地元の学校で20年勤続の教師へ“1000km”異動命令 就業規則に「転勤あり」と明記も、裁判所が「無効」と判断したワケ
「地元の学校で20年も働いてきたのに」 「突然、1000kmも離れた別の地方の学校に行けって・・・」 「学校側は、以前、私が裁判を起こしたので排除してきたのだと思います」 【イラスト解説】不当解雇にあたる3つのケース 教師のAさんは「転勤命令は無効である」と主張して提訴。 裁判所は「転勤命令が不当な動機・目的をもってなされたことが強く疑われる」としてAさんの主張を認めた。 以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)
事件の経緯
教師Aさんは、X地方にある自身の母校(高校)で20年にわたり教鞭(きょうべん)をとっていた。なお、この高校を運営する学校法人は、X地方以外にも学校を設置している。 事件の発端は、転勤命令が出される数年前にさかのぼる。 ■ 解雇 転勤命令の数年前、Aさんは何らかの理由により、この学校法人から一度解雇されていた(解雇に至った背景は今回の判決文に記載されていない)。 解雇の無効を訴えたAさんは地裁で敗訴したが、高裁で逆転勝訴。法人側は最高裁に上告するが、最高裁はそれを受理せず、提訴から数年後、Aさんの勝訴が確定した。 勝訴判決が確定した以上、法的には、Aさんはこの学校法人で働き続けられるが、法人側はそれを拒んだ。その結果、勝訴後も約9か月間にわたりAさんは学校に復帰できず、学校の敷地内への立ち入りすら禁じられた。 ■ 転勤命令(配転命令) その後、法人側はAさんに対して、20年勤め続けたX地方の学校から、約1000km離れたY地方の学校への転勤命令を出した。 Aさんは、「転勤命令は不当な動機・目的によってなされたものであり無効だ」と主張して提訴した。
裁判所の判断
Aさんの勝訴である。 この学校法人の就業規則には「業務の都合により配置転換、職種、職務の変更、長期の出張ならびに出向等を命じることがある」「異動を命じられた場合、学校法人の指定する日時に異動先に着任しなければならない」との定めがあったが、裁判所は「不当な動機・目的をもってなされたことが強く疑われる」として「転勤命令は無効」と判断した。 以下、裁判所の判断過程を順に解説する。 ■ 転勤命令にはゼッタイ服従? そんなわけはない。最高裁が下記のとおり述べているからだ。 「使用者による配転命令権は無制約に行使することができるものではなく、当該配転命令について業務上の必要性が存しない場合、又は業務上の必要性が存する場合であっても当該配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき、若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるときなど特段の事情が存する場合は、当該配転命令は使用者が権利を濫用したものとして無効となると解される」(労働契約法3条5項、最高裁S61.7.14) ■ 今回の事件について 裁判所はまず、以下の通り、配転命令をする必要性も若干あった旨述べ、法人側の決定にも配慮を見せている。 ・Aさんが保有する免許が中学校および高等学校の特定の教科のみである ・法人が設置する中学校・高等学校は、Aさんへの配転命令当時、X地方とY地方にしかなかった ・2021年度から2023年度にかけて、Y地方の学校でAさんが免許をもつ教科の教員に欠員が生じていた その上で、上記の判断基準に照らし、以下の事情も考慮した上で「配転命令は権利の濫用である」と結論づけた。 ・Aさんは、20年以上にわたってX地方の学校で教員として勤務してきた ・法人から解雇を通知され、学校から排除され、解雇が無効である判決が確定し、学校に復帰すべき状況が明らかになったにもかかわらず、その後も約9か月間にわたり復帰させてもらえず、敷地内への立ち入りすら禁じられた状態が継続していた ・これまで、原則として一般の教職員がX地方の学校からY地方の学校へ異動となった例はない ・異動についての何らの意向の聴取等も行われずに配転命令が出された 以上の事実を考慮した結果、裁判所は「本件配転命令が、業務上の必要性とは異なる、不当な動機・目的をもってなされたことが強く疑われる上、Aさんに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものといわざるを得ない」と判断し、「配転命令は、権利を濫用したものとして無効である」と結論づけた。