(社説)大義なき冒頭解散 国民より首相の「自己都合」優先
メディアで検討が報じられてから10日。ようやく高市首相が記者会見を開き、23日召集予定の通常国会冒頭で衆院を解散し、27日公示、2月8日投開票の日程で衆院選を行うことを表明した。
解散から投開票までわずか16日間。各党が公約を練り上げ、有権者がそれを吟味する時間を与えない戦後最短の「短期決戦」である。
■支持率頼みの「奇襲」
首相は「高市早苗が首相でよいのかどうか、主権者たる国民に決めてもらう」と述べ、「責任ある積極財政」や安保政策の抜本改革など、重要な政策転換の是非を問うとした。公約に食料品の消費税率を2年間ゼロにすることを盛り込むことも明言した。
しかし、確実視されていた新年度当初予算案の年度内成立を難しくしてまで、なぜ今なのか。納得できる説明とは言えない。国民生活より自らの権力基盤の強化を優先した「自分ファースト解散」というほかない。
衆院選は一昨年秋に行われたばかり。今の議員は任期4年のうち、1年3カ月しか務めていない。昨年の参院選を含めると、わずか1年4カ月で3度目の国政選挙となる。
首相は高市政権のめざす政策が、前回の衆院選の自民党の公約には含まれておらず、自民、日本維新の会の与党で過半数の議席を得ることで、「政策実現のギアをもう一段上げたい」と語った。
昨年10月の内閣発足以来、政権選択選挙の洗礼を受けていないことを「ずっと気にかけてきた」とも述べたが、物価高対策など「目の前の課題」に専念すると繰り返し、国民に信を問う必要性には一言も触れてこなかったのは首相自身だ。解散を正当化する後付けにしか聞こえない。
高市内閣は今のところ、高い支持率を維持しているが、通常国会が始まれば、政権の内外の諸施策のみならず、自民の政治資金や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係をめぐる問題が俎上(そじょう)にのぼるのは必至だ。
人気がしぼまぬうちに、野党の不意を突いて、与党の議席を増やしたい。それが本音ではないか。
■解散権の乱用ただせ
1月の衆院解散は1990年の海部内閣以来、36年ぶりである。この間、歴代政権は国民生活に直結する予算案と関連法案の年度内成立を最優先に考えてきた。
真冬の選挙は、雪国の候補者や有権者にとって、負担が大きい。受験シーズンでもあり、18歳になって選挙権を得た若者を投票から遠ざける恐れもある。
地方自治体はただでさえ、新年度予算案の編成や、国の補正予算に盛り込まれた物価高対策の執行があるというのに、ふってわいた選挙事務が加わり、繁忙を極める。
首相はきのう、雪国や自治体の人への感謝や配慮を口にしたが、自らの判断による国民各層への影響を、どこまで真剣に考えたのだろうか。
朝日新聞の社説は、時の首相が与党に有利なタイミングで恣意(しい)的に衆院を解散できる現在の運用を見直すべきだと、繰り返し主張してきた。
内閣不信任案が衆院で可決された場合の対抗策である解散(憲法69条)ではなく、内閣の助言と承認による天皇の国事行為としての解散(憲法7条)である。
衆院議員は4年の任期をまっとうし、腰を据えて政策の実現に当たる。7条解散は内閣と衆院が対立して政策が前に進まない時などに限る。それが筋ではないか。「大義なき解散」が繰り返されぬよう、解散権のあり方も、衆院選で議論してもらいたい。
■熟慮の政治はどこへ
冒頭解散の動きが伝わると、連動して政界には大きなうねりが起きた。
ひとつは、維新の代表でもある吉村洋文大阪府知事と横山英幸大阪市長が任期途中で辞職し、大阪都構想への再挑戦の是非を問うダブル出直し選を衆院選に合わせて行うことになったことだ。
もうひとつは、石破前政権まで与野党に分かれていた立憲民主党と公明党が、中道勢力の結集を掲げ、新党の結成を決めたことだ。
住民投票で2度否決された都構想をこのタイミングで蒸し返す背景には、衆院選での埋没を避ける、「国保逃れ」への批判の矛先をかわすなどの思惑も指摘される。
保守色の強い高市政権への対抗軸をめざす中道新党にも、支持率低迷に悩む両党の選挙対策という側面がある。
いずれの動きも、党内や支持者の幅広い理解を得る努力は後回しで、トップダウンで急に決まった。政治の場から「熟慮」「熟考」が消え、目先の動きへの反射的な対応が強まっていることを憂う。
首相が打ち出した食料品の消費税ゼロも、持論ではあっても、党内の合意が得られず、物価高対策としての即効性がないなどとして、慎重姿勢にとどめていたはずだ。このタイミングで踏み込んだのは、野党の政策に抱き着く争点つぶしではないのか。財源確保を後回しにした転換は、責任政党の姿とはいえない。