[社説]大義みえない高市首相の衆院解散
高市早苗首相は23日召集の通常国会の冒頭で衆院を解散すると表明した。昨年10月に発足した自民党と日本維新の会による連立政権の重要政策について信を問う。
首相が交代したり連立政権の枠組みが変わったりした場合に国民の信任を得ようとするのは理解できる。問題はタイミングだ。国民生活に直結する2026年度予算案の国会審議は選挙後にずれ込み3月末までの成立は難しくなる。
予算を後回しにしてまでなぜ解散しなければいけないのか。首相の説明を聞いても胸にすとんと落ちない。解散の大義がみえない。
消費減税合戦に懸念
衆院選は1月27日公示、2月8日投開票の日程となる。首相は「自分たちで未来をつくる選挙」と名づけた。「自身の進退を懸ける」と強調し、与党で過半数を得る目標を掲げた。
首相には高支持率を頼みに政権基盤を強める狙いがある。与党は衆院で過半数まであと3議席で、参院も半数に満たない。政策実現のギアを上げようと賭けに出た。
首相は2年間に限り飲食料品を消費税の対象としない考えを示した。財源やスケジュールは超党派で社会保障改革を議論する「国民会議」で検討を加速するとした。
赤字国債には頼らないと言うものの、年5兆円程度の減収分を補う安定した財源を確保できるかは見通せない。社会保障財源の安定性を損ねる懸念がある。首相が掲げる「責任ある積極財政」や「未来に責任を持つ政治」と矛盾しないだろうか。
昨年7月の参院選で自民は物価高対策としての消費減税を退けた。自民と維新が交わした連立合意書では将来的な検討課題に位置づけ、首相は事業者のシステム改修に時間がかかるとして慎重姿勢だった。物価高対策は本当に困っている人に的を絞るのが筋だ。
立憲民主党と公明党が立ち上げた新党「中道改革連合」は食料品の消費税を恒久的にゼロにすると打ち出した。与党が消費減税を打ち出すことで選挙での争点をつぶす面もある。与野党の減税合戦には懸念を抱かざるを得ない。
市場の信認を損なってはいけない。株価は政権の安定を期待して上昇してきたが、債券市場では財政拡張への懸念から長期金利が上昇傾向を強めている。長期金利は27年ぶりの高さとなった。外為市場で円安が止まらなければ輸入インフレを招く。
衆院選の後に新内閣が発足するのは2月半ば以降の見込みで、1カ月程度は政治空白が生じる。物価高対策など政策の停滞を招かないようにしてほしい。
高校無償化や車購入税廃止といった政策は4月から実施する予定になっていた。3月末までに法的な裏付けを取り付ける必要がある。国民生活や企業活動への影響を最小限に抑えるよう全力を尽くさなければならない。
憲法7条は内閣の助言と承認により天皇が行う国事行為の一つとして解散を位置づける。解散権を実質的に持つのは内閣であると政府は解釈する。政治は権力を争うもので、いつ選挙をするのが有利かの判断力は政治指導者の重要な資質の一つだ。
だからといって、首相が選挙に勝てるという理由だけで解散していいわけではない。解散権を制約すべきかは与野党の論議で深掘りしていくべきテーマになる。
野党は責任ある対案を
今回の衆院解散は異例づくしと言える。通常国会での冒頭解散は60年ぶりだ。通常国会の召集が1月になった1992年以降、冒頭で解散した例はない。予算審議を最優先してきたからだ。
前回の衆院選は24年10月で、衆院議員の任期4年のうち1年3カ月を経たにすぎない。国政選挙は3年連続になる。衆院解散から投開票日までの期間は16日と戦後最短になる。
短期決戦なので政策論争に費やす時間は短くなる。頻繁に選挙があると政党は足元の問題に目が向き、財政拡張策を競いがちだ。
野党も将来世代に責任を持つ対案の提示が求められる。
中道が提唱する消費減税案は財源確保策として政府系ファンドの創設を挙げているが、政治的な思惑を排せるかや損した時のルールづくりなど課題がある。
中道が安全保障やエネルギー政策で現実的な路線を示したのは評価できる。安保関連法は「合憲」とし、原発再稼働は安全性確認などを条件に容認した。
玉虫色であいまいな部分も残る。明確な政策の旗印を示し、政権を担える選択肢を示せるかが問われる。