変容していくジェンダー平等 東大教授が説く「多様性」の意義
高市早苗内閣が高い支持率を維持している。女性初の首相として何かと注目される高市氏だが、保守的な言動が批判を浴びることもしばしば。政治やメディアなどのジェンダー平等を専門とする東大教授の田中東子さんはどう見るのか。政治に加え、メディアや企業のジェンダーのあり方などについて、ジャーナリストの池上彰さんと語り合った。(対談は10月28日)
全2回の後編です。
前編 高市首相は本当に「ガラスの天井」を破ったのか 東大教授が考える
池上 最近、女性の市長がメディアをにぎわせています。静岡県伊東市や前橋市です。せっかく女性市長が誕生したのに残念だと思います。
田中 これも結局、女性市長の数が少ないから目立ってしまうところはあると思います。あとはそもそも女性だってそんなに清廉潔白な人ばかりではありません。裏金問題に関係した議員もいました。男性にも起こりうることは女性にも当然ある。世間が女性に「悪いことはしないだろう」という高い倫理観を求めすぎではないでしょうか。悪い女性だっていっぱいいます。
池上 悪い男性だけでなく、清廉潔白な男性もいますよ(笑い)。
田中 確かに(笑い)。
池上 少し気になったのですが、「東子」というお名前は珍しいですね。
田中 両親が熊本の出身で、就職で上京した後に私が生まれました。「西から東へ」という由来のようです。
「ガンダム」大ファンの田中教授
池上 そうだったんですね。子どもの頃は「オタク」だったんですって?
田中 ええ。特にSF小説が大好きで、アニメ「機動戦士ガンダム」の大ファンでした。1980年代に入ってオタクカルチャーが広がっていましたから、その影響があったのかもしれません。一方で、少女向け小説の「コバルト文庫」もよく読んでいました。でもSFや読書が好きな女の子が周囲にほとんどいなくて、なじめませんでした。
池上 高校は女子校に進学されました。
田中 高校では周囲がみんな読書好きで「オタク」の生徒も多くいました。中でも、田中芳樹さんの小説「銀河英雄伝説」がはやりました。銀河系の覇権を巡るSF小説で、「腐敗した民主制と清廉な独裁制のどちらがましか」「武力による紛争解決は正しいのか」といった政治的なテーマが設定されていて、生徒同士で議論することもありました。
池上 伸び伸びと過ごせたのですね。私もSF小説は大好きで「銀英伝」は全巻読みました。
田中 そうでしたか!
池上 まだ読んでいない方にはぜひおすすめしたいですよね。それにしても、その後ジェンダーやフェミニズムを研究しようと思ったのはなぜですか。
田中 「これだ」という大きなきっかけはなくて、気づいたらフェミニストのような考えになっていました。家庭では「これからは女性も活躍できるから頑張りなさい」と言われ、弟とも平等に育てられました。でも一歩外に出てみると、小学校や中学校では「女性らしさ」や「女性ならこういう考えを」などを求められる場面が多くて「どうも違うぞ」と感じました。自分らしくできない、好きなものを素直に好きと言えない雰囲気がありました。
論文に「潜ませた」フェミニズム
池上 大学から研究生活に入られますが、専攻で言うと政治学になりますか。
田中 そうですね。当時、大学院の教員が60人ほどいたのですが、女性は1人だけでした。論文を書くときは、自分の関心があるフェミニズム的なテーマを上手に潜ませる、という工夫をしていました。
池上 潜ませる?
田中 あえてタイトルに入れないようにしていました。中身でジェンダーやマイノリティーの問題に触れるなどして。というのは、かつては博士課程に女子学生が進むのがあまり好まれない雰囲気があったのです。女子学生を露骨に敬遠するような男性教授もいました。
池上 なんと。60年代に「女子学生亡国論」で物議を醸した教授…
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