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哈爾濱で食べた7 - 蒸餃、焼麦、羊湯!百年を超える老舗で味わう清真料理

三日目の朝。前日は昼に殺猪菜、夜に得莫利燉魚と、東北料理でも屈指の重量級が続いた。さすがに胃が休みたがっている。加えて外は小雨模様。無理に出かけるのは止めて、朝食は外食を諦めた。

部屋に備え付けられた立派な茶器セットを活かして、中国茶を淹れた。家族で注ぎ役を交代しながら、カードゲームに興じる。

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やたらと立派な茶器セット

旅先でこういう時間を持つのは悪くない。結果として、胃は落ち着き、ブランチの時間になると、きちんと腹が減ってきた。

さて、何を食べるか。

今回の旅では、哈爾濱らしい料理をできるだけ拾っていこうと決めていた。東北料理、ロシア由来の洋食、そしてもうひとつ、事前の下調べで気になっていたのが清真料理(ムスリム料理)である。

調べてみると、哈爾濱には老舗の清真料理店が妙に多い。理由は単純で、この街には回族を中心としたムスリム人口が一定数存在する。十九世紀末以降、各地から人が流入して形成された都市・哈爾濱は、回族にとっても生活と商いの場だった。結果として、牛肉・羊肉を扱う清真の店が根付き、今に至っている。

僕は清真料理が大好きだ。信仰に基づく清真料理は、食材や調理に対する規律が厳しい。そのせいか、料理は端正で、味付けも誠実なものが多いように思う。ハルビンならではの清真料理を、ぜひとも食べてみたい。

「ハルビンの清真料理、気になるね!」と、連れはやる気満々。清真料理を知らない我が子は、「それって、なにが出るの?」と聞いてきたので、「牛肉の蒸し餃子とかシュウマイ。あと、羊肉のスープとか」と答えると、「行く!」と即答した。

こうして話はまとまり、僕らはタクシーに乗り込んだ。向かうのは、創業百年を超える老舗だ。目的地に着き、店の看板を見た運転手が言った。

「ここは、俺も好きだよ。昔より高くなったのが玉に瑕だけどな……お、今日は並んでるのか。今はどこでも並ぶな」

食のために旅している身にとって、値段はそれほど大きな問題ではない。むしろ、思いがけず地元民のお墨付きを得られたことで、僕らの期待値はさらに上がった。

哈爾濱で食べた7 - 蒸餃、焼麦、羊湯!百年を超える老舗で味わう清真料理

嬉しいことに、並んでいると思ったのは運転手の勘違いだった。店に入ると、ちょうど最後に残っていたテーブル席が空いており、待つことなく腰を落ち着けることができた。これは幸先がいい。

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店の名は、老仁義。壁には、この店の来歴を紹介するパネルが掲げられていた。せっかくなので、ここで簡単に触れておこう。

老仁義の創業は1912年。民国元年、創業者の佟玉新が、当時「八雑市」と呼ばれていた地区に清真飯館「仁義館」を開いたのが始まりだ。当初は、蒸餃(蒸し餃子)や炒肚(牛モツ炒め)を看板に評判を集めたという。

なお、「八雑市」とは、ロシア語で市場を意味する「バザール」の音訳である。新中国成立後の1956年に「道里菜市場」と名を変え、形を変えながらも、今なおこの街の暮らしを支え続けている。

その後、激動の時代を経て、店の経営は「老仁義」で二十年にわたり腕を振るってきた張満堂へと引き継がれた。現在は、その息子である張迪が店を切り盛りし、百年老舗の看板を次の時代へと繋いでいる。

そんな老舗だが、店内は意外にもこじんまりとしている。客席はテーブル席のみで、個室もないようだ。日本に「扇は広げすぎると倒れる」という言葉があるが、老仁義もまた、規模を追わず、身の丈を守るという信念で店を続けてきたのかもしれない。

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高まる期待。だが、最初に確認すべきことがある。店の回答次第では、このまま席を立たなければならない。それは、

「酒は出しているのか。出していないなら、持ち込みは可能か」

という一点だ。

清真料理が大好きだとは言ったが、唯一のネックはここにある。ムスリムとしての敬虔度があまりに高い店だと、アルコールは一切置かず、持ち込みも不可ということが、割とある。

