坂本龍一さん死去1年 音楽家・大友良英さんが語る「新しい音を探り合った」存在

2019年、坂本龍一さんと大友良英さん。音楽イベントで即興演奏後、観客にこたえる
2019年、坂本龍一さんと大友良英さん。音楽イベントで即興演奏後、観客にこたえる

音楽家の坂本龍一さんが71歳で他界し、3月28日で1年が経過する。

坂本さんは1980年代、細野晴臣さん(76)、高橋幸宏さん(昨年1月死去)による3人組バンド「YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)」で世界的ヒット曲を生み、映画音楽では88年に「ラストエンペラー」の楽曲で米アカデミー賞を受賞。92年には、バルセロナ五輪の開会式で音楽を担当するなど、活躍の場は多岐に渡る。晩年はがん闘病のなか新作を発表。新しい音を求め続け、年齢を感じさせない新境地をのぞかせた。

2010年以降、即興演奏のパートナーとして、国内外で坂本さんとステージを共にしてきたのが音楽家の大友良英さん(64)。この1年を振り返り、いまの思いを聞いた。

インタビューに応じる音楽家の大友良英さん=3月12日午後、東京都千代田区(関勝行撮影)
インタビューに応じる音楽家の大友良英さん=3月12日午後、東京都千代田区(関勝行撮影)

唯一無二の存在

「坂本さんの訃報は、世界的に替えがきかない存在を失い、私にとっても大きな『欠落』でした。この1年、何かあるといつも思うんです。坂本さんだったらどうするかなって。兄のような存在でした」

朝の連続テレビ小説「あまちゃん」(2013年)や、大河ドラマ「いだてん」(2019年)の音楽で知られる大友良英さん。坂本龍一さんとの出会いは2010年暮れに遡る。坂本さんの即興演奏の収録でNHKスタジオに呼ばれたのが初対面だ。

「いきなり、オーネット・コールマンの『ロンリーウーマン』をモチーフに即興をやりましょうか、と坂本さんから提示があって、驚いた。私が普段、最も好んで演奏している曲を事前に調べていたんです」

とはいえ、面識がなかった坂本さんを前に、即興を成立させるには、独自の高い音楽性と演奏力で応えられる人しか、とても対峙できない。「それが、音を出した瞬間、その数秒で、うわ! と音のすごさや面白さを感じたんです。それはめったにないこと。お互いの音がよくわかって、相性がよかった」

その後、坂本さんの即興演奏のステージには、頻繁に大友さんが呼ばれるようになる。15年、坂本さんが1度目のがん治療を終えて最初に立ったニューヨークのステージも、大友さんと演奏している。

以前、記者も坂本さんから、大友さんと共演する理由をよく聞いていた。「大友くんとの演奏は、刺激を受けるし、可能性を感じる」と。その声はいつも弾んでいた。

2019年の音楽イベントで会場を沸かせた坂本龍一さんと大友良英さんの即興ステージ
2019年の音楽イベントで会場を沸かせた坂本龍一さんと大友良英さんの即興ステージ

ふたりの即興演奏。初対面のときだけルールを決めたが、以降のステージは事前の打ち合わせはなかったという。「何も決めずに自由にただ即興をやるだけ。でも演奏しながら方向が決まっていくんです。音楽は言語と似ているところがあって、坂本さんとの即興演奏は、なんの言葉で話すかを事前に決めずに探り合いながら、新しい言語をその場で発見し紡いで行くような感じなんです。それは本当に楽しい時間でした」

つまり、それまで蓄積された「言語体験」や知識、そして人生経験がミックスされて音として出てくると説明する。「そのセンスは坂本さん、すばらしくて。ステージでは音で、今日はこんなお手並みでいかがですかって提案されて、なるほど私はこんな感じかな、って始まるんです。ゆったり演奏しながら、ずっとお互いの手を楽しんでいる、将棋を指すような時間でした」

損失の大きさ

ある日、大友さんが弓のような音を出す機械楽器「イーボウ」をギターで使っていると、坂本さんから連絡があり、「大友くん、あの音、どう出しているの? イーボウはピアノでも使える?」と聞かれたそうだ。「次の演奏ではもうイーボウを取り入れていた。坂本さんは、新しいものに対して最後まで貪欲でした」

2017年、大友良英さんが芸術監督を務める札幌国際芸術祭の会場あたりで、アイスクリームを食べる坂本龍一さんと大友良英さん(写真左)=(撮影・中村祥一)
2017年、大友良英さんが芸術監督を務める札幌国際芸術祭の会場あたりで、アイスクリームを食べる坂本龍一さんと大友良英さん(写真左)=(撮影・中村祥一)

坂本さんはこれまで、巨大な舞台で演奏する一方で、100人も入らない小さな会場で実験的な音楽をするという、両方のシーンをアクティブに行き来していた。「それができるのは世界中で坂本さんぐらいだと思う。そして、アンダーグラウンドのこともお詳しくて、まだ誰も知らない若手のアーティストにも目が届く。さらに、その高いポジションで、自分の声がどう影響を及ぼすかわかった上で、社会的発言ができる人。その2つの損失は大きい」

受け取ったバトン

坂本さんとともに過ごした時代。そのバトンをどう受け取ったか。「桁違いの著名人だから、背負えないけれど、自分がやっている音楽と矛盾がない社会性みたいなものを、どう社会のなかで説明し、社会とどうつきあっていくか。こうなった方がいいなということに対し、どう動くかということは、やはり坂本さんの立ち居振る舞いから学んだかな」

喪失感を抱えた大友さんだが、その姿は着実に、次のステージに向かっている。(堀口葉子)

大友良英(おおとも・よしひで)1959年神奈川県生まれ。音楽家。国内外で活躍し、2011年、東日本大震災後に「プロジェクトFUKUSHIMA!」を立ち上げ、2013年、朝の連続テレビ小説「あまちゃん」の音楽でレコード大賞作曲賞など受賞。2017年、札幌国際芸術祭の芸術監督。2019年、大河ドラマ「いだてん」の音楽を担当。新作CDは「Hummingbird and Four Flowers–Turntable and Harmonium Solo Live–」

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