。もっと蘇枋くんのことが知りたい。
今度会えたら、何を話そうか。聞きたいことも、話したいこともいっぱいで、蘇枋くんに会うために、無駄に町を歩いたりもした。
蘇枋くんに再会できたのは、初めて会ってから一週間後のことだった。
子犬みたいに蘇枋くんの背中を追いかけて、何度も蘇枋くんの名前を呼んだ。
もちろん真っ先に聞きたいことは決まってる。
「蘇枋くん、連絡先を教えて!」
連絡先さえ知ることができれば、会えなくても話すことができる。もっとたくさん蘇枋くんのことを知ることができる。
そんなふうに、連絡先さえ聞けばすべてが上手くいくと思っていた、私の考えは甘かった。
何せ相手は、あの蘇枋くんである。
蘇枋くんは、それは楽しそうに笑って言った。
「ごめん。オレには連絡先がないんだ」
ああ、そうだった……。
蘇枋くんは、こういう人だ。
こうしてまた、蘇枋くんの手のひらの上で転がされる戦いが始まるのだった。
夢主ちゃんめっちゃかわいぃ…