他人の信仰は、もちろん尊重したい。だが、こちらもそこらの軟弱な酒飲みではない。旨い料理を前にして酒がなければ熱すら出てくる質(たち)なので、ここは譲れない。

緊張の一瞬。

……幸い、返ってきたのは「ビールがあるよ」という一言だった。

見ると、棚にはいつもの哈啤1900(ハルビンビール)。そして、ここでもやっぱり常温だ。でも、いい。酒と共に料理を楽しめることに、まずは乾杯。

前菜は、家常涼菜。「家庭の冷菜」といった意味だが、どんなものかと試してみて、まず驚かされたのはそのサイズだった。直径二十五センチはありそうな大皿に、文字通り山盛り。スマホには、これを見て目を丸くした我が子の写真が、しっかり残っている。

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中身は、拉皮(幅広春雨)と干豆腐絲(細切りの押し豆腐)を軸に、千切りのきゅうり、にんじん、白菜、赤キャベツ。仕上げに、みじん切りの香菜とニンニクがたっぷり。

早速、ガバリ。味のベースは、ピリ辛の胡麻だれだ。芝麻醤に、醤油と黒酢、辣椒油あたりだろうか。甘味はほとんど感じさせず、キリッと切れのある仕上がりで、いかにも北方らしい。

使われている食材は、どれもありふれたものばかりだ。それでも、塩梅のいい胡麻だれでまとめられると、妙に箸が止まらなくなる。なかでも出色だったのは、手作りと思しき拉皮。むっちりとした食感が、実にうまい。

「これ、止まらなくなるね」
「食べるほど食欲が出るやつだ」

そんなことを言い合いながら箸を伸ばしていたら、食事の終わりには、あれだけあった皿が、きれいに空になっていた。

お次に登場したのは、蒸餃。創業以来の名物だ。蒸籠の中にきれいに並び、ほわほわと湯気を立てる様子が、否応なく食欲を刺激する。

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熱さを警戒しつつ、ガブリ。
お、これもいい。皮はしっかりと弾力がありながら、決して硬くない。「さすがは粉もの文化の北方!」と、思わず唸らされる出来だ。

中に詰まった牛肉餡も見事。細かく挽いたものではなく、塊肉を中華包丁で叩いたような、ミチミチとした食感がある。噛むほどに肉の旨味が滲み出てきて、蒸し餃子という料理の底力を思い知らされる。

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「皮がモチモチ!すごく熱いけど、一口でいけるサイズなのがいいね。
餡は、ちょっとコリコリしたお肉が入ってる!」

九歳我が子も、懸命に言葉を探している。その様子がほほえましい。

さらに、主食が続く。お次は、焼麦(シュウマイ)だ。

今さら説明するまでもないが、シュウマイは、肉と野菜の餡を小麦粉の薄い皮で包み、蒸して仕上げる点心である。元代の文書には「稍麦」と記されており、明・清の時代に各地へ広まる過程で呼び名が分かれていった。

ざっくり言うと、北方では「烧麦(焼麦)」と書かれることが多く、南方では「烧卖(焼売)」と表記される。たとえば、内モンゴルや北京では「烧麦」、一方で広東や上海では「烧卖」が一般的だ。

ここ哈爾濱も、その流れにならって「焼麦」の表記である。

北方の焼麦の特徴は、南方のものよりひと回り大きく、餡を包んで絞った皮の部分――ビラビラが大きいことだ。

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下手な店で食べると、このビラビラがモソモソしてしまうが、ここはさすが老舗。存在感はあるものの重たさはなく、皮の連なりが心地よい食感の起伏を生み、しっかりと美味しさに寄与している。

餡は、蒸餃と同じく牛肉。当地で毛葱と呼ばれる赤玉ねぎに、長ネギのみじん切りも入っているようだ。塩気はやや強めだが、皮とのバランスを考えれば納得がいく。一緒に食べると、ちょうど良い塩梅になり、実に旨い。

そうだ、蒸餃や焼麦につけるタレについても触れておこう。店の一角にはタレコーナーが設けられていて、客が好みで取れるようになっている。

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並んでいたのは、左から味素(味の素)、塩、胡椒、辣椒(ラー油)、芥末(練りがらし)、蒜泥(おろしにんにく)。写っていないところに、醤油と黒酢もあった。「少しだけ取って、浪費を避けましょう」という注意書きが添えられているあたりに、清真料理店らしい実直さを感じる。

なかでも僕の目を引いたのは、芥末(練りがらし)だった。日本では、餃子やシュウマイにからしをつけるのはごく一般的だが、中国本土では、実はあまり見かけない組み合わせである。

もしかすると、この習慣は、かつて満州国だった東北地方から日本に伝わったものなのかもしれない。そんなことを考えながら、からし、おろしにんにく、黒酢を皿に取った。

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周りの客を見て、定番と判断した

さて、牛肉を使った主食が続いたので、メインには羊肉の料理を据えた。扒羊肉条。薄切りの羊肉がきれいに揃えられ、とろりとした茶色いあんかけをまとっている。肉の下には、長ネギの薄切りが敷かれていた。

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扒羊肉条は、もともとは清朝末期の北京で生まれた清真料理だそうだ。羊肉を煮て骨を外し、細く切り揃え、蒸し、最後にとろみをつける。工程は多いが、香辛料は控えめで、あくまで羊肉の持ち味を生かす構成になっている。仕上げのあんかけは、羊肉を煮込んだ汁に醤油を合わせたもので、そのつややかな照りが、この料理の格を引き上げている。

一見すると、いかにも重く、しつこそうな料理に思える。だが、さにあらず。とろとろに柔らかく煮込まれた羊肉は、余計な脂がきれいに落ち、驚くほど軽い。甘味を排したあんかけの味付けにも節度があり、羊肉の旨味を前に出すことはあっても、押しつけがましさがない。

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肉料理なのに、するすると胃袋に収まっていく。最初は「これは完食は難しいかもね」などと言っていたのだが、苦も無く食べ終えてしまった。

〆は、スープ。この店の名物である羊湯も、ぜひ味わっておきたい。

サイズは、小が10元、大が28元。ここが上海なら、「この値段じゃ量はたかが知れているし、三人なら大かな」と考えるところだが、僕らもだいぶ東北というものが分かってきた。

迷わず小を頼んだところ、供されたのがこれ。
――やはり、悠々と三人でシェアできるボリュームだった(笑)

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羊湯は、羊のモツを煮込んだスープだ。白濁したスープにレンゲを差し込むたび、さまざまなモツが姿を現す。言うまでもなく鮮度は抜群で、それぞれ異なる食感と旨味を、ひと口ごとに楽しめる。

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味付けは、おそらく塩だけ。それも、塩気はごく控えめだ。それでも、羊の旨味をふくらませるには必要十分で、むしろこの潔さこそが、このスープの肝。実に素晴らしい味わいだった。

出てくるものすべてが美味しくて、自然と意気が上がる酒徒家。

「すごいね、ハルビンの清真料理! レベル高いね!」
「どれもおいしくてびっくりした!」

幸福な満腹感とともに店を後にしたわけだが、このあと、事態は急転直下。

このときの僕らは、それをまだ知らない。


今日菜単(今日のメニュー)

  • 家常凉菜(jiācháng liángcài)

  • 老仁义牛肉蒸饺(lǎo rényì niúròu zhēngjiǎo)

  • 烧麦(shāomài)

  • 扒羊肉条(pá yángròu tiáo)

  • 羊汤(yángtāng)

  • 哈啤1900(Hāpí 1900)

店鋪信息(店舗情報)

老仁义·清真菜(太古街店)
住所:黑龙江省哈尔滨市南市街道太古街243号 (Baidu Map

温馨提示(アドバイス)

  • 注文時に「不要放味精和鸡精(化調も鶏がらスープの素も入れないで)」とお願いしている。

<時期:2025年5月/公開:2026年1月>

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「東北料理」とひと言でまとめられがちな東北三省の料理ですが、ハルビンにはハルビンの食がありました。ロシア文化の影響も随所に感じられました。

中国最北の省・黒竜江省ハルビンへ。目的は「東北料理の解像度を上げる」こと。ハルビンならではの食を追い求めた三泊四日です。

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北京・広州・上海在住(12年目)。初中国で本場の中華に魅入られてから約30年。長年の食べ歩きで知った本格中華料理レシピやローカル中華料理三昧の毎日を発信しています。中国食紀行「中華満腹大航海」が発売即重版!初レシピ本「あたらしい家中華」は13刷9万部、料理レシピ本大賞W受賞!
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